故郷に帰れないのか、新天地での新たな旅立ちなのか…「未帰還エンド」
「未帰還エンド」 とは、創作物において キャラクター が外国や異世界、別の時代などへ訪れたり飛ばされるなりした後、そのまま現地に留まって最初の場所に戻れなくなる結末となることです。 「帰れないエンド」 とも云います。
「出発した元の世界より充実したり幸福だ」「訪れた先で必要とされ居場所を見つけたり愛する人を得る」 などして、「自ら未帰還を選択した」 といった ポジティブ な展開となる場合もありますが、一般に 「帰れない」 という状況は悲劇やバッドエンドになりがちです。 とはいえ異国への移住などが当たり前のような国や文化にいる人たちと、日本人のようにあまり他国への移住願望が少ない人たちが多い国とでは、同じ 「未帰還エンド」 の作品でも、受け取る ニュアンス はだいぶ変わるかもしれません。
なお、帰れないまま途中で死ぬなどの場合は単なる 「死亡エンド」 であって未帰還エンドとはあまり呼びませんが、主人公 が 「ここに留まれば確実に死ぬ」 ことが分かった上で、何らかの理由 (仲間や世界を救うためなど) によりあえて未帰還を選ぶ (そして死そのものの暗示はされつつも直接的な描写はしない) 場合は、未帰還エンドと呼ばれるケースも多いでしょう。
また登場人物のうち、一部だけが残るという選択をする場合もあります。 例えば主人公は帰還するけど相棒は残るといった状況です。 この場合はそれまで一緒だった登場人物の別れが生じますが、残る理由がポジティブであれば 「仲間を見捨てた」「置き去りにした」 ということにはならず、「それぞれの旅立ち」 という形にできるでしょう。
故郷に錦を飾る…凱旋という意識と 「行きて帰りし物語」
物語 が何らかの 勝利 や目的の達成を目指すものであれば、その結末に 「出発点に戻る」 というのは、故郷に錦を飾るとか凱旋といった輝かしい未来が約束された筋書き、文字通りのハッピーエンドです。 「行きて帰りし物語」 といった言葉があるように、主人公が旅立ち、友や仲間と出会い集い、困難や試練を乗り越え帰るべき場所に帰って成長を確認する筋書きは、神話や英雄譚といった古典的な物語の構造・法則とも云えるひとつの典型例であり 王道 でしょう。
一方、現地に留まる場合、そこがよほど元居た場所より素晴らしい場所でなければ、何らかの帰れない理由を提示する必要があります。 物語も残り少ない最終盤でそれを行わなければならず、人気のあるキャラではファンに納得してもらうのも大変でしょう。
とくに対象視聴者や 読者 が子供や若者の アニメ や マンガ などの場合、「家に帰れない」 というのは 「家族や現在の友人知人らとの別れ」 を明確に指しますから、それだけで悲劇だと受け取られかねません。 また子供や若者は、おおむね子供や若者が登場する作品を好みますから、凱旋した後の輝かしい未来を捨てることと同義でもあります (未来ある若者を帰すための大人や老人の自己犠牲も典型例のひとつです)。 その場合、いったん オチ を着けた後にエピローグ・後日談の形で無理やり幸せなその後を挿入する場合もあります。
しかし一方で、キャラが孤児の独り者、流れ者や根無し草の場合、そもそも帰るべき場所がないこともありますし、訪れた先に留まるのは 「留まる理由」 が存在する、あるいは生じたことを意味しますから、文字通り新天地での新しい生活、旅立ちを予感させるポジティブなものになることもあるでしょう。 またそれを見る視聴者や読者が大人で地元や親元から離れて孤独を感じる境遇に居たら、「新しい場所に自分を必要としてくれる理由や人がいる」 というのは明るい未来を感じさせるものに写るかもしれません。
創作物で扱われる様々な出来事、事象は、受け取り側の考え方や年齢、境遇、時代背景などが異なっていてもあまり変わらない部分と、大きく変わる部分があります。 「未帰還エンド」 は大きく変わる シチュエーション の一つであり、同じ作品でも子供の頃に触れた時の印象と大人になってからのそれとの印象が大きく変わる可能性がある、その代表的なものでしょう。 別れは悲しいだけでなく、時として希望でもあるのです。