これがわたしの生きる道…なりたい自分になるのは今! 「バ美肉」
「バ美肉」(バびにく)とは、「バーチャル美少女受肉」 の略語です。バーチャル (仮想的) な美少女とは、2D・3D で描かれた女の子の イラスト や CG を使った アバター (キャラクター)・バーチャルアイドル のことで、「受肉」 とはこのバーチャルな肉体を手に入れた、それを使って配信をするといった意味の言葉です。 もっぱら2017年頃から盛り上がる Vtuber (バーチャル ユーチューバー) の文脈で使われます。
言葉としてはこの通りなのですが、女性がバーチャルな女性キャラを受肉しても、それはそれでそのまんまではあるので、実際は男性、それも中年男性が美少女キャラを受肉すること、より端的に云えば何らかの方法を使っておっさんが 萌え萌え な女の子っぽい声を出して美少女キャラに なりきる といった直接的な ニュアンス があります (バ美肉おじさん)。 言葉そのものも、実際にバ美肉した人たちが 「バーチャル美少女受肉 おじさん 達がワイワイすること」 を 「地獄のような状態」 と 自虐的・自嘲的に ネタ っぽく表現したことが発端で生じています (2018年6月から活動開始した漫画家・絵師 で人気 Vtuber の魔王マグロナさん)。
なお 「受肉」 という言葉については、2018年4月に人気 Vtuber の月ノ美兎さん (委員長) が3Dモデルのお披露目イベントで発言した言葉に由来しており、ご本人がそうであるように、元々は演者 (中の人・魂) の性別とは無関係に、美少女風のアバターを使った活動全般を指す言葉として使われていました。 しかし前述したように男性 Vtuber によるバーチャル美少女受肉が話題となり、略されて広く 「バ美肉」 と呼ばれるようになったのでした。
声そのものは、いかにもバ美肉っぽい女声風のものもあれば男声まるだしの地声もあったり、あえてケロケロとした機械的な音声に変調して性別不詳な声にする、ひたすら無言を貫く場合もあります。 一方、バ美肉が言葉としても行為としても広がって一般化すると、一部では本物の女性としか思えないほどの完成度のバ美肉が多数現れるようになります。 中の人の性別が明らかでない場合にバ美肉かそうでないかの疑問や疑惑が生じるようになっています。
さらには一般に女性っぽくないと思われがちなハスキーな声だったり、取り上げる話題が女性らしからぬ男性っぽいもの、あるいは下ネタがやたらと多かったりすると、正真正銘の女性Vに対して 「まるで中身はおっさん」「おやじギャル」 の意味でバ美肉呼ばわりするような逆転現象も生じています。 女性が男声によって男性Vになりきる場合は 「バイ肉」(バーチャルイケメン受肉/ 梅肉) や 「逆バ美肉」 と呼ぶこともあります。
裏声、ボイチェン、両声類…女声の実現は難しい…
男性が女声を出す部分については個人差があまりに大きく、それほど努力しなくてもそれっぽく聞こえる声が出せる人もいれば、どれほど頑張っても上手くいかない人もいます。 一般的に声変わりを終えた成人男声は低め、女声は高めと認識されますが、それ以外に声質の濁りとかしゃべり方、独特のイントネーション違いなど、様々な苦労があります。
男性かつ地声が男声でありながら、素の状態である程度自由に女声が出せることを俗に両声類などと呼び、そのためのトレーニング方法を両声類トレーニングなどと呼びますが、これらも声質の適性の有無が結構あり、どう頑張っても無理な人は無理だったりするのが辛いところです。
いわゆる裏声ならばそれっぽい声を出せはしますが、ほんの一瞬だけ裏声を使うならともかく、ゲーム の配信などで数十分間しゃべりっぱなしはかなりきつく、また深夜に一人で裏声で 実況 などしようものなら、「俺…何してるんだろう…」 と素に戻った 虚無感 がハンパありません。 また明らかに声帯に負荷をかけているので、たぶん長期にわたって活動するのは危険な感じもします。
「バ美肉」 御用達アプリといえばボイチェン 「恋声」 |
名称もほぼそのまんまのボイチェン 「バ美声」 |
それではと、道具の力に頼ってボイチェン (ボイスチェンジャー/ VC) を使うという手もあります。 パソコンなどにインストールし、マイク (入力) と配信アプリや録音用のレコーダー (出力) との間に入れて音声データを変調するもので (後述します)、おおむねピッチ (声の高さ) とフォルマント (声の性質) の調整によって女性っぽい音声にします。
しかしこれも素の男声をそのまま女声に変調・変換できるようなものではなく、ある程度までは個々人の持つ声質やトレーニングを含めた声作り・しゃべりの技術、マイクを含めた機材の準備や調整が必要です (雑 に変調しただけだとノイズや音切れが生じたり、単にカン高いだけのガビガビ声やケロケロ声になったりする)。 バ美肉アプリと相性が良く女声っぽく変調できる元声が出せる人は適合者などと呼びます。 持って生まれた才能ですね。
調声ではなくあらかじめ登録された女声データに変換するタイプのボイチェン (AIボイスチェンジャー) もありますが、こちらも元声との相性や影響からは逃れられず、やりすぎると聴きづらい不自然な声になりますし、上手くいったところで完全に別人の声になるなら、わざわざ地声で録音する必要はないかもしれず (配信はともかく、動画なら普通に読み上げソフトでいいじゃん、みたいな)、選択肢は多々あれど実際に選べる方法は限られているのが現状でしょう。
萌えアニメの美少女キャラの声だろうが普通の女性のおしゃべりだろうが、いかにも女性っぽい声やおしゃべりは、声質よりもむしろイントネーションや全体のバランスの方がより重要です。 AIボイチェンも基本的には元声の影響をそれなりに受けるものなので、しゃべり方やイントネーションなどは相当強く意識して変えないと完全に女性っぽいしゃべりにはなりません。
また AI系のツールはそれなりのパソコンの能力が必要な上、処理に時間がかかって 遅延 (ラグ) もあるため、ゲーム実況などでは色々と工夫も必要です。 道具は進化していますが、非適合者が気軽に使えるようになるのはまだまだ難しそうです。 さらに完全に会得したらしたで、それはそれで日常生活で支障をきたしそうな気もします。 やっぱり日常会話などでついボイチェン前提のしゃべり方などが出てしまいますし。
筆者 もあれこれやってはいるものの、どうにも上手くいきません。 てか、英会話学習でシャワー浴びるが如く大量のヒアリングが効果大って話があるけれど、オタ歴うん十年で膨大な萌え声をインプットし続けてるのにバ美肉でガラガラエッジ声の漢しゃべりしかアウトプットできないのまじ理解に苦しみます。 両声類トレーニングでリップロールしすぎて唇がかゆいです。
AI 関係では RVC と VCClient を使ったボイチェンは話題になってすぐに試してかなりいい感じになっていますが、RVC データの自作 (独自構築) には手間取ってます。 誰かになりすますつもりはないので完全に別人の声になっては意味がないですし、権利関係のあれこれもあって面倒が多いです。 一応、自作した台本 (読み原稿) を仕事でお付き合いのある声優・ナレーターさんやお気に入りのVさんに頼み込んで音声データにしてもらい、権利的に問題のないモデルを作って挑戦中です。
念のため、文書で業務としての発注をかけ、ネット や金融機関上に改変不能な日時の履歴を残すため、わざわざ間に クラウドソーシング を挟んで音声データと報酬のやり取りをしていたりもします。 こんなサイトをやっている関係上、AI系のツールを使って 「誰かの声に似てる」 と疑われた際に使っている音声モデルが法的・倫理的に問題のない出所や自作・独自であるとの明確な証明や反論ができないと、昨今の AI 関係の話題を見るにちょっと怖いです。 いくら声質やしゃべり方の癖そのものに 著作権 や肖像権はないとは云え、音声系AI は2023年春以降は品質向上による流行もあって、人格権やらパブリシティー権やらも絡んで著名人の音声を勝手に使った音声モデルによるなりすまし (違法性が高い) が問題視されていますし、とくに 2022年7月登場の Midjourney 以降の 画像 生成AI の状況を見るに、AI がらみの話題では法的な問題や理屈ではなく感情の部分も大きいので。
おたくっぽいイラストや 3D データ (MMD とか VRM とか)、音楽 (BGM) や効果音 (SE) などもそうですが、商業 でいう レンポジ (画像素材) のような明確な決まりがまだないフォーマットやプラットフォームからの素材調達では、基本的には個人間のやり取りとなって規約や権利関係が面倒くさいのでついつい自作・独自志向になりがちで (作るのが楽しいってのもありますが) いつも出遅れてしまいます…。 元々 機材オタ のケがあるし、道具や環境を整えて満足みたいなケースが多くなりがちです。 ともあれ、できる限り地声の調音やそれに近い声質で何とかしたいんですが…。
実際にバ美肉するには…
ボイチェンを使った地声によるバ美肉の場合は、自分の音声を拾うマイクと 定番 のボイチェンアプリ 「恋声」 や 「バ美声」 などが必要になります。 またリアルタイムで音声を変えてネットでボイスチャット (トークアプリの Discord とか) や配信をする場合は、これに加えボイチェンを仮想マイクとして使うための仮想オーディオデバイス (VB-CABLE (VB-Audio Virtual Apps) とか) と配信用のアプリ (OBS とか) が必要になります。 これらが一体化したお手軽なものもありますが、男声を女声に変える用途としてはあまり実用性は高くないかもしれません (声の相性にもよりますが、変調精度が低いです)。 音声確認と、スピーカー出力に伴うハウリングや音声ループを避けるためのヘッドフォンも必須でしょう。
もちろんこの他に、キャラを動かすために仮想カメラアプリ (バーチャルアバターツール FaceRig (フェイスリグ) とか VTube Studio、3tene (ミテネ) とか) と、それをフェイストラッキングして動かす Web カメラ も必要です。 色々と必要ではありますが、いずれも無料か数千円程度で準備できます。 それぞれの導入は簡単で、外部デバイスはおおむね USB を挿すだけ、アプリもインストールして実行するだけです。 予算があったり凝りたい場合は、ちゃんとしたマイクとライブストリーミング用の音声ミキサーを別途購入しても良いでしょう。 いずれもちょっとパソコンに詳しい人なら難なく準備できるものばかりです。
とはいえマイクやアプリを導入しても認識されなくて先に進めないとか (たいていセキュリティソフトや Windows の分かりにくい 設定 が邪魔してる)、ドライバやフリーウェアソフトの ダウンロード やインストールがわからない、mp3 データを wav データに変換する方法が分からない、あるいは zip ファイルの解凍がどうしたみたいな初歩的なところから始める人はちょっと苦労するかもしれません。
これらは使いこなせるようになって損はないのでこれを機会に覚えてしまうのが良いと思いますが、ある程度割りきるならスマホだけでも簡単に試すことができるようになってきています。 機材や音声、キャラクターモデルなどにお金や労力をかけるのは手っ取り早く配信の品質を高める方法ではありますが、凝りだしたらキリがありませんし、今を時めく人気Vでも、デビュー当時はスマホに静止画で配信していたような人もいます。 人気を得ようとしたら、最終的には中の人の個性や能力、SNS での宣伝やコミュニケーション能力がモノを言う身も蓋もない実力勝負の世界でもあるので、まずは最初の一歩を踏み出す勇気が大切と云うことでしょうか。
ただまぁ多くのバ美肉指向の配信者は、人気を得たいとかお金儲けしたいというよりは、自分が理想とするかわいらしい女の子になりたい、かわいい声が出したいというアイデンティティにも関わるような内的欲求が活動するモチベーションだったりもするので、ここらは何とも云えない部分はあります。 成人中年男性の99.4%は美少女になりたいので (週末の地下鉄日比谷線車両内だと100%)、需要 がある限りはツール類も進化していくのでしょう。
ちなみに筆者が好きで追っているある配信者さんは、自作キャラによる セルフ受肉 のバ美肉なのですが、活動を開始した最初の方こそ ド素人 の筆者が見てもキャラ絵も声も (失礼ながら) ぎこちなくてもう一歩みたいな状態ではあったのですが、理想の姿を実現するため工夫や努力を重ね、絵は上手くなるわモデリングは洗練されるわ声もどんどん可愛くなるわで、オリジナルソングによる自身の PV まで創って毎日楽しそうに配信しています。 自分の大好きを前面に出して活動するその一途な姿は正直かっこいいし健気だし美しいし感銘を受けるし、自分もそうなりたいと強く思う憧れの存在となっています。 好きなもののために頑張っている人は見ていて 胸が熱くなる し気持ちがいいです。
バ美肉の、告知・カミングアウトするしない問題
バ美肉 (というか、異性のなりきり) については、明示的に告知 (カミングアウト) すべきとする意見と、その必要がないという意見の両方があります。 個人的には、何らかの悪意を持って偽りの性別やら 属性名乗り をするのは リスナー やボイスチャットの通話相手に対して不誠実な行為だと思いますが、そうでなければイラストやモデルといったガワ (外見) も含めて、「皆様のご想像にお任せします」 で別に構わないという感じはします。
一般の YouTuber (ユーチューバー) や配信者のように 顔出し で配信せずにわざわざガワを被り声まで作る以上は、常識的に考えて素の自分は出したくないし出しませんよと云う意思表示でもあるし、Vtuber それ自体をひとつの独立したキャラや個性として見た場合、必要以上に中の人を意識させる個人情報や メタ発言 を嫌うリスナーだっています。 それは MMO などのゲームにおける プレイヤー 同士の関係においても同様でしょう。 性別がはっきりすることで、ずっと良好だった人間関係が壊れてしまうこともあります。
このあたりは年齢詐称 (サバ読み) などもそうですが、Vtuber の場合は 「キャラ設定」 もあるのですから、中の人とキャラの プロフィール が同一でなければならないという方が窮屈だし不粋だし非現実的な感じがします。 そもそもことさらに性別にこだわる人は、画面の向こう側にいて素は出しませんと宣言している存在に、いったい何を期待しているんだ、みたいな違和感も覚えます。 っていうか、おっさんの描いたエロマンガで 抜いてる くせに、おっさんの捻りだすエロボイスで抜けないってどんな了見なん? そこは Fantia で ASMR 買ってこそだろみたいな。
とはいえ、バ美肉に対して拒否反応を持つ人も少なくないので、事前にそれと分かるように告知する、ネタ の範囲でバ美肉であることをそれとなく 匂わせ たり仄めかす、あるいは少なくとも配信や通話などで 「女性です」 と虚偽を マジレス な感じで宣言するのは控えるといった配慮はあってもいいかもしれません。 女性だと勝手に思い込んで ガチ恋 したあげく、バ美肉だと気づいて欺かれた裏切られたと逆上して 反転アンチ なられても面倒ですし。
魔法使いや妖精や吸血鬼や宇宙人を名乗っても許されるのがVの世界。 実際の年齢性別を問わず Vtuber は17歳女子高生だらけですが、設定がダメなら全員アウトになってしまいます。 虚構を含めて楽しむのが 紳士・淑女のたしなみといったところでしょう。 もっとも、出会いを目的にV活動をはじめ、女性のふりをして個人的に女性に近づこうとする不心得者もいますから、このあたりはケースバイケースで考えた方が良い場合もあります。
自分の大好きを形にしたり、リスナーやゲーム仲間を楽しませるための エンタメ としての演技か、それとも人をだまして利益を得るためのなりすまし・詐欺行為か。 人の多様性を受け止めつつ、ちゃんと見抜く目はもちたいものですね。