同人用語の基礎知識

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語彙力ないけど感想云いたいです!… 「(語彙)」「(語彙力)」

 「(語彙)」(ごい) あるいは 「(語彙力)」 とは、「語彙が少ない」「語彙力がない」 すなわちボキャブラリーが貧困で表現が陳腐でありきたり、文章が下手といった意味の 自虐・自省・謙遜的な ネット 特有の言い回しです。 語彙とは単語の数のことですが (語 (単語) の彙 (集まり)、一般に教養や学のある人は単語や言葉が豊富で、それらを使いこなして深みのある流暢な文章が書けるものと考えられますから、「自分はそうではない」「教養や学もない」 という意味となります。

 主な使い方としては、ネットの 書き込み などにおいて語彙力がないばかりに気の利いた言い回しができない人が、エクスキューズ (言い訳・保険) として文章の末尾に括弧付きで弁明するようなシンプルな使い方をします。 例えばラーメンを食べた後に 「おいしい(語彙)」 と書けば、「語彙力が貧弱なためにおいしい以外の感想が書けません」 という意味になります。

 当初は (語彙が乏しくてすいません)(語彙力なさすぎますね)(語彙力は お察しレベル) などと普通の文章をかっこ書きで表す形もありましたが、様々な ネットスラング からの影響などもあり、短くなって (語彙) や (語彙力) だけになるのは、いかにもネット特有の言い回しといった感じです。 この他、(語彙不足)(語彙僅少) といったアレンジ版や、語彙の後に を生やして (語彙力 www) などと表現することもあります。

 なおこの言い回しが広まるまでは、「ボキャ貧」(ボキャブラリーが貧困) という言い回しもありました。 こちらは1992年10月14日からフジテレビ系列で放映された人気番組 「タモリのボキャブラ天国」(ボキャ天) の番組名の略称から派生した言葉で、なかでも衆議院議員で 「平成おじさん」 として知られる小渕恵三さんが、総理時代の1998年に法案修正を巡って紛糾した与野党協議を終えた後の記者とのやり取りで答えた 「俺はボキャ貧だからな。ボキャブラリーが貧困だから、いい言葉がなかなか出て来ない」 は、小渕総理を巡る様々な言葉 (「冷めたピザ」 とか 「ブッチホン」 など) と並び、メディアを賑わせることとなりました。

もはや 「ヤバイ」 しか感想が出てこない…

 この言葉の使い方ですが、一般にボキャブラリーが貧しそうな頭の悪い若者、最高か最低かといった極端な形でしか自分の感情を表現できない、あるいはそのような な形でしかものごとを捉えたり感じられないような未熟・幼稚な人 (いわゆる 「感情の粒度が低い」 ような人) がつい口にしそうなありふれた言葉、「ヤバイ」「エグい」「マジ?」 や 「おいしい」「うまっ」「かわいい」「すげえ」 といった単純な言葉を選び、語尾につなげるパターンが多いでしょうか。 例えば 「ヤバイ(語彙力)」 のような形です。

 さらに 一周まわって 逆に陳腐になったみたいな書き方と意味になる場合もあります。 例えば 「やばい(豊富な語彙力)」 などとすれば、「自分の語彙力は高いけれど、回りまわって結局この表現になるくらいやばい」 といった意味になったり、「陳腐な表現なのに語彙力があると勘違いするくらい自分は語彙力がない」 と真逆の意味になったりします。

 なお非常に似たというか同じような ニュアンス の言葉に 「(伝われ)」 もあります。 こちらも 「文章が壊滅的にダメだけど読む人に伝われば嬉しいな」 との自虐・自省・謙遜したような言い回しで、「語彙力ないけど伝われ」「伝われ私の語彙力」 といった文字列となったり意味となります。 他には (文章力)(国語力) あたりもそうでしょう。

 一方、「(小並感)」 という表現もあります。 こちらは 「小学生並みの感想」 の略であり、「小学生みたいな取るに足らない素朴で子供っぽい感想」 といったニュアンスとなります。 派生として 誤変換当て字 の 「小波感」「コナミ感」「KONAMI感」「粉みかん」 と表記されることもあります。 こちらはニコニコ動画に アップロード されて話題となったアダルト作品の コメント から派生した、いわゆる 「淫夢語」(淫夢語録) の一つであり、(語彙) や (語彙力) と同じような言葉として使われることもあります。

 ちなみに対義語というか対になる表現は 「(めっちゃ早口)」 みたいな云い方となるでしょうか。 こちらは豊かすぎる語彙力を総動員してあらん限りの美辞麗句を並べて、最後に (めっちゃ早口) をつけて、おたく腐女子 がよどみなく饒舌にしゃべっているようなニュアンスで自虐する意味となります。 ただし他者に対して 煽り っぽく (めっちゃ早口でしゃべってる) といったニュアンスで使う方が多いでしょう。

 さらに関連する言い回しに 「(読解力)」 もあります。 こちらは 「読解力がないので見当違いの意見になってます」 の意味で、そのまんま 「間違ってるかも知れませんが…」 と周囲の顔色を伺いながらおずおずと使うような言葉になります。 あるいは逆に、ちゃんと理解できているけれどあえて誤った、あるいは皮肉に満ちた感想を堂々と書いて ネタ とするような言い回しにも使われます。 この場合、どや顔 であえて誤った意見をしつつ、末尾に 「(名推理)」 をつける使い方も近いかもしれません。

語彙力がないのではなく、推しのあまりの尊さに語彙がなくなった?

 一方、こうした使い方がネットで広く行われるようになると、意味や使い方も 拡散 し、「語彙力がないのに叫ばざるを得ないほどの状態だ」 あるいは 「語彙力がないのではなく奪われたのだ」 といった、前述した一周回った意味・ニュアンスっぽい使い方でも盛んに利用されるようになっています。

 例えば おたくや腐女子が自分の好きな 推し のタレントや キャラカップリング などを目の当たりにして、あまりの素晴らしさ、尊さエモさ、自分をメロメロにする罪深さに感動してしまい、何か書こうとしたけれどうまく書けない、言葉を失って見ていることしかできないけど何とか一言であらわすならば…というニュアンスです。 ありがちなのは、推しの笑顔がかわいすぎて 「かわいい(語彙力)」 とだけ書くような感じです。

 これだけだと前述した 「語彙力がない」 の使い方と全く区別がつきませんが、前後の文脈を見ると何となく言いたいことが分かったりします。 あるいはより直接的に意味が通る形の 「かわいい(語彙力は死んだ)」「かわいい(語彙喪失)」「かわいい(語彙は無力)」 といった書き方をする場合もあります。 こちらなら意図はより鮮明でしょう。

 いずれにせよ 掲示板レスブログ の書き込み、動画サイトコメント欄ブコメ などなど場所を選ばずどこでもたいへんよく使われる言い回しですが、とりわけ ツイッター などの SNS では、好んで使うユーザーが多いフレーズです。 これはテレビやネット配信などを見ながら 萌え語り するような 実況 ではあまりまとまった丁寧な文章など書けないこと、そもそもツイッターの ツイート は 140文字で長文に向かない点もあります。

 単に 「かわいい」「かっこいい」 でも良いのでしょうが、なにかと称賛表現がより大げさにエスカレート・インフレを起こす中、そこに様々なネットスラング的な影響を持ったニュアンスを加えて自分の気分を手軽に表現できるのが、この言葉が重宝されている部分でもあるのでしょう。 まあ実際、感情が揺さぶられ感極まると小難しい言葉や回りくどい修辞より先に、シンプルな言葉が出てくるものでもあります。

「照れ隠し」「文章の省力化」 としての 「(語彙力)」

 これら (語彙) や (語彙力) あるいは (伝われ) を使っている人が、本当にボキャブラリー貧困で文章が下手な人なのか、あるいは少なくともその傾向を持っていたり自覚している人たちなのかについては議論の余地があります。 なんといっても単なるネットスラングですし、流行の言葉をネタとしてちょっと使ってみるような人も多いでしょう。

 またそもそもこうした言葉を好んで使うような おたくや腐女子は、様々な コンテンツ に触れて自分でもそれなりに文章を好んで書いていたりもする、一般人よりはむしろ語彙力や教養が豊かな人だったりで、謙遜したり自分の文章力にある程度の自負がありつつギャグとして使う場合もあるからです。

 自分のブログなり 同人誌 なりでは饒舌に超長文で萌え語りをするけれど、ツイッターのようにより多くの不特定多数が目にしそうな場ではちょっと照れてしまう、あるいは ガチ すぎて周囲がドン引きしそうな キモい 表現はしたくないとの意識も、この言葉を使う際にわりと強く作用しているような感じもします。 また日々の食事などを頻繁にツイートする人が、毎日毎日食事ごとにいちいちあれこれ表現を工夫して感想など書いていられないというのもあるかもしれません。

「語彙力ない自覚があるなら増やす努力をせよ」 との謎のマウントも

 こうした言い回しが流行る中で、「(語彙力) などと言い訳をするくらいならもっと本を読むなりして語彙力を鍛えろ」 などと真顔で苦言を呈したり マウント を取る人もいたりします。 語彙力のない人がこれ幸いとこの言い回しを便利に使っている場合もありますし、本当に語彙が乏しい人との会話は聞き手側の意味をくみ取る負担が大きいので、自覚があるなら円滑なコミュニケーションのためにも語彙力アップしましょうよという意見もその通りではあるのですが、これは少々見当はずれな感じもします。

 言葉の使い方は表面上の意味・裏の意味を含めて様々ですし、(語彙力) にもここで説明したような様々なニュアンスを、恐らくは最初期から持っています。 「わたし語彙力ないの」 を言葉通り・文字通りに受け取って、「うん、語彙力ないね、本を読もうね」 みたいな会話や応答をされても困ってしまいます。

 贈答品の手渡しで 「つまらないものですが」 に 「つまらないものを持ってくるな」 とキレる人はあまりいないでしょう。 ネットスラングとしての文脈を無視して上から目線でそんなことを云われても、「その前にお前の読解力を何とかしろよ」 と思う人は多いのではないでしょうか。

 とはいえ、語彙はかなり意図的にインプットしたりアウトプットしないとどんどん失われていくものですし、思考は言葉や語彙と一体のものでもあります。 スマホで SNS の短文ばかり眺め、ヤバ、エグ、マジ、キモといった言葉ばかり見たり書いていると、いずれ自分も本当にそれしか云えない、あるいは感じられなくなるのではないかという漠然とした危機感はあります。 バカのふりをしていると本当にバカになる、「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」 なのかもしれません。 いやまぁまるで筆者がバカではないような言い草ですが。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2019年11月12日)
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