同人用語の基礎知識

スクワッター

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自分では何も産み出さず、権利だけを横取り 「スクワッター」

 「スクワッター」(Squatters/ スコッターとも) とは、元々は放置・放棄された土地や建物などを無断で占拠する人、不法占拠者を指す言葉です。 これが転じて、本人に何の権利もないのに、他者もしくは広く公共のものとされているものの権利を勝手に取得したり所有権を主張し、他者から利用料を取るなどの行為を広く指す言葉ともなっています。 同じ意味で 「○○ゴロ」(ゴロツキのこと) と呼ばれることもあります。 不動産に勝手に入り込んで本来の権利者に無断で賃貸ししたり、権利者から立ち退くように云われると高額の立退料を要求するのと同じです。

 よく使われるものに、ドメインスクワッター (ドメインゴロ/ サイバースクワッター) があります。 インターネットホームページ (ウェブサイト) を立ち上げる際には、「○○.com」 とか 「○○.net」 といった独自ドメインがアドレス先として使われますが、本人が使うあてもないのに、既存会社名やサービス名、将来それらに使われそうな文字列などを片っ端から先行して取得し、後にそれらを使いたいという企業などがあらわれたら、本来のドメイン取得・維持費用からかけ離れた高額の費用を譲渡の条件として要求したりします。

 また商標スクワッター (商標ゴロ) と呼ばれるものもあります。 こちらも既存サービスや会社名、あるいは流行語とか ネットスラングネットミーム、はたまたありがちな固有名詞やその他商品名やサービス名に使われそうな文字列を先行して商標出願して権利を取得し、本来その名称で商売をしていた企業などから高額の商標使用料や譲渡費用を請求したりします。 国内で既に権利を取得されている場合、海外で勝手に出願申請して権利を得る場合もあります。 商標 (あるいは特許) などは国別で管理されているため、本来の権利者が海外でビジネスをしようとすると、後々これが大きな障害となることもあります。

 ドメインにしろ商標にしろ特許にしろ、出願申請は原則的に 「早い者勝ち」(先願主義) であり、また法に則った適正な手続きをすれば、企業だろうが個人だろうがドメインなら数百円から数千円、商標でも数万円程度の費用で数年程度の独占使用権を得ることができます。 また一度取得すれば更新し続ける限り、その権利を保持することができます。 なお特許に関しては出願費用が高い上に20年で切れるのであまり見かけませんが、一部では広く普及した未特許の既存技術を勝手に取得して同じ行為をする例があります。 ただ一般に特許ゴロと云えば、サブマリン特許 (誰でも使って良いような顔をして技術を広め、広まったところで態度を変えて特許を盾に高額の使用料を請求する) による金儲けを指すケースが多いでしょう。

 もちろん商標などはありふれた一般名称などでは認められないこともありますし、調査で実体がないと判断されたら却下されたり、出願公告による権利付与前異議申立制度により第三者が登録に異を唱えたり、一旦認められても登録への異議申立制度で取り消すことができることもあります。 しかしそれには出願状況を常に監視したり、取り消しのために実体調査を行ったり裁判を起こすなど、多大な費用や手間がかかります。

 ドメインはともかく商標や特許に関しては、長年の商取引から必要に応じて先人たちが知恵を出し合い少しずつ法律や制度が整備されたものであり、権利者を不当な競争から守り健全な商業の発展を実現するために必要なものです。 しかしモラルのない企業や個人、すなわち権利ゴロが悪用すると、それを大きく阻害しかねないのがこうした財産権の難しさでしょう。

ドメインや商標の権利関係は難しいし厄介

 ドメインについては IT 分野 が発展し、1990年代後半から2000年にかけての 「ドットコムバブル」 が急拡大する中、将来使われそうなあらゆる文字列のドメインを大量に取得した業者が公正な競争を阻害するとしてアメリカで法的措置がされるなど、スクワッターの存在は迷惑な連中との印象を持たれるきっかけとなっています。

 日本においては 大手通信業者 NTT-X の検索・ポータルサイト goo や、大手百貨店松坂屋の企業サイトと紛らわしいドメインを取得した業者が、NTT-X や 松坂屋にドメインを高額で転売しようとした事件があります。 NTT-X や 松坂屋がこれを断ると、業者はそのドメイン (co.jp ドメイン) に 成人向け の卑猥なサイトを表示するなどの嫌がらせと思われても仕方がない運用を行っていました。

 これらの事件は 2000年に jpドメインを管理する JPNIC で紛争解決のための申し立て制度や裁定制度などが設けられ、整備されるきっかけともなっています。 goo や松坂屋は別ドメインでサイトを開設していますが、後に goo.co.jp は JPNIC によるドメイン管理の元 404エラーに、松坂屋は当初は別ドメインでの運用を続けるとしていましたが、後に co.jp を取得し使うようになっています。

 一方、逆のパターンもあります。 おたく 関係のドメインで話題となったものでは、同じ頃にあるスーパーマーケットの屋号とたまたま同じ名前で活動していた 同人サークル が、その名称のローマ字で独自ドメインを取得してサイトの 運営 をしていたところ、スーパー側から一方的にドメインの不正取得だと云わんばかりの主張をされ、トラブル になった事件があります。

 名称自体は地名に屋をつけた 「○○屋」 というありふれたもので、そのサークルの 主催者 もスーパーがドメインで困っているなら明け渡しますと非常に協力的な姿勢を示したものの、スーパー側がいきなり法的処置をちらつかせるなど高圧的な態度だったことから、「ネットではサークルの方が先に活動していて実績もあるじゃないか」「後から来た方がドメインゴロだった」 などの反発を受けることとなりました。

 また商標に関しては、ネット由来の AA の名称であるギコ猫を商標登録した 「ギコ猫事件」(2002年3月) や海外曲の 空耳 とモナーを使った ネタ で話題になったのまネコの 「のまネコ事件」(2005年8月)、ネットスラング・おたく用語 の 「絶対領域」 ほかの出願を玩具メーカーが行ったことを巡る騒動 (2005年8月)、「人の金で焼肉食べたい」 が商標登録された事件 (2021年1月)、東方プロジェクトから派生した 「ゆっくりしていってね!!!」 の流れを汲むゆっくり動画のうち、ゆっくり茶番劇の商標が登録された事件 (2022年5月) など、炎上ネットの祭り の状態となったものはたくさんあります。

たった1社で年間1万4,700件の出願 「ベストライセンス社」 で法改正も

 なお2015年から2016年にかけて話題となったものに、「ベストライセンス社」 を巡る騒動がありました。 元弁理士が経営する企業が年間 1万4,700件、日本全体の年間出願数の1割近くをたった1社で占めると云う異常なもので、出願された商標があんまりにもあんまりだったことから徐々に話題となっていました。 その後、世界的な バズ りとなったピコ太郎さんの Youtube 動画のネタ 「ペンパイナッポーアッポーペン」「PPAP」 の出願 (2016年) から大手メディアなどからも注目され、大騒動に発展することになります。

 数年にわたりすさまじい数の出願がされたためにありとあらゆる言葉が含まれ、流行語の 「じぇじぇ」「やられたらやり返す」「倍返し」「STAP細胞はあります」「歩きスマホ」 などの他、「リニア中央新幹線」だの 「民進党」「都民ファーストの会」「おおさか維新の会」 だのといった公に広く使われる言葉、アニメ のタイトル名ほぼそのまんまの 「ラブライブ」 や、よくある文字列に 「A」 から 「Z」 までを機械的に加えた 26種類の膨大なA〜Zネーミングまでありました。

 これほどおびただしい数の出願登録なら出願費用も多額に上りますが、この会社では出願費用の分納制度を使い、出願時に支払わず先に出願した権利だけを確保するというやり方で出願しまくるという、ある意味で法や制度の穴を突くような手法で行うものでした。 この元弁理士は大手メディアの取材に対して 「早いもの勝ちだからうちの勝ちです」「正当な競争に基づく権利だ」 との主張を繰り返しており、2018年6月9日に施行された商標法の改正 (登録出願時に一緒に出願料を払う) の発端となった事件となっています。

匿名で作られるネットスラングの起源を奪う 「匿名乗っ取り」

 一部のスラングやミーム、おたく用語のそれは、それらの名称を使った商品を展開する企業がスクワッターや悪質な商標ゴロから防衛的に取得することもあり、一概に責められない場合もあります。 しかしここで挙げたものの多くは他人が作った言葉などを勝手に出願して独占権を得ようとするもので、ネットで激しく 叩かれる 場合がほとんどでした。 また特許庁による出願への審査基準への不信感も高まる結果となっています。

 商標登録まではしていないものの、ネット利用者が 共有 して楽しんでいる 作者・所有者不明の言葉や 概念 を勝手に使ったビジネス自体を嫌う空気があり、そうした人をスクワッターと認識する場合もあります。 ここで具体的な名前は挙げませんが、言葉や概念を当てはめた 「日本○○協会」 とか 「○○学会」 などの任意団体や法人を勝手に立ち上げ、日本記念日協会に語呂合わせの日付で記念日登録などを行い、その言葉や概念の提唱者や第一人者を差し置いて自分が本家本元のような顔をしてメディア取材を受けたり表彰を受けたり、よくわからない資格検定を設けるなどのパターンです。 おたく系ビジネスが盛んになるにつれ、国や自治体から補助金や利益を受けているケースもあります。

 ネットスラングやおたく用語などは流行語大賞などに選ばれたりメディアから コメント を求められたりすることがあり、その何とか協会の 代表 とやらがそうした場に出て来て得々と自分の手柄みたいな話をするのを見ると、「いったい何の正当性があってそこにいるの?」 と 突っ込み たくなる場合もあります。

 またビジネスではないものの、制作者が判然としないネットスラングやミームなどを、「あれは自分が考えた」「私が作った」 などと主張し、起源を自称する人もたまにいます。 2ちゃんねる などの アングラ・匿名系の 掲示板書き込み などに由来するものは、本人がそれを主張しても客観的に証明する手立てがほぼないこともあり、金儲けというよりは目立つためとか 承認欲求 を満たすためのなりすましのような制作者主張が多いでしょう。 これらは偽起源主張とか匿名乗っ取り、コンテンツ乗っ取り などとも呼ばれます。

 有名なものでは、「台風コロッケ」 の起源主張 (2019年10月) や、「だいしゅきホールド」 の起源主張 (2020年3月) があります (炎上にまで至らない細かいものは結構あります)。 うち 「だいしゅきホールド」 の起源主張については、起源主張者に対して自分がそうだと反論する人物の正当性が奇跡的に事実上証明され (反論者が、だいしゅきホールドなみの変態的語録を当日同じ2ちゃんねる ID で多数 投稿 していた人物と同一だと信じるに足る類似性癖・同一文体の発言を ツイッター で繰り返していたなど、客観的根拠があった、ようするにどっちにも揺るぎない同一性・唯一無二の変態性が認められた)、ある意味でドラマチックな結論に至ったケースもあります。

 ちなみに 筆者 も匿名系掲示板で名無しの書き込みは行っていますし、そのうちのいくつかはそれなりに流行ったり コピペ で広がったものもあります。 しかしどう考えても根拠を示せない上に、下手に主張すると自慢話や嘘つきみたいになるので一切主張してません。 しかしある程度定着したものについては、このサイト上に知らんぷりして解説などは書いています  別に 自作自演 しているわけではないので、許してください…。

著作権の場合は…

 著作権 については出願や申請などしなくとも、日本では創作物を創った瞬間に作者に自然発生するものとなっています。 他者がそれを犯したら裁判などを通じて損害賠償請求をすることもできます。 ただし自分が訴えるにせよ第三者から権利侵害 (パクリや盗作・盗用だ) で訴えられ反論するにせよ、自分の著作権を主張するためには自分が先に著作したとの根拠が必要となります (例えばパクリ元より先に制作したことを示す証拠など)。

 昨今は権利関係も厳しくなっていますし、トレパク冤罪のような私怨や思い込みによる誹謗中傷で炎上を起こされて社会的信用を一方的に失うようなトラブルも大小様々なものが頻繁に生じています。 とくに既存の コンテンツ二次創作 などの場合、同じ キャラ を描くため結果的に似たような イラスト になりがちですし、そもそも仮にトレスしていてもポーズや輪郭、アイデアなら著作権的に問題などありません。 しかし言い掛かり レベル の疑いを提起するのは簡単でも、その疑いを晴らすのはかなり難しいものでしょう。

 誹謗中傷を防いだり冤罪で泣き寝入りしないためには、下書きの段階で SNS などに一旦公開して制作過程を開示 (原稿実況) するとか、下書きや作画途中のデータをタイムスタンプがつく オンラインクラウド のストレージに アップロード して痕跡を残す、あるいはアナログ絵なら電波時計と同じ画面内に作品を入れて動画で撮影する、デジタル絵なら制作途中を動画的に記録するタイムラプス機能を使うなど、「身の潔白を晴らすためにはそこまでやらなあかんのか」 みたいな状況も一部の ジャンル などでは生じています。

 他人の権利を知らずに踏みつけたり、逆にあらぬ疑いを受けて自分の権利や名誉が蔑ろにされる前に、権利関係の大雑把な知識を自衛のために持つ必要性は高まり続けていると云えます。 一方で、他者を批判するためだけに権利関係を聞きかじって濫用するのも自らに戒める必要があるでしょう。 同じ知的財産関係の権利でも、それぞれに特有の意義と問題があるのは押さえておきたいポイントです。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2012年8月22日)
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