汚れなき純真無垢な存在… 「驚きの白さ」
「驚きの白さ」 とは、そのまんまですが真っ白な状態を強調して使う言葉です。 対象の ジャンル や カテゴリ を問わず、単に 色 が白いものをそう呼ぶだけでなく、例えば学校の試験が難しくて解答欄が空白な時とか、同人活動 をしている人が、「締め切り がもうすぐなのに 原稿 が驚きの白さ」 といった 自虐 としても使われます。
その後は アニメ などに登場する、裏表や心の奥に邪悪なものがある腹黒な キャラクター が、表向きは純真なふりをしたり潔白ムードを出している状態をこのフレーズで表現することに。 この場合、外面を取り繕っているという意味で漂白と呼ぶこともあります。 さらには、邪悪な部分が皆無で純真無垢、汚れなき 天使 のようなキラキラした 光属性 のキャラもこう呼ぶようになっています。
一方、動画サイト 「ニコニコ動画」 などでは、単に白いものや、画面が白くなったといった状態に対しても気軽に投げかける合いの手のような コメント としても頻出する言葉となっています。 ほとんど 「白 = 驚きの白さ」 みたいな ニュアンス で使っている人もいます。 ただし食器類が白い時に 「白い○○」 と呼ぶ場合は、1981年から始まった日本3大祭りの一つとも称される 「ヤマザキ春のパン祭り」 の景品である白いお皿の影響が大きいでしょう。
元ネタは花王の洗剤 「アタック」 のキャッチフレーズ
元ネタ ですが、花王が創立100周年となる1987年に、旧アタック (1969年から販売) の販売終了から10年以上経た後に発売した新しい洗濯用コンパクト洗剤 「アタック」 のキャッチフレーズ 「わずかスプーン1杯で驚きの白さに」 から来ています。
大手メーカー製の洗濯用洗剤はたらいと洗濯板で使う洗濯石鹸の時代から存在し、1950年代頃から本格的に電気洗濯機が普及すると、アメリカなどで人気だった粉末状の洗剤が日本でも使われるようになります。 ただし当時の洗剤は洗濯物の違いや洗濯機の能力不足、そもそもの化学合成技術の違いなどもあって現代とは異なり大量に使う必要があり、洗剤も非常に大きな箱に入って売られていました (大型洗剤などと呼び、1回の洗濯で小さめのコップ一杯くらい使う感じです)。 ネット通販などない時代、洗剤とトイレットペーパーと米袋はかさ張る買い物のスリートップでした。
花王は従来の製品より洗浄力を大幅に高め、少ない量でも洗濯ができて販売時の箱のサイズも1/4程度となる、いわゆる 「コンパクト洗剤」 として、旧アタックの全面リニューアルの形でこの製品を販売します。 その際、これまで大箱に入った洗剤を大量に使って洗濯してきた顧客層に 「量が減っただけではないか」「洗浄力が落ちるのではないか」 との不安を感じさせないよう、わざわざ洗剤の適切な量を測る計量用スプーンを付属し、「少ない量でもこれまで以上に真っ白になります」「買い物の時や家に置く時にも、箱が小さいから便利ですよ」 との猛烈なキャンペーンを行いました。
このキャンペーンは店頭でのデモを含む大規模なものでしたが、とりわけ洪水のように流されたテレビCMと、その際に流された 「わずかスプーン1杯で驚きの白さに」 というキャッチフレーズは、日本人なら誰でも知っているフレーズといって良いほどの広がり方をしたのでした。
ちなみに汚れ方にもよるとは云え、規定の洗濯物の量でもおおむね付属スプーンの1杯では不安を感じてそれ以上使っていた人が多かったようですし、スプーン付属を知らない人は、いわゆる食事用のスプーンで擦り切れ一杯と勘違いしがちなど錯誤狙いかとも思われたりもしましたが w、専用の計量スプーンできちんと量を計って使うと云うのが、何やら本格的な感じがしたものです。 大型洗剤の時代にも洗剤投入用のカップはありましたが、より専門的で科学的な裏付けのある形で提示した点が大きいのですね。
「驚きの白さ vs 金・銀・パールプレゼント」 の洗剤頂上決戦
なお花王のライバルとなるライオンは、同じく大型洗剤として1965年から 「ブルーダイヤ」 を販売していました。 欧米で人気のあった白い洗剤の粉の中に青い粉が混ざったいわゆるカラーミックス洗剤の日本初の製品であり、花王の旧アタックとは熾烈な販売競争を行っていました。
その後アタックがしばらくの販売終了期間を経てコンパクト化し登場するとほどなくして追従。 しかし洗剤などは消費者によほどのこだわりや特別な目的 (例えば油汚れが多いとか) がなければ、行きつけのスーパーで特売品になっている安い方を選ぶといった感じで、差別化は難しいものでしょう。 いきおい、スーパーなどへの売り込みとテレビCMや販促キャンペーンに力を入れることとなります。
ブルーダイヤのキャッチフレーズは 「うれしい白です」 でしたが、フレーズとして使いづらく、また販促キャンペーンで行ったプレゼント企画をリズミカルな歌に合わせてCMの最後に伝える 「金・銀・パールプレゼント」(小林亜星さん作詞作曲) のインパクトがあまりに強すぎ、本来のキャッチフレーズが ネタ として使われることはありませんでした。
その後洗濯用洗剤はさらに小型化したり、洗剤に 環境 への負荷低減や殺菌・消臭機能が強く求められるようになったり、洗濯機も二層式から全自動、ドラム式の洗濯機・衣類乾燥機に進化するなど時代の変化に合わせながら 「驚きの白さ vs 金・銀・パールプレゼント」 の争いは続きます。 その間にブランドイメージが古くなったアタックやブルーダイヤは名称を一部変えたり販売休止になったりリニューアル復活したりを繰り返しつつ、現在でも日用品コーナーの売り場で互いに火花を散らすこととなっています。
なお 「金・銀・パールプレゼント」 は間に休止時期もありつつ1966年から50年間以上もの長きにわたって続きましたが、2008年を最後に事実上の終了となっています。 森永チョコボールの金のエンゼル同様、筆者 は一度も当選券を見たことがありませんでしたが… (箱を開けるとラッキーカードという当たり券が金銀パールのプレゼント品に合わせて封入されていたらしいです…)。