使い勝手が良いものの、差別表現にもなりがちな…「治安」
「治安」(ちあん) とは、国家や公権力によって社会が統制され、安定的に統治されていること、具体的には国家が定めた法が守られ、それを破る犯罪や統治を揺るがす反乱・暴動が少ないか、あっても有効な取り締まりによって封じられ、混乱のないさまを指します。
元々は国や警察、軍隊などによる円滑で安定した統治を指し、必ずしも民衆にとって安全で平和な状態を示すものではありません。 例えば封建制や独裁制国家において、民衆がどれだけ国家によって弾圧されていても、為政者によってつつがなく統治が行われていれば治安は良いものとだとされることもあります。 しかし現在では 一般の人たち の間でも、犯罪などがなく自分たちが自由で平穏無事な状態を治安が維持されている状態だと認識されるケースが多いでしょう。
治安が良く保たれている状態は、静謐とか安寧と呼ぶこともあります。 逆に保たれていない場合は、そのまんまの治安が悪いの他、混乱、政情不安・情勢不安といった言い回しになることもあります。 とくに治安が悪い場合、ネットスラング として 「世紀末」 とか 「ヒャッハー!」(マンガ 「北斗の拳」 に由来)、治安の悪い国としてよく知られる 「南アフリカ」「ベネズエラ」「メキシコ」 などの名称が、「○○の南ア」 のような ネガ比喩 として使われることもあります。
一般民間人の間でも、カジュアルに使われる 「治安」
一方、俗な日常会話や ネット ではよりカジュアルな使われ方もされています。 例えば会社や学校で暴力や暴言がない状態は当然として、単にその場にいる人間が従順でおとなしく身なりもしっかりしている、あるいは 雰囲気 が良い、清潔感 があり静かな 環境 であるなども、治安が良いと表現することがあります。 逆に態度が悪い人が多い、ガラが悪い、雰囲気が悪くてギスギスとしている、殺伐 としていることは、治安が悪いと表現されることもあります。
やや捻った使われ方をする ネットスラング・おたく用語 として、邪悪・残忍な表情で笑みを浮かべるような様を 「治安が悪い笑み」、そうした キャラ を 「治安の悪いキャラ」 みたいに表現することもあります。 こうした表情や笑いをあらわす言葉には 黒化 とか 闇落ち、暗黒微笑 や 蛇笑い などがありますが、言葉としてはより遠回しな構造となる表現ながら、直接的なあれこれが想起できる面白い言い回しでしょう。 「治安の悪い地域にありそうな笑いやキャラだ」 という意味ではなく、あくまで 「治安が悪い」 が一塊の 「悪くて危ない」 をあらわすフレーズとして使われている点がユニークです。
「治安」 とともにしばしば使われる 「民度」「風紀」
ほとんど同じ使われ方をする言葉に 「民度」 もあります。 こちらも本来の意味からはやや離れ、治安の良い悪いと同様に民度が高い低いと表現して、その場にいる人間の言動や雰囲気、さらには個人やキャラの言動を評価するような使われ方もします。
ただし治安にせよ民度にせよ、個々人の資質を指して評するのではなく、おおむね特定の地域や場所、そこに集う人間を 属性 と皮相的な言動によってのみ評価し決めつけるものでもあるので、容易に差別や ヘイト表現 に結び付きやすく、かつまた良い悪い高い低いの基準も恣意的になりがちで、使い方が極めて難しい言葉のひとつでしょう。
あまり安易・気軽に使うべき言葉ではありませんが、使い勝手の良さ、誰でも意味が分かる便利さから、時代を経るにつれよく使われるようになってきているかもしれません。 筆者 を含め、その点は強く留意したいところです。
なお治安や民度よりだいぶ軽い類似表現に 「風紀」 もあります。 こちらは社会生活上の規律・ルールを指し、それが守られているかどうかをあらわす表現です。 例えば学校生活における風紀の取り締まりは校則を守っているかどうか、それに関連した 制服 の着用方法といった身だしなみの粛正になりますが、とはいえ実際は、主に男女関係のあれこれ (不純異性交遊) を指す言葉として使われることも多いでしょう。
これは大人である社会人の間でもしばしば用いられ、とりわけ水商売や風俗関係の場での風紀は、男性従業員と女性従業員 (嬢) との恋愛関係や恋愛関係に基づく肉体関係を指す言葉として用いられることがあります。 こういった業界において 「店の女に手を出す」 はかなり強めの御法度となっており、当然ながらそれなりの処罰を受けることになるようです。