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人間関係の潤滑油? それとも他人を殴る棒? 「マナー」

 「マナー」 とは、人が社会生活を円滑に進めるための大小様々な配慮、あるいは対策、その前提としての心構えなどのことです。 エチケットや礼儀作法と呼ぶこともあります。 似た言葉にルールがありますが、こちらは明文化された規則や規約、あるいは法律を指し、不文律の お約束 や暗黙の了解、常識、心構えを指すマナーとは異なります。

 マナーにおいては、日常のコミュニケーションでの言動やふるまいにおいて、相手を思いやる姿勢が求められ、それがひいては本人や本人の所属先への社会的な立場や評価を守ることにもつながるものとされます。 例えば挨拶をしたり善意を受けたら感謝を伝える、過ちを犯した際に謝罪するなどは基本的なマナーであり、相手に対する敬意を示すとともに自分の誠意をも示す行為です。

 とくに冠婚葬祭時の服装や言葉遣いを含めた立ち居振る舞い、ビジネスの場での敬語を含めた礼儀作法、食事の際の行儀作法や決まり事を守る姿勢は大切なものとされ、その場にいる人たちに不快な思いをさせず、結果的に本人も温かく敬意を持って迎え入れられ、お互い様の円滑なコミュニケーションが取れるでしょう。 恥ずかしい思いや不快な思いもしなくて済む可能性が高まる効果が期待され、こうした場に不慣れな人にとっては、あると便利な 「恥をかかないための参加ノウハウ」「多数派の考え方や相場を知る知恵」 の側面もあります。

 マナーはコミュニティによって細かい違い (ローカルマナー) がありますし、それを知って励行しているのは、そのコミュニティを深く知り、また大切に思っているとの意思表示でもあります。 また比較的大きなマナーはより広く、時代や文化、生まれ育った国や地域によっても変わります。 それは外部から見た時の偏見とは紙一重ですが、親しくなる前の潤滑油、敵対するつもりはありませんとの合言葉程度に考えると、その効用が認められているからこそ、外交やビジネスの分野でも重視され広く浸透しているのでしょう。

 実質的な強制がされることもありますが、別に法律で決められているわけではない 「暗黙の了解」 でもあるので、無視したり軽んじることもできます。 しかしマナーや常識は 「その場に参加することが許されるかどうかを他の参加者が判別する目印」 としての機能もありますから、郷に入っては郷に従えが無用な摩擦や トラブル を避けるためにも大切なのでしょう。

マナーなんて無駄? 虚礼だとして避ける空気も

 一方で、とくに近年は、昔から続く意味のない無駄なマナーや虚礼の廃止が叫ばれたり、とりわけ一部の極端なマナー講師らによる歴史的経緯や合理性を無視した謎マナーが提唱されるに及び、「マナーなど無駄でくだらないものだ」「因習にこだわる気の毒な人たち」 との痛烈な批判も生じるようになっています。 マナーは時とともに変わるものですが、存在しないおかしなマナーを創作・捏造し、「これを知らないと社会人失格」 だの 「それ、マナー違反です」「相手に失礼です」 だのと、さも社会全体が知っていて当然かのように説くマナー講師は 失礼クリエイター などと呼ばれ、揶揄の対象ともなっています。

 「マナーのあるなしで人間を評価するのは間違っている、その人の本質を見ろ」 という意見は正論だと思いますが、親戚づきあいやビジネスでちょっと関わったくらいの文化が異なる相手の本質をいちいち見極めることなど不可能です。 それは家族や親しい友人、恋人との間柄でやればよく、それ以外の人、あるいは知り合ったばかりの人との関わり合いでは、洗練されたマナーは コスパ も極めて高い合理的なもの、人と人との関わりに関する 「最低限の約束事や知恵」 です。

 同質性の高いコミュニティで、それと異なる常識や考え方を持つ人を排除するためにマナーを用いるのは、それこそマナーの前提である心遣いや配慮に欠けるものだと思いますが、数多くの衝突から必要に迫られて作られ守られてきたマナーは、他者とより良い関係を築くことができる出発点であり、可能な限り尊重する姿勢は持ちたいものです。

ネットにおけるマナー

 様々な 属性 を持つ不特定多数の人たちが集う ネット のコミュニティ、あるいは比較的属性が近く同質性の極めて高い (そしてしばしば閉じている) 同人 の世界でのマナーは、一般的なそれとはまた異なった意味や意義を持ちます。

 ネットについては、ネチケット やネットマナーと呼ばれるものが昔からあり、時代の変化によって意味がなくなったもの (例えば 機種依存文字 や半角カタカナを使うのをやめましょうとか) もあれば、昔から存在しつつも環境の変化でより重要性が増したものもあります。

 例えば個人情報の取り扱いとか、センシティブ な情報のやり取り、他者に対する暴言や誹謗中傷への戒めなどは、もちろん昔から十分過ぎるほどの配慮が求められるものでした。 しかし 「誰でもがネットを使う時代」 にあっては、ごく限られた人たちがある程度厳格な管理の下でネットを利用していた パソ通 の時代とはまるで異なる常識や配慮、強いマナー規範が求められるといって良いでしょう。

 パソ通時代の 「半年 ROM れ」(いきなり 掲示板書き込み などをせず、まずは人の 投稿 を読んで場の空気やルールを把握しろ) は今の時代にそぐわない考え方かもしれませんし、かつての ネチケ君 のように、マウント を取るためのマナーの強制は褒められた行為とも思えません。 しかし、知らずに何らかの禁忌を犯して 炎上 に巻き込まれては、せっかくの楽しいネットが怖いものになってしまうかも知れません。

同人におけるマナー

 同人については、同人作品 を作って発表する側、それを見たり読んだりする側、両者を取り持つコミュニティの 管理人 などに、それぞれ特有の同人マナーと広く同人全体に関わる共通したマナーの両方がしばしば求められています。 また特定の ジャンル におけるお約束や紳士・淑女協定や 自主規制、まったく同じジャンルでも 同人イベント などの対面による オフライン の活動と、ネットを使った オンライン の活動でも違いがあります。

 とくに女性向け同人、なかでも 二次創作 かつ 芸能同人 (ナマモノ)BL18禁 の場合、ニ大禁 から 検索よけSNSアカウント における の開け閉め、適切な タグ 付けの徹底、公式 との関係など、様々なマナーやお約束のオンパレードとなっています。 とりわけ深刻なのは、特定ジャンルのローカルマナーと同人全体の漠然としたマナー、さらには一般社会の常識やマナーなどがしばしば矛盾して衝突し、「あちらを立てればこちらが立たぬ」 の板挟みになることでしょう。

 とはいえ、ジャンルやコミュニティごとの細かい常識やローカルマナーの違いはあれど、根本にある 「他者への配慮」 や 「その場に参加するのにふさわしいかどうかを言動で証明する」 といった、マナーそれ自体が持つ根本的な機能部分はそれほど違いがありません。 他人を攻撃するためにマナーを叩き棒にするのはどうかと思いますが、何も知らずにすでに出来上がっているジャンルやコミュニティに入って我が物顔で振舞うのは、その場を作ってきた人たちへの敬意に欠け、不必要に敵を増やし、結局は本人の首を絞める結果になるでしょう。

 明らかにおかしいマナーもあります。 そのジャンルで声が大きいだけの人が唱えて定着してしまった無駄なマナー、時代の変化で無意味になったマナーもあります。 若い人などは、それら謎マナーにいつまでもしがみついている 古参老害 が鬱陶しいと ネガティブ に感じられることもあるでしょう。 しかし同人や おたく腐女子 らの存在や価値観がまだ社会的に広く 認知 されておらず、しばしば一方的な嘲笑や罵倒の対象だった時代から営々を場や人の絆をつなぎ続け、いくたのトラブルや摩擦を経験する中で生まれた知恵を、後から来た人がろくに知りもせずに無視するのはあまり褒められた態度ではないでしょう。

 同人の世界では、誰かが命令をしたり指示を出したら、それでガラリとマナーやルールが変わるような場ではありません (例外は、著作権 など法律に関するものと、あとは二次創作における公式の見解あたりでしょうが、これもそのジャンルに限っての話です)。 動きは遅く、とてもとても面倒くさい世界ですが、それが我慢できないほどに感じられるなら、まだこの世界に入る準備ができていないと謙虚に受け止め、学んでみるのも有意義でしょう。 それでも理解不能な謎マナーがあれば、少しずつ賛同者を増やしてなくしていくしかありません。 多くの人が支持し今もあるマナーは、先輩たちが長い時間をかけ、そうして磨いてきたものだからです。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2007年5月12日)
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