観客を入れる箱から転じて… 「箱」
「箱」 とは、ものを収容するための立方体の入れ物のことです。
その他、俗語として広く用いられているのは、音楽バンドや演劇、アイドルといった エンタメ・ショービジネスの世界における、ライブハウスやクラブ、ライブを行う飲食店、イベント会場 や ホール などをそう呼ぶケースでしょう。 一般的にはごく小規模な会場や店舗、あるいはその客席を指して使うことが多く、客席数で大箱・中箱・小箱といった分け方をすることもあります。 関連用語も多く、例えば演者や観客が会場入りすることを 「箱入り」、観客が大勢やってきて満員になったら 「箱が満杯」 みたいな云い方になります。 あるいは特定のライブハウスやクラブで専属あるいは実質的な専属として出演し続けるバンドを箱バンド (箱バン) と呼ぶと云ったぐあいです。
おたく や 腐女子 の世界では、もっぱら俗語としての後者の使われ方が多いでしょう。 自分の好きなアイドルのライブやコンサートなどが行われる場を箱と呼ぶわけです。 とくに地下アイドルやロコドル (ローカルアイドル) といった比較的マイナーなアイドルの場合、現場 となる活動拠点がある程度決まっていることもあり、この箱という言葉はそのままの意味で広く使われるようになっています。
なお会場や店舗などを 「箱」 と呼ぶのは、物や人が入る立方体である建物全般を箱に例え 「箱もの」 と呼ぶなど、日本語では元々とてもポピュラーな言い回しです。 とくに公民館や 産業会館 といった 公共施設 は箱ものの代表格と云え、日本のお役所特有の箱物行政・コンクリート行政の象徴として扱われることが多いでしょう。
うちライブ会場や飲食店などでとくに多用されることについては、小規模な会場や店舗がいかにも人を入れる箱のようだからとか、飲食店の演奏で生計を立てていたバンドの主な舞台に洋風の店舗スタイルを真似たキャバレーがあり、そのキャバレーの客席がしばしばボックス席だったからとか、簡易ステージの構築に箱が使われていた (ステージボックスの組み合わせ) とか、諸説あります。 とはいえ言葉の連続性から云っても、「客を入れる箱」 あたりが転じたとするのが一般的でしょう。
ちなみに大事に育てられた女の子を 「箱入り娘」 と呼びますが、これは大事なものをしまう箱に入れられるもののように丁重に扱われた娘という意味で、別に家を人が入る箱に見立てて家から出さないくらいに大切に育てたといった意味ではありません。 ここでいう箱入りなどとも関係はありません。
箱推しなど、派生語も
箱が会場や店舗の意味から転じた派生語もあります。 例えばアイドルが複数人で組んで グループ や ユニット として活動している場合に、その中の一人だけを特別な存在として 推す (メンバー推し) のではなく、グループ全体を応援するような ファン のスタイルを 「箱推し」(全推しとか DD とも) と呼びます。 対義語は前述したメンバー推し (メン推し) や単推しになります。 個々のアイドルが入っている グループ を箱と呼ぶわけですね。
さらに発展し、複数のアイドルグループが所属する事務所全体を支持する意味で使うこともあります。 事務所推し ≒ 箱推しという訳ですね。 これらの言葉はアイドル業界をも離れ、近年では Vtuber といった ネット で活動するパフォーマーなどにも当てはめられるようになっています。 それに伴い、ネット上の バーチャル・疑似的 な拠点を箱と呼ぶこともあります。
なお 「箱」 と呼ぶ場合、比較的小規模な会場や店舗を指す使われ方が多かったのですが、言葉がエンタメ業界全体に広がる中で、大手メディアなどに登場する有名芸能事務所所属のアイドルの活動領域などでも同じ意味で使われるようになっています。 その場合、数百人から数千人が収容可能な大劇場から、数万人にまで至るアリーナやドーム球場、コンベンションセンター などをも箱と呼ぶこともあります。
なかでもそのアイドルのホームグラウンドとなる箱や過去のアイドルの文脈から象徴的な場とされる箱については、別途 聖地 と呼ばれることもあります。 とりわけ 昭和の時代 からアイドルの世界で有名な場といえば渋谷公会堂や中野サンプラザ、武道館 などが挙げられるでしょう。