整理したりネタがまとまったり脳汁が出たり… 「整う」
「整う」 あるいは 「ととのいました!」 とは、日常会話におけるくだけた表現、若者言葉としては 「準備ができた」「考えがまとまった」「体制や状況の具合がよくなった」「乱れや崩れなく正しく収まった」 といった広い意味で使われる言葉です。
もとより 普通 の日本語表現ではありますが、2010年のお笑いコンビのギャグ・決め台詞として、さらに2020年前後のサウナの入浴方法とそれによって得られる快感の表現として、それぞれある種の流行語ともなっています。 ただし意味は、前述したような普通の日本語の意味と大差はありません。
同じような意味の言葉や表現が数ある中で、取り立てて 「整う」 が2度にわたってわざわざ広まったのは、日常生活において思ったほど 「整う」 という言葉が使われていないという部分もあるでしょう。 誰でも意味がわかる言葉であり便利でもあるものの、妙に堅苦しい言い回しのイメージがあるのか、とりわけ若者の間ではあまり使われることがない表現とも云えます。
まぁ 清潔感 に気を配り服装や身なりを整える、環境 だの文章だのを整えるなどは大人というか社会人的な表現でしょうし、子供や学生の場合は、せいぜい髪型を整えるで使う程度の言葉かも知れません。 そこにちょっとした目新しさや新鮮さがあったのかも知れません。
漫才コンビ 「Wコロン」 ねづっちさんの 「ととのいました!」
2010年にブレイクした言い回しの 元ネタ としては、漫才コンビ 「Wコロン」 の ボケ 担当 である ねづっちさんによる即興のなぞかけを披露する際のセリフ、「ととのいました!」 があります。
同コンビの漫才は、ねづっちさんと 相方 で ツッコミ 担当の木曽さんちゅうさんの掛け合いで進行しますが、その途中でねづっちさんが突然 「ととのいました!」 と宣言します。 これは 「謎かけの準備ができました」 の意味で、その後 「○○と掛けまして、○○と解きます」 と謎かけが始まり、木曽さんちゅうさんが 「その心は」 と合いの手を入れると 「どちらも○○になるでしょう」 といった形の謎の答えを云い、その後 「ねづっちです」 と得意顔で決めポーズを取るというスタイルとなっています。 なお 「整わない」 場合は、「取っ散らかりました」 となります。
謎解きというお笑いのスタイル自体は昔からあるものですが、この言い回しとセットになった謎解きネタはテレビのお笑い番組などを通じて大人気となり、2010年の新語・流行語大賞のトップテン入賞となっています。 ちなみに同年の年間大賞は 「ゲゲゲの」(武良布枝さん作 「ゲゲゲの女房」 より) でした。
2020年前後に、サウナの入浴方法で 「整う」
元々健康関連の話題では、かねてから整うという表現は多用されていました。 運動不足や無理のある体勢での仕事で歪んだ体を矯正する整体とか、不規則な生活、ストレスなどで乱れた自律神経やリンパ系を正常に戻すなど、「あるべき本来の状態に戻す」 という使い方が多かったでしょう。
その後 漫才ネタから10年ほど経た2020年前後になり、今度は温泉などのサウナ風呂の入浴方法に関するあれこれで使われる 「整う」 が、前述した医療的な使われ方として広まり、流行することとなりました。 サウナ風呂は、蒸気と熱気がこもる板で囲まれた小部屋の中に入って全身を温めるフィンランド生まれのお風呂ですが、「整う」 とされる入浴法は、大雑把に云えば熱いサウナに入って体を温めた後に水風呂に入って体の火照りを冷やし、その後休憩を挟んだり挟まなかったりでまたサウナに入って体を温めてを何度か繰り返すと云った温冷入浴法のことです。
サウナで体が熱せられると血行が良くなり、また汗をかくと同時に毛穴が広がって身体の老廃物が体外に排出されるような感覚があります。 直後に水風呂に入ると熱かった身体が冷える際に強い快感がありますし、これを繰り返すと新陳代謝も活発化し、自律神経も整って心身がすっきりと冴えわたるような感覚になれる、あるいは深いリラックスが得られる、すなわち 「体や体調が整えられる」 とされています。
とはいえ極端に急激な温度変化を何度も繰り返すのは身体に非常に強い負担をかけますし、ランナーズハイなどと同様に、いわゆる 脳汁 を出すためだけの過負荷、サウナハイに至るだけだという話もあります。 とりわけ高齢者や高血圧・糖尿病といった持病や心肺をはじめ身体に障害のある人にとっては命に関わる非常に危険な行為でしかなく、まともな医療関係者で数度あるいは過度な サウナ → 水風呂 → サウナ → 水風呂 の繰り返しが健康に良いなどと推奨している人はほとんどいません。
冬場などはサウナと水風呂どころか、単なる通常の入浴ですら注意しないと温度差によるショックで心筋梗塞をはじめ様々な人命にかかわる症状や事故 (ヒートショック) が起こりかねません。 「サウナで整う」 などといった話は、あくまで健康な人の自己責任による民間療法、あるいは酒やたばこと同等の嗜好性が高い愚行権の行使だと云って良いでしょう。
またこうした入浴法が広がるにつれ、「サウナの本当の入り方を教えてやる」 的な肯定派・否定派双方の言い争いなどもあり、「風呂やサウナくらい自由に入らせてくれよ」 という人から 「サウナ整う派」 が面倒がられるなど、その評価は様々と云った感じでしょうか。 まぁサウナの後の水風呂は気持ちが良いけれど、当然ながら何事もやり過ぎは体の毒だと云うことなのでしょう。