変態なのか単なるモノマニアなのか…深遠なるフェチの世界
「フェティシズム」(Fetishism/ フェチ) とは、「物」 に対する強烈な執着や崇拝的な感情を表す言葉です。 語源は、一般的にはスペインやポルトガルの人々が 18世紀ごろ、熱狂的な崇拝の対象としていた護符 (Fetico/ フェティソ) の名からだと云うのが通説となっています。
この 「物」 に対する崇拝に対し興味を持ったフランスの啓蒙思想家シャルル・ド・ブロス (Charles de Brosses/ 1709年〜1777年) が、後に 「フェティシズム」 を著書 「フェティッシュ諸神の崇拝」(Du Culte des dieux fetiches/ 1760年) で定義し造語。 これがフェティシズム/ フェチと云う考え方の始まりです。 日本語では普通 「物神崇拝」 なんて訳しますが、「物質崇拝」「呪物崇拝」「物神性」「拝物愛」 などと呼ぶ事もあります。
なおフェティシズム志向を持つ人、「フェティスト/ Ffetist」、あるいは単純にフェチ、そうした人がフェティシズムを感じる対象を 「フェティッシュ/ Fetish」「フェチ物」 などと呼びます。 特定の物に執着する場合は、○○フェチ (カメラが好きならカメラフェチなど) とつなげて呼ぶ場合もあります。
フロイトの手により、性的な興奮を指し示す用語として定着
フェチと云えば、何はともあれ体操着 |
学用品フェチに縦笛は忘れるわけにはいきません |
ある意味持ち主を一番生理的に感じられる香りの宝庫、靴や上履きも侮れません |
こうしたフェチという考え方は、物に対する一種独特の陶酔感や感動、好み、こだわり、執着心を表すものとして知られるようになっていきますが、この概念はさらにその後、「何でも性に結びつける」 と評判のフロイト (Sigmund Freud/ 1856年〜1939年) の手によって解釈され (愛情の転移の概念)、時代を下るにつれて 「物体から得る性的な衝動」 を示す言葉として一般にも急速に用語として定着します。
その内容は一般化するにつれ意味合いも微妙に変化していきますが、ごく大雑把にまとめるとすると、主に異性などの相手が身に付けている物 (下着や衣服、生活用具等) を性愛の主対象とする 趣味、行為の事をあらわすようになってきました (分かり易いですものね)。
文字通り、愛情が物に転移し、代償物としての魅力を時として本来の対象よりも強く持つように意識されるんですね。
これらはフェチの言葉を待たずとも、例えば親しかったり尊敬する人物が亡くなった時にその代わりとする 「形見」 なんかにも類似の心情を見て取れますが、ここではより性欲的な意味での愛情の転移がなされている点が特徴です。 片思いのクラスメイトの使っている縦笛や体操着、下着に興味が湧くなんては、割と多くの人が持つ体験ではないでしょうか。
これらがより物質に傾くと、例えば若い女性のエナメル・レザーの質感、とか、団地に干されたピンクのフリルつきの パンツ、なんてものに発展して行きます。 この段階となると、相手が誰であっても 「年頃の若い女性」 という記号があれば質感とともに興味が沸いてくるようです。
さらに進んだ考え方では、いつしか異性に対する概念も完全に喪失し、「透明なプラスチック」 とか 「発泡スチロールの断片」「精巧な歯車の組み合わせ」 とかに性的興奮や精神的な満足を得る人も現れてきました。 一方、対象が物である…と云うより、より純粋に “物を対象とする 性癖 (愛玩の対象が物品)” であると厳密に定義し、従って異性や人間自体をも “物体として”、あるいは体の一部を “パーツとして” 認識、嗜好するケースも (かなり極端なケースですが) 含むようになっているようです。 足首フェチとか耳たぶフェチみたいなやつでしょうけど、それの極端な偏愛などですね。
あるいは 「形状」 や 「色、匂い」 などにこだわりが生じ、ノーブラの胸元の胸ポチがいい、とか、パンツに浮き出る女性器の形状 (スジとかメスコジなどと呼びますが) とか、太目の太ももでパッツンパッツンになったデニムなんかに興味が人並み以上に湧く人もいます。
変態番付を駆け上がる、エリートフェチの存在も
ここまでの段階となると、なにやら完全に 「あっちの人」、少々病的で メンヘラ 的な印象になってしまいます
しかし現在の精神医学では 「性倒錯=性的暴力」 とする考え方が支配的になってきていますので、多くの場合自己完結するフェティシズムは、「異常だ」 とまでは云えなくなっているようです。 結果、元々の意味に加え、広義の 「モノマニア」 的な使い方も増えていますが、これが本来的な使い方なのかな、と思います。
愛好するものが、いかに直接的な性行為から遠いか、どれだけ性器や性的パーツから遠いかで、「フェチの度合い」 を量るなんて考え方もありますね。 すごいのになると、盗んだ靴下や上履き (バレーシューズ) やパンツなどを写真に撮って集めるのが好きとか (実物ではなく、写真がフェチの対象)、さらに複写機でコピーしたものが好きなんて人もいます (そういう事件がたまに起こり、ネット 上では 「変態番付」 で格付けを行い上位にランクインさせているようなケースもあります)。
同人の世界では、前述したような 「押入れにパンツ5千枚」「ブーツやハイヒールの匂いをかぐ」 みたいな解釈の作品が多いようですが (^-^;)、う〜ん、本格的な作品になってくると、「フェティシズム」 の歴史や定義に厳密な作品もけっこうあるようですね。 SM などもそうですが、こうした趣味は突き詰めていくと、素人にはなんとも理解し難い深遠な世界になるようです。 一般人にとっては苦痛や嫌悪の対象でも、特定の人にとっては 我々の業界ではご褒美です などという場合もありますし。
フェチ願望、衝動は、男女を問わず、年齢を問わず
なお女性の間でもフェチは多く、代表的なものには、背広、スーツにフェチを感じる 「スーツフェチ」、ネクタイ にそれを感じる 「ネクタイフェチ」 なんてのがあります。 制服系フェチでは セーラー服 とか 「看護服」(ナース服) とか ルーズソックス とか ミニスカート だとか、男性の嗜好が取りざたされるケースが多いのですが、こうした性的嗜好には性別は関係ないのがわかりますね。
また年齢によってこうした感情が変化することも多いようです。 子供の頃は何も集めていなかったのに、年を経るごとにモノ集めや特定物品への愛着が異常なくらい高まるケースが代表的です。 これは時間と共に本人にストライクする物品と出会う確率が増えるわけですし、また物は集めれば集めるほど、使えば使うほど愛着や執着が高まりますから、エスカレートするものとして当然の現象と云えるでしょう。 子供の頃は経済的に無理だったものが、社会人となって手を出せるようになる場合も多いでしょうし。
一方で、子供の頃には変質的に何かに愛着を感じていた、あるいはたくさん集めていた人が、年齢を重ねるごとに、あるいは何かをきっかけに突然興味を喪失し、集めていたその物はもちろん、モノ集めそれ自体にまるで関心を持たなくなったりするケースもあります。
変化する理由には個人個人の事情や性格などもあるのでしょうが、後者の興味を失うケースについては、子供の頃に大切にしていたものを親に捨てられてしまった、火事や災害などで喪失してしまったなどによって物に対する興味関心それ自体がなくなる状態としてそれなりに見かける形ではあるようです。 こうしたケースにおける本人の喪失時の精神的 ダメージ はかなりのものでしょうし、その心の痛みを緩和するため、物に対する執着それ自体を捨てようとする自己防衛本能のなせるわざなのでしょう。
一方で、「子供から大人」 への成長の過程で、本人が 「いつまでもこんなものを持っていたらだめだ」 と思い、幼年時代への別れのつもりで思い出の品などをあえて自ら捨てる場合もあります。 この場合、うまくいけばよいのですが、ダメな場合は前述のケースと同様かなりの精神的ダメージやトラウマを自ら招く結果となりがちで、こうした感情は無理に抑え込むものではないのかな…という気がします。
ちなみに 筆者 は子供の頃に愛用していた安っぽいプラスチック製の電気スタンドを、引越しをきっかけに子供時代からの決別のつもりで捨てたんですが、これが後年かなり強いトラウマとなって残っており (折々で思いだし強烈な後悔と自己嫌悪が襲ってくる)、ものにこだわる人は、無理に矯正しようなどとしない方が良いという考えに至りました。 せめて写真でも残っていれば違うのでしょうが…ほんと、かなりきついので、これを読んでいるものにこだわるタイプの方は、愛用していた趣味の品や日用品を処分する時には、よくよく気を付けた方が良いと思います w