アーティストにとってのベストだったり自分のそれだったり
「オールタイム・ベスト」(All Time Best) とは、一般に音楽の世界で、アーティストの代表曲を集めたベスト・アルバム形式 (傑作選) の商品 (円盤) のひとつ、そのアーティストの全ての活動期間から選んだベストを指して使われる言葉です。
時代や音楽レーベルによって言葉の厳密な定義は異なりますが、ベスト・アルバムがもっぱらシングルカットリリースされ、かつそれぞれのA面に収録された楽曲を選考対象として集めるケースが多いのに対し、オールタイム・ベストはそのアーティストのデビュー曲から最新曲まで、シングルのA面B面、シングル・アルバムの収録曲問わず、全てのリリース済み楽曲の中のベスト、そのアーティストを象徴する楽曲、全キャリアを代表する曲を集めたベスト・アルバムを指します。
この場合、音源があれば他アーティストへ提供した楽曲やテレビコマーシャル用楽曲、BGM といった小規模な楽曲を選考対象として扱うこともあります。 活動の長いアーティストの場合、移籍などによって複数の音楽レーベルにまたがった活動していることも珍しくありませんが、権利関係を調整して同じアルバムに収録することを指す場合が多いでしょう。
また選者がアーティスト本人の場合 (自己ベスト) もあれば、第三者が選んだり、ファン らによる人気投票の結果が加味されることもあります。 一般に音楽レーベルから正規の商品として販売される 公式 なものがこう呼ばれますが、ファンらによる非公式な楽曲リストとして発表されるものもあります。
一方、アーティストのこれまでの歩みや作品の集大成、代表する最優秀なものの集約といった意味から転じ、文字通り 「すべての中で」「自分の人生の中で」 といった使われ方もされます。 例えばオールタイム・ベスト・マンガと云えば、これまでに発表されたすべての マンガ の中からもっともすぐれたもの1作品、あるいは複数の作品を集めたものとなりますし、マイ・オールタイム・ベスト・アニメなら、自分がこれまでに観た アニメ の中でもっとも優れたアニメ、自分の人生の中で一番好きなアニメだといった意味になります。 「これまでの人生のトップ1」「トップ10」 といった言い方と同じです。
オールタイム・ベストの新旧偏り問題
オールタイム・ベストは全ての期間が選考対象となりますが、全期間に渡ってまんべんなく選ぶといった特別な基準を設けない限り、やたらと古い作品ばかり選ばれたり、逆に新しい作品ばかりが選ばれるなど偏りが生じやすいのが特徴でしょう。
古くても時代や世代を超えて人々の記憶に残る作品は、名作や傑作としての魅力を持っていることが多く、古典として不動の価値を認められたり、場合によっては選者の若い頃の記憶とのオーバーラップや 思い出補正 もあって美化もされがちです。 一方で人の記憶は時とともに薄れてきますしから、記憶や印象が鮮烈な新しい作品の注目度も高いでしょう。 選者の年齢や自分の中の基準によって、どうしても一方に偏ってしまいがちです。
いわゆる 「歴代人気ランキング」 などを行うと、こうした理由による偏りはなかなか避けられないものでしょう。 ただし古い作品に寄り添うと、何度オールタイム・ベストを行っても同じような作品が常に含まれて代わり映えがしない、新しいオールタイム・ベスト選考を改めて行う意味がなくなるとの観点から、新しい作品に寄った選び方をする傾向はあるかもしれません。
またそれが一般のファンらの投票によるものならば、投票などを積極的に行うファンは若い層が多いのでそれに引っ張られる傾向もありますし、メディアとして発表するなら話題性も大切ですから、あえて新し目の意外な作品を選んで、注目を集めようという意図が含まれることもあるでしょう。
一概には云えませんが、専門家らが選ぶ場合は古い作品寄り、ファンらのそれなら新しい作品寄りになるかも知れません。 それでも 「これは外せないだろ」 という作品は、ベスト100とか500ほどの規模になるとおおむね共通して現れるものでしょうけれど。 まあこの手のオールタイム・ベストとか歴代最強的な話は、「何でこれが入っててあれが入ってないんだ」 との不満や苦情コミで考察や談義を楽しむものだと思うので、あまり本気で考えても仕方ないものかも知れません。