日本人なら写真撮影でついやってしまう…? 「ピースサイン」
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ついやっちゃう…ピースサイン (同人する子・寐津菟かき子・有明いく子) |
「ピースサイン」(peace sign) あるいは 「ピース」 とは、手の人差し指と中指を上に真っすぐ伸ばしてそれ以外を折ることで作るハンドサインのことです。
ピースサインではなくVサインと呼ぶこともあります。 形は同じでも、ピースサイン (平和) とVサイン (勝利) とでは意味や使われるようになった経緯が異なりますし、ある程度厳密に使い分ける人もいますが、現在の日本ではほぼ同じものとして 認知 されているといってよいでしょう。
バリエーション は豊富で、顔の横でするものは横ピース (横ピ)、両手でするものは ダブルピース (ダブピ) やバルタン (バルタン星人より)、手首を捻ってVが上下逆になったものは逆さピース、手の平ではなく手の甲側をカメラや相手に向けるものは裏ピースや逆ピースと呼びます。 だだし人によっては逆さピースを裏ピースと呼んだり、横向きにしたものを横ピースと呼ぶなど、あまり用語の統一はされていません。
伸ばした指先をやや曲げてカギ爪状にしたものは曲げピースと呼びますが、こちらは欧米ではエアクオーツ (Air Quotes) と呼ばれ、文章の 「"〇〇"」 を模したものであり、異なる動作 (数回ちょんちょんと曲げ伸ばしする) や異なる意味・ニュアンス (会話中に特定の言葉を引用したり強調して揶揄するなど) を持っています。 目のそばでするピースを目ピース、あごのそばでするものをあごピース、舌 を出しながらのそれを舌だしピースと呼ぶなど、手の位置などで細かい分類がされることもあります。 ピースにはかわいらしさを演出する意図と、顔のそばでするものは顔の輪郭を手で隠し、小顔に見せる効果を期待するものでもあります。
ちなみに裏ピースや逆ピースは、欧米では相手への侮辱の意味があるので (中指を立てる 「fuck off」(失せろ) などと同等で、Four-letter word の扱い)、外国人相手に使ったり、イラスト などにして 越境投稿 する際には注意が必要です。
またピースにせよVサインにせよ、比較的時代が近い第二次世界大戦あたりからの戦争に関する祈りの場 (例えば靖国神社とか広島・長崎・沖縄などにある記念館やハワイ真珠湾のアリゾナ記念館、その他各国の戦争博物館など センシティブ な扱いがされがちな場) では、あらぬ誤解や周囲の人々への不快を招かないためにも控えるのが無難でしょう。 昭和 の時代から、「歴史に無知な日本人観光 客」 みたいな文脈での批判が度々生じています。 またこれは、震災やその他の自然災害や事故による被災者・被害者の慰霊塔の前などでも同様です。
コニカカメラの CM でピースサインが日本に定着
ピースサインが日本において、とくに写真撮影の際に 定番 のポーズとして広がったのは、1972年に人気タレントの井上順さんが出演したカメラのテレビCMでのポーズが発端とされています。 商品はコニカ (現:コニカミノルタ) のコンパクトカメラ 「C35」 で、CM では井上さんが明るい笑顔で愛嬌を振りまきつつ、右手にカメラ、左手でピースサインをしていました。 このポーズは ポスター や カタログ にも使われ注目を集め、また キャッチフレーズ の 「じゃ〜に〜コニカ」 のイメージと軽量コンパクトな使い勝手の良さもあり、同機はカラー写真普及期の国民的カメラとして大ヒットします。
コニカC35系統のカメラは初代 (1968年) やその改良版でお手軽なじゃ〜に〜コニカ、一般向けの実質的に世界初となるストロボつきのピッカリコニカ (C35EF) と続いた後、1977年に 「ピンボケさん、さようなら」 とのセリフとともに、世界初のオートフォーカスを搭載した C35AF が登場します。 「ジャスピンコニカ」 と呼ばれた同機はさらに大ヒットとなり、引き続きCMを担当していた井上さんの 「ジャスピン」 は流行語にもなりました。 この系統のカメラは 「誰でもどこでも手軽に使えてきちんと写るカメラ」 を日本に広め、井上順さんのピースサインともども、日本の写真文化のかなり大きな一部を作り上げた存在だと云って良いでしょう。
井上順さんの述懐によれば、井上さんがアメリカを訪れた際に、アメリカで反戦運動に参加していた若者が、当時のベトナム戦争に反対し平和を願うとして行っていたハンドサイン、すなわちピースサインを目撃し、CM の際に何気なくアドリブで使ったとのことでした。 その後ピースサインの写真が選ばれたことに 「驚いた」 と コメント しています。 またコニカの CM では最初期に行っていただけで、その後の CM ではピースサインはしていません。 偶然と幸運が生んだピースサインということなのでしょう。
撮影時になぜ 「ピース」 や 「はいチーズ」 が当たり前になったのか
現在では写真撮影の際に行うハンドサインやポーズには様々なものが用いられていますし、カメラ自体もデジタル化したり携帯電話に搭載 (写メ) されたりして 日常 のものとなっています。 しかしそれまでは、一部の富裕層はともかく一般庶民にとって写真はあまり一般化もしておらず、写真撮影は特別な日に行うことといった認識がありました。 日本人の多くがまだ撮影慣れしていないこともあって表情やポーズもぎこちないものになりがちであり、ピースサイン (及び撮影者がシャッターを押すタイミングを知らせる掛け声の 「はいチーズ」 ともども) は、撮影される側をリラックスさせ、緊張や手持無沙汰感を緩和する効果が絶大だったと云えます。
ちなみに 「はいチーズ」 のチーズは、その言葉を口にすると自然と口角を上げて明るく好印象な口元になることから行われるようになっており、こちらもアメリカで写真撮影の際に行われていた 「Say Cheese!」 が元になっています。 日本では1963年に雪印乳業のチーズのテレビCM で紹介されたことからその後すっかり定着することになりました。 また観光地などによく設置してある顔ハメ看板 (顔出し の記念撮影用スタンド) は、富士フィルムが写真普及時に各地域の観光地に設置したのが発端となっています。
ちなみの蛇足で、現在はコンパクトカメラと呼ぶことが多い C35系統のようなカメラは、当時は二眼 (撮影するレンズとは別にファインダー用の窓の2つの眼があって一眼と区別するため) とか、バカチョンカメラ (アメリカのバケーションカメラ (休日に撮影する一般家庭向けカメラ) がなまったもの) と呼ばれていました。 その後後者は 「バカでもチョンでも撮れる」 と曲解されて差別だと騒がれ、現在ではほぼ使われなくなっています。
同様のカメラは長く親しまれる存在でしたが、2000年代以降はデジタル化し、フィルムカメラと区別するためにデジタルコンパクトカメラ (デジコン) と呼ばれるようになります。 しかし折からのカメラ付き携帯の普及やスマートフォン (スマホ) の登場と急速な普及により、2010年代にもなるとすっかり街中で見かけることもなくなりました。 その後は 動画 の撮影機能を強化した Vlog 用のカメラが高級機種として残る程度で、お手軽カメラとしての歴史的役割は終えたといって良いでしょう。
一方で使い捨てカメラ (使い切りカメラとかレンズ付きフィルム) と呼ばれるような、安価なフィルムカメラが登場し、一時は廃れつつも後に復権したり、主に地下アイドルの文脈で、その場で現像・プリントしたような写真が作れるインスタントカメラ (一般に 「チェキ」 と呼ばれる) も一部ではしぶとく存在し、人気を集めています。 このあたりは、アナログな時代の写真やカメラが エモい とか、時代時代の空気を反映したものと云えます。
ちなみに写真好きは男性というイメージがありますが、こと友人知人との何気ない集合写真や記念撮影は、携帯電話やスマホの普及以前から女性 (というか女子) が好む印象があります。 写真撮影の被写体に何を選ぶかで男女にかなり違いがあるのですね。 また当然ながら 陽キャ と呼ばれるような仲間の多い人たちに友人知人とのスナップ写真を好む傾向があります。
このあたりはゲームセンターにあるプリクラがほぼ女性専用となっている点からも伺い知ることができます (その後は一部男性客の女性客への迷惑行為などがあり、男性のプリクラエリアへの立ち入りそのものが禁じられるようにもなっています)。 写真やピースサインに男女の別はありませんが、「笑顔でピースサイン」 という仕草が女性っぽく感じられる点も、このポーズに少なくない男性がある種の 萌え やお色気を感じる理由でもあるのでしょう。
アヘ顔なのにピースで写真撮られちゃうぅ!
写真撮影時の お約束 のようなピースサインですが、楽し気な写真に特有のこのポーズを、あろうことか エロ な文脈、とりわけ ハメ撮り とか性行為の前後に女の子に行わせて撮影するといった 趣味 や、それに興奮するといったある種の 性癖 も登場しています。 中でも アヘ顔 をしてカメラ目線でダブルピースをするものは、アヘ顔ダブルピース として 同人用語 のひとつともなっています。
ハメ撮りの文脈としては、盗撮 や隠し撮りではなくちゃんと女の子の 同意 を得て撮影していますというエクスキューズとして行われるなど、それなりに合理的な理由を持つこともありますが、明るく元気、あるいは無邪気なピースサインと淫靡な性行為との組み合わせのギャップにときめくものを感じたり、恥ずかしい姿を撮影されているのに喜んでいるように見える女性の姿に被虐や加虐の感情を持つなど、様々な理由もあります。 とくに 変態・紳士 と呼ばれる ジャンル におけるピースサインの登場頻度はかなりのものとなっています。
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