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各個撃破

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こちらの全力で分散した敵を撃つ… 「各個撃破」

 「各個撃破」(Defeat each one) とは、戦闘において敵味方それぞれが複数の軍団や部隊によって戦う際に、一方がいち早く集結し、分散したままの敵の一部を可能な限りの全力で集中攻撃するような戦法・戦術のことです。 戦闘は多勢に無勢というように数が多い方が有利になりますが (後述します)、敵味方の総兵力が同じ、あるいはこちらがかなり少ないとしても、この戦法により局所的・一時的な数的優位で戦うことが可能となります。

 各個撃破戦法は兵力差の有無に関わらず戦闘の基本ではありますが、もっぱら寡兵で大軍を打ち破るといったドラマチックな展開によく見られることから、ミリタリー などに興味のない 一般人 の間でも、その名前はとてもよく知られたものだと云えるでしょう。 日本の場合、いわゆるリベラル・左翼の政治運動における戦術論や、ビジネスの世界におけるマーケティング戦略などにも軍事用語の転用がかなりあり、そのあたりからの影響もありそうです。

 なお各個撃破を企図せずに、単に敵の兵力が薄く弱いところ、急所を突くと云った戦術もあります。 両者はもちろん似て非なるものですが、結果的に同じような戦い方になることもあります。 純粋な軍事用語としての定義はともかく、一般では同じような意味で使われることもあります。

 またこれらから転じて、日常の一般用語としてもよく使われます。 例えば話し合いの場で複数いる相手を一人一人個別に説得するとか、おたく な世界でも、予定が詰まっているとかやらなくてはならない作業とか手に入れなくてはならないものが膨大にある際に、一つずつ片付ける、一点突破といった意味でこの 「各個撃破」 が使われることがあります。

戦いの基本と、歴史における輝ける各個撃破

 そもそもなぜ、戦いは数が多い方が有利なのでしょうか。 例えば1対2なら、それぞれが同じ能力・実力なら1対1の時点で互いの戦力が相殺され、1が残る後者が有利になるというのは当たり前の話です。 1対2が同じ被害を受ければやがて0対1になるという訳ですね。 しかしこうした単純な引き算とは異なる部分にこそ、兵力多寡の本質があります。

 一般に部隊だろうが個人の兵士だろうが、戦闘力や防御力が最大限に発揮できる 「向き」 を持っています。 おおむね正面がそれにあたり、側面や背面は結果的・相対的にそこよりは弱いのが 普通 です。 前述の1対2であれば、1対1で正面を向き合っていても、後者は残りの1を相手の側面や背面に回り込ませることができます。 実際に戦闘を行うと、実数以上の実質的戦力差となって結果につながったりします。 歴史的なあれこれを見るに1対3もの戦力差があると、後者はほとんど被害を受けずに前者だけをほぼ一方的に壊滅に追い込むことも可能でしょう (1対3が0対3になる)。

 従ってこちらが少数の場合、相手の分散を誘うなどして1対1の状態にまで持って行ければ、勝機を掴むこともできるかもしれません。 全体で3倍の戦力差は変わらなくとも、1対3で1回戦うより、1対1を3回戦う方がはるかに分が良いという理屈です。 もし1対0.5 を6回戦えば、前者の連戦による疲れを考慮に入れても、1対3よりはおのずと勝てる可能性も高まるでしょう。

 もちろん戦争における戦いや戦力比較はこれほど単純なものではありませんが、兵力の多寡にかかわらず兵力を一点に集中して叩く、そこを突破して側面や背後を突く、包囲するといった戦術は、とりわけ数百から数万人といった大規模な集団戦における、ほぼ絶対的なセオリーといっても良いでしょう。 そして戦争における情報戦の重要さの多くは、まさにここに掛かっているものだとも云えます。 「戦う前から勝敗が決していた」 とはこのことです。

孫子の 「我專爲一、敵分爲十、是以十攻其一也」

 ちなみに有名な中国の古典 「孫子」(虚實篇) にも、戦いの鉄則の一つとして 「我專爲一、敵分爲十、是以十攻其一也」(我が軍が1つになり、敵軍が10にも分かれれば、こちらは10倍の兵力で攻めているのと同じである) とあります。

 そのため、自軍は情報や連絡を緊密に行い、移動速度や機動の精度を上げて全軍連携した動きをして素早く集結し、一方で敵軍には偽情報を出したり情報を遮断したり陽動部隊を出したりして分散あるいは分断させることが、戦闘のもっとも基本的なセオリーとなります。 逆に云えば自分たちの戦力を分散したり小出しにする (逐次投入) は、自ら敗北を招くもっとも愚かな戦い方だと見なされます。

 集団戦において個々の兵士の個別の強さ・戦闘力などはさほど全体の戦況に影響を与えないので、いわゆる練度も、こうした機動部分での行き届いた訓練が何より大切となります。 軍隊が規律や行進 (パレード) を極めて重視するひとつの大きなゆえんでもあります。

 なおこれは部隊同士の戦いだけでなく、個人単位の戦いにおいても有効なものです。 とはいえ個人戦の場合は戦力の個人差が大きい上にメンタルな部分も強く作用し、集団戦に比べると少し事情が異なることが多いかもしれません。 一人の剣豪が大勢の刺客に取り囲まれながら次々と敵を斬り伏せて勝つとか、不良同士のケンカで1対複数で相手を叩きのめすなどはそれなりに例があり、噂話としてもかなり耳にするものでもあります。

 これは大勢で取り囲んでいる側の一人一人が 「自分が最初の犠牲者にはなりたくない」 と攻撃を躊躇したり、誰か最初の犠牲者が出てそのむごたらしい様に戦意喪失するなど、精神的な駆け引きの部分がかなり大きく作用するものだからでしょう。 とはいえこれも、1対複数で勝つことが極めて珍しいので半ば伝説のように語られやすいからで、普通はまずまともな勝負にはならずに少数の側が一方的に負けて終わりでしょう。 多勢に無勢が負けるなどはあまりに当たり前の結果で面白くないので話題にもならないというわけです。

ナポレオンの各個撃破戦法と、織田信長の戦い方

 戦史マニアでなくとも知っている古今の歴史上もっとも有名な各個撃破戦術の使い手と云えば、19世紀にヨーロッパを席捲したフランスのナポレオン・ボナパルトでしょう。 ヨーロッパではとくに17世紀以降、国家間の戦闘が大規模となり、いくつもの軍団に別れて移動・進撃するようになりますが、敵が全軍を集結させる前に素早く自軍を集結させて戦いを挑めば、戦いを有利に進めたり、一方的に袋叩きにすることも可能となります。

 ナポレオンは単なる戦闘力だけでなく軍を動かす情報活用や進軍速度などを重視し、数的優位にある相手に連戦連勝します。 なかでも1796年8月5日に起こった 「カスティリオーネの戦い」 では、自軍の1.5倍の敵軍に対して倍以上の損害を与え、歴史的な勝利を収めています。

 また奇襲や情報戦の観点で語られることの多い織田信長の 「桶狭間の戦い」(1560年6月12日) も、ある意味では究極の各個撃破と云えるかもしれません。 戦力差は諸説あるものの織田 2,000人に対して今川 25,000人の10倍以上に達し、本来なら全く勝負にならない状況でした。 しかし信長は分散した今川の本隊のみに奇襲攻撃をしかけ、兵力差を3倍程度 (義元本隊 5,000〜6,000人程度) にまで縮め、究極的には敵の総大将である今川義元たった1人を目掛けて全軍が殺到します。

「銀英伝」 ラインハルトの戦い方

 おたくに近いところで云えば、SF小説 (ライトノベル)、及びそれを原作とする アニメ などが大ヒットした 「銀河英雄伝説」(銀英伝/ 田中芳樹/ 1982年11月〜) の銀河帝国側 主人公、ラインハルトのそれが有名でしょう。 宇宙歴796年/ 帝国歴487年2月に起こったアスターテ会戦において2万隻の艦隊を率いるラインハルトは、倍の4万隻で迫る自由惑星同盟艦隊が3つに分かれ包囲しようとしているのを逆手にとり、1艦隊ずつ各個に撃破する作戦を立案します。

 ラインハルト麾下の部隊司令官には歴戦の提督が多数いましたが、いずれもラインハルトの作戦を無謀なものとして批判、しかしラインハルトはこれを一蹴します (後にラインハルトの部下となるファーレンハイトだけは作戦の有効性を見抜いていた)。 その後戦闘となり、戦況はラインハルトの思惑通りに推移。 第4・第6の敵2艦隊を全滅させ、残りは第2艦隊だけ、完全勝利にあと一歩という状況まで同盟軍艦隊を追いつめます。 この様子を見ていた中立勢力フェザーンのルビンスキーは、「各個撃破戦法か、金髪の小僧 (ラインハルト) め、中々やるではないか」 と評しています。

 しかし艦隊司令官負傷により司令官代理に指名されたもう一方の主人公ヤンがこれを率い、ラインハルトの中央突破戦術を逆手にとって結果的に双方が無駄に兵力をすり減らす消耗戦に引きずり込みます。 ラインハルトやその盟友で側近のキルヒアイスは消耗戦は無駄だとして兵を引き上げ、ヤン率いる艦隊のみ生き残ることとなります。

 これが創作物における各個撃破の初出というわけではありませんが、この作品が大ヒットしたこと、この戦いが帝国側・同盟側それぞれの英雄の実質的に初めてとなる直接対決で大きな見せ場だったこともあり、おたくや 腐女子 の間でこの言葉がポピュラーになる一定の割合は果たしたといってよいでしょう。

 もっとも各個撃破自体は前述した通り戦いの基本で発想自体は珍しいものではありませんし、戦争の 天才・常勝の英雄たるラインハルトの才能や 有能 さを引き立たせるために、ヤン以外の帝国側・同盟側司令官をあまりに愚鈍・無能 に描きすぎだ (凡天問題) という ツッコミ もあったりはします。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2005年10月12日)
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