全身を描くイラストは難しい… 「立ち絵」
「立ち絵」 とは、原則として キャラクター が立っている状態でおおむね正面から見た全身像のことです。 単に立っている姿を描いた 絵 なら立ち絵というわけではなく、全身が欠けることなくほぼ描かれている点が重要で、場合によっては少しかがんでいる、ちょっとしゃがんでいる状態も立ち絵として扱われます。 ただし完全に座っているような状態は、全身絵ではあるものの、通常立ち絵とは呼びません。
立ち絵の例 (有明いく子) |
立っている姿にもいろいろありますが、真正面から見た棒立ち状態のものから、体をひねった半後ろ姿のもの、完全な後ろ姿、あるいは手や足にポーズをつけたもの、何かを手に持っている、何かをしている状態なども立ち絵として扱われるケースが多いでしょう。 正面・側面・背面の3方向から見た図をまとめたものは 三面図 と呼ばれます。
ただし極端にデフォルメされた俯瞰 (上から見た状態) や仰望 (下から見上げた状態)、魚眼レンズ的に体の一部が誇張されたものは、立ち姿で全身が入っていても立ち絵とは見なされない場合もあります。 同様に2頭身や3頭身にデフォルメされた場合も、通常は SD絵 (スーパーデフォルメ絵) や ミニキャラ絵、ちびキャラ絵 (チビスタイル絵) と呼び、立ち絵とは呼ばないケースが多いでしょう。
ゲーム の世界では、キャラの膝から上あたりの正面もしくはやや斜めから見た立ち姿を立ち絵と呼ぶことが多いようです。 この場合、特定の決まった背景 (シーン) などはなく、その都度差し替えることを前提としたキャラ単独の イラスト となります。 合わせて喜怒哀楽といった表情や手のポーズ、シーンや季節ごとの服装の違いなどを 差分 として設け、一枚の立ち絵で様々なシチュエーションに合わせるような使い方が多いでしょう。 一方、背景がついて特定のシーン (イベント) のみで使う特別な絵は、イベント絵 とかスチルイラストと呼んだりします。
日ごろ顔ばかり描いている人にとっては敷居が高すぎる 「立ち絵」
一般に立ち絵を描く場合、人体のバランスの取り方や 「かわいく」「かっこよく」 といった描写を体全体を使ったポーズで表現しなくてはならないため、とても難しく感じるものです。 イラスト全体に占める顔や表情といった部分の割合は必然的に小さくなり、日ごろ顔ばかり描いている人には敷居が高く感じるものでしょう。
また背景を描かなくてはならない場合、全身像に合った大きな背景画までが求められ (まぁキャラの顔のアップを背景にしてごまかす場合 (顔背景) も多いですが)、マンガ ならともかく、一枚絵 で描く場合はこの点も難しく面倒だと感じられるポイントでしょうか。 そもそもキャラが好きで絵を描いている場合、立ち絵や全身像は描いていてあまり楽しくない (描く時間に対する コスパ が悪い) というのもあります。 魅力的な立ち絵のためには総合的な画力やセンス、そしてモチベーションが求められると云って良いかもしれません。
もちろんそこに 「積み重ね」 が必要なのは云うまでもありません。 得意な部分を伸ばすのも楽しいですが、苦手な部分をひたすら潰す作業は、地味 ですが画力アップにもっとも効果があるものでしょう。 受験勉強でも何でもそうですが、苦手な部分を残したまま積み重ねても土台がなければいずれ崩れます。 得意部分を伸ばすと瞬間的にものすごく絵が上手くなった気がしますが、長い目で見ると苦手を克服した人とでは比べ物にならないほどの差がついてしまうでしょう。
自分なりの基準を作ると、迷わなくなったり破綻しにくくなります
全身像となる立ち絵はバランスが難しいものです。 これから描き始める方の場合、まずは自分の好きな 同人作家 や 絵師 のイラストなどを参考にして練習するのが一番です。 何といってもモチベーションが高まりますし、描いていて楽しいのが一番です。 しかし可能であれば、実際の人体で学ぶ方がずっと理解が進みます。 いずれ好きな作家の真似絵で行き詰ったら、勉強し直すつもりで取り組むのが良いでしょう。
あまりにデフォルメされた真似絵ばかり描いていると、変な癖がついてしまうこともあります。 このサイトのこんな項目をお読みになる方なら、すでにある程度の お絵描き を通じて 「手癖」 はついている段階だと思いますので、「最初から基礎を学べばよかった」 と悔やんでいることもあると思いますが、誰だってみんな同じようなものです。 悲観せず、自分の レベル を上げるための練習だと思って気楽に取り組むようにしましょう。 レベルアップ を自分で感じると、それはもう嬉しいものです。
またキャラの個性にもよりますが、見た時にあまり違和感を覚えずに済むよう、人体の大まかな比率と、自分の絵柄や画風のイラストとしてアレンジできる限界は頭の中に知識として入っているといいかもしれません。
例えばスラリとした小顔の美しい女性を俗に 「八等身美人」 などと呼びますが、八等身基準で考えた場合、頭 (と首の一部) が1なら体は3、足が4の比率くらいが、何となくバランス良く見えるものです。 もちろんイラストなので、9等身でも10等身でも可能です。 逆に幼さを出したいなら、7等身、6等身に落とす場合もあります。 一般に萌えキャラは小学生から高校生あたりまでの年代の女性が多いですし、頭部は大きく描きがちですので、6等身や7等身あたりがもっとも多いかもしれません。 それぞれが作家の個性の範疇やキャラ年齢などに合ったバランスを会得するようにします。
また全身の高さのちょうど真ん中かやや下あたりが股下、両手を下ろして立った時に手首は股下あたり、足は膝上より膝下がやや長いと見栄えるとか、背中はS字カーブを描くようにするとか、やせ型なら身体で一番太いのは女性は腰回り、男性は胸周りとか、様々なセオリーや基準を自分なりに組み合わせて意識するようにしましょう。 いったん身につけば、ポーズ違いで描くたびに等身がブレて混乱するようなことも減らせるでしょう。 とはいえ顔などに比べると全身像を描く頻度は少ないため、安定するまでに時間もかかります。 自分なりの立ち絵を描いて、それを常に意識しながら描く方が破綻しにくくなるかも知れません。
筆者 も他人に偉そうにアドバイスできる画力など持っていませんが、絵を描く楽しみは十分わかるつもりです。 趣味 なんですから、楽しく描けるのが一番です。
おたく市場の拡大、Vtuber ブームで 「立ち絵」 の需要も急上昇
なお真正面から見たほぼ直立・棒立ち状態の立ち絵は、キャラの体格や着衣のディテール、他のキャラと並べた時の身長差などが分かりやすく、アニメ や ゲーム を制作する際の キャラクターデザイン (キャラデザ) の設定画として多用されます。 こうした直立・棒立ち状態の立ち絵は原則としてキャラの魅力ではなく、全体像やディテールをわかりやすく示すものなので、設定 を示す必要がない個人の オリジナル作品 や 二次創作 などの ファンアート では、あまり積極的に描かれることはありませんでした。
しかしその後、おたく・腐女子 をターゲットとした市場が拡大し、また VTuber (バーチャルYouTuber) や TRPG などが人気となると、素材や小道具としての立ち絵の 需要 が急上昇。 クラウドソーシング (ネット上で仕事のやり取りをするサービス) を使った作家や セミプロの絵師などにより、2018年あたりから立ち絵の制作や制作代行などが多くみられるようになりました。
このあたりになると、一定の レベル 以上の作品の場合、美大やその予備校、専門的な教育機関などで基礎から絵描きの技術を磨いた人たち、あるいは相当のキャリアを積んだ ベテラン勢 の独壇場みたいな状況もあります (魅力的な立ち絵は本当に難しいです)。 とくに仕事や副業でこれらの絵を描く場合、安定した品質とともに何よりスピードが大切ですから、ある程度は自作した既存絵のパーツ類の流用ができるとしても、趣味 の延長としてお金を稼ぐのは結構厳しそうです。 2022年以降は、生成系AIの発展もあり、異なる技術が求められるようにもなるかもしれません。
一方で、VTuber の アバター としての素材絵の場合、2D の絵を 3D のように動かせる 「Live2D」 といったツールが使いこなせてデータ作成までできると需要はかなり高いでしょう。