神話や英雄譚のひとつの典型 「貴種流離譚」
「貴種流離譚」 とは、高貴な人物が生まれ故郷や都を離れ、各地を放浪しながら様々な困難や試練に遭遇し、志を同じくする仲間や佳き友と巡り合いともに力を合わせることでそれを克服し、最後には英雄や ヒーロー として人々から尊敬を集めたり、離れていた生まれ故郷や都に凱旋して幸せになるといった 物語 の形式のひとつです。
言葉自体は日本の民俗学者である折口信夫さんが、日本の古典や神話、説話や民話などを通じて見出した物語の類型・テーマ のひとつとして名付けたものです。 この形式の物語は日本のそれ以外でも世界中で同様に見られ、ある種の 王道 や 鉄板 のようなストーリーラインだと云えるでしょう。
パターンとしては、尊く 高貴な存在・家柄 (神 や皇帝・王族・貴族) に生まれた幼かったり若かったりする人物が 主人公 となり、まだ小さいうちに重大な困難に見舞われます。 例えば王族の子なら奸臣に父親を殺され国を奪われるとか、誰かに騙されたり狂った父親から追放される、あるいは王族だけれど複雑な事情によって一介の清廉だけれど貧しい村人に育てられていたところを賊に襲われ村を焼かれるなどです。 主人公は 愛する 家族や頼れる仲間、住む場所などの全てを奪われ裸一貫、一文無しの立場に陥ります。 場合によっては殺されかけたり牢獄に囚われたり、奴隷 のような立場に落とされることもあります。
その後は敵の手から落ち延びて各地を放浪し、その土地ごとに生じる様々な問題を持ち前の正義感や勇気や知恵で解決し、成長しつつ人望や名声を高めます。 幾たびかの出会いと別れを経て次第に新しい仲間も集まり、少しずつ頭角を現していきます。 そのうち時の権力者となっている、かつて自分に不幸をもたらした奸臣や父なども無視できないほどの大きな存在となり、最後に相争って 勝利 し、本来主人公がいるべき場所、立場に復帰し名誉を回復する、あるいはそうした俗世間的な権威や名誉に背を向け新たな高みに向かって旅立つといった物語となります。
本来あるべき場に主人公が収まる気持ちよさ
こうした流れは神話や英雄譚にうってつけであり、また運命や 予定調和 といった考え方や 世界観 にも合致するものでしょう。 世の中には神や天が定めたあるべき秩序や調和があり、それが一時は崩れることがあっても、最終的には収まるべき元のさやにちゃんと納まるといった考え方です。 また高貴な存在は単に生まれが高貴なだけではその意味や価値はなく、実力を持ってその地位を獲得・維持することで自らの正当性を証明する必要があります。 いったん無一文になった上で再度同じ地位に這い上がるのは、高貴な血筋であり人々を統べる正当性や神から認められたことの証明とするものでもあります。
物語の構造上、神や神の子孫、神によって権力を与えられた貴族らの正当性を証明するものでもあるため、神話や皇族・王族の 正史、民話などにも繰り返し同様の構造で用いられ、それは神様や貴族と云った考え方が失われつつある現代の物語にも形を変え、用いられているといって良いでしょう。 自由や平等が当たり前の時代にあっても、多くの人は王子様やお姫様が大好きだし、自らもそうした高貴な存在になりたいと思うものだからでしょう。
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