学術用語っぽい言葉を使うと悪口もアカデミックに？
「学術用語への言い換え」 とは、それまでは別の、もっとカジュアルな言葉で表現されていた事象や 概念 を、専門性の高い学術的な別の言葉に言い換えたりアレンジするなりして、より説得力や意味が強調されるようになることです。
例えば 「バカ」「アホ」「ノータリン」 をわざわざ 「知障 （知的障碍/ 池沼/ ガイジ）」 と呼ぶとか、「頭がボケてる」 を 「アルツハイマー」「認知症」、気分が落ち込むことを 「鬱」、内気で引っ込み思案、話下手な人を 「コミュ障 （コミュニケーション障害）」 とか 「アスペ」、引きこもり・出不精な人を 「自閉症」、情緒が不安定な人を 「メンヘラ」 と表現するなどが代表的です。
これらはいずれも差別的な ニュアンス が当然ながら極めて強い言い回しな上に、言葉に対する漠然としたイメージが優先され本来の意味的には明確な誤用なども多々あり、ほとんど論外のような使い方ばかりです。 しかし気軽に他者への悪口や罵倒をしがちな小学生高学年から中学生くらいの年代で、いかにも子供っぽい 「バカ」「アホ」 に加えて、ちょっと大人びて見える専門用語の装いのある学術用語への言い換えは、背伸びした知性や衒学的な 雰囲気 もあって魅かれる部分もあるのでしょう。
こうした言葉を使う人は、これが差別的な言葉の使い方であることは重々承知であり、露悪的 にことさら使って見せる一方で、「でも言葉自体は差別語ではなく、精神医学や心理学で用いられるまっとうな専門用語だし」 というエクスキューズもあって都合が良いという部分もありそうです。 例えるなら、同じ女性の裸の 絵 や写真でも、エロ本のそれは わいせつ になったり下心を疑われたりもするけれど、西洋美術所の裸婦像や医学書の図案なら局部描写があってもアカデミックだし問題ないでしょみたいな、屁理屈をこねる中学生っぽい感覚です。
ネット、とくに一部の 掲示板 などでは露悪的にあえて小中学生のような子供じみた話をしたがる傾向がありますし、人から差別感情が消えない限り （消えることはありません）、学術用語の恣意的な言い換えは今後もある意味で洗練されつつ続いていくのでしょう。
ネットでますます加速する 「学術用語への言い換え」
こうした学術用語の俗語化の例は昔から見られるものです。 ここでいちいち具体的な例を挙げませんが、特定の病名などが性格や容姿、出自に関わるような揶揄・差別のための言葉として広く使われるケースは数多くあり、その後病名や学術用語そのものが差別や誤解を防ぐために別の言葉に言い換えられるといった事例も数多くあります （これはこれで 表現の自由 に反する言葉狩りだとの主張もあります）。
また特定の病名を使わないケースでも、人間の行動や嗜好、性癖、属性をひとまとめの カテゴリ にして 「○○病」「○○コンプレックス」「○○症候群」 などと学術的な裏付けや権威がありそうなネーミングで表現するなどは、大手メディアも率先して行っていることでしょう。
精神医学の発展によって注目を集め、社会現象などを面白おかしく安易に精神分析して見せる精神科医のコラムやエッセイから差別語が流行語となったり、ネットが普及するとそうした情報が広く 共有 もされ、これまでは個々人の個性や人格と思われていたものの一部が障害として取り扱われるようになり広まったことで、その傾向に拍車がかかっている部分があります。
ちなみに学術用語への言い換えでもっとも滑稽なのは、ネットで専門家が誤った情報発信を行い、それに対する反論に窮して自身が専門とする領域の学術用語を 詭弁 として用いて 炎上、その言葉がまるで異なる意味の ネットスラング として広がると云ったケースもあります。 こうなると遅れてその言葉に触れた人には何でその用語がその意味で使われているのかわからず、言葉そのものの価値を損じることもあります。
言葉などは生き物なので意味や意義が変わるのは当然ですし、世間でどういった意味で使われようと学術用語としての定義や価値とは無関係ですが、これはこれでその言葉を用いる学術界全体に対して薄く広い風評被害を与えてしまうものにはなりかねないものでしょう。
 |  |  |  |  |
関連する同人用語・オタ用語・ネット用語をチェック
 |
