同人用語の基礎知識

Vtuber/ バーチャル ユーチューバー

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2018年暮れから空前の大ブームとなった 「Vtuber」

代表的な Vtuber 「キズナアイ」
代表的な Vtuber 「キズナアイ」

 「Virtual YouTuber」(バーチャル ユーチューバー)、あるいは略語の 「Vtuber」(ブイチューバー) とは、2D3DCG で描かれた キャラクターアバター) と、そのキャラを視覚的な アイコン として画面や活動の前面に押し出した動画の作成・投稿・生配信などを行う投稿者や 配信者 (演者・生主・ライバーなど) を指す言葉です。

 単に 「V」 と呼ぶこともあり、女性なら女V、男性なら男V、個人でやっているなら個人V、事務所 () 所属なら事務所Vや事務所系V、箱系Vなどと呼びます。 バーチャルライバーや蔑称として絵畜生とも。 またアバターを創ったり手に入れること、身にまとうことは 受肉、キャラやアバターを自作した場合は セルフ受肉 と呼びます。

 言葉としては、動画サイト Youtube において、主に本人が登場する自作の動画を アップロード する人 (投稿主) たちを 「YouTuber」(ユーチューバー) と呼ぶようになったことから、この本人部分を前述した CG によるキャラに置き換えたものを バーチャル (仮想) な YouTuber と称するようになったものです。

 元々日本では、美女や美少女、アイドルや ネットアイドル (ネトア) などを イラスト や CG のキャラに置き換えたものを バーチャルアイドル、バーチャルネットアイドルなどと呼ぶ習慣がありました。 YouTuber の存在感が増すにつれ、バーチャルな存在がこう呼ばれるのは当然だったとも云えます。

 ただし日本では、ニコニコ動画 (ニコ動) などの影響から、投稿者や配信者、実況者、生主といったニコ動的な言葉や 概念 が極めて強かったことから YouTuber という言葉が広く使われるようになったのが海外に比べても比較的遅く、また使われ始めた初期の頃は YouTuber といった名称がしばしば揶揄の対象となりがちなネーミングだったことも災いし、言葉としても概念としてもあまり注目されていませんでした。

「YouTuber」 と 「バーチャルYouTuber」 とその前夜

 比較的早くに話題となった日本の動画配信者に、Ami Yamato (アミ ヤマト) さんがいます。 2011年春に日本からロンドンに移住した方で、3D キャラの姿で基本は英語による Vlog (Video blog) を同年6月14日から投稿し続けています。 本人は Vtuber を名乗っていたわけではありませんが、投稿スタイルが一般の YouTuber の本人部分をバーチャルな姿にしたものとなっているため、動画再生数が増え知名度が上昇するにつれ 2013年頃から英語圏のネットニュース記事や ネット民 などから、しばしば Virtual YouTuber と呼ばれることもありました。

 一方、「好きなことで、生きていく」 という、HIKAKIN さんら 人気 YouTuber を多数起用したテレビ CM が2014年10月から流れると、日本でも YouTuber という言葉が一般に広く浸透。 ニコ動の影響力が相対的に低下する中、ユーチューバーという言葉も揶揄や侮蔑の対象から 「人気が出れば大きな影響力や大金も得られる憧れの存在」 をあらわす ポジティブ な言葉としても広まることに。 ニコ動からのプラットフォーム変化などもあり、投稿者や配信者、生主といった人たちの言葉との併用や言い換えも徐々に進むことになります。

 この頃、それ以前から活動していた動画制作・配信者の間でも、こうした言葉の置き換えが一部で発生していました。 例えば ゆっくりしていってね!!! で人気を得ていた 「上海アリス幻樂団」 による 弾幕系シューティングゲーム 「東方Project」 のキャラ、博麗霊夢と霧雨魔理沙のイラストに、テキスト読み上げソフト (ゆっくりボイス) などを使った動画 (いわゆる 「ゆっくり動画」「饅頭頭動画」) の作成者の中には、シャレとしてバーチャルユーチューバーを意識していたケースがあります。

 また DTM (デスクトップミュージック) 用の音源ソフトウェアシリーズ 初音ミク (バーチャルシンガー) の 3D モデル (MMD/ 2008年2月24日公開) を使ってボーカロイドに無理やりしゃべらせたネタ動画、MMD ライブチャットを利用した配信、さらには音声合成エンジン 「AITalk」 を元にした 「VOICEROID」 の 「月読アイ」(2009年12月4日) を皮切りに、東北ずん子や琴葉茜・葵 (A.I.VOICE) といったキャラを使った ゲーム実況 や解説系動画なども、「ある意味バーチャルなユーチューバー」 だと ネタ として自称したり、コメント欄 などで冷やかす使い方が生じていました。

 時期は前後しますが、個人系でニコ動で活動していて後に Vtuber 宣言を行った 「のらきゃっと」 さん、バーチャル生主として活動している 「雪猫カゥル」 さん、MMD を使った配信を行っていた 「みゅみゅ」 さん、Vtuber ではなく二次元ユーチューバーを名乗った 「エイレーン」 さん、「カフェ野ゾンビ子」 さんなどなど、Vtuber ブームの以前から、既に類似の活動を行い万単位の ファン を集めた大きな存在だけでも、この他も含め相当な数がいます。

 というか、キャラに なりきって 喋るというと、デスクトップ 常駐型 のアプリとして2003年頃に人気を博した 「任意ラヂヲ」(Triumphal Records) がありましたし、プラットフォームとしての 「伺か」 もありますし (キャラはゴーストと呼ばれていました)、このあたりは手法や 環境 は違うものの コンセプト には極めて強い類似性があり、どこまでさかのぼればいいのかという感じはします。 ちなみに 「伺か」 は現在でもゴーストの追加など活発な活動を続けており、界隈 からは 絶対領域 をはじめ、様々なオタク的ミームも生まれています。

 そういえばマックス・ヘッドルーム事件とかもありましたし、数百万人規模で参加したものとして、2006年9月のニンテンドーDS とポケットモンスター ダイヤモンド・パールによるボイスチャット機能もありました。 電子的な意匠に何かを仮託するというのは昔から当たり前のようにあったと云えますねw

MMD による動画配信と 「WEATHEROID TypeA Airi」 の登場

「WEATHEROID TypeA Airi」 公式サイト
「WEATHEROID TypeA Airi」 公式サイト

 なお後の Vtuber とほぼ同じ造形、活動内容で当時話題となった特筆すべき存在に、株式会社ウェザーニューズにより2011年末に企画発表、2012年からニコ動を中心に本格活動を開始した 「WEATHEROID TypeA Airi」(ウェザーロイド タイプエー アイリ/ ポン子) というサポーター参加型企画があります。

 2015年3月10日には公式サイトが開設され、規約の範囲内で自由に使える MMD モデルや 2Dイラストデータも配信。 また 二次創作 に関する規約も整備され、ファンらの投稿作品を紹介するなどにより盛り上がりを見せます。

 ただし 公式設定 はあくまで 「ウェザーロイド」 だったことから、その後の Vtuber に影響を与えたのは間違いないのですが、あまり詳しくない人からはボーカロイド (ボカロ) やボイスロイド (ボイロ) といったくくりで見られることも多かったようです (その後、 Vtuber がブームとなることで 人気 Vtuber との コラボ 企画なども行われ、そこで初めて存在を知った Vtuber のファンも多かったようです)。

「みならいディーバ」 公式サイト
「みならいディーバ」 公式サイト

 同じくニコ動関連でいえば、2014年7月から9月にかけてNOTTVで放映され、「生アニメ」 と称された 「みならいディーバ」(ニコ生でも番組パートの一部が同時配信、他 TOKYO MX2 でも一部放映) もあります。 トークバラエティ番組 「吉田尚記がアニメで企んでる」 から派生した生放送アニメーション番組で、声優がモーションキャプチャーを身に着けて リアルタイム で役を演じながらアニメキャラの動きもつけるという内容でした。

 音声合成ソフト 「ヴァーチャルディーバ」 シリーズの蒼井ルリと春音ウイを中心に、尊敬する先輩ディーバの葉山シェリー、司会者 のごぼうちゃんが登場し、全10回の放映では ツイッター で募った歌詞で即興で歌ったり、掲示板 2ちゃんねる (おーぷん2ちゃんねる) に スレ を立てたり観客ありのステージライブを行うなど、実験的で後の Vtuber の活動を予見したかのような企画を様々実施しています。 こちらもポン子と同様、時代的にボイスロイドや音声合成といった味付けやそれに伴う分類もされがちで、何かと見逃されやすい存在かも知れません。

様々な制約から、個人で配信するには難しい課題が

 ところでそれ以前の個人系配信者の時代を含めても、MMD データを自在に動かすにはそれなりの技術や根気が必要であり、またモーションキャプチャーによってリアルタイムで動きをつけるなどの環境整備にもそれ用の機材が要求され (例えば Kinect (キネクト) とか Leap Motion Controller (リープモーションコントローラ) とか)、まだまだ様々な課題がこの頃には存在しました。

MikuMikuDance 起動画面
MikuMikuDance 起動画面
Leap Motion Controller (リープモーションコントローラ)
Leap Motion Controller

 また技術的な部分をクリアできても、MMD を巡る独特な文化や壁 (MMD の各種モデルや 素材 の利用規約とか許諾問題、収益化・商用利用の是非とかあれこれのローカルな決まり事) も、界隈にずっといる人には自明のものでも、部外者からは複雑でわかりにくい部分や トラブル を招きかねない要素が結構ありました。

 とりわけ2014年からサービスが始まった VRChat 関連では、一部とはいえ MMD モデルやパーツの規約外利用や販売、3D ゲームキャラクターのデータ転用、クレジット表記の不備問題、独自設定や人格付与の許可問題など権利関係のトラブルが次々に噴出。 部外者がうかつに手を出して禁忌に触れたことが発覚すると火だるまになりかねない状況もありました。

 権利関係がクリアな完全自作した MMD モデルをモーションキャプチャで自分の体に合わせて動かすことができても、3D モデルを コスプレ の衣装として着用するとの意味で 「バーチャルコスプレ」 や 「VRコスプレ」 と呼んだり、この状態で配信することを、「バーチャルコスプレ配信」 とか、バーチャルな コスプレイヤー (バーチャルコスプレイヤーやレイヤー) と呼ぶなどに留まり、まだまだ人格を持った 「バーチャルなユーチューバー」 といった認識と広がりは一部を除きあまりなかったようです。 これは前述した様々な課題によってハードルが高く、実験的な作品が多くてその後の YouTuber のような気軽さがなかったこと、YouTuber の言葉のイメージがまだあまり良くなかったことが主な原因でもあったのでしょう。

 しかし2015年頃からは、バーチャルアバターツール 「FaceRig」(フェイスリグ) と 2D の画像をモーフィングによって動かせる 「Live2D」 、定番 のライブストリーミングツール 「OBS」(Open Broadcaster Software)、および安価な webカメラやマイクを組み合わせるだけで比較的簡単に 「自分の姿をリアルタイムでキャラに変更して配信や録画すること」 ができる環境が前述した 「ゆっくり」「ボイスロイド」「MMD」 と同時並行しながら新しく整います。

 これを 「新しい表現方法だ」 とその可能性を強く意識する人もいたものの、基本的には昔からある技術の延長で似たようなものが既にあり、ブームとなるほどの大きな動きはまだありませんでしたが、誰かエポックな存在が登場することで、大きな流れが生じる土台は出来上がりつつあったと云えます。

その後の Vtuber を決定づけた 「キズナアイ」 の登場

Kizuna AI Official Website
Kizuna AI Official Website

 2016年12月に、その後の Vtuber の方向性やイメージを決定的にした巨大な存在 「キズナアイ」 さんが、「Vtuber」 を自称して活動を開始します (A.I.Channel)。

 白とピンクを基調とした アニメ っぽい姿で、「かわいい人工知能 (AI)」 をイメージさせる近未来的な女の子キャラですが、3D モデルは最初から 商業 レベル の高品質であり、演者 (中の人・魂・前世) の声もかわいくしゃべりも面白く、公式サイトは一昔前のネトアのホームページっぽい作りで再現と非常に凝ったものでした。

 2017年以降現在に至る Vtuber は、旧来のネットアイドルやバーチャルネットアイドル、生配信やゲーム実況などの文脈も踏まえつつ、このキズナアイによって開拓された新しい ジャンル だといっても良いでしょう。

 ただし登場当時は一部の感度が高い人には 「こりゃすごい」 と注目されたものの、それからしばらくはあまり話題にもならなかったようです。 コアなおたく層にとっては前述した様々な 「似たような活動」 が念頭にあったのも影響していたのかも知れません。 しかしほどなくして日本ではなく世界最大の画像掲示板 4chan (よつば) を中心に海外で爆発的に人気が盛り上がり、よつばに出入りしている日本人が注目し始めて逆輸入されたような形となっていました (筆者 もロシア人の作った画像か何かで見たのが最初でした)。

人気 Vtuber が次々に登場し、大ブームに

 翌2017年になると若い世代の おたく を中心に日本でも 「キズナアイ」 の 認知 と人気が急速に拡大、またそれに合わせるように次々と個人系・企業系の Vtuber が登場します。 「電脳少女シロ」 さん (2017年6月23日)、「ミライアカリ」 さん (2017年10月27日)、「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」(ねこます) さん (2017年11月8日)、 「輝夜月」 さん (カグヤルナ/ 2017年12月4日) らはとくに高い人気を誇り、「バーチャルYoutuber四天王」 などと呼ばれ (キズナアイを含め、「五人揃って四天王」 とも、この辺りは 解釈 が様々あります)、2017年末から翌2018年にかけ、「Vtuber」 の大ブームを巻き起こします。

 これは生身の YouTuber が盛り上がる中で、その急拡大の波に乗ったこともさることながら、それぞれは独立した5人の個性豊かな Vtuber を中心に、その個性や 萌え属性 の豊富なバリエーション・多様性からあらゆる 「こういうのが好きな層」 を取り込めたこと、ファンらにそれぞれの 推し はありつつも、Vtuber 同士のコラボなどを通じて 「界隈を盛り上げよう」 という独特でとても強い一体感があったことが大きいのでしょう。

 さらにゲーム実況や 歌ってみた や踊ってみたといった Vtuber と相性が良い ネット 発の文化がすでに若者の間で市民権を得て、「当たり前のもの」 になっていたこと、コンテンツ としての商業的な環境がすでに整っていたことなどが相乗した結果でもあります。 元から Vtuber に企業系が多かったこともあり、ビジネス的な展開も迅速かつ大規模で、あらゆるステージで一気に盛り上がったのも大きかったのかもしれません。

 またVというよりはバーチャルアイドル寄りの文脈ではあるものの、2017年8月の コミケ (C92) 企業ブースにプロジェクト名未定の形で後の 「えのぐ」(当初は2人組で活動名 「あんたま」) も登場。 コミケ開催中にツイッターの フォロワー を10,000人獲得でデビューという プロモーション を行ったものの未達に終わり 爆死。 ネットでは揶揄の対象ともなりましたが、その後も地道な活動を続け、バーチャルアイドル事務所 「岩本町芸能社」 所属のアイドルとして目標をついに達成。 同年 CD デビューしてコアなファンを獲得しつつ、バーチャル握手会 (ファンは 会場 で VR ゴーグルを装着し、ロボットの手と握手する) をはじめ オンラインオフライン 問わず、日本初・世界初といった新しい取り組みを伴う VRライブ イベント を多数行いファン層を拡大しています。

ツールが出揃って実現した、誰でも参加できる気軽さ

Live2D によるモデル制作画面の例
Live2D によるモデル制作画面の例
Live2D モデルと FaceRig による配信画面の例 (クロマキー用背景)
FaceRig による配信画面の例 (クロマキー用背景)
3D モデルと 3tene による配信画面の例 (背景同上)
3D モデルと 3tene による配信画面の例 (背景同上)
OBS を使ったゲーム配信画面の例 (艦これ)
OBS を使ったゲーム配信画面の例 (艦これ)

 このブームが爆発的だったのは、ニコニコ動画における生配信や歌ってみた、初音ミク動画などと同様、見るだけでなく個人ユーザーも次々に制作者・配信者として参加できたという点も大きな理由でしょう。 これは初音ミクをはじめ、ネットで盛り上がる文化の最大の特徴のひとつです。

 当初は 「ゆっくり動画」 を作成するためのツールなどが流用された静止画やそれに近いものにゆっくり音声を組み合わせたもの、ゲーム のキャラの声を差し替えただけのようなものもあったものの、前述した 「FaceRig」「Live2D」「OBS」 といった本格的な Vtuber としてデビューするための具体的な方法論やツールが無料もしくは安価で豊富に出回っており、追従するものが続出します。 「動画制作や配信をしたいが顔を出したくない」 という潜在的なクリエイターの垣根を取り払ったことが大きな理由でもあります。

 さらにはボイチェン (ボイスチェンジャー) といった、いわゆる バ美肉 (バーチャル美少女受肉) のツール) の導入やツール類を連携するノウハウ、様々な配信用オブジェクトやパーツを配布・販売するプラットフォームとともにブーム前後に既に明確に確立されズラリと揃っていたのも大きいと思います。 知識やお金があまりなくても、パソコンやスマートフォンがあって、後はわずかな根気とやる気と 「勇気」 さえあれば誰でも参加できる敷居の低さがありました (実際、元生主や動画投稿は初めてという中の人の Vtuber も多い)。

 ちなみに筆者は新しいもの好きなので、さっそく環境を 整え 下手くそな自作の オリキャラする子) の Live2D モデルを作って参入を目指しましたが、男性にとって美少女キャラになりきるための最後にして最大の壁 「声」 の問題があり (いや別に男性キャラでやればいいだけではありますが)、ボイチェンや両声類トレーニングも試みたものの上手くいかず断念しました…。

 のじゃおじさんを見て 「地声でええんや」 という衝撃とやる気を得て一歩踏み出そうとはしたものの、もろもろが重なり最後の一線を踏み越える力はありませんでした。 カメラやマイクやモーションキャプチャ機材を購入し、キャラや台本、配信用画面まで構築して、あとはニコ動や Youtube の公開をクリックして声を出すだけでしたが、たぶん勇気がなかったんだと思います。

 なお2018年2月14日には、かねてから人気のウェブサイトとなっていたバーチャルネットアイドル 「ちゆ12歳」 さんがサイト上にて「生存報告」と題して 「バーチャルユーチューバーちゆ12歳」と名乗り、動画の配信を始めています。 この辺りの感度と反射神経の良さはさすがと云った感じです。

3D アバター規格 「VRM」 と Live2D 公式アプリ 「nizima LIVE」 の相次ぐ投入

 人型の 3D 関係では、前述した MMD に加え、ランタイムロードに適した glTF2.0 (GL Transmission Format) をベースに、プラットフォームやアプリに依存せずファイルを一つにまとめて管理できるなど使い勝手の良い新しいフォーマットとして 「VRM」 も登場。 日本発のアバター専用の実質的な統一規格といってよい汎用性や利便性の極めて高いもので、2019年4月24日に設立された一般社団法人 VRMコンソーシアムによって発表されると、大きなセンセーションを巻き起こします (アプリは先行公開、バージョン 1.0 の正式リリースは2022年9月23日)。

 この時点でスマホでの配信はすでに手軽にできるものになりつつありましたが、規約などを気にする必要のない自分オリジナルの 3D モデルを作って持てる魅力は大きく、 Blender や Maya、Unity といった定番 3D アプリも VRM に拡張機能で対応。 VRM キャラと新しいスマホ (おおむね iOS 11 (iPhone X) 以降で ARKit が動く環境) があれば誰でも簡単に表情をトラッキングした高品質な配信が始められるようにもなりました。 対応アプリも次々に登場し、その可能性はますます広がっています (外出時に AR おでかけアプリとか使って遊んでいると、自キャラが生きてるようでちょっと感動してしまいます)。

 なお Live2D を展開している株式会社Live2D も、Live2D 公式のトラッキングアプリとなる nizima LIVE を2022年11月30日に発表。 カメラによるフェイストラッキングだけでなくハンドトラッキングにも柔軟に対応し、モデルのちょっとした調整も可能と、VRM とともに 「より動く Vtuber」 の世界を強力に牽引しています。

2D アバター と 3D アバター、どっちがいい論争

 Vtuber が登場してしばらくして語られるようになったものに、2D アバター と 3D アバターのどちらが優れているか論争があります。 時系列的にはオリジナルキャラによるVは 3D が先行し、その後 2D が存在感を増したといった流れですが、どちらも自前で作れるような人も少なくないとはいえ、使うツールもノウハウも別物で、両方揃えるのは結構大変です。 ある程度以上のもの (キャラの特徴をきちんと反映し、ちゃんと動き、かつ破綻しないもの) を作るにはそれなりに技術や根気が必要であり、また制作したモデル自体の使い勝手も変わってくるだけに、そう簡単にどちらかに決められるものでもありません。

 2D は Live2D (法人向けの正式リリースは2013年5月、一般向けおよび無償版リリースは同年10月) を用いたものが圧倒的で、イラストとして描かれたキャラをそのまま動かすことができるのが最大の魅力です。 当初はゲームの 立ち絵 のためのツールとしてもっぱら用いられ、それまでの目パチ口パク程度の立ち絵が表情豊かに動くとして評判となりますが、一般公開された後も注目は限定的でした。 V登場前や最初期は 「アバター配信や Vtuber といえば 3D」 のイメージが強かったのですね。 その後、もっぱら 「にじさんじ」 が多数の Vtuber (バーチャルライバー) をデビューさせる中で多用し、この世界での存在感を強めます。

 可動範囲は 3D に及びませんが、描き込みのリッチな手書きイラストが ぐりぐり動く 様は独特な美しさがあります。 技術力があればかなり立体的で大きな動きが可能なモデル (いわゆる高可動域モデル) も制作できますし、自分のイラストを使って目パチ・口パク・首振り・上半身揺れ (あとできれば最低限の髪揺れや乳揺れ) さえできればそれでいいなら、かなりお手軽に制作することもできます。

 もちろん可動域をより大きくするとか、ちょっとした仕草や動作にも細かく物理演算による揺れをつけるとか、パーツの連携に遅延をつける、高可動時の描画順管理の徹底とか凝りだしたらキリがありませんが、パソコンがあって フォトショ やクリスタが自由に使える人なら1日頑張れば、とりあえず動くそれっぽいものが作れます。 また可動範囲に制限があるのも、逆に云えば 「破綻してしまう可動域が表示されない」 というメリットと考えることもできます。 3D などは、髪の毛や手足が服や身体へめり込んだり貫通するのがどうしても避けられません (完全排除するのはかなりきつい (3D の魅力である可動範囲の広さとぶつかる)。

 2D にはこれ以外にも PhotoSpeak (2009年) をはじめ、何とかスピークといった名称で 一枚絵 のキャラがしゃべっているようにモーフィングで簡易的に動かすアプリが昔から色々ありますが (PhotoSpeak は iPhone 3GS で使ってましたが (というか、このアプリが使いたくて iPhone 買ったまである)、後の Live2D に比べると実用性も汎用性も乏しいですし、配信向けでもありません。 うちのサイトでもイメージキャラを PhotoSpeak で動画化 (AVI → Flash) して一部の解説ページなどに掲出していましたが、Adobe Flash Player (フラッシュプレーヤー) のサポート終了 (2020年12月31日) に伴い削除しています。

 一方 3D は、自由自在に動かせる、どんな角度でも見ることができる点が最大の魅力です。 しかしモデリングに MMD を用いるにせよ Blender などを用いるにせよ、「イラストの キャラ絵 を再現」 するだけでとてつもない苦労があります。 まず平面を立体にどう解釈するか (立体型・平面型) がありますし、様々な角度から見てそれぞれが矛盾なく破綻なく見えるよう全体をまとめるだけでも一苦労です。 もちろんモデリングアプリの使い方も覚えなくてはなりません。

 またわざわざ 3D にする以上は表情だけでなく体も動かせなければあまり意味がなく、モデル作成の労力 (モデラーに外注するなら多額の費用) だけでなく、運用時に手足のトラッキングができる機材や環境も必要になります。 負荷が高いゲームをプレイしつつ 3D アバターも ぬるぬる動かす ためには相応の スペック を持つ高性能パソコンだって必要です。 また環境が整ってもボディトラッキングを意識した配信は身体への負担が非常に大きいです。 個人Vレベルのお手軽トラッキングですら、あれこれセンサーを微調整しながら設置したり相当程度意識的に体を動かしてコントロールしないと、すぐにモデルの姿勢が変な感じになったりします。 一定時間まともに動かし続けるだけでも所作や体力的に一苦労で、もはや魅力的な動き以前のお話です (まじ で辛いし人気Vやプロってすげえってなりますw)。

 ただし VRM 規格が登場し、VRoid Studio (β版は2018年8月から) やカスタムキャストがリリースされると環境整備の状況は一変。 自由度は Blender らに及ばないものの、人型の 3D モデル作成それじたいはよほど極端な造形のキャラでなければかなり気軽にできるようになってはいます。 出来合いのパーツを組み合わせるだけでは限界がありますが、パーツ類を細かく分割して作り込んだりテクスチャを自作するなどで、品質を高めたりある程度まではイメージ通りの造形にすることができます (最終的には Blender や Unity で微調整 (とくに服飾品や表情まわり) が必要なこともありますが)。 また 3D データなので多少の調整は必要なものの、3Dプリンターで立体造形化・フィギュア化することもできます。 一人称視点での運用が簡単にできる点もポイントで、VRChat 用途としてかなり便利な仕様でしょう。

 企業系のVはもちろん、時代が下ると個人勢などでも、2D・3D どちらのモデルも用意し、用途に合わせて使い分けるといった運用が増えてきています。 例えば歌って踊るようなステージ風の動画や配信を行うとか、AR (拡張現実) を用いて街中を散歩するといった Vlog 的な活動、VRChat でも同じモデルを使いたいなら 3D が向いていますし、雑談配信のように動画というよりはラジオ放送的な使い方をするなら、低コストでトラッキングできて演者に身体的な負担がかからず リスナー もしゃべりに集中できる 2D が向いているでしょう。 ゲーム配信も、演者はゲームプレイとトーク、視聴者はゲーム画面としゃべりに集中できて 2D 有利かもしれません。 トーク力だけでなく動作のリアクションも得意なら 3D の方が演者の魅力を伝えやすいでしょうし、他Vとコラボする際にも、両方持っていれば相手に合わせることができて便利です。

 一般的には、企業系Vが使うレベルの高品質な 3D モデルは VRM 登場後も制作に高度な技術や時間、多額の費用がかかるため、まずは 2D でデビューし、その後 3D モデルを披露といったパターンが多いものの (逆パターンも)、のっけから 3D 一本で勝負する人もいますし、「どのような活動をするのか」「自分の魅力や 世界観 をはっきり表現できるのはどちらか」「費用対効果 に合うか」 で好きな方を選べば良いでしょう。

 個人であれば、何なら無料配布されているモデルを利用したり、非営利の個人利用なら REALITY といったライブ配信アプリのアバターメイク機能を使う手だってありますし、極論すれば静止画で頑張ってる個人の方もいます。 用途と好みの問題であって、どちらがより優れているかなどはナンセンスです。 選択肢があるのは良いことで、様々なツールや機材を開発して下さる企業や個人のみなさまに感謝ですね。

2D・3D モデルの自作と外注と外注時の費用感

 キャラやモデルは自作 (セルフ受肉) すると愛着も湧きますし、後でいくらでも自分好みに調整できたり、衣装の追加なども自由にできるため、絵を描く人なら一度はチャレンジしたいものです。 自分の描いたキャラが自分の手によって生き生きと動く感動を、ぜひ味わって欲しいものです。 それができない場合は、誰かに依頼して作成してもらうことになります。 その場合は、当然費用が発生します。

 個人が クラウドソーシング などを利用してモデルを外注する場合、キャラクターデザイン がすでにある状態で依頼するとして、Live2D のモデリングで 5万円から50万円程度 (制作者のレベルや作成の工数・難易度 によってまちまちですが、20万円から30万円あたりが多いかも)、3D モデリングで 50万円から数百万円程度 (こちらもピンキリですが、80万円から200万円あたりがひとつの目安かも) が必要になります。 2D で高可動域モデルではない標準的なものの場合、もう少し安い場合もあります。 また 3D の場合も、VRoid Studio を用いたお手軽再現の場合、数万円から受注している制作者もいます。

 いずれもモデルの質は費用なりではありますが、数万円程度の安価でもしっかりしたものを作っている方も大勢いますし、とりあえず配信を始めたいレベルなら、それでも必要十分かもしれません。 相場も参入者が増えておおむね下がる傾向にあります。 ある程度までは自作して、どうしても自分では作れない部分だけを依頼するという手もあります (部分制作は嫌がる人もいるので無理なら諦めましょう)。

 キャラデザやキャラ絵 (立ち絵・三面図) の作成を頼む場合、こちらもピンキリではありますが、それなりに実績のある絵師に依頼する場合は、最低でも15万円程度は見ておいた方が良いでしょう (前述したモデリング費用は別)。 ひと昔前までは、これに加え 差分 (表情違いの顔のパーツなど) が別途必要なケースもありましたが、現在は標準的な表情付けはモデリングで行うことも多いため、よほど特徴的・個性的なものでなければ、減少する傾向にはあります。 服装違いや小物・アクセサリー装備品 などの差分は、数千円から数万円といった感じでしょうか。 ただし髪型違いや他の差分と複合する場合は、別キャラ・別案件扱いされるケースが多いかもしれません。

 権利関係は、制作したデータの利用目的や実績公開の有無・著作権譲渡 (著作人格権の不行使) の有無によっても変わります。 個人利用がもっとも安く、商用利用の場合はその2〜3倍程度を見た方が良いでしょう。 ニコ動や Youtube での広告収益に関しては、運用する演者が個人なら個人利用の範囲とされることが多いでしょう。 一方、法人として活動していたり、個人でも 企業案件 やグッズ制作・メンバーシップ特典、FANBOX や Fantia、Ci-en といったクリエイター支援プラットフォーム (パトロンサイト) でのデータ販売などは営利とされることが多いでしょう。 実績非公開や著作権譲渡の場合、数千円程度のオプションの場合もありますが、商用利用料金のさらに2〜3倍程度の料金というケースが多いでしょうか。

 ただし著作権譲渡がされても、作者や作品の 尊厳を傷つけ たり、自作発言 などはしないようにしましょう (契約内容次第ではありますが、モラルとして)。 また逆に絵師側から見た場合は、著作権譲渡・著作人格権の不行使はかなりキツイ条件なので、少しでも不安があるならダメならダメだとはっきり断りましょう。 あくまで信頼関係とそれに基づく契約あっての話です。 この他、制作したモデルの配布や 成人向け 利用の有無などによっても費用が変わります (オプション扱いや禁止が多いかもしれません)。

 本人利用に伴う納品後の改変ができるかどうかもあります。 また改変許可に伴うものとして、納品データがトラッキングアプリで実際に使う書き出しモデルデータ (jpg や png、moc、vrm、pmd など) だけなのか、それとも改変可能な編集データ (プロジェクトファイル/ レイヤー分けした psd データや cmo、vroid、mmd など) を含めるかでも異なってきます。 こちらも改変許可と編集データ合わせて別途料金がかかるケースが多いでしょう (編集データがなくとも手動でパーツを切り分けたり変換したりで無理やり改変することもできますが)。 本人改変はいいけれど別途第三者に依頼するのは原則禁止や許可が必要みたいな条件がつくことが多いかもしれません。

 商用利用や実績非公開、著作権譲渡、編集データ納品などは、費用はかさみますがその後自由にモデルを使えるようになり便利です。 活動内容が活動を続ける中で変わることもあるので、本格的に Vtuber をするつもりなら、あらかじめ商用利用や改変などは折り込んで発注する方が便利でしょう。 数年後に活動内容が変わって作者に改めて許諾を得ようとしたら拒否された、連絡が取れなくなっていた…などのリスクを減らせます。

 一方で実績非公開や著作権譲渡については、モデリングをしたモデラー (キャラの父親だとしてパパ と呼びます)、キャラデザやキャラ絵を描いた 絵師 (キャラの母親だとして ママ) との縁が (表面上は) 切れることでもあります。 絵師などは人気がある人は大きな影響力を持っていますし、自分が手がけたキャラを厚意で応援してくれるような人もいます (SNS で紹介してくれたり、ファンアート を無償で描いてくれたり)。 同じパパやママを持つ Vtuber 同士で交流や連帯感が生まれることもあるでしょう。

 こうした人間関係を面倒だと嫌う人もいますが、実績公開はV活動にプラスになることもあるので、ケースバイケースで考えた方が良いでしょう。 個人の場合、企業系と違ってデビューしても登録者も伸びず、よほど幸運に恵まれなければ、配信しても同接数0〜一桁みたいな時代がしばらく続きます。 頑張って配信しても誰も来てくれないというのは精神的にかなり辛いですし、これで心が折れてしまう人も少なくないです。 人気絵師にプッシュしてもらうことで、知名度を上げ飛躍するチャンスが得られる可能性があります。 もっとも絵師側に手がけたキャラを応援する義務はありませんし、絵師側から、後々のトラブルを避けるために実績として出したくないと断られることもあります。 過度な期待や納品物以外の無償のメリットを欲しがるような態度は禁物です。

 どうでもいい話ですが、2021年のコロナ禍の中、とあるコミュニティで高校生くらいの女の子が自分好みのアバターを依頼する費用を貯めるためにアルバイト頑張ってるみたいな話を聞いて、時代が変わったなと思ったりもしました。 外注が気軽にできる時代になったこともあるし、アバターにそれだけの価値を感じる人がいる時代というのもあるし、世の中が変化している実感がわく話でした。 リアルも大事、ネットも大事となると、リアルで服装に気を使ってお金を使うなら、ネットの服装にも気を遣うのが令和風といった感じなのかもしれません。 しかもこれらは、かつてのチャットサービスのアバターや MMO といった ネトゲ のキャラのように、せっかく 課金 してカスタマイズしても、そのサービスが終わったらアバターごと使えなくなったりもしないし、ずっと使い続けることも可能なのですから。

キャラ (ガワ) や設定と、中の人 (演者) の一体感

 動画の配信者・実況者としての Vtuber には様々なタイプがあります。 単にキャラの絵に声を合わせただけのもの、キャラに様々な設定をつけて演者がそれになりきって演じるもの、台本に基づいてセリフをしゃべるようなものもあります (台本も、本人が書いたり外部に依頼するものもあります)。 事務所系の Vtuber の場合は、キャラ絵や設定を提示して、中の人をオーディションで選ぶ形でキャラを作る場合もあります。

 いずれの場合もそれぞれに魅力や弱点はありますが、編集 を伴う完成した動画として投稿する活動が中心の人 (動画勢) はともかく、生配信のゲーム実況など (配信勢・実況勢) では、ついつい中の人の 「地」 が出る場合もあります。 テレビやラジオではまず聞けないような方言が魅力となっている人もいます。 いずれも長期にわたって活動を続ける中で、設定と地の部分が混ざり合い、一つの独立した新しい人格が宿る場合もあります。

 このあたりは、それが魅力だと感じるファンもいる一方、危うさを感じるファンもいて、実際に地が出すぎて、あるいは大勢の視聴者に囲まれ舞い上がって口が滑るなどして、炎上 やそれに近いトラブルが生じることもあります。 アニメの声優さんなどが失言によって炎上し、演じていたアニメのキャラにも飛び火して アンチ が群がるなどはそれ以前にもありましたが、Vtuber の場合はキャラと中の人がより強固に一体化しがちなので、これは大きな問題です。

 一方で、ネットの世界でのみとはいえ、性別や年齢、体形、障碍の有無など無関係に 「なりたい自分になれる」 という魅力は大変大きく、一体化もなにも、「これがネットにおける自分自身だ」 とアイデンティティを強く感じて活動している場合もあります。 とくに個人で自作のキャラを使った Vtuber などは、その傾向が強いでしょう。 人が持つ外的側面、あるいは社会的な仮面を、演劇で用いる仮面に喩えて 「ペルソナ」 と呼びますが、内面とリアル社会におけるペルソナ、ネットや 趣味 の世界におけるペルソナそれぞれを使い分ける人もいれば、全てが一緒になっている人もいます。

 他の創作物でもアバターでもアイコンでも何でもそうですが、創作物だ架空のキャラだ絵だと思って他人のそれを安易にいじったり嘲笑・侮蔑するのはやめた方が良いでしょう。 それは一部の人にとっては 人格否定や攻撃 となんら変わらない行為であり、失礼である以前にモラル的にも許されない行為です。 いわんやかわいらしい容姿やちょっとしたお色気表現をあげつらって 「性的搾取だ」「性犯罪を助長する」 などと批判するのは誹謗中傷であり、ほとんど論外の名誉棄損です。

キャラと演者とが離れてしまうことも

 キャラのイメージを優先させたい企業に属した演者や、個人でも大勢のファンが着いてキャラのイメージが固まってくると、逆にそれが重荷になったり足枷になる場合もあります。 一部の Vtuber などは、V の活動を 引退 してユーチューバーや生主に戻ったり転身して 「ありのままの姿」 での活動に軸足を移す人もいます。

 無理なキャラづくりや演じることをやめて 顔出し したとしても、それが必ずしもありのままの姿だとは云えなかったりもしますが、ものを創ったり何かを発信し続けるストレスや悩みは小さくないので、本人も悩んだり苦しんだ結果の決断なのでしょう。 それを見たファンの側も、自分の推しが自分の望む活動をしなくなって離れることになったとしても、その決断を尊重する姿勢を見せるケースが多く見受けられるのは、救いがある状態だと云えるかも知れません。

1人の Vtuber と1人の中の人という関係性ではない場合も

 芸能事務所的な企業系の場合、中の人を決めるオーディションを終えた後に Vtuber としてデビューしたり、既存の個人 Vtuber を招待するケースが多いものの、中の人のオーディションそのものをある種の エンタメ にしたような企画先行のプロジェクトもいくつか登場しています。

 例えばライブ配信プラットフォームの ShowRoom とピクシブ・ツインプラネットが 主催 した 2018年11月の 「最強バーチャルタレントオーディション〜極〜」 では、61人の予選参加者が5人の Vtuber (バーチャルタレント) それぞれの中の人の座を巡り、同サービスや Twitter に同じ名前・キャラ、顔アイコンの アカウント を作成・活動して勝ち抜き戦を行い、それをネットで公開するという企画でした。 その有様は古代中国の呪術 「蠱毒」(最後の1匹になるまで蠱を共食いさせる儀式) になぞらえバーチャル蠱毒とも呼ばれ、オーディション参加者の発した 「消えたくない」 が流行語になるなど、大きな話題となっています。

 また Vtuber の世界を強力に牽引していたキズナアイさんも、2019年5月から1年間ほどにわたって、いわゆる分裂というか増殖 (分人) を開始。 見た目が同じで声や人格が違う4人のキズナアイとなり、分裂に至った理由も噂話レベルではかなり生々しい内容で、主に中国で活動していた中の人の炎上も発生するなどイメージが悪化します。 その後一部は別キャラとして再出発し騒動は収まったものの、「ガワ」「中の人」「設定」(場合によってはそれまでの活動履歴や軌跡) が1セットで1人の Vtuber の人格が作られるというイメージが支配的な中、ファンに混乱が生じます。 これまでキズナアイを担当してきた中の人 (元の私) の 引退 があるのではないかとの憶測も流れ、様々な戸惑いの声が上がることとなりました (その後2022年2月26日に無期限活動休止、2024年3月31日で中の人も契約満了により管理団体のアドバイザーを辞任)。

 これら有名なものからそうでないものまで、活動の途中で都合により中の人が変わる、逆に中の人が別のキャラになる (転生)、原稿 読み上げ系の Vtuber の原稿 作者運営者 が変わる、読み上げソフトの声が変わるといった例は大小様々あります。 キャラのイメージとしては一体化しつつも、現実問題としてコンピュータ上のガワと中の人とが分かれている Vtuber は、これまでのリアルタレントとは異なる新しい可能性を持つと同時に、管理上の様々なリスクや予期せぬファン心理の揺さぶりが生じる可能性がある存在でしょう。 このあたりはファンの側にも様々な考え方があり、合理的な運営方法や Vtuber としての多様性から支持する人もいえばキャラへの思い入れが醒めたり離れるファンなどもいて、温度差も色々です。

 とくにキャラが途中から分裂・増殖するものは、新世紀エヴァンゲリオンの綾波レイとか、とある科学の超電磁砲の御坂美琴と妹達 (シスターズ) などのアニメ的な設定とはまた異なり 大人の事情 をうかがわせる生々しいものでもある上、そもそも分裂した全てを追う時間もなくなるので、おおむね苦手だとするファンが多いようです (まぁ綾波や御坂も最初から提示された設定ではなかったため、推しの分裂に感じられて苦手な人は結構いますが…このあたりはある程度初めの方から別キャラのような形で提示されそれぞれのキャラの個性も立っていたガンダムシリーズのエルピー・プル&プルツーなどとも印象が違いますね)。

「身体出し」 と 「2.5次元 Vtuber」

 顔出しする配信者 (一般的な YouTuber) とアバターだけで配信する Vtuber の中間に位置するものとして、「身体出し」 や 「2.5次元 Vtuber」「実写系」「顔だけ Vtuber」 などと呼ばれる 活動者 もいます。 ありがちなのは、身体は実写で出すけれど顔にはアニメ風の絵やアバターの顔 (マスク) をアプリで重ねて活動するスタイルです。 これはおたくの世界で2次元と3次元の中間を 2.5次元 と呼ぶのと似たような扱いでもあります。

 これについては受け入れる層とそうでない層とがある程度分かれていて、一部とはいえ生身の身体を公開した以上はバーチャルではないとの判断がされることもあれば、活動内容に恒常的な身体出しがなければちょっとした企画で身体の一部を出したり手が映る程度なら問題ないという判断もあります。 あるいは中の人志向のリスナーにとってはむしろ歓迎する意見もあって、現状まとまっていません。 場合によってはバ美肉を疑われて女性であるのを証明したり、ゲームプレイやダンスですり替え (配信者の代わりに上手い人が替え玉として行う) を疑われて身の潔白を晴らすために実写身体を出すケースもあります。 また数は多くありませんが、YouTuber 兼 Vtuber みたいな人もいます。 ただし前世や転生先が異なる場合は、現時点での活動内容が尊重されるといって良いでしょう (元顔出し配信者でも現在ガワを使っているならVみたいな)。

 いずれにせよ Vtuber の裾野が広がり多様性が大きくなると、変則的な活動を行う人だってそれを求めるファンだって入って来て一定の規模になりますから、不可逆的に増える方向へと進むのかなという感じはします。 ただし生身の身体出し、あるいは必要以上に 「中の人」 を意識させる メタ発言 や個人的な リア友 であるV・リスナーとの 馴れ合い などは苦手な人は本当に苦手なので、Vtuber を名乗るのであれば事前に告知するのは、住み分けのための ゾーニング として必要かもしれません。 例えば動画や配信のサムネイル画像にそれを記載する、実写身体画像のごく一部だけをぼかしたりして入れるなどですね。 見たくないという人に見せても配信者・視聴者どちらにも良いことがありません。

 なおこれらにも当てはまらない特殊なケースとして、自身のキャラの着ぐるみを作成し、それを着て配信する、フィギュアやぬい (ぬいぐるみ) といった立体造形物を作ってそれを用いて人形劇のようにして配信するなどがあります。 こちらは恒常的に行っている人は稀で、他の活動をしているVが企画として行うことがある程度かも知れません。

ブームは過熱し、1万人を超える Vtuber が登場

 先行組やブームを牽引した四天王を中心に、一般の人までが参加する中ブームは過熱します。 一説には Youtube での配信者だけで1万人を越える Vtuber が登場したとされ、基本はゲームやアニメといったおたくネタがベースとは云え、徐々に専門性を発揮するVも登場。 黎明期の2017年から2018年あたりは、デビュー時期で2018年1月組といったくくりで同期のような連帯感がありつつも、それらとは無関係に、それこそ玉石混交・綺羅星から有象無象まで、ありとありとあらゆる Vtuber が勢ぞろいすることとなりました。

 一方で過当競争もすぐに始まり、せっかくデビューしたものの再生数や同接数、登録者数が伸びずにすぐさま消えてしまう人、放置されるチャンネルが増えるなど、厳しい状況があっと云う間に発生します。 その後も数は増え続け、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行による 不要不急 の外出を避ける空気の元、家に 「巣ごもり」 する層を中心に2万人とも2万5千人ともいわれるVがひしめくこととなっています。

 また人気のある Vtuber やその可能性がある Vtuber を集めたり発掘したり育てたりといった芸能事務所的なビジネス展開も活発となり、様々な人気 Vtuber が生まれ、短期間に大きな話題を作ったりそのまま消えたりと、戦国時代さながらのサバイバル状態も生じ、ブームにもやや陰りが見えているとの話もあります。

巨額のお金が動くようになり、業界に有象無象が集うことに

 一方、あまりにも短期間に急膨張し、かつスパチャ (スーパーチャット/ Youtube の投げ銭システム) といった形の目に見える巨額のお金の動きなどから、「一攫千金」 を狙う有象無象の参入も相次ぎ、一部ではモラルや法を逸脱する様々なトラブルも生じています。

 加えて、いわゆる 「オタク的情緒」 からはやや離れるような人脈・コミュニケーション能力の有無ばかりが人気や数字に極端に直結するような状況 (コラボや 絡み合い、頂点付近の大手企業系 Vtuber と中間層の中小企業系 Vtuber、その多くが 底辺 となる個人 Vtuber とのカースト・ヒエラルキーの可視化、例えば上位者の下位者への マウント や、逆に下位者の上位者への媚びへつらい、先輩後輩関係の面倒くささ、馴れ合いウザ絡み、ファン同士の争いなど) も生じ、「ガワはアニメ風だけどやってることは リア充ウェイ系 そのものだ」 との忌避感が生じるケースも出始めています。

 もっともこれはこれで、自分がコミュニケーション能力に難があるので、創作物の 主人公 に対するそれと同じように、Vtuber が代わりに行ってくれているという形で評価する人も少なくありませんし、そもそも Vtuber ファンのすそ野が おたく の範囲を大きく超えたという証拠でもあるのですけれど。

 さらにガワとなるキャラもどこかの絵師に外注、扱う テーマ も流行りのゲームやボカロ曲の歌ってみたなど他 Vtuber と大差なく (これは権利上やむを得ない部分もあります)、大差ないわりに 「被った」「パクリだ」 との Vtuber やそのファン同士の争いが生じたり、異性との出会いを目的とする 直結 が増えたり、社会経験の乏しい演者が外注を巡る取り決めや 版権もの の取り扱いを誤って金銭トラブルが生じるなど、業界が未成熟なだけに様々なドロドロしたものが表に出たものだけでもたくさんあります。

 しかし Vtuber が存在しなかった時代に戻ることはないでしょうし、この先ブームが去っても、初音ミクで盛り上がったボーカロイドの世界のように、「あって当たり前」 の新しい文化のプラットフォームとして進化し続けるのでしょう。 2020年以降からは、成熟期に向かっていくのかもしれません。

Vtuber なんてネットを使ったキャバ嬢・ホストみたいなもん批判

 Vtuber が盛り上がるにつれ、あるいは高額スパチャの話題がニュースになるにつれ、「Vtuber なんてネットを使ったキャバ嬢・ホストみたいなもんだ」「視聴者は 非モテ の寂しいやつばかり」「仮想空間への逃避だ」「恋愛観を歪める」 といった、ありがちな批判をする人も増えてきました。

 こういった批判はアイドル業界や メイド喫茶コンカフェ) に対しても昔からありますし、一部には ガチ恋 なファンもいますし、そうした気分や目的を持ってファンをやっている人もいるのでしょうが、実際の配信を見ればほとんどのケースで 雰囲気 はかなり違います。 比較的近いのは、若者向け深夜ラジオのパーソナリティと リスナー の関係でしょう。 単なる関係性や距離感の他、面白いコメントをつけるリスナーによって配信が盛り上がったりリスナー同士で評価や賞賛が交わされるなど、ハガキ職人 とリスナーの関係性も非常に似ています。 そもそも1対1の接客が基本で、店での会話やサービス以外の何らかの下心や期待感も込みのキャバクラやホストクラブの利用と、1対大勢の Vtuber (やアイドル・メイド など) とでは、演者も視聴者も関わる人の層や意識はかなり違います。

 こうした批判は、キャバ嬢・ホストといったいわゆる水商売・接客サービス業の人たちや、それに熱を上げる客への蔑視や侮蔑がベースにあり、「よくわからないけど楽しそうにしているやつら」 が気にくわないので罵倒するだけの、ためにする批判のような感じがします (もっと云うと、キャバ嬢とホストが性別が違うだけの同じものだと思っていること自体、接客サービス業に対する知識も怪しいことがわかります)。

 もちろん一部でこうした 需要 を見込んでサービスを展開している事業者もいますが、いずれも Vtuber ブームの本流とはならず、あまり話題にもなっていません。 例えば Vtuber やアニメチックな 3D キャラがモニター越しに接客する飲食店なども登場しましたが、一部で話題になったに留まっています。 また Vtuber と1対1で話ができるネットサービスも広がることはありませんでした (例えば2019年12月からサービス開始した 「ユメノグラフィア」 は一定の評価を受けたものの想定していた成長ができず、2021年12月30日に終了しています)。 またこれらは安価な料金設定といい、別にキャバやホストを強く意識したものでもありませんでした。 いずれ VR 技術が発達して、こうした需要と 供給 も広く社会に受け入れられるようになるのかなとも思いますが、現時点での Vtuber ブームに対する影響はほとんどないのが実情でしょう。

 そもそも Vtuber はあらゆるジャンル・テーマ・スタイルで膨大な数が活動しており、キャバ嬢・ホスト的な活動をしている人がいても、それはごく一部での話です。 またそれがことさらに批判されて当たり前の行為だとも思いません (ホストのようにリスナーに借金や売掛や性的職業を斡旋してるならともかく)。 まぁさすがに新米 Vtuber のふりをして高額スパチャを飛ばしてくれそうな太客リスナーが捕まるまで転生によるリセマラを繰り返すみたいなスタイルの人はまぁまぁ見ますし、ここまでくると何だかなぁという感じはしますが、全体で見れば誤差みたいな人数でしょう。

 このあたりはそれなりに Vtuber の配信を見ていれば見当違いの意見だとわかるはずなので、実際に見ることもなく一方的な自分のイメージだけで批判しているのだと思いますが、新しい技術や文化が生まれ発展するただ中にいて、無関心を決め込むならまだしも、触れることもなくただ批判だけするのも寂しい行為だなぁなどと筆者などは感じてしまいます。

 まあこういう斜めの見方をしていた人が偶然 Vtuber の配信や 切り抜き動画 などを見て、そのまま ハマって しまったりするのも面白いところではありますが。

企業勢と個人勢、方向性と卒業・引退

 芸能事務所としてのプロダクションが多数立ち上がり、個人勢に対して企業勢とか箱勢と呼ばれる企業所属のVも多数登場しています。 企業と云っても株式上場するほどの規模や資金力を持つ存在もあれば、個人勢と大差ない名ばかりの存在もいますが、2大運営プロダクションであるホロライブ (hololive production)・にじさんじ、それに続く ぶいすぽっ! (Virtual eSports Project) や Re:AcT(リアクト)、.LIVE (ドットライブ)、のりプロ、あおぎり高校規模では、豊富な資金力や広告宣伝力、営業力によるマネタイズの巧みさ、そして何より同じ事務所所属の有力Vとのコラボ (箱コラボ) などを通じた高い話題性など、個人勢とは比べ物にならないほどの知名度や人気、影響力を持つこととなっています。 とくにデビューしたばかりの新米 Vtuber にスタートダッシュを利かせられるのが企業Vの強みです。

 一方で、コンプライアンス的にギリギリを攻めるような配信はしづらいとか、引きこもり気味の性格ゆえに自宅で配信を楽しんでいたライバーがリアルイベントやらリアルライブやらを半ば強制されたり、他のメンバーとの交流を強いられる、事務所内政治に付き合わされる、事務所内で食い合いを避けるために扱う話題に制限がかかる、ダラダラした長時間配信もやりにくくなるなど、ある程度の安定と引き換えに 「やりたいことが自由にできない」 という部分は大きいでしょう。 方向性の違いで苦しんだり、過度のキャラ売り・アイドル売りが厳しいというライバーも少なくありません。

 そもそも個人で配信やVを行うような人は、自力で機材を調達して配信環境を揃える程度のスキルは十分持っています。 V志向の配信者ならイラストくらいは描けたりしますし、元々個人で活動していたような人も多いです。 マーケティングやら企業案件やらの扱いは企業勢に及ばなくても、人気配信者ともなれば自由にできるお金も時間も十分にあり、一部の問題のある事務所などのようにマネジメントやケアが行き届かないような所にいてもメリットはないでしょう。 リスナーも中の人志向のファンが少なくないので、「だったら個人でやる」 という所属Vがいてもおかしくはありませんし、実際続出しています。

 競業避止義務契約などで転生を制限しようにも効力は限定的ですし、芸能界でありがちな 「業界から干す」 といった行為も不可能です。 Youtube や twitch、あるいはマネタイズのしばしば重要な柱である Fantia (ファンティア/ 2016年) や FANBOX (ファンボックス/ 2018年) などは、映画館やテレビ局のように制作会社や芸能事務所の顔色をうかがって中の人を干す行為に協力などしてくれないでしょう。

 とはいえライバーのガワ (キャラ) や名前は事務所が権利を持っていることが多いので、卒業でも退社でも絶縁でも形はどうあれ事務所と決別すると別Vとしての活動をせざるを得なくなり、このあたりはVだの何だのというより勤め人とフリーランスの持つ根本的な違いなどもあり、色々と困難もあるようです。 アニメキャラやVを語る際に、実在タレントやアイドルと比べて 「年を取らない」「スキャンダルがない」 などと表現されることもしばしばですが、実際は年も取るしスキャンダルもあるし、キャラとしての 「寿命」 は実在タレントより短いものになりがちだったりもします。 お互いにリスクを嫌い、旧来の事務所主体のマネージメント・契約型ではなく、Vが主体となるエージェント型・サポート型の事務所も登場しています。

 企業Vは、中の人と設定としての人格、キャラ絵 (ガワ) と名前、それまでの活動履歴や軌跡、持ち歌やキャッチフレーズとが混ざり合い組み合わさったひとつのユニットのようなものでもあります。 独立し転生して自分自身以外の全てを使えなくなったライバーやファンの心理的なあれこれはかなり辛いものにもなるでしょうし、それでも実力のある配信者は生き残るのでしょうが、その可能性はかなり小さいものに留まるでしょう。 ただしこれらは時代が進むごとに縮小するかもしれません。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2019年3月14日)
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