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チェリーピッキング

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都合の良いところだけをつまみ食い… 「チェリーピッキング」

 「チェリーピッキング」(チェリーピック) とは、「つまみ食い」「良いとこ取り」「切り抜き」 を指す言葉です。 本来の意味はチェリー (さくらんぼ) の中から熟した果実とそうでない果実とを選別することですが、これが転じて学術や経済の分野で 「全体から自分の都合の良いところだけを選び取る」「利益になる一部だけをつまむ」 といった意味で使われます。

 学術分野なら、自分の立てた論に都合の良い研究結果やデータだけを選び、不利になるものは 無視 するといった使い方になります。 どんな研究でも仮説や結論を導くには裏付けとなる根拠があり、まともな論文ならそれを提示しています。 もし自分の論と矛盾・反する論やデータがあれば、それを受け入れて自分の論の検討課題とするか、その論やデータに対する同等の根拠や蓋然性・合理性を持った反論をすべきです。 チェリーピッキングではそれらを無視し、都合の悪い論やデータを恣意的に排除したり 「なかったこと」 にしてしまいます。

 一方で経済分野では、M&A (企業の合併・買収) などにおいて、対象となる企業や事業の中から自分たちの欲しいものだけを買収する行為を指す使い方もあります。 それ自体はビジネスのやり方として合理性のあるものですが、不要となる会社や事業 (おおむね不採算や将来性のないもの) に属している人たちにとっては割り切れない思いをすることもあるでしょう。 交渉や契約の内容によっては、はなはだ不誠実なやり方だと批判される場合もあります。

 ビジネス分野ではこの他、クリーム・スキミング (Cream skimming) という言いまわしもあります。 牛乳 (原乳) から美味しくて高く売れるクリーム成分だけを分離してすくい取ることから転じて、収益性の高い優良顧客のみに製品やサービスを提供しそれ以外の顧客を無視する、いいとこどりみたいな意味で使われます。

都合の良いところだけ抜き出すと、もっともらしく装える

 何かと話題となる、学術分野におけるチェリーピッキングをもう少し詳しく見ましょう。 例えば何らかの効果判定のために統計調査や臨床試験を行うとします。 効果を判定できる主要評価項目を研究計画としてあらかじめ 設定 して調査や試験を行い、統計学的に意味のある結果 (単なる偶然や誤差を超える値、有意差) があるかどうかを見るといった方法が一般的です。 もしその差がないか誤差の範囲に収まるならば、効果がなかったと判断できるでしょう。

 しかしそれでは自分にとって都合が悪い場合は、主要評価項目以外に調査した項目の中から偶然誤差が大きく出て有意差が生じた項目だけを抜き出して、あたかもそれが最初から主要評価項目であったかのように装って 「当初の予想通り効果が見られた」 と捏造することもできてしまいます (事後解析・後付け解析)。 あるいはそういう結果が出るまで手当たり次第に調査や試験をひたすら繰り返して、試行回数などを明示せずに都合の良い結果が出た部分だけをデータとして提示する方法もあります (検定の多重性で出てきた外れ値 (異常値) をもっともらしく使ったもの)。

 また複数の関連する項目の一部だけを抜き出して結果を捻じ曲げることもできます。 例えばある政党の支持者の傾向を調べるとして、年齢・性別・学歴・資産状況などはそれぞれが密接に関連しており、一部だけを見ても実態が見えてこないことがあります。 一般に年齢が高いほど女性が多くなりますし (女性の方が余命が長い)、学歴は低い (まだ大学進学率が低い時代に育った) 傾向があります。 また若い人に比べてより多くの資産を持っている傾向もあるでしょう。

 ある政党が高齢者からとくに高い支持を得たとして、「女性から支持されている」「支持者は低学歴ばかり」「貧困世帯は支持していない」 などと分析するのは、かなり乱暴なものでしょう。 それぞれの数値は交絡を加味して分析すべきで、単体で論じるべきはありません。 もっと云うと、調査方法や調査に用いた質問の内容によって、たまたま高齢者が多く検出されただけかも知れません。

 こうした不誠実な研究態度とか交絡や調査方法を軽んじるデータの扱いは、あたかも科学的・統計学的な根拠があるかのように装う疑似科学 (インチキ科学) や 陰謀論、極端に偏った 党派性 に基づく恣意的な世論誘導などで、とくによく見られるものでしょう。 追試による再現性も確認できず、ただの偶然やこじつけ、単なる個人の お気持ち や個別的な内容 (n=1) の一般化だったと結論付けられるようなものも少なくありません。 とりわけ心理学とか社会学、行動経済学とかの直感的にもっともらしく見える理論や説などは、一般向けの出版物を通じて大きな話題となりしばしば常識化されることも多い反面、査読つきで多くの研究者から支持される論文などではない怪しい研究が結構ある印象です。

 ただし研究者本人にはチェリーピッキングするつもりはなく、単なる能力不足や稚拙な研究態度によって無意識に望ましいものばかりを選び、結果的にそうなってしまう場合もあります。 研究デザインそのものがおかしいとか、あからさまな相関関係と因果関係の取り違えなどなど、それ以前のお話の場合すらあります。

学術論争から、ネット上の論争・バトルでも

 チェリーピッキングという言葉自体はかねてから使われるものですが、ネット掲示板SNS で論争や レス による バトル (レスバ) が行われ、さらにそれが高じて 炎上 なども起こるようになると、詭弁 の一種としての認識もされるようになります。

 中でももっとも下世話で幼稚なやり方が、「相手の発言の都合の良い切り取りや抜き出し」 でしょう。 例えば 「○○を短時間に大量に摂取すると死ぬことがある」 という意見を 「○○を摂取すると死ぬ」 に言い換えたり (量や前提条件を無視する、単純化する)、「男性にも女性にもそれぞれの問題がある」「犯罪者の中に○○人もいた」 というデータを 「女性には問題がある」「○○人は犯罪者」 と抜き取ったり (一部を全体かのように扱う)。 中には 「そう思う方がどうかしてる」 といった発言を途中で遮ったり切り取って、正反対の 「そう思う」 に仕立て上げるようなことすらあります (もはやチェリーピッキングですらない完全な捏造)。

 こうした発言の切り取りによって失言・舌禍問題にして大騒ぎするのは、大手メディアなどが政治家の コメント などでよくやる手口であり、かねてからネットなどでは批判の対象でした (偏向報道・マスゴミ 批判)。 しかし個人間のあれこれでもこうした不誠実な受け取り方や誇張・湾曲した上で批判をする人は少なくない印象です。 場合によっては文脈や全体の発言意図を無視し、言葉尻だけをあげつらい、揚げ足取りのような批判をする人もいます。 ただしそこに作為や意図がなく、脊髄反射 的に早合点したり一部の言葉に過剰反応しているだけの場合もあります。 無能 な研究者が結果的にチェリーピッキングしてしまうのと同じ状況ですね。

 不誠実なのか、それともまともに話が理解できない無能さなのか。 いずれにせよ褒められた状態ではないので、少なくとも誠実でありたいと思うなら、相手の意見の全体を見て、しっかり理解することが大切なのでしょう。 人の話を途中で遮ったり話を被せるような行為 (格闘技におけるクリンチ (抱き着き行為) は、コミュニケーションにおけるマナー違反というより、ほとんど人間性を疑われるような見苦しい行為です。

 とはいえ回りくどくてわかりにくい意見、同じ話をくどくどとループさせているような冗長な文章を出す方も悪い (ネットで嫌われる長文にありがち) という意見もありますので、是非はケースバイケースという部分もあります。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2012年7月19日)
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