何かに執着したり、奇矯な言動をしたり… 「病気」
「病気」 とは、心身が何らかの原因によって正常な生理状態から悪い変化を起こし、心身の機能に障害をきたしていることです。 自覚症状がなく知らない間に生じて完治することもあれば、熱や痛みを自覚したり、症状が進んでより重篤な症状になったり異なる障害を起こしたり、最悪の場合は生命を脅かすこともあります。 転じて、治らない悪い癖とか、悩みから生じる軽くて一時的な気のふさぎなどを俗に病気と呼ぶこともあります。
一方、若者言葉や ネット で使われる場合、頭がおかしい、狂っている、異常者だ、偏執的だ、頭のねじが外れてぶっ飛んでいるといった意味で使われることも多いでしょう。 病的なほど何かに ハマって いるとか凝っているという意味でも使いますが、実質的に疾患、とりわけ精神病や依存症を揶揄するような言葉でもあり、あまり大っぴらに表向きで使えるような表現ではありません。
とはいえ、偏執狂や精神病やキチガイ (基地外)、メンヘラ やガイジ (障害児) といったより強い差別的な言葉の代替、ニュアンス を薄めた言葉とも認識され、比較的気軽に使われる言葉かもしれません。 放送禁止用語などは、キチガイはダメで英語のクレージーなら大丈夫みたいな意味不明なことになっていますが、この 「病気」 も、それに近い役割を担っているのでしょう。
また ネガティブ な比喩 (ネガ比喩) やフラットな喩えだけではなく、意味不明で発想がぶっ飛んでいるけど笑える、異常で狂っているけれど面白い、シュールだといった ポジティブ な意味で使われることもあります。 これは1980年代に流行した言葉の影響も強かったのでしょう (後述します)。
元々病気自体、「本人の意思に関わらず罹ってしまうもの」 の比喩として、昔からよく使われる言葉です。 好きな人のことで頭がいっぱいになり熱にうなされたようになる恋煩いを恋のやまいと呼んだり、何かに熱中する様を流行り病や麻疹に喩えたり。 その意味ではネガティブなイメージがありつつも、使いやすい言葉なのでしょうね。
1980年代に流行した 「ほとんどビョーキ」
言葉の 元ネタ という訳でもないのでしょうが、テレビ朝日系列の深夜番組 「トゥナイト」(1980年〜1994年放映) において、映画監督でレポーターの山本晋也監督が発した 「ほとんどビョーキ」 が、こうした言い回しが現在でも広く使われ続けている一つの発端でしょう。 主に風俗街のレポートを担当していた山本監督は、変態的 なこだわりを持つ風俗店などを取材しては面白おかしく紹介し、同コーナーは番組の目玉に。 その際に風俗店に対して誉め言葉として使っていたのが、この 「ほとんどビョーキ」 でした。
何かに執着や偏執、煩っているさまを精神病に喩える云い方は昔からあります (例えば○○キチガイとか○○煩い (患い) とか○○の病とか)。 また 「黄色い救急車が迎えに来る」「お薬出しておきますね」 といった言い方で間接的に表現する云い方も昔からあります。 山本監督の 「ほとんどビョーキですね〜」 といった番組中の コメント は、これらを踏まえつつも病気を 「ビョーキ」 とくだけたセリフ表現とし、「ほとんど」 を接頭した名詞とすることで、笑えるフレーズに再構築。 レポート時の軽妙な語りや紹介する風俗店などの面白みも合わさり、後にはテレビCMなどでも使われ、お茶の間でもよく耳にするほどの流行語となりました。
1990年前後となると流行りすぎて陳腐化した 「ほとんどビョーキ」 は徐々に死語のような扱いとなりますが、「病気」 といった形でそれ以前からあった表現以上に広く定着し、その後登場した片岡鶴太郎さん造語による流行語 「プッツン」(脳の血管、あるいは緊張の糸や堪忍袋の緒が切れる音から転じて、突飛な行動やそうしたことをする人、頭がおかしいとか激怒したという意味) とともに、おかしなことをする人を揶揄する言葉として広く使われるようになっています。