新総裁決意のスピーチ 「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」
「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」 とは、2025年10月4日に行われた自由民主党 (自民党) 総裁選において、当選したばかりの高市早苗新総裁が行ったスピーチにおける フレーズ のひとつです。 自身の決意と同僚議員・党員らの鼓舞を訴えるもので、文章表記においては 「働いてx5まいります」 とか 「働いて5連発」「働いて働いてまいります」 といった形で省略されたり、「働いて」 部分を他のものに差し替えた形で使われることもあります。
「ワークライフバランスを捨てます」 と 「馬車馬」 に対する批判
2分間ほどのスピーチでは、最初に党員党友や議員、前総裁の石破さんへの感謝を述べ、次に国民からの支持を失い選挙で大敗続きの自民党や国内外に問題が山積で厳しい状況が続く日本の行く末を踏まえ、自民党議員が力を合わせることの大切さを訴えます。 党の立て直しと課題解決のために目指すべきは多くの方の不安を希望に変える党だと力説し、その後にこの 「働いて働いて」 が含まれる部分に続きます。 具体的な前後の内容は次の通りです。
「全世代総力結集で、全員参加で頑張んなきゃ立て直せませんよ。 だって今、人数少ないですし。 もう全員に働いてもらいます。 馬車馬のように働いてもらいます。 私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。 働いて働いて働いて働いて働いてまいります。 皆さまにもぜひとも、日本のために、また自民党を立て直すために、たくさんたくさんそれぞれの専門分野でお仕事をしていただけますよう心からお願いを申し上げます」
これ自体は不振にあえぐ自民党の舵取り役を信任されたリーダーとしての決意を述べ、一緒に仕事をする仲間へ口頭で檄を飛ばしたもので、「私も全てを投げうって頑張るから皆も腹をくくってやってくれ」 とのスピーチにさほどの違和感はありません。 当選直後の高揚感による 言葉の強さ はあるにせよ、あくまで自分自身と党に所属する議員らに向かって述べた鼓舞や決意表明に過ぎません。
とはいえ元々一部のメディアや政治家、論客らから蛇蝎のごとく嫌われていた高市さんであり、何をしゃべっても批判や 切り抜き による揚げ足取りがされがちな存在でもあったため、すぐにこのスピーチも批判に晒されることとなりました。 ただし働いて働いてという部分ではなく、「ワークライフバランスを捨てて」 の部分が主な批判対象でした。 とくに大手メディアやリベラルを自称する文化人や野党議員らの批判の声はかなり大きく、一部では国民に過度の労働を強いるものとの曲解したものもありました。 ありがちな批判としては、例え自分や同僚に対するものでも影響力のある人物の言葉であり、配慮に欠くといったものでしょうか。
ワークライフバランスとは仕事と仕事以外の生活との調和といった意味ですが、ブラック企業による労働者の 人権 侵害行為や長時間労働による過労死などを踏まえ、労働環境の質と生産性向上のためのいわゆる 「働き方改革」 の推進などから重視されるようになった考え方でもあります。 個人的にはここでわざわざワークライフバランスという言葉を選ぶ必要はなかったと思いますし、それで文脈が変わってしまったのは 残念 ですが、これから一国の総理にもなろうかという人物が全てを捨てて仕事に邁進しますと決意を述べることにまでいちいち言葉尻を捕らえて批判するのは、ちょっと底意地の悪さを感じてしまいます。
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| 自民党の2025選挙戦公式サイト |
一方、「馬車馬のように」 の部分に対しての非難もありました。 なかでも日本共産党議長の志位和夫さんが X で述べた 「全員に馬車馬のように働いてもらう」にものけぞった。人間は馬ではない。公党の党首が使ってよい言葉とは思えない」(10月4日) は大きな話題に。 共産党機関紙である しんぶん赤旗の記事 「高市新総裁 「ワークライフバランス捨てる」 に波紋」(10月6日) でも 「馬車馬のように働いていただく」 発言を改めて批判しています。
もっとも赤旗紙面でも過去に人に対して馬車馬が使われていた他、馬力とか馬が合うとか馬の耳に念仏とか馬の骨とか一馬身リードとか、人のあれこれを馬に喩えることは 日常 の日本語表現としてありふれたものであり、さすがに揚げ足取りだと逆に批判される結果となってしまいました。 また共産党が過去に職員から不当解雇と残業代不払いの労働裁判を起こされていることをあげつらう意見も寄せられています。 共産党はこの訴えに対して一部は認めたものの争う姿勢を見せ、残業代を一度も支払わなかったことについては認めつつも、「勤務員で残業代を請求しようと考えた者がいなかったからだ」 と説明しています。
ちなみに ネット での批判を受けてか著名なコメンテーターが志位さんを非難する流れで 「じゃあ今後二度と選挙に出ることを出馬と呼ぶな」 と述べると、これに対して 「人を馬のように扱う馬車馬と、人が馬に乗って駆け出すことを指す出馬とは意味が違う」 との反論もありました。 言葉の 解釈 としてもっともな話ではありますが、このあたりは本質からズレた無意味な論争にありがちな文言解釈における 辞書論争 であり、いずれにせよあまり実りのある議論にも思えません。
まぁ馬が合うとか馬の耳に念仏とか馬にまつわる言葉や ネガ比喩 を人生で一度も使ったことがない人なら批判する資格があるのかも知れませんが、別にそれが正しいわけでもありません。 ちなみの蛇足で、この論争の中で競走馬を 擬人化 した人気 ゲーム 「ウマ娘 プリティーダービー」(2021年) がらみの ネタ がしばしば 投稿 されていたのはちょっと面白かったです。
なお演説やスピーチなどで強調や力強さを示すために同じ言葉を繰り返す手法は昔から存在します。 名演説とされるものも多く、とくに有名なのはイギリス首相ウィンストン・チャーチルの 「決して屈しない、決して、決して、決して」(Never give in never, never, never, never) でしょう。 1941年10月29日にイギリスの名門校ハロウスクールにて行われたスピーチで、第二次大戦でナチスドイツの快進撃が続く暗い時代において、困難から逃げず勝利を信じて不屈の闘志を持って生き抜く大切さを生徒らに訴えるものとなっています。 また同じことを2度云うことは、ネットスラング で 大事なことなので2度言いました と呼びます。
国会質疑の答弁準備のための午前3時の公邸入りが批判される
肝心のその後の高市総裁の 「働きぶり」 は、衆参共に少数与党のため各党との連日の折衝や総理選出直後からの立て続けの外交、衆院予算委員会の答弁準備のための午前3時の公邸入りなどなど、決意表明に恥じないものだと云えます。 しかし反自民・反高市の立場の人たちからはことごとく強い批判に晒され、とくに午前3時の公邸入りは 「働いて働いて」 と直接つながるものでもあり、大手メディアなどは連日にわたって強い論調で批判。 総理も立憲民主党の黒岩宇洋議員の質問に答える形で関係者に迷惑をかけたと謝罪しています。
一方で総理がそんな時間に答弁準備の勉強会を開かなくてはならない国会のありようについての批判も生じています。 しばしば深夜に行われる野党側質問の事前通告のあり方や、担当大臣や所管する省庁の実務者ではなくあえて総理に個別・専門的で細部にわたる質疑を執拗に求める姿勢が時代に合わないとする意見です。
答弁案の作成と大臣へのレクチャーといった国会対応に追われる官僚の深夜・長時間労働削減の観点から速やかな通告が与野党で3度に渡って申し合わせられていますが、実際は一部の野党のルール違反が常態化しています。 自民と連立していた公明党や日本維新の会、国民民主党などは働き方改革の実現や質の高い質疑のために委員会開催の2日前までに行うなどより早い時期の通告を推進しており、この騒動に関しても国民民主の榛葉賀津也幹事長が 「国会の改革が必要だ」 と述べています。
また2016年2月19日の衆議院予算委員会で、民主党 (当時) の中川正春元文部科学相が 「安倍首相の睡眠障害を勝ち取りましょう」 と発言していたことを安倍総理に追及されお詫びをする一幕があったことから、「午前3時の公邸入り」 を批判する前に自分たちの行動を改めろ」「寝不足に追い込んで失言を引き出そうとしたり、健康を害しての退陣を求めるような姿勢はどうなのか」 との批判を招く結果ともなっています。
なお支持者からは痩せたように見える総理の姿に対して 「より良い仕事のためだけでなく健康のためにもちゃんと休んでくれ」 との身体の心配をされつつも、スピーチでの決意を行動で示すような仕事ぶりはおおむね肯定的に見られており、とくに若者や現役世代からは極めて高い支持を受けています。
2025年 「新語・流行語大賞」 で年間大賞に選出
前述の通りネットでは、「働いて働いて」 ではなく 「ワークライフバランスを捨てて」 と 「馬車馬」 の方が反高市派の人たちの批判や揶揄に使われがちでしたが、徐々に騒動も収束。 しかし年末になり毎年恒例の新語・流行語大賞に 「女性首相」 と共にこの 「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」 が併せて選出され、改めて大きな話題となりました。
これを受けて、かつてワークライフバランスや馬車馬に噛みついたメディアや政治家らは改めて 「働いて働いて」 を国民に押し付けるものだと反発。 なかでもかねてから高市さんを批判していた立憲民主党の篠田帆奈子議員は、戦前・昭和 の軍事態勢下に創られた軍歌やバブル時代の キャッチフレーズ を引き合いに 「月月火水木金金や、24時間戦えますかのリゲインな 世界観 を彷彿とさせます」 とした上で、「もう令和ですから。」 と揶揄しています。
一方、流行語大賞授賞式にサプライズ出席した総理は、スピーチでの表現を 「国家経営者としての覚悟を示した言葉」 と振り返り、「決して国民に長時間労働を推奨する意図はない」 とした上で、働いてを5回も連発した部分はその場の 雰囲気 でつい出たものだと説明。 同じくつい出てしまった出身地である奈良の方言やイントネーションのくだりを含め、会場の笑いを誘っていました。
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| 選挙戦でも 「働いて働いて」 高市早苗総理 (2026年2月7日) |
翌2026年2月には第51回衆議院議員総選挙を実施。 その際には、高市総理本人は元より他の自民党議員も演説にこのフレーズを使った選挙運動を行い、とくに総理は応援演説中にある種の決め台詞として叫ぶように。 最後の 「働いてまいります」 をアレンジした 「働いて働いて働いて働いて働き抜かせていただきます」 は、集まった聴衆から 「働いてX5を生で聞けた」 との歓声が上がっていました。
一方、自民党と議席を争い、政治的な立場も大きく異なる中道改革連合 (立憲民主党と公明党が合流) や共産党、社民党といった野党の候補者やその支持者らは、総理が選挙期間中の NHK の党首討論番組に病欠したことを揶揄し、「逃げて逃げて逃げてまいりますの高市総理」 といった批判を展開。 とはいえこれは高市総理の政治姿勢を問うというよりは単なる 人格攻撃 や誹謗中傷、病気を揶揄するものだと多くの有権者らに ネガティブ に受け取られ、むしろ逆効果になってしまったようです。
ちなみに選挙は高市自民の歴史的な大勝となり、敗れた中道は元立憲の野田佳彦議員、元公明の斉藤鉄夫議員が共同の党代表を辞任。 2月13日に行われた代表選では小川淳也議員が選出されました。 就任の挨拶で小川新代表は所属議員らに向かい 「それぞれのお立場で、人数が少ないですから、一人当たり数人分から数十人分のお仕事をお願いをしなければならない場面も多々出てこようかとも思います」 と述べています。
これを同じように意地悪に聞いたら、一人で数十人分の仕事をして果たしてワークライフバランスが保てるのか心配になりますが、中道支持者やメディアから批判の声は聞こえてきません。 一部では選出と同時に ブーメラン が刺さっていると好奇の目も注がれる結果となっていますが、無意味な揚げ足取りや言葉狩りをすれば返ってくるだけの話なのでしょう。 野党やメディアが批判を通じて権力のチェック機能を果たすのは良いことですし、政治家選びに人柄が重視されるのは仕方がないにしても、できれば政策なり本質的な部分での適切な批判を期待したいところです。
衆院選大勝を経て第二次高市内閣は 「押してx5」
政治に関する話題ではそれなりに使われている 「働いてx5」 ですが、高市総理就任から数か月、衆院選を挟みアレンジされたものがいくつか出てきます。 前述した NHK の党首討論番組への欠席を揶揄した 「逃げて逃げて」 に加え、消費税減税の 「悲願」 発言に対して高市さん公式サイトの過去のブログ記述との整合性から姿勢を疑う2月17日のプレジデントオンラインの記事の配信とほぼ同時期にブログ記事が全削除されたように見えることを揶揄した 「消して消して」 などは一部で盛り上がっているようです (実際のブログ削除は同記事が出る前)。
話題となったプレジデントオンラインの記事は 「『消費減税は私の悲願』は真っ赤なウソ…公式ブログ記事1000本を検証して判明『増税政治家・高市早苗』の正体」 と題したものですが、とはいえこれも総理の政治姿勢や政策を問うというよりは人格・個人攻撃に近い印象を見るものに与えますし、「いつも批判や文句や悪口ばかり」 と 認知 され、あまり支持されてはいないようです。
一方、2月18日に招集された第221特別国会で第105代首相に選出された高市総理は、選挙結果を受けて 「国民の皆様から力強く背中を押していただけた」 と施政方針演説で述べ、選挙期間中にも訴えていた各種政策、とくに責任ある積極財政に対して、「とにかく、成長のスイッチを、押して押して押して押して、押しまくってまいります」 と 「働いてx5」 を変化させたフレーズでその決意を述べています。 なお前回の所信表明演説 (国会が通常か臨時か、年初か中途かによって呼び名が変わる) では野党側から激しいヤジが飛びましたが、議席の 2/3 を自党が、3/4 を与党が占める中、拍手や賛同の声ばかりが目立つものとなっていました。
選挙で大敗し共同代表2名が辞任して新代表を迎えた中道改革連合では、選出されたばかりの小川淳也代表が総理の演説内容の受け止めを会見でコメント。 熱意や内容に一定の理解を示しつつ、比重が成長や産業分野に偏りすぎているとし、自分たちは国民生活に比重を置いて 「暮らしを底上げして底上げして底上げして底上げして」「生活を支えて支えて支えて支えて支えて」 と 「押してx5」 を意識したコメントを述べています。
なお高市さんがらみの流行語にはこの他、2025年10月7日の自民党の総裁選出にまつわる報道の中で、時事通信社のカメラマンが発して 炎上 となった 「支持率下げてやる」 があります。










