同人用語の基礎知識

推し

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自分の好きなメンバーをグループのセンターにするんだ… 「推し」

 「推し」(おし) とは 「推しのメンバー」(推しメン) のこと、一番のお気に入り、一押しといった意味の言葉です。 主に女性アイドル グループ の特定メンバーに対して男性の ファン が使う言葉で、もっぱら男性アイドルに対して女性ファンが使う 「担当」 や、それ以前に ネット用語 として広く使われていた 「俺の嫁」、昔からアイドルファンが使っていた 「〇〇派」(例えば蘭ちゃん派、ミーちゃん派) などと実質的にほぼ同じ使い方をします。

 特定のアイドルが 「一番好きだ」「応援している」「皆さんにもお薦めします」 との意味になりますが、単に 「推し」 として使うこともあれば、ファン活動を続けることを 「推し活」「推し事」 と呼んだり、お金を使うことを 「推し消費」、二番目に好きだという意味で 「二推し」 三番目で 「三推し」 といった派生した言い回しをする場合もあります。

 他にも派生語は色々あり、女性ファンが男性アイドルに対して使う言葉と明確に重なる 概念 もいくつかあります。 例えば自分の推しと誰かの推しが重なることは 「同推し・推し被り」(女性のアイドルファンが主に使う 「同担」 とほぼ同じ)、同推しが嫌な場合は 「同推し・推し被り敵視」(同担拒否・同担NG と同じ)、推しが変わることは 「推し変」(担移り)、増えることは 「推し増し」 となり、グループ全体を推す場合は 「箱推し」 や 「全推し」(いわゆる DD)、コンビや ユニット なら 「コンビ推し・ユニット推し」、その対義語として 「単推し」 を使う場合もあります。

 なお推しをやめることは 「推しヤメ」 という場合もあります (担降り と同じ)。 一方、推しのメンバーがグループから抜けること、卒業することは、「推しの卒業」(推し卒) などとなります。 こうした派生語は、その後も次々と生まれています。

実在のアイドル用語から、三次元・二次元を問わない言葉に

 元々はグループ単位で活動する実在アイドル (ナマモノ) のみを扱う おたく用語 として認識されていた言葉ですが、その後使い方も 拡散。 アニメゲームキャラ をはじめ、前述した俺の嫁や 「萌え」「尊い」 ちょっと古いところで 「ヨイショ」 などと同等の言葉としても広く認識されるようになっています。

 こうした意味の広まりは、実在アイドルとアニメやゲームのキャラとの中間に位置する コンテンツ (例えば2005年にゲームとして登場したアイドル育成シミュレーション 「アイドルマスター(THE IDOLM@STER/ アイマス)」 や、2012年の雑誌アイドル企画 「ラブライブ! School idol project」 によってですが、そもそも 「推し」 という言葉が広まったのもほぼ同じ時期となる2005年登場の女性アイドルグループ 「AKB48(エーケービー フォーティーエイト)」 のファンの間あたりからなので (後述します)、このあたりの相互作用は複雑です。

 その後 「推し」 が言葉として完全に定着すると、好きな食べ物や電気製品、雑貨、旅行先など、自分が好きなもの全般、ありとあらゆるものに使われるようになりました。 このあたりは 「萌え」 などの使われ方と同じ流れでしょう。 2010年代後半からは、萌えや嫁といった言い回しが後退し、実質この言葉が取って代わった感があります。

AKB48 の選抜総選挙で特定メンバーを支持・投票します = 推しが広がる

 複数人で構成されるアイドルグループやユニットのファンは、グループやユニット全体のファンであると同時に、その中の1人がとくにお気に入りだったりもするわけで、ファン同士、友人らと話をする際には 「俺は〇〇イチオシ」「わたしは〇〇担当です」 といった話し方をするものです。 なかでも前述した AKB48 は、「選抜総選挙」 と呼ばれる一種のメンバー間 人気投票を2009年から行うようになり、この頃からかなり明確に 「わたしは〇〇を支持する」「推薦する」「〇〇に投票する」 との意味で 「推し」 が使われるようになっています。

 「選抜総選挙」 では応援したメンバーがトップや上位に入ると、シングル曲の歌唱メンバーに抜擢されたりステージ上でセンターなどの良い位置に配置されたりと活躍の機会も増えますから、応援する方も必死で盛り上げようとします。 これはファン同士の会話や ネット書き込み だけでなく、総選挙のテレビ中継など大手メディアなども盛んに触れていて、それらが相乗する中で、「このメンバーを推薦する = 推す = このメンバーが好きだ」 との ニュアンス が一気に広まったようです。 それ以前にも、「一押し」 の意味でイチオシや押し、推しが使われていたケースはもちろんありましたが、2010年代に一般にも大きく広まった 「推し」 のルーツは、やはりここからなのでしょう。

 筆者 の観測範囲で云えば、2009年頃から AKB48 ファンの間で広まりネットやメディアでも使われるようになり、同じくグループ単位で活動するアイドルを テーマ に展開していたゲーム、アイマス 関連 (とくにPV動画や マッド動画 のネット配信・ニコニコ動画など) で 三次元 から 二次元 に伝播し (もともとファン層がそれなりに重なってもいた)、少し遅れて2013年にテレビアニメ化して社会現象にもなった 「ラブライブ!」 の頃に、広く完全に定着したような感じがします。

 ただし 「推し」 という言葉そのものは 普通 の日本語の使い方でもあり、AKB48 以前のアイドル、とくに1990年代末期から2000年代初めにかけて一世を風靡した モーニング娘。 を中心としたハロプロ (ハロー!プロジェクト) 関係の ファンサイト や掲示板などでは、推しメンバーといった言い回しが使われていたこともあります (「推し」 だけではなく 「押し」 との表現もありました)。

「萌え」 や 「担当」 の言い換えとして

 またこうした流れに伴い、女性のアイドルファンの間でもケースバイケースで 「担当」 ではなく 「推し」 をあえて使う人が増えた印象があります。 これは単に AKB48 やアイマスやラブライブ!の女性ファンがその世界での言葉遣いの流儀を尊重していることもあるのでしょうが、「担当」 に比べると独占性が薄く、使い勝手が良いと感じているファンもいるようです。 例えば ファン歴 が長い ベテラン 担当に、新規 参入したばかりのニワカファンが 「私も同じ担当です」 とはちょっとおこがましく感じても、「同じ推しです」 なら、あまり違和感はないかもしれません。

 一方で、男性アイドルや特定芸能事務所のタレントに関しては 「担当」、それ以外は 「推し」 とか、グループは 「推し」 メンバーは 「担当」 と使い分けたり、さらにはその逆のケースもあり、様々なローカルルールやマイルールが混在し、それぞれが用語の広がりや意味付けに影響を与えている状況もあります。

 元々伝統芸能や演劇・舞台では、多数の出演者の中からお気に入りの演者を 「贔屓」(ひいき)「ご贔屓」「ご贔屓様」 と呼ぶ文化がありました。 これは単に好きだといった意味の他に、敬意を持って応援する、支援する、他人に薦めるという意味が入っています。 その点では、「アイドルとファン、みんなで同じ夢を叶える」 といった文脈では、単に好きだという意味以外のニュアンスが加わる 「推し」 が、言葉として相応しいと考える人が多かったのでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2015年10月17日)
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