現在では広く絵をあらわすために使われる 「イラスト」
「イラスト」 とは、Illustration (イラストレーション)、図解や図版、挿絵などのことです。
現在の日本では広く 絵 一般を指す言葉としても使われていますが、いわゆる芸術・美術としての伝統的絵画とは区別し、比較的ライトな絵、もしくは 「コマ割りがされた マンガ」 ではないマンガチックな絵を指す言葉としても使われています (用途ではなく画風や絵の内容で区別するような使い方、イラスト風の絵をそのままイラストと呼ぶことが多い)。
「イラスト」 本来の意味は、わかりやすい図解や挿絵
本来の Illustration や Illustrate は、ラテン語の 「明るい」 を語源とし、それが転じて 「わかりやすい」「明快だ」 との意味で使われる言葉です。 すなわち書籍などの図版 (説明のための 概念 や情報の視覚化、そのための絵や図形、挿絵) としての絵のみをあらわし、そうした ジャンル を指す用語となります。
カメラや写真がない時代から、文字情報だけでは伝えきれない情報を伝えるための絵が、すなわちイラストレーションだったのですね (画風や内容ではなく、用途とそれに適した表現方法によって分ける使い方です)。
こうしたものは新聞や雑誌、ポスター、図鑑、その他の書籍全般に使われる図版としてヨーロッパなどで広く使われていましたが、言葉としてそれが日本にも伝播。 「イラスト」 と略され、ある種の和製英語のような形で独特の ニュアンス を持つ用語として戦後盛んに使われるようになっています。
ただし現在のマンガなどは新聞の挿絵や一コマ漫画と歴史的に無縁ではありませんから、言葉の連続性や美術史における関連性において、全く無関係だという訳ではありません。
「イラスト」 と略され、独自のニュアンスを持つ和製英語として定着
日本語における 「イラスト」 がこうした独特のニュアンスとなっているのは、一部を除き美術絵画とイラストとの作品様式の違いや用途の違いが時代を経るごとにあってないようなものとなっている点や、日本にこの言葉が入ってくる以前から、日本にそれをあらわす言葉が既に存在していた点などが大きな影響を与えています (前述した図解や図版、挿絵など)。 欧米のイラストレーションと日本のイラストとは意味が重なるところもある一方、かなり異なったニュアンスをも持っているのですね。
もっとも絵画とイラストの境界線についての難しさは、ヨーロッパなどでもイラストレーションという言葉が登場した頃から度々指摘されてはいます。 最初からその言葉があったところと、日本のように途中から使うようになったところとで、温度差があるということなのでしょう。 とくに略語の 「イラスト/ Illust」 は完全な和製英語で、欧米では通じない場合が多くなっています (日本のマンガやイラストが人気となる中で、そのままの意味でも通じるようにはなってきていますが)。
どのような 画材 や手法で描かれたものであっても、ラノベ などの挿絵を普通は絵画とは呼びませんが、同じ作品を額縁に入れて美術館に 展示 したら、絵画と呼ぶのも 普通に 思えます。 逆にいかにも芸術作品のような油絵を挿絵に使ったとしても、それをイラストと呼ぶのにはちょっとした違和感もあるでしょう。 ようは厳密な使い分けがないに等しい (少なくとも素人や 一般人 の間では)、独特の言葉なのだとも云えるかも知れません。
「イラストレーター」 と 「絵師」
なおイラストを描く人、作家 やデザイナーをイラストレーターと呼びます。 また同名のパソコンソフト (Illustrator) などもあります。 おたく や 同人 の世界では、絵師 といった呼び方もおなじみでしょう。