予測不能! どうなるかわからない… 「特異点」
「特異点」(singularity) とは、主に物理学や数学の世界において、通常の法則やルールが適用されない特別な状態を指す言葉です。 とくに物理学における特異点 (始まりの特異点) は広く知られ、宇宙が大爆発から始まったとされるビッグバン理論 (Big Bang/ 膨張宇宙論/ フリードマン宇宙論) において、その最初の段階であらゆる物理法則が破綻することから、計算不能・予測不能の特別な状態を指すものとして使われます。
これが転じて、常識外れ、型破り、唯一無二、普通 ではない、予測不能でありえないといった意味の俗語としてもよく使われます。
様々な分野で使われる 「特異点」
特異点という言葉や 概念 は、さまざまな分野で異なる形で使われています。 数学の世界なら関数においてその関数が定義されない点や、微分ができない点を指しますし、人工知能 (AI) の世界なら、技術が進み人工知能の能力や技術の進化が人間の知能を超える点 (技術的特異点/ テクノロジカル・シンギュラリティ) を指して使います。 いずれも計算や予測が不可能であるという点は同じですが、特異点ではなくカタカナのシンギュラリティと表現する場合は、AI が人の知を超えることを指すケースが多いかもしれません。
日本人、というか おたく な人の間でもっともよく知られるのは、アインシュタインの一般相対性理論におけるそれや、それと関連するビッグバン宇宙論における初期特異点でしょう。 同理論では、ブラックホールの中心や宇宙の始まりの瞬間には、時間も物質もないゼロの一点に無限大の空間の歪み (重力・エネルギー) が存在することとなり、物理法則は適用できなくなります。
当初この特異点は計算上のパラドックスに過ぎず現実には存在しないものとされていました。 何もない点に無限大が存在するなどは完全に矛盾しており、あり得ないからです。 またそれ以前は、宇宙は定常的で静的で、始まりも終わりもなく、銀河や恒星や惑星が動いたりいくらか膨張することがあっても、宇宙全体の基本的な構造は時間によって変化することはないとする考え方が一般的でした。 しかし観測結果などから宇宙はものすごい速度で膨張し続けていること、それならば時間を遡るとある一点から宇宙が始まったと思われ、そうなると始まりとなる一点、すなわち特異点の問題が避けられないことが明らかになってきました。
学術用語なれど、宇宙ブームの中でよく見かけるキーワードに
日本では 1980年代から1990年代にかけてベストセラーとなった 「ホーキング、宇宙を語る」(1988年) などからちょっとした宇宙論ブームや理論物理学ブームが起こります。 元々日本人は宇宙とか科学的な テーマ に対する関心が高いと云われますし、SF の世界では アニメ 「宇宙戦艦ヤマト」(1974年) やアメリカ映画 「スター・ウォーズ」(1977年)「未知との遭遇」(1977年) の大ヒットにより空前の宇宙ブームもありました。
1980年代に様々な分野の研究が進む中、一部では大手メディア主導で大統一理論や万物の理論 (自然界に存在する基本的な4つの力のうち重力を除く3つ、もしくは全てを統一する理論) が完成間近か? といった楽観的な 雰囲気 も生じ、「宇宙の謎の全てが解けるかも」「神 の方程式ができるかも」 との高揚感を伴う流行が何度かありました。 そこにあらわれた 「ホーキング、宇宙を語る」 とそれに伴う宇宙論や理論物理学の話題は、物理学などにさほど興味のない一般の人たちにとっても、とても刺激的に感じられるものでした。
実際はその後も研究は一進一退でいずれも未完成のままですが、その大きな障害のひとつがこの特異点の存在だったとも云えます。 2000年代前後になると1980年代当時は荒唐無稽な話として退けられていた超ひも理論 (超弦理論/ カルツァ=クライン理論) や、その超ひも理論がいくつもにも枝分かれしつつもそれを再統一するM理論 (1995年)、さらにはインフレーション理論 (1981年) なども評価され一般にも知られるようになり、少しずつ初期宇宙の姿や宇宙そのものの解明と理解が進むこととなります。 しかし何か一つ研究が進むと、それと同時にいくつもの新たな謎が出てくるのが学問の世界。 まだまだ宇宙の全てを人類が解明するには時間がかかりそうです。
若い頃に 「ホーキング、宇宙を語る」 を読んだり、あとカールセーガンの 「COSMOS」(日本では1980年) とか NHK の 「アインシュタインロマン」(1991年) とか、あとリアルではハレー彗星の接近 (1986年4月) とかを ワクテカ で観ていた 筆者 としては、生きている間にもう少し研究が進むことを期待したいところです。 子供の頃に夢見たテレビ電話や壁掛けテレビは実現したけれど、空を飛ぶ車はまだだし宇宙にも行けそうにないし地球外生命体に会えそうにもないし、もうひとつふたつくらい 「おおおっ」 という驚きが欲しいです。
まぁヒッグス粒子が初観測されたり (2012年7月)、冥王星にハートが発見されたり (2015年7月)、ブラックホールが初観測されたり (2019年4月)、宇宙とか物理とか科学とかちんぷんかんぷんのあたしでも興奮するような出来事はありましたが。
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