空気感やムードに騙されがち? 「雰囲気」
「雰囲気」(ふんいき) とは、その場に漂う空気や集う人たちが作り出す気分やムード、風情やたたずまいといった意味の言葉です。 元々は地球を取り巻く空気・大気を意味する言葉で、江戸時代に蘭学におけるオランダ語の訳語として日本で使われるようになり、その後明治時代となって、現在のような 「その場の空気」「人が持つたたずまい」 をも指すようになっています。
ネット などでは、「ふんいき」 と 「ふいんき」 を巡る 誤読文字 の代表みたいな扱いもされますが (体育館の 「たいくかん」 のように、読みの音だけ聞くと勘違いしやすい)、言葉の ニュアンス 自体も微妙にスライドしています。
実態にそぐわないムード優先の意味で使われる 「雰囲気」
意味がスライドしたもっとも顕著な例は、「あくまで空気感やムードがそう見せているだけで、実態はそうではない」 という意味が強められた使われ方でしょう。 例えば 「雰囲気イケメン」 と云えば、実際はたいして顔が整っているわけでも イケメン でもないけれど、「全体的なムードがイケメンっぽさを醸し出している」「周囲が何となくイケメンだと 認知 している」 という意味になります。
これはイケメンぶっている勘違い野郎を罵倒する ネガティブ な意味で使うこともあれば、身にまとうムードが良い、容姿に難があってもイケメンポジを狙えるかもとの、肯定的・ポジティブ な使われ方もされることがある、ちょっと独特な言い回しになります (まぁ罵倒・揶揄のニュアンスの方が強いですが)。 対象を女性にした 「雰囲気美人」 とか 「雰囲気可愛い」 もあります。
ところで平安時代など皇族・貴族らの宮廷文化が煌びやかなりし頃、イケメンや美人といった価値判断に、単に目鼻立ちが整ってるかどうかといった顔の造作部分以外が強く求められた時代もあります。 そもそも当時は貴人、まして女性が人前に無造作に素顔を晒すことは稀で、薄暗い屋敷の中で遠くから、あるいは簾 (すだれのようなもの) や扇子などで隠された姿からでもわかる所作や佇まい、和歌を通じた繊細な感性や教養、優しい性格や純粋さ、健気さを含めた全体のイメージ、すなわち香り立つ雰囲気やムード込みでの評価だったのは、現在のそれにも通じるところがあるのでしょう。 源氏物語の末摘花のエピソードなどは、女性の美を考える上で様々な示唆がありますし、数あるエピソードの中でも、割と好きな人が多いかもしれません。
他にも 「雰囲気○○」 はアレンジされたものがたくさんあります。 ビジネスとしての実態が薄かったり業績もしょぼいのに市場の期待感だけで盛り上がるベンチャー企業や株式上場 (IPO) などを 「雰囲気スタートアップ」 や 「雰囲気上場」 と呼んだりします。
こうした使われ方はネット以前にもあり、べつに ネットスラング というわけではありません。 しかし何かとその場の空気に流されがちな人が少なくない中、あからさまな批判や罵倒に聞こえないながらも中身のなさを指摘しやすい言葉として、重宝されている部分はありそうです。
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