病気的なデレ、猟奇的なデレ、みたいな要素、ヤンデレ
「ヤンデレ」 とは、諸説あるものの一般的には 「精神的に病んでデレデレと惚れている状態」、つまり 「病んでいるデレ」 の略 (病んデレ) と認識され、愛しているがゆえに強烈な嫉妬や独占欲を覚え、パートナーを追い詰めたり傷つけたり、場合によっては殺害するなどの衝動的で異常な性格や行動パターン、およびその性質を持つ キャラクター を意味します。
アニメ や マンガ、ゲーム などにおける登場キャラクターを類型化する中での分類、識別的な名称で、2005年頃から ネット で見かけるようになりましたが、多くの場合は美少女ゲームやアニメなどの女性キャラクターに使われています。
2001年からネーミングとして確立した 萌え要素 などのひとつとも認識され、ツンデレ の先鋭化した形、病的 (一途) で異常なほど強い愛情に憧れたり、自己のそうした感情を相手に投影したり、あるいはM気質や破滅願望のある ファン の 「グッとくるポイント」 とも認識もされているようです。 ただしここらは、同じキャラであっても 萌え属性 を持つ人の パラメータ の具合によって受け取り方は様々で、虐待系 の代用品としてみているような人もいます。
多くの場合は 「ヤンデレキャラ」 の自分の感情や思いを相手に上手く伝えられないもどかしさ、自分の真心 (時には体) を捧げたのに裏切られたことに対する失望、怒り、しかしそれでも相手を愛さずにはいられない葛藤、感情の爆発に少しずつ追い詰められていく、その 「感情の流転、メンヘラ 的に病んでゆく過程」 への 感情移入 が最大の魅力のようです。
破滅的であるがゆえに情熱的
代表的な行動パターンとしては、恋愛対象に冷たくされたことを悲しんでの自殺や自殺未遂 (自殺をほのめかして脅す)、嫉妬に狂って恋愛対象の身辺を執拗に調べたりストーカーとして付きまとったり、あるいは恋敵に対する嫌がらせ、いじめ、暴力、呪詛 (丑三つ時に藁人形)、さらに恋愛対象を独占するための常軌を逸した折檻や暴力、監禁や拘束、殺害や遺体損壊 (性器を切り取るなど)、一体化 (体を手術で結合する、人食いなど) があります。
美少女などが自分に対し愛情を持ち、嫉妬する感情や姿は愛しいものですが、それが本人や恋愛対象、友人などへの異常な攻撃性に結びつくのが多くの 「ヤンデレ」 の特徴です。 とりわけ ノーマル (正常) な時と、異常となった時 (黒化、暗黒化、黒姫化、あるいは L5発症 などといいますが、一方 普通に 戻ると キレイな○○、白化 などと呼ばれたり) との切り替わるきっかけやタイミング、通常モード時との大きな落差が、ポイントとなるようです。
ただし 「ツンデレ」 などもそうですが、単に2面性を持つキャラ、という認識ではなく、二律背反する要素を葛藤しながら内包している屈折した魅力が、その本質なのかなとも思えます。
一方で、ヤンデレ以前には、1980年代の一部サブカルシーンで見られたような残酷・ホラー・スプラッターなどの影響を受ける形で、病んだ不思議ちゃんとか、極端に 自己中心的 なキャラ造形として似たような 概念 も登場しています (後述します)。 この場合のヤンデレ行為の主な目的や動機は、相手への愛というよりは極端な自己愛の裏返しで、「何もかも自分の思い通りにならないと嫌だ」「ならないなら壊してしまえ、殺してしまえ」 という文脈となります。 これは後のヤンデレと似た部分もありつつ、根本的に異なるものだとする見方もされたりします。
古今東西を問わず、究極の愛の形を描くひとつの方法なんでしょうか
こうした極端な恋愛感情の爆発による常軌を逸したキャラクターの行動パターンは、それこそギリシャ神話 (ゼウスの妻、ヘラ) やユダヤ古代誌、新約聖書 (ヘロディアの娘、サロメ)、インド神話 (創造の神ブラフマーの妻、サラスヴァティー、日本でいう弁財天) をはじめ世界中の神話や戯曲、宗教逸話では 定番中の定番 です。 人間の欲、醜さ、凶暴性、真実の愛、命と死を、これくらいドラマチックに扱える テーマ もないのでしょう。 とりわけサロメは、数多くの芸術家にインスピレーションを与え、あらゆる芸術作品に モチーフ として描かれています。
また実在の事件、例えば日本では 「阿部定事件」(1936年/ 昭和11年5月18日に東京荒川区で起こった、女性による恋人への猟奇的な殺人事件) をモチーフとした映画 「実録 阿部定」(1975年/ 田中登) や 「愛のコリーダ」(1979年/ 大島渚) などでも描写されていますし、愛のもつれから切った貼ったに発展する物語は、古典的な愛憎劇の 定番 でもあります。 「愛」 と 「死」 とを狂気で結んで作るストーリーは、ある意味、日常を超越した (しかし誰もが小さくは持っている) 究極の愛の物語の 王道 なのでしょう。
こうした 性癖 を強く持つ女性は、実際にお付き合いを始めるとかなり辛いものがありますが、「殺されるほど愛されたい」 という、現実では無理だったり避けたかったりする異常な愛をストーリーあるいは偶像として楽しむのは刺激があるものですし、虐められ願望 (被虐願望、マゾ気質) のあるM男にとっては憧れでもあるのでしょう (まぁMにもいろいろありますが)。 以前は 「幸せなエンディングを迎える作品の 脇役、障害」 であったのが、今ではむしろ ヒロイン として扱われるケースも多いようです。
まぁ後は、「当事者にとっては悲劇だが、外で見てる分には喜劇」 って面もあるんでしょうね。
「ヤンデレ」 原型を探ってゆくと、たどり着くのはラムちゃんか…
古くは神話や古典にも見つかる 「ヤンデレ」 ですが、ごく最近のアニメやマンガ、ゲームの世界でのこうしたキャラの元祖と云えば、やはり 「うる星やつら」(1978年) のラムちゃんなどが、まだかなりライトテイストながらその代表格でしょうか。 主人公 諸星あたる に対する一途な愛、それゆえの強烈な嫉妬と、その物理的攻撃である電撃。 どう考えても危険な女の子なのに、妙に惹かれます (ラムとはライバルとなる しのぶ の怪力による折檻もちょっとすごいものがあります)。
また1980年代のアイドル絶頂期には、様々なアイドルや個性的な女性タレントが登場して活躍し、合わせて様々な個性やスタイルが類型化されることにもなっています。 代表的なのは純情 とか ぶりっ子 (かわいこぶりっこ)、お嬢様タイプ、生意気、ヤンキーなどなどですが、キワモノ系 (放送コードや社会的常識ギリギリの際どい人) とか病み (ビョーキ・電波・後のメンヘラ)、不思議ちゃんなども登場し、後者は折からのホラーとかスプラッターといった猟奇的な部分や、コンピュータゲームやアングラ、サブカルな部分などとも影響し合い、独特の様式美を形作ります。 その中でも目立った存在であった戸川純さんの楽曲 「好き好き大好き」(1985年) は、いかにも病んだ顔つきの戸川さんが 「好き好き大好き 愛してるって言わなきゃ殺す!」 と絶叫して歌う独特なものであり、この時代の偏った女の子の個性を代表するものと云って良いでしょう。
1990年代となると、これらの流れを様々な形で受けた美少女ゲームなどのアダルト作品も登場し、かなり猟奇的な内容のものもかなりありました。 欲望を全面に押し出すことによる激しい残酷描写を伴う作品などもあります。 元々ホラーやスプラッター、SMなどでは、美少女を男性が拷問するような作品が多かったのですが、その裏返し、「そんなに愛してくれるなら、殺してくれて構わない」 といったハイテンションな潔さが、先行き不透明な時代に 「異形の 純愛」 としてマッチしているのかも知れません。
単なる狂気だけでなく、そこに深い、もしくは理不尽で異常な愛情がなければヤンデレではない訳ですが、ヤンデレブームと供に、それを突き詰めたような 「同人ゲーム」 や同人作品なども現れ、2007年には定義もかなり定まってきているようです。
お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!
ヤンデレとの名称はまだなかったものの、2002年8月にオンラインゲーム 「ラグナロクオンライン」 のβ版のテスト運用中に参加していた伝説的な プレイヤー の起こした騒動とその言動がネットで話題に。 語録を取り入れたテーマ曲 「お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!」 が人気になると、関係者が受けた被害や迷惑に対し、部外者がその一途な電波っぷりをある種、美少女化・再擬人化して人気に。 その後いくつかのアニメやゲームで、登場人物が 「精神的に壊れてゆく描写」 があり、ツンデレなどといった 「明るく健全な萌え」 要素に対し、暗くて不健康な萌えの要素としても認識されるようになりました。
また2003年7月20日、掲示板 2ちゃんねる の 「Flash・動画板」 の有志によるオフラインイベント、「flash★bomb」 の第一回が東京都の新宿歌舞伎町ロフトプラスワンにて開催され、この日に公開された 「こしあん堂」 さんの制作フラッシュ 「なつみSTEP」 も、おまけ動画まで含めるとある意味ちょっと 「ヤンデレ」 風味かも知れません…。
実際は単なる電波とか 凶暴 などとヤンデレとは似て非なるものですし、最終的にギャグタッチの明るいヤンデレになるのか、主人公が死ぬなどの 「欝展開」 の暗黒ヤンデレなるのかもまた別の話ですが、怖いもの見たさや常識では割り切れない驚異的な愛、さらに女性に対してそう思う男性からの恋愛対象としていながら心情の 共有 を図るなどしつつ、ここしばらくはヤンデレ人気も続くんでしょうか。
別の意味の 「ヤンデレ」 も…
なお不良少女、スケ番の 「ヤンキー」 が 「デレデレとする」、ヤンキーでデレデレ、すなわち 「ヤンデレ」 という意味で使われるケースも一部ではあるようです。 男勝りで表面上は強がっているけど、内面は弱々しく女の子チック、付き合ってみたら実は 処女 だった…なんてパターンが多いようです。