察してください…「大人の事情」
「大人の事情」 とは、不合理・理不尽な決定に何らかの経済的・政治的、あるいは縁故や遺恨、業界の既得権・慣習・しがらみといったあれこれがあった場合に、それをそれとなくぼかして示すための表現のひとつです。 はっきりと 「何々が理由だ」「原因だ」 とは口外できないゆえの言い回しであり、当事者がそのまま自嘲気味に使うこともあれば、部外者による邪推で使われることもあります。 「謎の力」「ふしぎなちから」 みたいな云い方になることもあります。
おたく や 腐女子、あるいは 同人 の世界で云えば、マンガ や アニメ といった コンテンツ の突然の連載打ち切りや放送中止、出演者の急な降板、原作とその派生作品とで 世界観 や 設定、キャラ の名前や性格が不自然に変わるなど、不可解で無理やり、しばしば 残念 な結果に終わるあれこれの裏事情がよく話題に上るでしょう。
その原因はおおむねビジネス上の金銭にまつわる損得勘定や権利問題だったり、関係者の不祥事や失踪、馴れ合い、内容に不適切なものがあるなどあまり表沙汰にできないようなもので、少なくともそのコンテンツの内容や 質 とは直接的な関係がない舞台裏の話が多くなります。 ただし関係者の健康問題などは止むを得ない事情であって公表もできますから、本来の表沙汰に出来ない理由を隠して関係者の体調不良などと言い繕って発表することもあります。
また大人の事情であることをぼかす言い回しとして 「お察しください」 が使われることもあります。
大人はいつだって薄汚れているもの…
似たような ニュアンス の言葉に 「大人の考え方」 とか 「大人のやり方」「大人の解決策」 があります。 いずれも大っぴらにできるような公平で筋の通ったものではなく、不透明で後ろめたいものやお金で解決といったダークなイメージがある言葉でしょう。 これは公平さとか 正義 といった正論を青臭いキレイごと、子供じみた理想論だとして、そうではないものを大人と表現するからです。 汚れちまった大人のやり方という訳ですね。
実際のところ、政治的な話でもビジネスでもコンテンツでも、個人で好き勝手にものごとを決めることができるケースは稀です。 また一見不合理な決定でも誰かの顔を立てたり筋を通さないと一歩も先に進まないような状況もあります。 とはいえ不人気で打ち切りのような身も蓋もないながら止むを得ない決定ならともかく、成功しているコンテンツでその成功の立役者である重要人物が突然更迭され、後から訳の分からない人物がしゃしゃり出てきて台無しにしてしまうような状況を見ると、ファン なら納得できないこともあります。
ちなみに 大人のおもちゃ はただのおもちゃです。
お金の問題、感情の問題、ドロドロした政治やビジネスの世界
大人の事情は、ある意味で透明性とは真逆の姿勢を示すものです。 なぜそのような決定に至ったのか、決めたのは誰なのかが分からなければ、成功にしろ失敗にしろ正しく状況を判断し、その理由が原因を求めることはできません。
大人の事情と呼ばれるケースで多いのは、お金の問題 (利益の拡大とか皮算用) や感情の問題 (関係者らのメンツや嫉妬) で、そのどちらも 「物言えば唇寒し」 というか、聞いた人に不快感や怒り、呆れるといった感情を呼び起こすものが多いでしょう。 もちろんそれらの事情で変更されたことで大成功した場合は、わざわざ大人の事情などと呼ばず、「関係者が適切に判断した結果だ」 と肯定的に評価もされるでしょう。 大して成功してないか、大失敗した後の戦犯探しにおいて、責任の所在をあいまいにしたり、裏事情を察して揶揄するための言葉が結果的に大人の事情になるだけのことです。
民間企業同士の利益獲得競争における大人の事情は、まだ半分は理解できる部分もあります。 誰だって自分たちが利益を得たり、得られたであろう利益を失いかねない状況を目の当たりにすれば、それを避けたいと思うのは自然です。 自分が 「大人の事情」 という力を行使できる立場にあれば、何らかのアクションを起こしたくもなるでしょう。 利益を得ることが目的の企業であれば、それは当たり前だとも云えます。
しかし大企業や古い企業が社会的なルールや法律を捻じ曲げてまで、新しく立ち上がった技術やビジネスを潰すのは社会全体の利益に対する挑戦ですし、行政やらを巻き込んでのそれには、強い透明性が必要でしょう。 また世界がグローバルな市場経済へと進む中、国内で足の引っ張り合いをしているうちに、おいしいところを全部外資系企業に奪われるのも、それはそれでバカげた話でしょう。
一方、関係者らの個人的なメンツや嫉妬が原因となっているものについては、大人の滋養というよりむしろ子供っぽい幼稚な理由のような感じもしますが、利害関係を力ずくで調整したり物事を決められる立場にある人物にとってはメンツは何より大切でビジネスの種でもありますし、嫉妬はどんな人間でももっているものでしょう。 社会を動かすのが人間で、人間から嫉妬や感情のしこりが除けない以上は、これは人間社会の宿命とも云えるものです。
いずれにせよ、大人の事情をどう克服し、場合によっては利用するのか、面倒くさいものの、人や社会のルールがからむものを作り発表するのなら、覚悟が必要な部分なのかも知れません。