同人用語の基礎知識

ぶりっ子

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「え〜、わたしわからな〜い」 なぜか魅かれる… 「ぶりっ子」

 「ぶりっ子」(ぶりっこ) とは、「かわいこぶりっ子」 の略で、もっぱら若い女性が、主に男性の歓心をかおうと可愛らしい女の子のふりをして、ことさらにおもねったりすり寄ったり、そうしたことばかりしている人物を指して揶揄する言葉です。 類似の言葉に 「カマトト」(ウブなふり、知らないふり) や 「猫被り」 があり、ぶりっ子自体もかわいこ以外の言葉 (例えば いい子ぶりっ子とか優等生ぶりっ子とか) で使うこともあります。

 日常生活においてことあるごとに男性に媚を売り、無知を装ったりか弱い女性や可愛い女性を演じる人は結構います。 それをある意味極限まで突き詰めたのがぶりっ子であり、おおむね表面上の可愛らしい容姿や仕草とは反対に、心の中、裏の顔にはどす黒い打算を持っています。 ターゲットとした男性の前ではひたすらぶりっ子をするけれども、女性しかいない場、あるいは眼中にない男性の前では本性を露わにし、荒々しく攻撃的な言動をすることもあります。

 表向きのありがちな特徴としては、無知で弱くて幼くて、食も細いフリをする、一人称が自分の名前だったり、さらに自分でちゃんづけまでする、フリフリのついたピンク色の服など女の子っぽいファッションを好む、頻繁に 涙目 になる、小動物やかわいい小物類を好む、純情かつ恋愛とか性的なものへの無関心を装うなどがあります。

 男性から見るとこうした女性の二面性は見破るのが困難で、とくに恋愛経験が少なかったり 童貞 ですといったウブな男子男性の場合、表面の顔にコロっと騙されてしまうこともあります。 一方で同じ女性から見ると意図が見え見えのバレバレであり、「そこまでして可愛いと思われたいか」「男性の歓心を買いたいか」 と冷ややかに見られ、かつ侮蔑や軽蔑の対象にもなりがちでしょう。

 その結果、女性の間で誰かを罵倒する際にぶりっ子扱いすることも広がり、本人はぶりっ子でも何でもないのに悪しざまに貼り付ける負のレッテルとしてもよく使われます。 「ブスのくせにぶりっ子してんじゃねーよ」 は ヤリマンサセ子 などと並び、およそ年頃の女性に対する最大限の侮辱言葉でしょう。

男性からはおおむね好意的に見られる 「ぶりっ子」

 言葉の初出としては、マンガ 「すすめ!!パイレーツ」(1977年〜1980年/ 集英社/ 江口寿史) において、かわいいふりをする子を 「かわいこぶりっこ」 と表現。 作品内で繰り返し使われたギャグというわけではないものの、人気の高い少年誌の大ヒットマンガだったこともあり、徐々に若者を中心に浸透。 後に 「ぶりっこ」 と省略され、それまでのカマトトや猫被りからの言い換えが徐々に進みます。 前後して1980年4月デビューの人気アイドル 松田聖子さんに対する 「ぶりっ子疑惑」 が生じ、一気に流行語にまで押し上げられます (後述します)。

 一方、それ以降のマンガや アニメ、あるいは 同人 といった創作の場では、ぶりっ子は女性の数ある性格のひとつと認識され、親和性の高いアイドルや子役といった芸能活動と結びつけられたり、表と裏の顔の違い・ギャップに笑ったり 萌え たりと、比較的愛される人格とされることも多いでしょう。 これは松田聖子さんを 元ネタ とする女性お笑い芸人らによるぶりっ子ギャグ (後述します) により誇張や洗練されたもので、ぶりぶりぶりっ子とかぶりぶりなどのアレンジした言い回しが登場したり、魚のブリ (鰤) と合わせる形で天然 (本当のかわいい子) と養殖とで区別したり、同じ魚でハマチやはまちっ子、イワシやいわしっ子など派生語も生まれています。

 そもそも男性からすると、裏に打算があろうがなかろうが、自らが可愛くあろうと努力し、また男性に寄り添う女性を好ましく思うことはあっても、嫌う理由はあまりありません。 とりわけぶりっ子という言葉が流行した時代 (後述します) は、まだまだ男性優位、あるいは男性らしさ・女性らしさが好ましいものという 雰囲気 があったこともあり、男性が上から目線で 「頑張ってる女の子」 の表も裏も清濁併せ飲む包容力みたいなものが求められる時代性があったことも影響しているのでしょう。

 ただしあまりに裏の黒い部分に救いがなかったり、自らが窮地に陥って手の平返しをされる、あるいはライバルとなる他の女性への悪口や ネガキャン人格攻撃 が激しすぎる場合は、さすがに 「もう無理」 となることも多いでしょう。

元祖ぶりっ子アイドル? 「松田聖子」 さんの破壊力

 ぶりっ子といって真っ先に思い浮かぶ人物としては、元祖ぶりっ子アイドルとも呼ばれた、昭和の大スター・アイドルの松田聖子さんでしょう。 愛くるしい容姿や仕草、いかにもアイドルっぽい衣装や歌などで一気にスターダムにのし上がり、出す曲出す曲軒並み大ヒット、聖子ちゃんカットと呼ばれる独特のふわっとしたセミロングの髪型も大流行するほどの社会的影響をも与えました。

 しかし人気が出れば アンチ も増え、とくに当時同じように人気絶頂だった男性アイドル田原俊彦さんをはじめ人気男性アイドルとの共演も多かったことから、嫉妬ややっかみも手伝い女性の中には 「健気でかわいい女の子を演じているがどうせ腹黒」「男に媚を売る仕草が嫌らしい」 といったかなり強めの批判的意見や嫌悪も少なくない状況でした。 当時は一般公開の音楽テレビ番組などが多数あり、聖子さんの歌が始まると客席からブーイングなどあからさまな嫌がらせがされたり、所属事務所への抗議や脅迫めいた手紙なども多数届いたようです。

 ことさらに聖子さんが 叩かれ たのは、トップアイドルだったという以外にもいくつかの理由があります。 当時はアイドルが出演するお笑い番組なども多数あり、歌手としての可憐な歌唱姿とはうらはらに、気さくで飾り気のないコメディーを演じる姿や会話などから、「裏表がある」 と誤解あるいは曲解されたり、歌番組で一位を取った、賞を取ったといったシーンで嬉しさから泣いていながら涙が出なかった、それを番組の 司会者 が指摘した (嘘泣き疑惑) などが代表的でしょうか。 一般にありがちな 「デビュー前、地元では有名なヤンキーだった」 みたいな説 (事実無根) もありました。 それらが相乗する中で、いつしか聖子さんへの批判として 「ぶりっ子」 が使われるようになったのでした。 一部の女性の間では 「嘘泣き聖子」「松田ぶりっ子」 と呼ばれるような状況もありました。

 当時は 「美少女」 といった呼び方がまだあまり一般的ではなく、かといって美人では年齢的な ニュアンス が合わない場合、「かわいこちゃん」 という美称がよく使われていました。 そこから前述した 「すすめ!!パイレーツ」 での言葉 「かわいこぶりっこ」 が、この状況にとてもマッチしたのでしょう。 また ネット などもない時代、聖子さんに対するこの呼び方が全国に広がり流行語にもなったのは、いわゆる女性週刊誌などがタレントの好感度調査やその発表を誌面で行う中で、「女性からかわいこぶりっ子だと批判されている」 との紹介がされたことが直接的に影響したのでしょう。

 さらにお笑い芸人や物まね芸人が盛んに聖子さんの真似を誇張して行ったり、ぶりっ子ぶりをシャレとして揶揄するギャグやコントを相次いで行い、それらが相乗した部分もあります。 とりわけ当時人気が急上昇中だった女性お笑いタレント山田邦子さんのぶりっ子芸は人気を博し、1981年12月にリリースされた楽曲 「邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇)」 は大ヒットしています (筆者 も買いました…)。 同じころ、漫才コンビ 春やすこ・けいこさんらも、ぶりっ子芸をよく ネタ にしていました。

 なお1982年11月には、後に おたく という言葉を生み出すきっかけとなった 成人向け の漫画雑誌 「漫画ブリッコ」 も創刊されています。 その後の 萌え ブームを強力に牽引する数多くの 作家 が参加し、その中には漫画家江口寿史さんのアシスタントとして、「かわいこぶりっこ」 という言葉を生み出す直接的な発端となった西秋ぐりんさんも漫画家として参加しています。

松田聖子さんはぶりっ子だったのか

 ところで聖子さんは本当にぶりっ子だったのでしょうか。 そもそも男らしさ・女らしさがまだ美徳とされた時代、偶像として活動する芸能人がそれを強く意識した言動をするのは当たり前ですし、芸能人でなくとも、年頃の女性がより女性らしくなりたい、異性から注目されたいと思って身だしなみや身のこなしに気を付けるなどは当たり前の行動とも云えます。

 のちに聖子さんはインタビューなどを通じて、職業アイドルとしての演技や身の振り方への注意は行っていたと述べていますが、ことさらに異性に媚を売ろうとしたわけではないと言外に主張しています。 ただし可愛い女の子にはなりたいし、女の子にも支持されるアイドルになりたい、そうなるべく努力や演技はしたと述べています。 そして結果として男性から絶大な支持を受ける一方、全ての女性ではありませんでしたが、聖子ちゃんカットをはじめ時代のファッションリーダーとして数多くの女性からも熱烈に支持される存在になっています。

 いわゆる 「かわいい」 は普通の日本語ですが、南沙織さんや山口百恵さん、ピンクレディーやキャンディーズといったそれ以前の日本アイドルの流れを汲みつつ、その後の原宿的な価値観、「kawaii」 と英語化されて世界に広まるほどとなった日本的な 「かわいい」 のスタイルや大きな流れのひとつを作り出した一人が聖子さんなのは間違いないでしょう。

 またぶりっ子と呼ばれた初期の活動から転じ、あれほどのトレードマークだった聖子ちゃんカットをあっさりショートカットに切り替える (1982年 「赤いスイートピー」(シングル8枚目) の途中から) など、男性の目というより 「日本のかわいい」「女の子や女性のかわいらしさ、かっこよさ」 を追求し体現しつづけたのが聖子さんなのだといった見方の方が、実際の功績にあった評価のような気がします。 もしそれを 「ぶりっ子」 と呼ぶのなら、聖子さんに限ってはそれは誉め言葉としてでしょう (ちなみに筆者は中森明菜ちゃん派でしたが、それでもショートカットの聖子さんのインパクトはちょっとすごかったし、その後の女性のショートカットの原点のひとつではないかと思います)。

 1980年代はアイドルの時代だったとはよく聞く話ですが、その時代の中心、あるいは頂点にいたのが聖子さんであり、その強烈な印象と大ヒットした名曲の数々は、「かわいい」 あるいは 「ぶりっ子」 という言葉と共に、ずっと記憶され続けるものになるのではないでしょうか。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2008年2月20日)
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