「こちら人情・破屁津堂(パペッツドウ)

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 この作品は、架空のお店 「破屁津堂」を舞台にした、ぱぺっつ (《ぱら☆あみ》内のスラング・方言で、着せ替えドールなどの、アニメグッズの事です) と、それをこよなく愛す人々の物語です。

 渋谷区道玄坂にあると云う「破屁津堂」、今日は、どんなお客様がいらっしゃるのでしょう…?

こちら人情:破屁津堂

 ここは渋谷道玄坂、人情横町に軒を構える 「お人形の破屁津堂(パペッツドウ)」…。
 え? どんなお店ですって? 今流行りのリサイクル・ショップと申しましょうか、皆さんが大切にしてこられた 「ぱぺっつ」さん達を買い取り、そして新しいご主人様の元へと贈り届ける、、、個人的には 「お見合の場」だと思っております。

 あ、申し遅れました。 わたくし、この店の冴えない店主、今の言葉で言えば、40すぎの 「オジン」でございます。
おや? さっそくお客さんが見えた様ですね。

「んちゃ! お人ぎょ、いっっぱぁい持って来たのダ!」

 おやおや、元気なお客さんです事。 段ボール箱を2つも抱えて、もしかしたら業者の方かと思いましたよ。
いえね、最近多いんですよ、在庫を抱えて身動きの取れなくなった業者さんのぱぺっつ一括処分ってやつが…。

「うほほぉ〜い! 古くて珍しい、プレミア物のお人ぎょも、いっぱいあるのダ!」
 小太りで牛乳瓶の底の様な眼鏡を掛けたこの人は…もしかしたら隠れファンの多い、「濃人さん」かも知れませんねぇ…。

 確かに持ち込まれたぱぺっつは、プレミアの付いている物ばかり。 しかも押入れにずっと保存していたからか、状態も最高。 おっと、レジのお金だけで足りるかな…、銀行へ行かないと駄目かしら。

「では、全体でこのお値段では如何でしょう?」
 わたくしが電卓を濃人さんに差し出すと、少し不満げな表情。でもウチも、経営は苦しいのです。

「これでいいのダ! また、お人ぎょ、持って来るのダ! ばいちゃ!」
 やれやれ…。 最近の 「お宝ぶーむ」ですか? あれのおかげで商売としての旨味は多少増えましたけれど、壷や掛け軸と違って、ぱぺっつには 「瞳」も 「顔」も、そして 「こころ」も…
うん? お店の前で、うろうろしている人がいますね…?

「いらっしゃいませ…?」

 わたくしは、然り気なく話しかけてみました。 その方の手には、ボロボロになった女の子のぱぺっつ…。 わたくしはテレビ漫画には詳しくありませんが、亜美ちゃん…という名の、ぱぺっつの様です。 暫く前まで、ゲームセンターの店先のUFOキャッチャーの中にたくさん詰め込まれていた、“とるとる人形”の古いもののようですね。

「このお人形を、買って下さい」
その方は、今にも泣き出しそうな表情で、そう話し始めました。
「どうやら何か、わけがありそうですね」
わたくしはその方を、店内にお招きしました。

「実は今度、結婚する事になりまして…」
「おやおや、それはおめでとうございます」
「けれど、嫁さんが…」
 どうやら、相手の女性の方が、この方のぱぺっつ趣味を、よしとは考えていらっしゃらないご様子…。 これは困りましたね。

「ですから、この亜美ちゃんを、こちらで引き取って貰いたいのです…」
「そうですか…、しかし、この亜美ちゃんのお人形さんは在庫がたくさんありまして、しかも状態があまり芳しくないようですと、実際、値段は付けられない状態なのです」
「タダでも良いのです。 引き取ってさえ貰えれば…」
 わずか寸法15cmほどのお人形。 処分する気になれば、ごみ箱に放り投げるだけで良いのです。 しかし、この方は、それがどうしても出来なかったのでしょう。

「分かりました。100円でよろしければ、お引き取り致しましょう」
「え……?」
 実は店内には、この方のお持ちになったぱぺっつと、全く同じお人形さんが、同じ100円でいくつも並んでいるのです。

「そ… それじゃあ、商売にならないでしょう、、、?」
その方は、怪訝な表情でお尋ねになりました。

「この100円は、貴方のぱぺっつへの、深い愛情の値段です。 なぁに、売れ残ったら、わたくしが一生、面倒をみますよ」
「ご主人…」
 その方のお気持ちは、痛いほど分かります。きっと、そのうちまた、嫁さんの目を盗んで「この子」に会いに来てくれるはずです。
何となく、新しい親戚が出来たような、そんな温かい気分がしてきます。

「あんたっっ!!」

「っっ!? いきなり大声を出して、びっくりするじゃないか…!」
 お客様が帰られて暫くしたら、わたくしの背後に突然ワイフ… もとい副店長が、仁王立ちしておりました。

「まったく、売れ残り在庫がしこたまある同じ人形を、また仕入れたのかい? これじゃあ、商売上がったりだよ!」

 とほほ…。
どうやら、嫁さんに注意をしなければならなかったのは、わたくしの方だったのかも知れません。 彼に、アドバイスをするべきでしたね。

「女房は、最初が肝心だ!」
と…。
「あんたっっっ!!」
「は、はいはい………」

 ここは渋谷道玄坂、人情横町に軒を構える「お人形の破屁津堂」。
暇を見つけて是非、貴方の愛娘達を、わたくしに逢わせて下さいませ。


 一般的にセラムンサークルで発表される小説などの “お話”は、セラムンキャラが登場するサイドストーリー的なものが多いですけれど、僕の場合はだめですねぇ、どしても、自分を含めた “それらに魂を奪われた人々”…の方に、視線が逝ってしまいます(笑)。

 ちなみに、この 「メルヘン妄話シリーズ」に度々登場する “濃人さん”、モデルは作者の学生時代のあるアニメファン (当時、オタクなる言葉はありませんでした) の知人です。

 この妄話中の “濃人さん”の描写は、その彼女がドクタースランプアラレちゃんの扮装をしていて、やたらテンションの高かった事に由来する訳ですが (^-^;)、インパクトが強くて印象に残っているから “外見上”のモデルさんになっているだけで、別に彼女がグッズ転売をしていた訳ではなく、またアラレちゃんやアラレちゃんファン、その手のマニアさんに、これといった他意がある訳でもありません(笑)。

 実はもう一人、モデル候補に “うる星”のラムちゃんのTシャツを着ていた知人もいたのですが、こちらを引用すると斜め読みして怒り出す人がいるかもしれない (^-^;) ので、余り毒のなさそうなこちらになりました。

 でもその後、ドクタースランプアラレちゃんがリバイバルで放映されたので、現在ちょっと怖いです(この妄話を発表した時点では、「ああ、そゆ人、当時はいたよね」ってな感じだったんですけれどね (^-^;)

 なおNIFTY SERVEの会議室上で原典版をお読みになった方はお気付きかも知れませんが、今回の再掲に当たって、若干の手直しを施してあります。 二度読みになった方には申し訳ありません。
 なんにせよ、こんな妙ちくりんな話に最後までおつき合い下さいまして、感謝します…。

「こちら人情:破屁津堂」
  初出日:96年4月17日(《ぱら☆あみ》支店PATIO /発言番号:129)

(うっ!:98年12月22日付)  

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