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平時からすでに戦争は始まっている…? 「認知戦」

認知戦 果たしてそれは 単なる杞憂か陰謀論か それとも… (有明いく子)
認知戦 果たしてそれは 単なる杞憂か陰謀論か それとも…
有明いく子

 「認知戦」(にんちせん/ Cognitive Warfare) とは、ある国家や政治勢力が情報操作やプロパガンダ (宣伝) を通じて、対象とする国の国民や指導者らの感情や思考に働きかけて 認知 (認識) を 歪ませ、自分たちに有利なように行動をコントロールしようとすることです。

 諜報機関による浸透工作活動のみならず、官民を問わずあらゆる情報チャンネルを用い、誇張や虚偽の含まれた偽情報 (フェイクニュース/ ディスインフォメーション) を膨大に流し続ける 攻撃 手法をもっぱら指します。 主な目的は相手国や周辺国・有力国の世論誘導と分断、意思決定に対する影響力の行使です。

 紛争中の敵国や仮想敵国に対する情報戦や世論工作は昔から、それこそ古代や中世の時代から存在します。 現代にあっては ネット、とくにグローバルな インターネットSNS の普及、さらに近年の生成AI の登場と急速な能力向上により、大衆に向けた広範な工作も安価かつ大規模に展開することが可能となり、その影響力が極めて大きくなったといって良いでしょう。 軍事 における陸海空、および宇宙での戦いやサイバー戦、情報戦に続く 「第6の戦場」 とも呼ばれ、現代の国際関係において無視できないものとなっています。

 一方、認知戦という言葉が広がるにつれ、この言葉を対立する意見封じのための便利なレッテルとして使いがちという部分もあります。 都合の悪い意見や情報をすべて 「敵が流した偽情報だ、認知戦だ」 で切り捨ててしまっては、建設的な議論もできなくなってしまいます。 認知戦があったとしてどのくらいの規模で行われているかはわかりませんが、あったとしても日本については業者による金儲けのための分断ネタやフェイクニュースがあまりに多く、それに埋もれているのが現実でしょう。 金儲けのフェイクニュースに巨大な外国の影を見ても、的外れの可能性があります。

 なお政治的宣伝そのものについては、特定の思想や信念、あるいは世論を特定の方向へ誘導するために行われる宣伝活動や情報操作のことを一般にプロパガンダ、大手メディアなどの報道機関に対して自分たちに有利な情報が好意的に扱われるように働きかけたり、広報を通じて一方的に都合の良い情報を発信して世の中 (世論) の印象 (スピン) を操作しようとすることはスピンコントロールと呼びます。

 欧米や独裁国家ではこの分野の研究や実践が昔から盛んであり、情報統制当たり前の独裁・権威主義国家はもちろん、西側の先進国も民間の広告代理店などのノウハウを使った大規模なものを大きな選挙や国際的な紛争が生じるごとに行っています。 とくに国家による国家間の印象操作は国際世論を左右し、時に外交や戦争の趨勢をも左右することがあります。 日本はこの分野において著しく立ち遅れている存在といって良いでしょう。 現在では日本でも当たり前になった選挙前の政党のテレビ CM なども、アメリカでは1952年から大統領選を契機にキャンペーン CM として大々的に行われており、日本においても1960年から始まったものの、基本は公職選挙法における政見放送が主で、あまり広がりませんでした。

超限戦と認知戦

 しばしば認知戦に近接して語られる 概念 に、中国の人民解放軍大佐らの著書名に由来する 「超限戦」(1999年) があります。 国境はもちろんあらゆる境界を越える戦いを指し、軍事・非軍事、有事・平時、官・民の区別をしません。 武力攻撃や一般的な外交戦に限らずサイバー攻撃や経済・情報戦、心理戦、法律戦などを駆使し、全方位・リアルタイム で膨大な攻撃を繰り出して相手の疲弊・麻痺を目指す戦いです。 いわゆる総力戦や無差別戦に似ますが、これらが主に開戦後や直前といった切迫した期間に限られ、かつ武力やそれを行使・維持するための物資生産・調達中心で、またしばしば戦争において不利な状況にある国が用いがちなものなのに対し、超限戦は平時から、より広範に行われる点が異なります。

 日本は先の大戦以来80年間に渡って国権の発動たる戦争をしたことがなく、戦争とか軍事に リアリティ を感じたり切迫する危機感を覚えにくい国です。 それは素晴らしいことですし世界に誇れるものでもありますが、そんな中でも主にネットを通じて 一般人 の誰もが平時にあっても標的にされ、あるいは望むと望まざるとに関わらず敵国の手先や道具として扱われかねないという点において、超限戦や認知戦はこれまでの戦いとは次元が異なる身近な戦いや脅威だと云えます。

豊かになれば、経済的・文化的に結びつきが強まれば戦争は遠のくのか

 平和 を愛し 理想論 を掲げる人たちは、独裁国家に対してさえ 「豊かになれば軍事的な野望を抱く必要がなくなる」「国家間の経済的な結びつきが強くなれば戦争など考えなくなる」「法やルールに基づく秩序が大切」「文化的な 交流 で相互理解」「対話が大切」「善隣外交を」 と繰り返してきました。 もちろんこれらが実現すれば素晴らしいし、そうなることに異論はありませんが、実際は逆の結果となることが少なくありません。

 豊かになった独裁国は体制維持と軍備増強にお金をつぎ込み、経済的な結びつきは資源やサプライチェーンや大きな市場を持つ大国が持たない中小国を従属させるための脅しに用いられ、強国が法やルールを破っても例外扱いされ、文化や対話も相手を屈服させるための道具として使うとまで宣言されています。 そもそも歴史を振り返ると文化が近くて交流が盛んな国同士で争う方が、そうでないケースより多いでしょう。 戦争が起こるか起こらないかはいわゆる地政学的要素が大きく、もし文化や人の交流が盛んなら戦争が避けられるというのなら、第一次大戦も第二次大戦も、日清・日中戦争もウクライナ戦争も世界中の内戦だって起こらなかったはずです。

 だからといって相手の挑発に乗ってことさらに威勢よく対立姿勢を示すのは短絡的すぎるし相手の思うつぼですが、少なくとも 「そういうものだ」 という理解や知識と、認知戦なるものが身近に忍び寄っているかもしれないとの心構えは必要なのでしょう。 理想論と現実的な対応とを両立させて用心することこそが戦争を防ぐ力になるもので、「平和を守ろう」「対話が大事」 みたいな自明のお題目を掲げて 祈って いるだけでは意味がありません。 外交や対話はもちろん大切ですが、それが有効なのは双方に話し合いに応じる姿勢、それがなければ互いに相手を話し合いのテーブルに着かせるだけの何らかの 「力」 が必要なのは当たり前の話です。

ネット掲示板における工作員やステマ

 かつてはネットの 掲示板 における情報操作や 工作員 の存在などは単なる ネタ や一部の極端な ネット民 の空想・被害妄想の産物であり、あると唱えている人は 陰謀論 に染まって現実と 妄想 の区別がつかない 頭のおかしい人 といった評価が一般的でした。

 とくに北朝鮮やら韓国やら中国やらロシアからのそれを根拠なくことさらに疑う声は 「被害妄想に取り付かれたネトウヨの妄言」 扱いだったと言ってよいでしょう。 しかし各国の公的機関などから様々な情報戦・認知戦の疑いが報告されたり、独裁国家・権威主義国家らによる工作活動などが発覚し、その存在を疑う声は時代を経るごとに小さくなっています。

 日本においても防衛省が2022年から情報戦対応のための世論工作研究に着手し、同年12月に閣議決定された安全保障関連3文書にハイブリッド戦 (様々な手段を組み合わせた攻撃) への対応に関連して認知領域を含む情報戦能力の獲得と向上を明記、2024年には防衛白書で認知戦が取り上げられています。 むしろ 「認知戦などない」(ありもしない認知戦をでっち上げている陰謀論者がいる) という意見こそ何らかの背後関係を持つ者の ポジショントーク党派性 に囚われ認知が歪んだ陰謀論者ではないのかといった正反対の認識も一部で生じています。

ロシアや中国によるものと思われる認知戦の存在

 認知戦はその特性から、自由のない独裁国家や権威主義国家で多用されがちな傾向があります (後述します)。 代表的な例としては、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻の過程でのそれがあげられます。 SNS に膨大な偽情報を流布して自国の正当性を主張するプロパガンダを行ったり、それを引用してロシア擁護を行うニュースサイトや個人を間接的に支援したり、民間人や外国人の自由意思によるロシア支持が広がっているような印象を浸透させるための取り組みが行われていたとされます。

 これらは直接当該国に対して行うだけでなく、近隣諸国などを含めたより広範な範囲で大規模かつ長期にわたり、繰り返し執拗に行われているとされます。 とくにアメリカに対する大統領選への干渉は、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合したあたりから大規模化し、顕著な例として2016年の 「ロシアゲート」 の存在が知られています。 主に活動を行ったのはロシア政府に近く民間軍事会社とも関係の深いロシア企業 インターネット・リサーチ・エージェンシー (IRA) とされます。

 これはアメリカの大手メディア主導で報じられた疑惑であり、物的証拠に乏しいこともあって長年疑いの域を出ずに評価も様々なものではありました。 しかしウクライナ侵攻後にロシアの民間軍事会社のトップが工作活動の存在を公に認めたこともあり、選挙結果に何らかの影響を与えることを意図した規模の干渉があったのは間違いがないと見られることが多いでしょう (その後このトップはロシア政府と対立し反乱を起こしたものの 2023年8月の航空機墜落事故で死亡)。 なお2019年4月に出された調査報告書では、「トランプ大統領や関係者らに対して共謀罪などを適用するには証拠が不十分である」 と結論づけられましたが、実際に活動を行っていたとされるロシア人や IRA 職員らは起訴され、一部には有罪の判決がでています。

 一方、中国による台湾への認知戦も代表的な例としてあげられます。 対立する台湾の民主進歩党 (民進党) や民主主義体制そのものへの不信感や中国の強大さを 煽り、台湾人は台湾政府やその背後にいるアメリカに騙されている、中国に抗っても無駄だといった中国に有利な世論を形成しようとする動きが度々報告されています。

 同様の工作活動は、2014年以降断続的に生じていた香港の民主化運動とそれに対する大規模な弾圧や、中国武漢から広がったとされる2020年以降の世界的な新型コロナウイルス感染症に関する問題でも行われていたとされます。 そもそも中国は国内外を対象とした工作機関を持っていることを過去に公表しており (網絡評論員)、ネットを使った世論誘導を行う民間企業 (しばしば五毛党と称される) も確認されています。 存在自体を疑う余地はほとんどありません。

 2026年2月25日には、対話型生成AI ChatGPT を展開するアメリカ・Open AI 社が、同サービスの悪用事例の報告書を公開、中国当局の関係者が日本の高市首相の評価や信用を失墜させるための影響工作の助言を前2025年10月に ChatGPT に求めていたと明らかにしています。 同サービスは利用者の不適切な指示に応じないよう設計されているため協力を拒否、この人物のアカウントを停止したとしています。 中国外務省の毛寧報道局長は27日になり、この報告書を事実無根だとした上で、「いわれのない中傷に断固反対する」 と述べ、強く否定しています。

 また北朝鮮の意向や支援を受けていると強く疑われる韓国内の政治団体・市民団体の一部はアメリカや韓国に対する工作はもとより日韓の分断を煽るための工作活動をかねてより行っているとされ、ネットの時代となって従来から続く歴史認識や慰安婦問題などで活発な情報発信を行っています。 韓国右派とされる団体なども日本海呼称問題や竹島問題、歴史問題などを中心にネットでの情報発信を行っており、とくに1999年に設立された民間の VANK (サイバー外交使節団) は韓国政府からも支援され、ディスカウントジャパン運動 (国際社会での日本の評価や地位失墜をめざす運動) を展開、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故を経て放射性物質で危険な国との主張を行っています。

 近年では生成AIを用いて機械的に大量生産されたフェイク動画なども膨大に使われており、これらは粗悪なコンテンツによる情報工作としてスロパガンダ (スロップ/ Slop/ ゴミ や泥水、残飯) を用いたプロパガンダ) と呼ばれるようになっています。

知らない間に蝕まれる自由なネット言論空間

 認知戦の恐ろしさは、その分かりにくさにあります。 攻撃のための 武器 は情報であり、軍艦とかミサイルといった分かりやすい形をしていません。 いわゆるサイバー攻撃と異なり、相手のシステムを破壊するといった形もとりません。 情報そのものではなくその情報を 処理 する 「人間の心」 がターゲットであり、被害状況も目に見えません。 目的は相手国の世論を分断・誘導し、政治的な意思決定を麻痺させたり、自国に都合のよい方向へ変えさせたりすることですが、自国に不利になるような情報もあえて流しますし、一見政治だの軍事だのとは無関係な話題にも干渉するため実体が分かりにくいのが 厄介 です。

 個別の施策自体は伝統的なプロパガンダや既存のサイバー戦や情報戦、心理戦と重なる部分もありますが、認知戦は脳科学や認知心理学の知見を取り入れて人間の認知により深くコミットしますし、ビッグデータなどを使った情報分析も駆使して人の思考や大衆の行動 パターン を予測し、より科学的かつ体系的に判断や感情を操作しようとする点に特徴があります。 これらは国家によるプロパガンダ技術のみならず、資本主義社会における ビジネス の世界での広告や プロモーション の最適化を目指して磨かれてきた技術も含むものであり、しかもそれを取り入れるのではなくスピンコントロールのように働きかけによってシステムそのままに利用する点も大きな特徴でしょう。

 手法としては、嘘や不確かな情報を SNS などで大量に流布したり、自分たち以外から発せられた自分たちに都合の良い偽情報を評価したり 拡散 したり、メディアやネットで影響力を持つ有識者や インフルエンサー らを通じて特定の価値観やイデオロギーを植え付けるプロパガンダの発信をするなどがあります。 拡散などは AI や自動化ツールを用いて自前で行うこともあれば、それ専門の業者 (農場と呼ばれる フォロワー やいいねや閲覧数・再生数を水増ししておすすめに出やすくする有料サービス) に依頼することもあります。 また特定の社会集団間の 対立を煽っ てギスギスとした世論を作ったり、疑心暗鬼に陥らせて社会を混乱・弱体化させることもあります。

 日本の場合、「日本語」 という言葉の壁から、英語圏に比べるとその影響は限定的と考えられてきました。 2000年代あたりのネット掲示板でも国政選挙が近づくと明らかにおかしな日本語での世論誘導的な 書き込み はありましたがどこか胡散臭く感じられ、スルー されたり 叩かれ たりと認知しやすいものでした。 内容も 「日本は過去の歴史を反省しろ」「戦争反対・軍拡反対」「対米従属をやめろ」 みたいな ワンパターンテンプレ的 な内容で、その意見が広がると誰が得をするかで容易に書き込んだ人の 属性 が予想できるものでしたし、またその大半は 構ってちゃん 気質のある暇な日本人による反応や反論を貰うための 釣り が大半でしょう。

 とりわけ 2ちゃんねる (現:5ちゃんねる) といった匿名系掲示板の一部の では、嘘や釣り、なりすましや 自作自演 を含めて怪しげな レス がとても多く、参加者らの ネットリテラシー が試され、また鍛えられた部分もあります。 それでも ステマ などが話題になったこともありますから完全に防ぐのは難しいのですが、そもそも掲示板の影響もまだまだ限定的でした。

 しかし SNS の時代となりネット利用者が増えたり AI の活用が進んだことで、状況は一変。 偽情報生成や自動化された bot (ボット) による拡散といった手法がより大規模に用いられます。 例えば ツイッター (現:X) や YouTube に大量の アカウント を作って特定の意見や ハッシュタグ を拡散して世論を誘導したり、YouTube 上で捏造・改竄した 動画 を流したり、流れている動画に コメント をつけたり削除したりで (コメントデザイン)、視聴者 の不安や疑念を煽ったり誘導するなどです。

 ネットがない時代は大衆に向けて情報発信する手段は新聞社やテレビ局ら大手メディアに限られ、工作員やその協力者を送り込んでメディア関係者らと接触するといった直接的な 「危ない橋」 を渡る必要がありました。 しかし SNS の時代は個人や個人に近い業者が数多く情報発信をし、対立を煽ってアクセスやインプレッションを稼いで利益を得る構造が出来上がっており、現実に行われているかどうかはともかく、これを利用するだけである程度の世論誘導ができてしまう状況にあります。

 利用方法も、当事者に対して情報発信を依頼するとかそのために報酬を払うといった直接的な方法を取らずとも、それらの情報を扱う ホームページ に広告代理店を経由して アフィリエイト の広告費としてお金を出す、bot を使って自分たちに都合の良い意見を バズ らせるという間接的な方法が可能となっています。 広告費を得たりバズった人はまたお金やバズが得られるように同じような意見を勝手に 投稿 してくれますから、関係者と直接コンタクトを取る必要すらありません。

先進国の政治問題でその国の人向けに極論を流すと金儲けできる

 自由や多様性があって人々の耳目を集めることでお金が稼げる国ならば、単なるバズ目当ての 逆張り を含めて自分たちに都合の良い意見を発信する人は必ずいます。 SNS や 動画サイト といったプラットフォームのアルゴリズムは情報の信頼性よりも利用者の好みに基づくアクション (クリックとかいいねとか シェア、コメントなどの反応・エンゲージメント) を優先して目立たせる傾向が強く、それが個人や業者の金儲けや 承認欲求 を満たす元にもなっています。 結果的に論争を呼んだり 炎上 を招くような極論が認知戦の効果を増幅させる要因となっていて、それを最大限活用するというわけですね。

 とくに Youtube などのプラットフォームでは、東南アジアやアフリカなど発展途上国の貧しい若者やネット関連企業が、小遣い稼ぎや収益のために他国の政治動画を大量に作って来た過去もあります。 Youtube の広告単価 (広告主支払額/ CPM) は視聴される国や動画の ジャンルテーマ (長さ) などによって異なりますが、国ではアメリカや EU の中核国、日本といった先進国が高く、ジャンルではビジネス系と呼ばれる経済や金融・投資、教養系が高くなります。

 政治的なテーマはビジネス系と親和性が高く、また視聴者らは自分が支持する内容であれば熱心にいいねやコメントを着けて応援したり拡散を促す傾向があります。 思想など無関係で、お金儲けに最適なのですね。 アメリカの選挙に関するフェイクニュースを大量に作っていたのが、アメリカとは無関係な国の英語が分かる人や企業だなどはありふれた話で、それが生成 AI による日本語対応の簡易化によって日本の政治的動画にも波及しているのでしょう。

 有志による検証などがされながらもその実体や全体の規模は不明ですが、それっぽい痕跡は誰でも見ることができます。 例えば 切り抜き動画 や AI 生成動画のみでは Youtube 側からチャンネルの価値を低く見積もられるため (収益化剥奪や BAN されることもある)、それを回避するための実写動画の投稿などもされ、日本人で日本在住のはずのチャンネル主が撮影したであろう オリジナル の東南アジアの街並みや現地人ぽい風貌の人物が飲食店で食事をする様子が映っているのを簡単に見つけることができます。 ある程度の登録者がいるチャンネルの転売も多く、昨日まで ゆっくり による 趣味 の解説動画をアップしていたチャンネルが、次の日から政治系チャンネルに変わることなどもあります (もちろんこれらの動き自体も、何らかの意図を持った 「フェイク」 の可能性があります…)。

 一部では スパム の配信や詐欺を行うグレーゾーンの IT 業者による極論による注目集め (バカスクリーニング)、ウイルス やハッキング (クラッキング) を利用したネット犯罪 グループ との悪夢のような 共演 すら見られます。 これらネットを使った詐欺業者やクラッキンググループも、その多くがロシアや中国、東南アジアなどの国々を拠点としています。

検閲・情報統制当たり前の独裁国と自由な国とでは、もはや勝負にならない

 認知戦はどんな体制の国にあっても存在しうるものですが、表現の自由 や思想信条の自由がある民主主義の国と、一党独裁・言論弾圧や検閲当たり前の国とでは、執りうる手段も与えられる効果も、少なくとも短期的に見れば全く比較にならないほど後者に有利に働くものでしょう。

 日本のように自由がある国は、情報の流通が誰に対しても開かれているため多様な意見が発信されますし、独立メディアが数多く存在します。 ネットも世界中から接続できます。 結果、脆弱性が生じやすく、つけ入るスキも大きいでしょう。

 どれほど偏った意見でも思想信条の自由でそれを制限することはできませんし、反論を封じることもできません。 検閲などしようものなら憲法違反です。 前述した外国人による金儲けのための動画投稿なども、日本では対応が困難です。 厳しいのは 児童ポルノわいせつ表現 くらいで、あとは利用者の多いネットサービスの多くがアメリカ事業者のため、そこではアメリカ的な表現規制 (性的・差別的表現といった センシティブ な扱いを受けるもの) が少々キツイ程度です。 そして何より世論や民意が選挙を通じて政治に反映もされる民主主義体制です。

 一方、言論や思想の弾圧、検閲が常態化した国は、国家が情報発信と統制を中央集権的に掌握できるため、都合の悪い意見は意見どころかそれを発信した人物や組織ごと消すことができます。 ネットの制限や遮断も当たり前で、国内向けには疑義や混乱を抑えた整合性のある世論を維持でき、海外向けには議会の承認も開示する必要もない国際的に見たら非合法の工作活動が行えます。 また 人権 は軽視されまともな選挙も行われないため、世論を誘導しても民意が政治体制に与える効果は極めて限定的です。

 自由の下で認知戦に抗するには透明性や事実確認の強化、国民やネット利用者の メディアリテラシー 向上が必要ですが、これらは時間とコストがかかり即効性に著しく欠けます。 経済活動やそのための広告・プロモーション活動を制限することも難しく、その結果、検閲・規制国家は迅速的かつ一貫した世論形成で短期的には圧倒的有利になり、自由を重んじる国は分散した情報空間ゆえに一方的に分断されたり劣勢に立たされやすくなります。

 長期的には自由な情報環境の回復力と信頼性が優位性を持つでしょう。 恐怖や嘘で塗り固められた政治体制はいずれ自滅するのは歴史が示す通りです。 問題はリテラシーを行き渡らせるまでの間に、どれだけの一方的攻撃や被害を防げるかでしょう。 現状では独裁・権威主義国家のやりたい放題に近く、そもそも人々にリテラシーをあまねく行き渡らせることが現実的に果たして可能かといった問題もあります。 だからといって表現の自由を放棄するなどあってはならないことです。 ここに深刻なジレンマがあります。

認知戦特有の弱点と、リテラシーを高める努力

 だたし独裁国の認知戦にも弱点はあります。 とくに大きなものに 「効果判定の難しさ」 から生じるあからさますぎる工作の排除が難しい問題があります。 上部組織が下部組織に認知戦を行うよう命令をしたとして、どのように工作をしたか、それがどう効果を得たかを実証するのは難しく、結果的に認知戦の実行者らが工作の痕跡を意図的に残そうという動機付けとなっているのですね。

 現在の生成AIなら、ある程度日本語に知見のある人ならば完全な日本人 (日本語話者) に なりきっ て、さりげなく工作をすることも不可能ではありません。 まともな日本人の多くは極論やキツすぎる罵倒を嫌いますから、穏当で自然な意見誘導の方が効果が高いでしょう。 しかし完全になりきってしまっては 「ちゃんと私が工作しましたよ」 という証拠になりにくいでしょう。 そこであえて日本語の一部に不自然な点を残したり、あらかじめ定めた特定の表現や言葉を工作の証となるキーワードとしてやたらと用いたり、いかにも工作っぽい で過激な表現を行いがちです。 そもそも民間側のリソースを用いた場合、民間側が質よりも量的な対応をしがちだという部分もあります。 効果判定ができないので成果報酬的なインセンティブも 設定 できません。

 ロシアや中国、あるいは北朝鮮などの外交官らが世論工作としては逆効果にしかならないような極論や暴論、あるいは 「無慈悲 に鉄槌を下す」「火の海にする」「汚い首は斬ってやる」 みたいな下品で子供じみた誹謗中傷や罵倒を繰り返し発したり、一部のおかしな市民団体が暴力的な罵詈雑言を好んだり連帯と称してわざわざ外国語の入った横断幕を掲げてデモ行進をしてはしばしば批判に 晒され ます。 これは彼らの知性の問題もさることながら、同様の動機に基づくものが少なくないのでしょう。

 協力者らにとっては実際に効果があるかどうかなどはどうでも良く、ただ上の人から 「ちゃんとやっている」 と認められれば保身のためのアピールになるので、これは当然です。 そしてそれをやり続けているうちにどんどんエスカレートして、表現はより一層過激になっていきます。 効果判定が利かないので目に見える効果がなければやりすぎてしまうのは当然です。 独裁的な組織はそれが国であれ企業であれ下のものは上からの評価や粛清を恐れて何事もやりすぎてしまうものです。

 認知戦は有事と平時の境界を曖昧にし、情報が氾濫する現代社会において、私たち一人ひとりが情報の真偽を見極める、それが無理なら少なくともよくわからない情報を安易に信じない、拡散しないという初歩的なリテラシーを高めることの重要性を一層高めています。 とくに断定的な意見や極論は、幾重にも疑いの目で見る慎重さが大切なのでしょう。 これは何も、認知戦に抗うとか敵国に負けないといった大げさな話ではなく、幼稚なフェイクニュースやプロパガンダに踊らされている醜態を晒して周囲からの信用を失わないためにも大切です。

 日本の場合、薄汚い暴力的な罵詈雑言を繰り返すリベラルを自称する人々への支持はどんどん小さくなっています。 彼らと行動を共にする政治勢力も縮小の一途です。 これは日本人のリテラシーが現時点である程度発達していてその機能を果たしている証拠でもありますが、より一層の高まりを自身の振る舞いへの自戒も含めて期待したいものです。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2025年2月10日)
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