同人用語の基礎知識

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃

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日本特撮作品の金字塔 「仮面の忍者 赤影」… 「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃」

 「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃」 とは、横山光輝さんの マンガ を原作とする特撮テレビシリーズ 「仮面の忍者 赤影」(1967年〜1968年/ 全52話) の OP 部分の冒頭に入るナレーション (アバンタイトル)、および第一話開始直後のナレーションフレーズの一部です。

 番組では OP 部分でこのナレーションの途中から主題歌のイントロが始まり、ナレーション後すぐに 主人公 赤影の 「赤影参上!!」 の名乗りとともにタイトルが表示されます。 また放映開始となる第一話冒頭でもほぼ同じナレーションが入りますが、細かい言い回しは微妙に異なっています (後述します)。 とくに OP のそれは極めて印象的な演出で、「赤影」 と云えばこのアバンタイトルだと思い起こす人も多いようです。

 1年間ほどにわたって放映された作品は四部作構成となっており、当時大ヒットした人気シリーズでした。 またこの作品は特撮シリーズとしては初のカラー作品であり、家庭用テレビの多くがまだ 白黒 でカラー番組のストックも放送局に少ない時代だったこともあり、放映後にカラーテレビが普及すると共に長期にわたって再放送が繰り返し行われていました。 昭和を代表する名作であると同時に、昭和世代の子供たちから熱狂的な支持を受け、記憶にも強く残る作品だと云って良いでしょう。

 中でも 「第一部 金目教篇」 のナレーションであるこの 「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃」 バージョンは印象に強く残るものでした。 単に一つの番組のアバンタイトルコールという存在に留まらず、「〇〇がまだ□□だった頃」 といったアレンジ可能な テンプレート しても使われ、おたく の世界や 同人 の場でも、「誰でも 元ネタ がわかる ネタ」 として、それこそ昭和の頃からよく見かける言い回しとなっています。 これは ネット の時代となっても同様でしょう。

 なおアバンタイトルのナレーターは俳優の山口幸生さん (第二部 「卍党篇」 の むささび道軒役) で、実際のナレーション内容は次のようなものです。

第一部 「金目教篇」 アバンタイトルコールと第一話冒頭ナレーション

 豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、琵琶湖の南に金目教という怪しい宗教が流行っていた。 それを信じない者は恐ろしい祟りに見舞われるという。 その正体は何か? 藤吉郎は金目教の秘密を探るため飛騨の国から仮面の忍者を呼んだ。 その名は…「赤影参上!!」

 前述した通り、OP のアバンタイトルの他、第一話 「怪物 蟇法師」(かいぶつ がまほうし) の冒頭にもほとんど同じ内容のナレーションが入ります。 その内容は 「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、琵琶湖の南に金目教という怪しい宗教が蔓延っていた。 その宗教を信じない者は、たちまち恐ろしい祟りに見舞われた。 天下を乱す金目教の正体は何か? 藤吉郎は密かに乱波を放ち、その秘密を探っていた。」 となります。 これは本編物語中にまだ赤影らが登場する前の前提説明であり、番組全体の紹介をする OP のものとは意味が違うことによります。

 ちなみに第二部以降の OP アバンタイトルのナレーションは、次の通りとなります。 ついでに軽く紹介しましょう。

第二部 「卍党篇」

 織田信長の活躍した頃、海をわたってきた奇怪な妖術者の群れがギヤマンの鐘を求めて各地を襲撃した。 世界制覇を狙う卍党の仕業である。 強烈なエネルギーの製法を秘めたギヤマンの鐘3つ。 日本の平和を願う信長は卍党の野望を粉砕すべく、飛騨の国から仮面の忍者を呼んだ。 その名は…「赤影参上!!」

第三部 「根來篇」

 悪大将、夕里弾正の反乱を知った織田信長は、居城清州から小人数を率いて京の都へ急いだ。 しかし、その道筋には、弾正に味方する根來の忍者が、恐ろしい怪獣を操って待ちかまえている。 道中の無事を願う信長は、飛騨の国から仮面の忍者を呼んだ。 その名は…「赤影参上!!」

第四部 「魔風篇」

 飛騨の国、影一族に伝わる黄金の仮面は、あらゆる忍者にとって憧れの的、栄光のシンボルであった。 そしてまた、仮面には莫大な黄金の謎が秘められているのだ。 この仮面を奪い、忍者の王座を狙う者が現れた。 怪忍獣を使う魔風雷丸である。 立て! 仮面の忍者! 「赤影参上!!」

もうね…赤影かっこよすぎでしょ…

 作品自体は戦国時代を舞台とした忍者が主人公の時代劇でしたが、マンガ版と異なりテレビ番組版の方は、超常的な忍術はもちろん、怪獣や怪人、ロボット、UFO やら超能力やら何でもありな奇想天外・破天荒な痛快アクション作品となっていました。 というか、赤影青影がイメージカラーのしゃぼん玉と共に初登場した直後に人の心を読んで、そのまま横山城の天守から空飛んでますし…。

 しかし当時のテレビ番組としては異例の高予算で制作され、1本筋の通ったシナリオ、和装を中心とした豪華な衣装、制作した東映の実力派俳優の起用などにより、そのクオリティは素晴らしいものでした。 当時の作品としては物語のテンポが早く、今見てもだるさや違和感がないのも素晴らしいです。

 筆者 も子供の頃は夏冬の長期休暇中などによくあった 「こども劇場」 的な再放送を何度も見て、赤影のかっこよさ、白影の頼もしさは強い印象として今でも残っています。 なお少年忍者の青影は苦手でしたが、これはたぶん、赤影・白影と一緒に冒険していてきれいな陽炎を に持つ姿が羨ましくて、嫉妬してたんだと思います  苦手と云いつつ、手のひらを鼻の前で親指を起点に返す 「だいじょ〜ぶ」 とかは真似してましたね。 あたしも赤影と乗馬したり、白影と一緒に凧に乗って空飛びたかったずらよ…。

 前述したとおり特撮作品としては初のカラー作品であり、スポンサーの三洋電機のカラーテレビ販売を意識し、ことさらに 「赤影」「青影」 などと色を意識した キャラクター となっていますが (OP 映像もカラーフィルターを通した色とりどりの照明が背景に浮かんでました)、これが後に同じ東映の 「秘密戦隊ゴレンジャー」(1975年) といった ヒーロー の色別戦隊ものに直接的な影響を与えています。 それぞれがイメージカラーを持つというアイデアは特撮以外にも様々な分野の コンテンツ が存在し、それぞれが影響し合っていますが、その大きなルーツのひとつがこの作品だと云って良いでしょう。

 蛇足ながら戦隊ヒーローのポーズをつけた名乗り口上の原点は歌舞伎や日本の古典芸能の 「見得」、さらには合戦の際の武将の名乗りがあるわけですが、 歌舞伎の 「白波五人男」 を作品 コンセプト に持つゴレンジャーの名乗りをはじめ昭和特撮様式のいくつかを作り上げた伝説的な殺陣師で 「仮面ライダー」(1971年) シリーズの変身ポーズ考案でも知られる高橋一俊さんは大野剣友会所属で東映時代劇などにも参加しており、このあたりの様々な人物の交流や作品の相互作用は想像するとわくわくするものがあります。

 筆者が赤影好きなのを差し引いても、特撮や様々な ジャンル の作品に巨大な影響を与えた歴史的な作品だったと云って良いでしょう。 フィルム時代の作品であり、全話分の動画が残っているのも素晴らしいです。 近年は再放送もなくなり、また2011年の地デジ完全移行と前後してテレビ画面がワイド (16:9) となり、旧来の 4:3 画面の作品の再放送はますますなくなる方向です。 こうした名作が埋もれてしまうのはもったいないことだと思います。

秀吉さん、「木下」 から 「羽柴」「豊臣」 へ

 ところでアバンタイトルに登場する実際の木下藤吉郎さんですが、その名が史料に初めて登場したのは1565年 (永禄8年) 11月2日の坪内文書からです。 その後1572年8月頃には、織田家の有力武将である丹羽長秀、柴田勝家にあやかり両姓から一文字ずつ貰い受けて木下から羽柴に改めています。 作中では横山城の城代として竹中半兵衛らとともにいることから、1570年の姉川の戦いの後、改名までの約2年の間の出来事となります (横山城が廃城になるのは1573年)。

 なお豊臣を名乗るのは、1586年 (天正14年) 9月9日に正親町天皇から豊臣の姓を賜ってからです。 律令以後の賜姓で天下の仕置きを行える家系・血筋は 「源平藤橘」(源氏・平氏・藤原氏・橘氏) に限られており、天下人を狙う実力者は姻戚関係を結んだり系図を捏造するなどしていずれかの血筋を自称していましたが、豊臣は例外中の例外ということになります。 当時の武将にとって姓や名を変えたり異なる名を同時に使うことは珍しいことではありませんが、とりわけ秀吉にとっては苗字である木下や羽柴の他に豊臣の氏を得たことは大きな意味があり、それを子供向け特撮番組の冒頭説明に持ってくるセンスがなかなか素敵です。

 実際のナレーションを見ると木下藤吉郎バージョンは最初の第一部だけで、むしろ織田信長の方が名前も本編での出番も多いんですが、やはり初回のインパクトや 「〇〇がまだ□□だった頃」 という言い回しのかっこよさからか、第一部のこちらを強く記憶している人が多いようです。

その他の 「○○が□□だった頃」

 似たようなフレーズに、1970年代中頃から大ヒットした 「俺が昔夕焼けだった頃、弟は小焼けで、父さんは胸焼けで、母さんは霜焼けだった」 といったギャグがありました。 落語家・漫談家の松鶴家千とせさんの持ちネタで、「シャバダバダディ〜」 や 「イェ〜イ」 といった軽妙な掛け声や独特な風貌もあいまって一世を風靡。 両者に関連性はないのでしょうが、後半はこれらが混ざったような使われ方も一般ではされていました。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2006年4月1日)
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