情熱的なイメージがある髪色 「赤毛」
「赤毛」 とは、毛髪 の 色 が赤、もしくは赤みがかった茶色となっていることです。 赤髪やジンジャーヘアと呼ぶこともありますが、日本では赤毛との呼称の方がポピュラーでしょう。 実在人物の髪の色はその人の内面の何かをあらわすものではありませんが、赤と云う色が持つイメージから、創作物においては情熱的だったり意志の強さ、孤高、陽気さ、あるいは道化的な明るさの中の葛藤や苦悩と云った部分が表現されることが多いかもしれません。 一方で歴史的なあれこれや宗教的なあれこれで、実在人物の赤毛は差別的な扱いをされてきた経緯もあります (後述します)。 しばしば 黒髪 や 金髪 と対比されることもあります。
日本でも赤毛や 栗毛 といった黒髪や 茶髪 とは異なる赤みがかった髪の色を持つ人はいますが、アジア人はおおむね髪の色を決めるメラニン色素のうち黒っぽい色となるユーメラニン (真性メラニン/ 黒や茶褐色) が多いため、珍しい 髪色 と認識されることが多いでしょう。 あるいは 環境 や 病気 などによる髪の痛みや焼け・変色もしくは染髪によるものといった、一時的なものとする見方がされがちかもしれません。
一方、メラニン色素の中でも赤褐色から黄色寄りの髪色となるフェオメラニンが多く含まれる人種や民族の場合、全体としては少数派であるものの、見るからに赤い髪の人が一定の割合で存在します。 地理的には紫外線が比較的少ない北方の民族に多いとされ、とくに世界一赤毛が多いと云われるアイルランド人は人口の1割が赤毛だとされています。 燃え上がる炎のような明るい赤毛などもあり、見た人に強い印象を与えることもあります。 その色はしばしば宝石のルビーに喩えられ、宝石言葉の情熱・勇気・威厳・不滅、あるいは 純愛・美・強い生命力といったイメージが持たれることもあります。
アイルランドに次いで赤毛が多いとされるのはスコットランドですが、イングランド、ウェールズを含めイギリスやその周辺では赤毛の持ち主が多く、一方で複雑すぎるほど複雑な同地の歴史的経緯から、民族やその特徴のひとつでもある髪色による差別や迫害の歴史などもあります。 とくにイギリスのあるグレートブリテン島に元々住んでいたアイルランド人に対するヨーロッパ大陸から渡ってきた多数派のゲルマン系民族からの確執や差別感情は根強く、血や下賤、不浄、ヴァイキングのイメージとして語られることもあります。
またキリスト教が広がる以前からの神話や宗教はキリスト教が普及するにつれ邪神や邪教として排除されますが、アイルランド文化やケルト神話を始めとする北欧神話などで好意的に描かれていた赤毛 (雷神・戦神のトールとか) も忌むべきものとされ、裏切り者のユダも赤毛として描かれますし、悪魔が赤毛に描かれたり、後には魔女の特徴のひとつとされるに及んでいます。 これらは宗教絵画の形で庶民にも深く浸透するものだったのでしょう。
創作物における赤毛・赤髪
日本の創作物における髪の色、とくに アニメ での色とりどりのそれは、黒髪の中でのうっすらとした色味を誇張・デフォルメしたり、キャラ の識別や色から受けるイメージの個性付けに用いられる以上の意味はさほどありません。 とくに人種や民族などを髪の色で表現するケースは稀で、外国人ばかりが登場するような海外の名作などを元にした作品に例がある程度でしょう (これは 肌色 や目鼻立ち、体形なども同様です)。 一方、妖怪や異星人といった 人外 に用いられるケースは多いかもしれません。 しかし日本人が髪色から連想するイメージとはまた異なる意味を海外では持つこともあります。 とくに赤毛は前述した民族・宗教的なあれこれから、その傾向が強いかも知れません。
マンガ やアニメにおける赤毛キャラと云えば、後述する赤毛のアンの 主人公 であるアン・シャーリーがとくに有名です。 日本語で赤髪ではなく赤毛と呼ばれるようになったのも、この作品タイトルの影響がとても大きいものでしょう。 この他、「魔女っ子メグちゃん」 の神崎メグ、「魔法騎士レイアース」 の獅堂光、「銀河英雄伝説」 のジークフリード・キルヒアイス、「ワンピース」 の赤髪のシャンクスあたりは おたく や 腐女子 の枠を超えた知名度を持っています。 ちなみに 筆者 は前述したキルヒアイスの他、「ダーティペア」 のケイが好きです。
いずれのキャラも聡明で情熱的あるいはおてんばであり、日本においては ポジティブ なイメージがありますが、これは差別や偏見、容姿に対するコンプレックスといった ネガティブ なもの (赤毛に限らず、誰でもが形を変えて抱えている) を跳ねのける強いキャラとして描かれることに起因している部分もあります。 萌え要素 とも目される赤毛ですが、その意味では日本における赤毛も 褐色肌 などと同様に、外国人向けの 越境投稿 などでは、いくばくかセンシティブな部分を持ち合わせてもいる 属性 のひとつだと云えます。
なお赤毛の色が薄いと桃色 (ピンク色) の髪となり、これはもっぱら ピンク髪 と呼ばれますが、こちらについては少女っぽさや可愛らしさの印象が強くなり、赤毛とはまた全く異なるキャライメージとなります。 魔法少女や妖精といった人外キャラに用いられることも多く、ファンタジー の 雰囲気 を身にまとうことがあります。
赤毛のアンと赤毛
日本において赤毛という言葉が強烈に意識されることになったのは、1908年にカナダの作家、ルーシー・モード・モンゴメリが発表した長編小説 「赤毛のアン」(Anne of Green Gables) の人気でしょう。 1952年に村岡花子さんの訳による三笠書房版が刊行されると日本でも注目と人気を集め、以降も様々な訳者や出版社によって多数の書籍が刊行され続けています。 なかでも1973年に神山妙子さん訳で出版された作品は1979年のアニメ (世界名作劇場) の元となったり中学生用の図書教材として扱われるなど、日本における赤毛のアン普及とイメージ醸成に大きな功績があると云って良いでしょう。
赤毛のアン (アン・シャーリー (Anne Shirley) は、タイトル通りに赤毛で色白、痩せていてそばかすだらけの風貌で、とくに赤毛に強いコンプレックスを抱く少女として描かれます。 幼い頃に父母と死別し孤児となり、近所の家での家事手伝い同然の 居候 生活や孤児院を転々とし、様々な人と出会います。
明るく話好きでユーモアを持ち、空想好き・夢見がちで活発な性格ですが、時に突拍子もない事件を起こしたり、本人が気にする容姿や生まれ育ちから美しいものへの強い憧れがあったりもします。 頑張り屋さんで勉強もできますが、思春期特有の揺れ動く心なども繊細に描かれ、差別や偏見、いじめ、挫折、それに立ち向かう勇気など、広く読み継がれるべき傑作のひとつと云ってよいでしょう。
なお作品としてのアンは、赤毛のアンを第一作とし、アンの青春 (Anne of Avonlea)・アンの愛情 (Anne of the Island) といった続編や短編集などが多数あり、全体でアンシリーズと呼ばれています。 夫となるギルバート・ブライスとの出会いや反目と和解、恋愛、子供から大人への成長、大学進学の断念と学校教師としての生活、7人の子供の誕生と死別など、その波乱万丈の 一生 を 一代記 として描いたものとなっています。