自分でキャラやモデルを作成すると思い入れもひとしお 「セルフ受肉」
「セルフ受肉」 とは、もっぱら Vtuber (ブイチューバー) が自身の活動上の身体となる 2D や 3D の キャラクター・アバター を自作して 配信者 や 活動者 となることです。 すなわち自前の イラスト や CG、モデルを使った 受肉 (活動上の身体を得る) という意味になります。第三者にキャラやモデルを依頼するケースが増え、それと差別化する言葉として
元々 趣味 としての活動では、自作による オリジナルキャラ (うちの子) を使うケースは少なくないものでした。 おたく や 同人 の世界ではイラストを描く人は 一般人 に比べて遥かに多くいるものですし、面白フラッシュや動画を制作したり配信を行うと云ったクリエイティブな活動を志向する人なら、その傾向はさらに強いものだったからです。
また本格的な 動画共有サイト が登場する前の1990年代末から2000年代にかけてあたりまでは、フリーで使えるイラストなどの 素材 に、いかにもおたく向けや 萌え っぽい絵柄のものがほぼ存在しない時代だったこともあります。 誰かに依頼しようにも、後の クラウドソーシングサービス といった受発注のためのプラットフォームもなく、友人知人に漫画家や 絵師 がいなければ、誰かの絵や 画像 を無断で使う (違法) か、自分で描くしか方法がなかったのですね。
しかし ネット が普及しニコニコ動画や Youtube といった動画サイトが人気となる中で、環境 も一変。 音声合成エンジン (テキスト読み上げ系アプリ) で用いられる第三者が制作したキャラやアバターが増えたり (例えば ゆっくり と呼ばれる 「東方Project」 の登場キャラ、霧雨魔理沙と博麗霊夢の SofTalk とか、ボイスロイド (ボイロ) やボイスボックス (ボイボ) と呼ばれる東北ずん子や琴葉茜・葵姉妹など)、あるいは初期の企業系 (箱系) Vtuber らがプロによるキャラ・モデル制作を行うなど、「ガワ (外見)」 と 「中の人 (演者・魂)」 とが別々といったケースが当たり前になってきました。 その結果、これらとは異なる絵師本人による 「自作キャラ なりきり」「自作自演」 な活動を指す言葉として2018年あたりから、セルフ受肉が広く用いられるようになったのでした。
なお男性 (というか おじさん) が、発声訓練やボイスチェンジャーによる変調・調声で女性キャラに女性っぽい音声で声を当てて活動することは バ美肉 (バーチャル美少女受肉おじさん) と呼びます。 また自作をしない場合、キャラやモデルの作成を第三者に依頼することとなりますが、キャラデザ や キャラ絵 を担当した絵師は ママ、アバターのモデリングを担当したモデラーはパパと呼びます。
自分のキャラなら、自分の思うように動かせる
セルフ受肉の魅力は様々ありますが、自分が描いて自分が創ったキャラが自分の分身としてイキイキと動くのが楽しいといった心理的な部分や、自分で描いたりモデルを作ればお金もかからないといったコスト面以外にもメリットがあります。 それは自己責任で自由にキャラが使えるというメリットです。
前述したゆっくり系やボイロ系のキャラなどは、ほぼ無料で使える上に 「ゆっくりだから見る」「ボイロが好きだから見る」 というファン層を取り込めるメリットがある一方、活動の範囲が規約で縛られています。 商用利用ができなかったり、特定の テーマ で使えなかったりです (例えば政治・宗教の話題や差別的なもの、誹謗中傷や 成人向け はNGとか)。 規約自体はかなり緩いものですし、そのゆるい規約すら守れないような内容の動画はそもそも Youtube などに アップ しても消されたり収益化が通らなかったりするので問題にならない部分もあるのですが、モラル的に批判されるような使い方を続けると トラブル が生じたり、場合によっては 炎上 して活動が続けられなくなることもあります。
またこれらのキャラはそれぞれの 作者 のものであると同時に他の活動者や ファン を含めた 「みんなのもの」 でもあるので、勝手に独自の 設定 や 解釈、一般に好ましくないと考えられがちな個性や人格を付与して 私物化 するような行為は避けるべきでしょう。 このあたりは 「ファン活動や 二次創作 には多かれ少なかれ独自設定や解釈はつきもの」 という部分もあって結構難しくはあるのですが、ファンアート の範疇を超えて自分がやりたいように活動するために使うのなら、厚意で用意された他人のキャラではなく、自作にせよ誰かに依頼するにせよ、自分で用意したキャラでやれってのは、ある意味で当たり前の話ではあるのでしょう。
セルフ受肉でオリキャラならば、こうした問題は解決します。 全ては作者本人の自己責任で行え、他人にキャラ使用の部分で迷惑や不快感を与えずに済みます。 著作権 といった権利関係も整理できるため、仮に人気が集まって個人活動の範囲を超える規模となっても、スムーズに商用活動につなぐこともできます (もっとも、ゆっくりやボイスロイド人気にあやかれないため、人気を得るどころか 認知 されるだけでも一苦労ですが)。 また活動中にファンや リスナー の意見を取り入れて 「より可愛く」「魅力的な」 キャラやモデルへと細かく アップデート し続けることもできます。
ちなみに前述した 「ゆっくりだから見る」「ボイロが好きだから見る」 というファン層を取り込むためにゆっくりやボイロ系キャラを用いて動画の 投稿 や配信をはじめ、人気が出てチャンネル登録者数などが増えたらオリキャラに切り替えると云った活動をしている人もいます。 「他人の人気キャラを利用してデビューしておいて自分が人気になったら切り捨てかよ」 と反発を覚える人も少なくありませんが、これらのキャラ (あるいはそれを含めたプロジェクト) には 「動画制作者の育成や動画デビューのためのインフラ」 といった意義もあるので、一概に ネガティブ に捉えるのも違うのかなと思います。
キャラや 絵 が描けなくて (あるいは原稿読みの声出しができなくて) 動画作成をためらっている才能が、これによって面白い コンテンツ を投稿するようになれば、関わる人全てにメリットがあるでしょう。 そもそもゆっくりキャラやボイロキャラがこれほど人気になったのも、元々のキャラが持つ魅力はもちろん、志ある多くの絵師が魅力的な 立ち絵 を描いて素材として提供したり、動画制作者が素晴らしい作品を生み出して 界隈 を盛り上げてきたからそこです。 魅力的な独自設定が多くのファンに支持され、公式 なものになることもあります。 規約を守り、そのキャラやキャラの作者に リスペクト を持って活動することが大切なのでしょう。
まぁ動画や配信、Vtuber の世界が大きくなり、多額のお金が動くようになると、よくわからない業者が参入してきて規約違反を繰り返したり、自動生成したような動画の粗製乱造をするようにもなっているので、そのあたりはなんだかなぁ…という感じがしますが。