読者の理解を助けたり作品の 「顔」 になったり… 「挿絵」
「挿絵」 とは、書籍や雑誌などに挿入される イラスト やカット、説明図、ポンチ絵、あるいは写真といった図案のことです。 文字で記された内容の補足や補完として図による説明を行い、読者 の理解を深めたり想像力を補うといった役割があります。 また本文中のとくに重要な部分を選んで挿絵とすることで、読者の興味や関心をそこに向けたり、感情移入 を助ける役割を持つこともあります。
使われ方は様々で、ページの大部分を使うほど大きな 一枚絵 として挿入されることもあれば、小さなものを幾つか配置したり、単なる装飾の一部やアクセントとして小さな図案がレイアウトされることもあります。 巻頭に挿し入れられるものを 「口絵」、章の区切りなどに挿入されるものは 「扉絵」 と呼ぶこともあります。
書籍類における挿絵の扱いは様々です。 本文が主で挿絵が従とされるもの (本文だけなら 作品 として成立するが、挿絵だけでは成立しない) もあれば、本文と挿絵が同等のもの、挿絵がメインとなるものもあります。 一部の書籍、とりわけ おたく や 腐女子 といった人たちに近い部分では、ライトノベル (ラノベ) の 主人公 や ヒロイン といった登場人物を キャラクター として描いた挿絵が大きな存在感を持っています。 登場人物の容姿や 雰囲気 を魅力的な 作画 で提示し、読者に具体的でより深くキャラを想像してもらったり、物語 の舞台や 世界観 を理解しやすく示す効果もあります。
時代を下るごとにラノベにおける挿絵の重要性は高まり、単に本文中に挿し入れられるだけでなく、表紙 に大きく描かれたり、書籍そのものの プロモーション に作品の顔として用いられたりもします。 文章やそこで描かれる世界、設定 などはある程度の分量を読まなければ魅力が伝わりませんが、絵 なら見た瞬間に魅力やイメージが伝わるからで、入り口としての第一印象を担う役割という訳です。 ちなみにラノベが物語 (文章) の面白さというより、挿絵の魅力で人気となり売れることは、揶揄の ニュアンス を込めて 「絵売れ」「イラスト売れ」 などと呼びます。
ただし文章が中心の小説と マンガ の中間のように扱われるラノベ作品が増える中、挿絵が読者の自由な想像を阻害し、イメージを一方的に押し付ける結果になる場合もあります。 視覚情報が持つインパクトや情報量は圧倒的なため、本来ならばその作品に興味を持ってくれたかも知れない潜在的な読者を、イラストの好き嫌いや描かれる キャラデザ の好みだけで遠ざけてしまうのですね。 一方で、読者のイメージをある程度固定することで、人気が出た際には アニメ にしやすいという部分もあります。
時代によって変化はあれど、絵描きにとっては重要な仕事
昔から 商業 の世界では、挿絵は 絵描き にとって極めて重要な仕事だと認識されています。 まだ ネット もなく ゲーム もないかあってもグラフィックは発展途上、また 同人 や 同人イベント などもさほど大きなものではなかった時代、「絵で飯を食う」 というハードルは極めて高く、一部の漫画家やアニメ制作関係、著名な画家でなければ、商業で絵を描いてお金を稼ぐには挿絵がもっともポピュラーな仕事のひとつでした (漫画家兼挿絵描きみたいな、兼業している人も多かったです)。 とくに1980年代から1990年代にかけては雑誌の時代と呼んでも差し支えないほど媒体としての雑誌に勢いがあり、数多くの絵描きが様々な雑誌で腕を振るっていました。
ネットや同人の世界が大きくなった現在では様々なマネタイズ方法が登場して収入面ではかなり変化がありましたが、それでも大手出版社の商業出版で絵を描くという行為がある種の ステータス になっている部分はあります。 とはいえ、作家性を前面に出せる挿絵と、ほとんど フリー素材 と変わらないような、ある意味で 「誰が描いていても大差ない」 みたいな名前の出ない挿絵描きでは、仕事のランクも得られる対価も大きな違いがあります。
魅力ある挿絵を描く 作家 は挿絵作家や画家と呼ばれ、人気挿絵作家のイラストをまとめた個展が開かれたり、画集が発売されることもあります。 漫画家と並ぶ商業出版における絵描きの花形職であり (とくに一流雑誌の表紙も描ける絵描きは別格でした)、アーティストであると同時に職人でもある魅力的な仕事でしょう。 その後は雑誌業界も衰退が進み、かつてのように新雑誌創刊やら相次ぐ別刊・増刊で大量の挿絵が必要になったり、企業案件 の PR記事でまとまった収入が得られるような時代でもなくなりました。 本当に実力のある絵描きにとっては、これからが勝負なのかも知れません。 まぁ今さら紙媒体にこだわる必要もないかも知れませんが。
同人における挿絵
同人の世界における挿絵でもっとも多く見かけるのは、マンガの 同人誌 で作者が巻末などに載せる後書きや フリートーク に添えたイラストなどでしょう。 また小説や SS を書いて、そこに自分の描いたイラストを挿絵として入れているケースもあります。
同人の世界では絵描きと 字書き はわりときっぱり別れている場合が少なくないのですが、絵も文章も描ける人も結構いて、市販のラノベのような体裁にまとめたり、実験的な作品を創作して楽しんでいる人もいます。 とくに若年層は、まだ自分がどちらをメインに活動するか決まっていなくて、絵を描いたり文章を書いたり (さらには コスプレ したり衣装を創ったり) を同時並行でやっている人も結構いますね。
一方、字書きメインで活動していて、知り合いや自分の好きな 絵師 に挿絵を頼んで小説本を創っている サークル もあります。 これ自体はありふれた本の形でありまったく問題はないのですが、表紙に大きく 二次創作 の人気キャラの絵などを入れて スペース に並べると、「マンガ本だと勘違い」 して購入する人もいて、ちょっとした トラブル を招くことがあります。 勘違いから生じるトラブルくらいくだらないことはないので、それとわかるように並べることが大切でしょう。