二次創作の生殺与奪を握る神にも等しい存在… 「公式」
「公式」 とは公 (おおやけ) のルールに則って行われ公から広く認められているもの、正当な権利を持つもの、そうした存在が公に行う物事や発言、見解のことです。 パロディ などの 二次創作 を扱う 同人 の世界においては、二次創作の 元ネタ となる オリジナル の作品や コンテンツ、あるいはその 著作権 を持つ個人や組織、版権元 を指すものと認識されます。
例えばオリジナル作品が マンガ なら、マンガの 作者 や作品が連載された雑誌や編集、出版社などが公式となります。 アニメ なら、それらに加えアニメ制作会社や放送局、制作委員会などが、ゲーム ならゲーム制作会社、ネトゲ やソシャゲなら制作会社に加えて 運営 が、アイドルやタレントならば本人の他、所属する事務所などが公式に当たります。
なお単に 「本物です」 の意味で公式を使う場合もあります。 また近い意味の言葉として 「ご本尊」 などもあります。
「公式」 の存在感は時代とともに増大…派生語も様々
一昔前、端的に云えば ネット が普及する前までは、ファン にとって公式の存在はさほど大きくなく、また身近でもありませんでした。 しかし1990年代後期頃から インターネット が普及し、雑誌や新聞、テレビといった既存メディア以外のメディア、例えば ホームページ (ウェブサイト) や ツイッター などの SNS を使った情報発信が盛んになると、公式自身による様々な 告知 が頻繁に行われたり、何らかの トラブル が生じた際に正式な見解を示すなど、その存在感はより大きくなってきています。
公式がつく派生語やそれに類するものも様々あります。 例えば公式に発表された見解や情報なら 「公式発表」「公式コメント」、絵 や イラスト なら 「公式絵」、それを描いた作者 (絵師) は 「公式作者」 や 「公式絵師」、公式が 同人作家 や サークル などに参加を呼び掛けて直接創られた二次創作作品や 同人誌 などを 「公式同人」、公式に発売されたグッズや アイテム は 「公式グッズ」「公式アイテム」「純正品」、イベント などで公式のブースに配置される コスプレ (コスプレイヤー) を 「公式コスプレ」 と呼ぶなどです。
似た言葉に 「公認」 や 「黙認」 なども
同人との関係で云えば、似た言葉に 「公認」 もあります。 こちらは公式が直接制作を依頼したり発表したものではないけれど、明示的にその存在を認めた二次創作を指します。 こちらの場合、例えば 「ワンフェス」(ワンダーフェスティバル) などで1日版権許諾を受けたフィギュアやガレージキットのように権利関係がしっかり結ばれたものもあれば、単に公式の関係者が存在を知っていて好意的に触れたり紹介しただけのような、事実上の公認状態を指すような場合もあります。
なお公式や公認ではないけれど、その存在を知りつつ無視する、あるいは見て見ぬふりをすることは 「黙認」 あるいは 「非公式」 となります。 こちらは公式が公に個別の二次創作作品に対して言及したり態度を鮮明にするケースが極めて稀なため、外部からは憶測の域を出ず、その判定は極めて微妙ですが、おおむね好意的か少なくとも許容範囲内に見られているとの意味になります。 逆に公式が明確に否定する場合は、同じく 「非公式」 や 「非公認」 の他、単なる 「海賊版」 や 「著作権違反」「違法な作品」 となりますが、グッズ類ならともかく、マンガなどの二次創作を名指しで批判したり法的措置にまで踏み切るのも、非常に珍しいといって良いでしょう。
なお公式側に現在・過去問わず属する人間なり組織なりが、公式の発表ルートを通さずに私的に流した見解や情報は 「半公式」 や 「準公式」 あるいは 「事実上の公式」 となります。 ただしその後公式なルートでそれが追認されれば公式となります。 作品の作者や関係者 (出版社の担当者やプロデューサー、監督、スタッフ、声優など) の私的な コメント がそれにあたりますが、私的なものだとしても、そこで述べられた見解は二次創作やファン活動に対して、とても大きな影響を与えるケースが多いでしょう。 こうした点を踏まえ、公的な発表がしづらい話を、あえて関係者の口を通じて発表することもあります。
難しい 「公式」 と 「同人」 との関係
公式は、当然ながら法的にもオリジナル作品や二次創作作品に対して強い影響力を持ちます。 例えば公式が 「二次創作は禁止です」 と明言したら、その後その ジャンル で二次創作の活動を行うのは極めて難しいでしょう。 これは法的措置を取られるかどうか以前に、二次創作の多くが 「好きな作品で創作する ファンアート」 である以上、「公式がダメだといってるのにやるのはファンではない」 との倫理的な忌避感が生じてしまうからです。
またマンガやアニメ、ゲームや ラノベ といったコンテンツが、コミケ などの同人文化とビジネス上もより密接な関係を築く中、公式絵師と同人絵師 (非公式絵師) との関係も変わってきています。 例えば同人絵師が公式の仕事 (作品そのものへの参加の他、公式同人誌への寄稿など) を行った場合、それはもう同人絵師ではなく公式絵師ではないかとの意見もありますし、公式絵師になったのに同人活動を行うのは許されるのか (それはもう実質的な公式ではないのか) といった問題も生じます。
これは著作権者の意向や態度表明次第ではありますが、「公式の仕事をした以上、この作品で非公式の同人活動は今後しないこと」 のような契約関係が生じ、実質的にその個人のみ同人活動ができなくなる場合もありますし、公式と同人が関わることを嫌うファンから批判されたり攻撃される原因となったりもするからです。 公式のルートを通らないものは原則として全て非公式の扱いですが、感情的に割り切れないのですね。
例えば特定の カップリング で活躍していた同人絵師が公式の仕事をした場合、「公式がそのカップリングを認めた」 と受け取られるケースもあり、それ以外のカップリング、とくにそのカップリングと キャラ は同じで 受け・攻め の方向が逆になる 逆カプ のファンからは自らのジャンルが公式に否定されたとも受け取られ、猛反発が生じるといったケースもあります。
しかもこういったケースでは、純粋な作品ジャンルの話に留まらず、「公式に選ばれた絵師」 に対する、選ばれなかった絵師の個人的嫉妬が含まれている場合もあり、そうなると表面上は著作権がどうのとか作品の内容や 解釈 がどうのといいつつ、根本に私怨や逆恨みがあり結果的に単なる 人格攻撃 にも陥りがちで、ジャンル全体に 殺伐 とした隙間風が吹く原因になったりします。 公式と同人の直接的、あるいは間接的であっても 馴れ合い のような関係を嫌う人が多いのは、こうしたことがしばしば生じることにも理由にあります。
「公式」 の言動で作品人気も変化、「公式がアンチ」「公式が病気」
公式の 中の人 でも、クリエイターや 現場 に近いところではこうした独特の ニュアンス や機微に通じていて、「安易に同人ネタを公式でやるのはまずい」「同人作家に依頼する場合には様々なリスクがある」 といった判断ができ、コントロールが行き届いて作品人気につなげられる場合もあります。 しかし事情をよく知らない経営陣などが鶴の一声で安易に同人関係に手を 突っ込み、しなくてよい 炎上 などを引き起こして作品の評価を落としてしまうのは、見ていて現場が気の毒なケースもあります。
なお公式が問題のある言動を繰り返してファンらの ヘイト を煽り、アンチ に 燃料 を与えて作品人気の足を引っ張る状態とか、訳の分からない相手と コラボ などを行い、作品に意味不明で不快な色付けをすることを 「公式がアンチ」「公式が解釈違い」 などと呼びます。 コラボの場合、時代を下ると何でもありになってきてはいますが、とはいえ滅多にないとはいえ、健全・一般向け作品が公式の倒産や買収による権利移管などによって 18禁・成人向け なタイトルとしてリメイクしたりアダルト作品とコラボをするなど (エロゲ堕ち) は、おおむね熱心なファンからは毛嫌いされてしまうでしょう。
逆に公式の ノリ が良く、斜め上 にぶっ飛んだキャンペーンやイベントで人気と話題を集める場合は、好意的な意味で 「公式が 病気」 と呼ぶ場合もあります。 公式の内部で分裂が起こり見解の相違などにより言動がちぐはぐな場合は、ファンにとって望ましくない見解を示した方を 「公式が非公式」 と呼んだりもします。 なおこのあたりの言葉は、公式の態度やファンの立ち位置によってもかなり変わります。