いつまでも時代を超えて普遍的な価値を持つ 「タイムレス」
「タイムレス」(timeless) とは、時間を感じさせず長期に渡って使用や鑑賞に耐える、永遠・恒久的・永続的・普遍的・定番 といった意味の言葉です。 もっぱらデザインの世界で使われることが多く、タイムレスデザインと云えば、その時々の流行に左右されずに長い時間使えるデザイン、新しすぎず古臭くもない、いつまでも実用に耐え 愛され るデザインということになります。 それを実現した物品は長寿とかロングライフ、ロングランと呼ぶこともあります。 対義語は文脈によって異なるものの、タイムリーやジャストタイム、リアルタイム、あるいは刹那的・流行りもの・同時代性あたりでしょうか。
近い概念にオーソドックスとかトラディショナル、伝統的で基本に忠実なシンプルさなどがあります。 これらは古臭さや陳腐さと表裏一体のものではありますが、長い期間に渡って生き残り愛されてきたデザインは、これからもずっと魅力を失わない可能性が高いですし、飽きのこないデザイン、調和のとれたうるさくないデザインといった長所を持っていることが多いでしょう。 またそのままの形で残るものもあれば、時代に寄り添った細かい改善や改修、微調整を行っている場合もあります。 仮に細部が異なっていても、ベースラインが守られ同一性がきちんと保たれているなら、タイムレスとされることが多いでしょう。
日常生活においては 公共施設 として利用される建築物といった 箱物、住宅を始め数十年のスパンで使い続けるような耐久消費財、あるいは企業のロゴやブランドを代表する定番商品、伝統芸能や伝統工芸品、学校の 制服 など、ブランドや文化・伝統の継続性や同一性が求められる分野で重視される考え方だと云えます。
創作物の表現におけるタイムレス
マンガ や アニメ といった創作物における視覚的表現や物語・世界観・設定 についても同様の考え方がされることがあります。 作中で キャラ が身に着けるファッションや小物、とくに電気製品などは、時代時代で大きく様変わりしがちなので、これらの要素が入っていると時代性を必要以上に帯びてしまうこともあります。 あるいは政治的な思想や主義主張、時事関係の話題や流行語などもそうでしょう。 メタ な部分では、絵柄や音楽といった部分も時代を感じさせるものになりがちです。
創作物は、それが創られた時代の文化や生活様式、人々の考え方、空気感を閉じ込めるタイムカプセルといった意味や意義もあります。 時代性を帯びて後の時代に古めかしく見えたとしても、それが必ずしも悪いわけではありません。 しかし遠い未来を描いたはずの SF に今の目で見ると骨董品にしか見えない形状の通信機器が登場すると、いかにも古臭く感じられたりします (これはこれで、郷愁を誘うレトロフューチャーなどとも呼び好きな人も結構います)。
またオフィスでたばこをふかしていたり、携帯電話やスマホ、ネット のない時代の物語を現代の目で見ると、現代劇であってもまるで時代劇かのように感じられてしまう部分はあります。 これらは 架空世界における設定バランス を崩したり、設定の無効化 が生じて (例えば待ち合わせで行き違いにより会えないもどかしさは、携帯電話がある世代には実感しづらいでしょう)、作品への没入感や面白さを スポイル したり、賞味期限を短くさせる可能性もあるものでしょう。
名作は時代を越え世代を超えてずっと伝わりますが、トレンドなどを積極的に盛り込み 「今風」 に振ってその当時の若者の心をつかみつつタイムカプセルとして残るか、あえて時代を感じさせる要素を減らしていつまでも古臭さを感じさせないものとして残るかは、それぞれに存在の意義のある創作の形だと云えるかもしれません。 結局のところ、後世に残るかどうかは結果論でもありますし、狙ってどうこうできるものでもないでしょう。 なにせ制作当時の時代性と切り離されているはずの歴史ものや時代劇だって、その後の考古学や歴史研究の進歩によって過去の歴史観や考証に基づく古臭さが生じることもありますし。
なお特定の作品があまりに後世の作品に影響を与え過ぎ、その影響によって生まれた無数の模倣作にその作品自身も埋もれて古臭く感じられてしまうことは 先駆者のジレンマ と呼びます。 前述した絵柄や音楽などもそうですが、これらには制作された時代以降の流行や文化・技術の積み重ねによる古典化が避けられないため、どうしようもない部分もあります。 流行は繰り返すなどと云いますし、一周回って 逆に新鮮に見えることもありますが、タイムレスな感覚とは異なるものでしょう。
逆に伝統的な 絵画 の手法を取り入れたり BGM にクラシック音楽などを使った場合、一気にタイムレスな存在になったりもします。 最先端は真っ先に古くなりますが、逆に長い年月を生き抜いた古いものは、いつまでも新しさや新鮮さを保持していたりもするものです。