面白いところだけを切り抜いた動画が大人気に 「切り抜き」
「切り抜き」 とは、全体から一部を抜き取ることです。 切り取りとされることもあります。 ネット や おたく・腐女子 の話題ではもっぱら動画の ジャンル において、面白いところ、注目すべきポイントなどを 編集 でコンパクトに切り抜いたもの、「切り抜き動画」 を指して使います。
切り抜き動画自体はネットで動画が取り扱われるようになった頃から存在しますし、それ以前にはテレビ番組などでも類似の表現が使われることもありましたが、一般的にはあまり切り抜きとは呼ばれていませんでした。 よく使われていたのは 「ダイジェスト」 とか 「総集編」「まとめ」 などで、それはネット上の動画についても同じであり、例えば アニメ の名シーンを切り出したような動画は、ダイジェストとか編集動画とか抜粋動画、あるいは広い意味の MAD などと呼ばれていました。
一方、切り抜き (あるいは切り取り) と云う言葉は動画以外でも使われます。 例えば大手メディアなどが政治家や著名人の発言の一部だけを切り抜いて本人の意図とは異なる形で問題視したりミスリードするような行為を指すケースです。 本来はこちらの方が古くから使われており、非常に ネガティブ なニュアンスで受け取られるようなケースが多かったでしょう。 「また○○新聞が□□のコメントを切り抜いて問題発言だ舌禍だと騒いでいる」 といった使い方です。
一般人の間でも行われる意図的な切り抜き
無知あるいは悪意によって一部分だけを切り抜いて批判するのは、何もメディアだけでなく 一般人 の間でもよく見られます。 例えば国会中継などから支持できない政治家の発言を都合よく切り取って 晒す ような行為は恒常的に行われており、あまり ポジティブ あるいはフラットな ニュアンス で使われることはなかったでしょう。
似たようなものにはこの他、アニメの動画の中割りの1コマだけを静止画として切り取って 「絵が破綻してる」「作画崩壊だ」「ヤシガニ だ」 と騒いだり、アイドルのファン感謝イベントに供された料理や飲食店のつきだしやアミューズ、コース料理の一品だけを取り上げて 「量が少ない」「まずそう」 とバカにしたりと、様々なパターンがあります。
ネット民 の多くは 残念 ながらこうした切り抜きを確認することもなく鵜呑みにし、面白がって右から左へと 拡散 したり口汚く罵倒しがちです。 結果 炎上 に至って誹謗中傷に晒された当事者が多大な被害を受けることもあります。 こうした行為は論争の際の相手の発言の恣意的な切り取りなどでも見られ、チェリーピッキング などと呼ぶこともあります。
動画サイトの長時間にわたる配信を切り抜いた動画が人気に
その後ニコニコ動画における ゲーム の 実況 や生配信といった、数十分から場合によっては数時間に及ぶような長時間の配信が増えたり、スポーツ中継といった同じく数時間に渡る生配信や動画などのうちから、見どころや面白いところ、あるいは配信中に盛り上がった部分などを抜粋した動画を視聴者が録画して切り抜きとして アップロード することが始まります。
こちらも当初は炎上原因となった発言部分の晒しを目的としたネガティブな使われ方も多かったのですが、その後は 「切り抜き」 という字義通りのシンプルな使われ方がされるようになり、さらには見どころや面白い部分だけをまとめた動画といったポジティブな使われ方が増えてきます。
その後本格的なネット動画の時代となり、なかでも Youtube を中心とした YouTuber (ユーチューバー) や Vtuber (ブイチューバー) の人気の高まりとともに、配信の見どころを集めたダイジェスト版が広く切り抜き動画と呼ばれるようになっています。 多くの切り抜き動画は単に切り抜いただけではなく、フォントや動きなどに凝った丁寧な字幕を入れる、SE (効果音) を入れる、場合によっては参考となる 画像 を フリー素材 から探して画面に掲出したり、手書きの イラスト を何枚も描いて紙芝居のように面白く仕立てた手の込んだものもあります (手書き切り抜き)。
こうした動画は 配信者 とは無関係の第三者が無許可で制作するものが多いのですが、一部の人気配信者らの切り抜きとなると再生数は膨大で、かつそこから得られる収益も大金となるため、有名配信者の切り抜き動画があふれることとなり、相乗効果で配信者の人気も盛り上がるなど、持ちつ持たれつの関係となっています。 また一部の人気配信者などは、動画再生の収益化が可能となる登録者数を持つチャンネルに対し 「公式 の切り抜き」 として正式に許可を与え、かわりに収益の一部を還元するようなビジネスモデルを取っている場合もあります。
なおごく稀に、自分自身で切り抜きを作ってアップする配信者などもいます。 これらはセルフ切り抜きや公式切り抜きなどと呼ばれ、全ての配信を追いきれない リスナー にとってはありがたい存在ですが、「切り抜きを作ってくれる ファン がいないから自分で」 みたいなちょっと切ないニュアンスで見られることもあります。 このあたりの切なさは セルフまとめ なども同様でしょう。
公式切り抜き企画で、常識外れのアニメ1話100分割アップも
こうしたセルフ切り抜きにおいて飛びぬけた存在として、人気アニメ 「邪神ちゃんドロップキックX」 の 公式アカウント が行った2022年7月27日の切り抜き動画企画があります。 「違法アップロード切り抜きが合わせて数千万回再生されているのが悔しいので、どこよりも早く公式切り抜きをアップロードします」 と称し、第1話まるごとを原画を組み込んだ100分割の切り抜き動画として公開。 さらに第3話の 初音ミク のシーンは、本編放映前に世界最速切り抜きとして うp するなど、ネタ とはいえ常軌を逸した対応をして大きな話題となりました。