仲間が消えたりワープしたり… 「タイムラグ」
「タイムラグ」(Time lag) あるいは単に 「ラグ」 とは、関連する事象や事柄の間に生じる時間的なズレのことです。 関連して即時・同時に変化すべき2つの事象の一方がもう一方より遅れた場合に 「タイムラグが生じた」「ラグがある」「ラグった」 と表現します。 「遅延」 や 「時間差」 と呼ぶこともあります。
例えば遠くで雷が起こった場合、音よりも光の方が伝わる速度が速いので、ピカッと光った後に少し遅れてゴロゴロと音が聴こえてきます。 この場合、雷鳴にはラグがあるとなります。 また ネット で誰かとやり取りをしたり ゲーム を一緒にプレイしている場合に、ネット回線の速度によって時間差が生じて一方がワンテンポ遅れる (画面表示が遅れて操作が遅れる・操作の反映が遅れる) といった場合も代表的なラグ (回線ラグ・通信ラグ) となります。
英語の 「lag」 が遅れという意味なので、あらゆるケースで遅延の意味でそのまま使われていますが、単に電車が遅れたとか寝坊して遅刻したなどの場合はラグとはなりません (レイト (late) と呼ぶことはあるかも)。 また海外などとの間で生じる時差そのものもラグではありません。 ただし時差によって朝や就業開始時刻が来るタイミングがずれ、それによって反応が遅くなることはラグと呼ぶこともあります。 あくまで密接に関連したものが リアルタイム・同時に同じ条件を得ていながら、何らかの原因によって一方にだけ遅延が生じた場合のみ使われる言葉になります。
通信速度を表現する一般的な言葉には 「レイテンシ」 も
なお通信における指標の一つ、一般的なネットワーク速度を表現するものの一つとして 「レイテンシ」(Latency/ 待ち時間・反応時間) があります。 サーバなどに処理やデータ転送の要求を出して、それが実行されたり実際に送られてくるまでの遅延時間を指し、サーバへの要求と応答を確認するためのコマンドである Ping の値で示されます。 サービス事業者やサービス内容によっても変わりますが、およそ 50ms (0.050秒) 以下が適切なレイテンシだとされることが多いでしょう。
レイテンシが小さいあるいは低いは遅延時間が短く速いこと、大きい高いは遅延時間が長く遅いことを指し、クラウド といった遠隔通信を伴うコンピュータ処理ではレイテンシ対策は重要となります。
日常生活における様々なラグ
日常生活においてもラグはしばしば発生します。 例えば電気製品が古くなってスイッチを押しても少しだけ遅れて反応するとか、海外などの遠隔地と電話や通信を行って会話のテンポがずれるなどが代表的でしょう。
また音が伝わる速度は思った以上に遅いもので (音速はおよそ1秒間に340メートル)、例えば野球場や運動場の離れた場所で行われている競技の音とか、これらの施設を用いたライブやコンサートなどでも容易に実感できるものです。 近年ではアイドルや声優のライブなどで観客がペンライト (ブレード) を用いることが増えていますが、みんなが楽曲の同じタイミングで光らせたり振ったり 色 を変えるなどしていても、音の伝わる速度が違うので会場音響の仕様によっては結構ズレたりします。
なかでも おたく や 腐女子、あるいは若者の間で使われるのは、ネットを使ったゲーム (ネトゲ) の通信ラグや処理ラグでしょう。 通信ラグは文字通りネット回線の遅延によって生じるもの、処理ラグはゲームを稼働しているサーバや プレイヤー が使っているゲーム機やパソコンの処理に遅延が生じることです。
ターン制や紙芝居形式のノベルゲームを一人だけで遊んでいるなら、多少ラグがあってもしばらく待てば良いだけです。 しかしアクションゲームなどではラグが生じると思ったように操作ができなくなりますし、複数人で一緒に遊ぶ場合、それぞれのラグによって進行速度がズレて共同行動がとりづらくなり、まともなプレイができなくなることもあります。
ラグの対応は回線由来なのか処理由来なのかで処理や症状が異なりますが、回線ラグなどでは動作が遅くなったり一時的に固まったりしつつ、あるタイミングで他のプレイヤーに無理やり合わせると云った形が多いかもしれません。 その場合、ラグが生じていないプレイヤーからは、ラグが生じているプレイヤーがいきなり止まって遅れたり、突然みんなと同じ場所までワープしたり、チャット が消えて無言になったりを繰り返すことになります。
またマップ間を移動するとか ボス との戦いで別画面に切り替わると云った演出がある場合、ラグがあるプレイヤーだけ弾かれて移動できなかったり、最悪 落ちる こともあります。 敵が アイテム を落とすといったゲームの場合、ラグがあると当然ドロップしたアイテムを拾うこともできませんし、プレイがしにくくなるだけでなく、プレイヤー間で何らかの トラブル が生じる原因になることさえあります。
ラグはラグが生じているプレイヤーだけが感じられることもあるので、仲間に 「ラグあります」(だから挙動がおかしくなるかも知れません) と事前に報告したり、それを聞いた方もゲームそれぞれのラグ対処法 (いったんどこかで待つとか、別マップやフィールドに移動した際に点呼を取るとか) を行うようにしたいものです。
煽りとしての 「ラグあるかもだけど」
「ラグ」 を何らかの遅延の言い訳に使ったり、場合によってはちょっとした冗談や 煽り に使うこともあります。 例えばネットでゲームプレイを 実況 している 配信者・生主 がいたとして、キャラ や ユニット の 装備品 や編成を間違えた、あるいは 攻略 するマップやステージ、ルート分岐などを間違えたといった ガバ をしてしまった際に、失敗が判明した後になって 「ラグあるかもだけど、それ間違ってますよ」 みたいな煽りやチャチャを入れることがあります。
実際はラグなど生じておらず、単に後出しで失敗したことをあげつらっているだけですが、ネットやネトゲにラグはしばしばつきものでもあるので、ちょっとした冗談や軽口として行うことがあります。 場合によってはラグなどないリアルな対面状態でも冗談で使うこともあります。
「光速は俺らには遅すぎる」 1フレーム単位で競う格ゲーの世界?
ラグに関する言葉には、2017年夏ごろに流行した 「光速は俺らには遅すぎる」 があります。 これはグランドジャンプWEB で連載された格闘ゲームの世界を描く マンガ 「電脳格技メフィストワルツ」 の中のセリフを 元ネタ とするフレーズです。 作中では格ゲー初心者の 主人公 フランに対し、ゲーセンでローカル対戦を行う筋肉質な格ゲープレイヤー桜庭が、「ネット対戦における通信ラグの恐ろしさ」 を説明します。
格ゲー上級者は画面を描写する1フレーム単位のシビアな攻防を繰り広げますが、光の速さ (秒速30万km) とフレームレート (一秒間にどれだけフレームを重ねるか/ 作中ではゲーム内の最小時間の単位と説明、1/60秒) とを比較し、1フレーム時間あたりで光が進む距離 5,000km (日本の端から端までの距離、およそ 2,500km の往復分) から遅延が発生する遠距離の相手とのネット対戦はそのシビアさに耐えられないと説明。 「俺らは 1/60秒の世界で 生きてる」「光速は 俺らには 遅すぎる」 と述べたものでした。
そのあまりにかっこいい イキリ 具合にネットでは大きな話題となり、ゲーセンはもとより、オンラインゲームでラグなどがあるとちょくちょく使われる、ある種の流行語となったのでした。 ちなみにこの桜庭は対戦の約束時間に遅刻するのですが、その際のセリフは 「…山手線は 俺らには遅すぎる」 でした (実際は寝坊しただけ)。
なおフレーム単位、一瞬の差で勝負がつく格ゲーにおいて、ネット回線のラグやら何やらで光と同じ速度と云えどもローカル環境に比べたら遅いという話はそれ以前にもありました。 また株式といった分野では、回線を通じてものすごい数の取り引きを人間では不可能な速度で機械的に繰り返しています。 ほんの一瞬で大きな利益や損失が出かねないため、取り引きシステムと地理的に近い場所に拠点を設けるなどは当たり前になっている部分もあります。 1秒間に地球を7周半もし、物理的に最速の存在である光も、技術の発展により 「遅いもの」 だという認識がされるのは、やっぱりかなりすごいことのような気がします。