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失礼クリエイター

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それは失礼にあたるのでやってはいけません! 「失礼クリエイター」

 「失礼クリエイター」 とは、意味不明なマナーやルールを押し付けるマナー講師を揶揄・侮蔑する言葉です。 元ネタ はジャーナリストの新田龍さんが造語し広がったもので、一部のマナー講師が 「〇〇は失礼に当たるからやめましょう」 などとありもしない失礼とやらの存在を前提とした謎マナーを広めることから、「新しい失礼を作り出しているのは講師では?」 として2018年後半頃からこう呼ばれるようになりました。 他にもマナー違反クリエイターやマナー捏造師、マナー詐欺師といった言い回しもあります。

 元々マナーやルールといったものは、その発生時に何らかの合理的な理由があったり、長年の慣習から定着し文化にまで昇華したものなどもあり、価値観を 共有 する人たちの間であれば価値のあるものでしょう。 それとなく尊敬や親愛の意思表示ができたり、自らの配慮や慎み深さを伝えられるなど、円滑なコミュニケーションを実現する便利なものでもあります。

 しかし時代の変化とともにかつての合理的理由が無意味なものとなったり、慣習や文化から単なる形骸化した無駄な行為になっているものもあります。 今となっては意義も薄れ常識も反転し、むしろ円滑なコミュニケーションの障害となってしまっている謎マナーや珍ルールも強く認識されるようになっています。

 とくに企業や特定の地域、文化圏におけるローカルルールなどは、外から見て意味不明なだけでなく、業務に無駄なコストや支障をきたすなど、生産性の低下を招く 害悪 が生じているケースもあります。 また閉じた世界で同じ価値観の者同士で行っている分には問題がなくても、外の世界に広げ、「これが社会人として守るべき常識です」「できない人は非常識で失礼な人です」 と押し付けられても、価値観が多様化する中、不快感の創造や再生産をしているだけになるでしょう。

商売のため? それとも善意? 難しいマナーと失礼の判定

 マナー講師としては、マナーを重視する人が多ければそれだけビジネスになりますし、マナーが増えて複雑になればなるほど、より多くのビジネスチャンスが得られることにもなるでしょう。 自分の商売のために ポジショントーク が出るのは止むを得ない部分もあり、「無駄なマナーをありがたがり、マナー講師やバカげたマナーを重用する企業や人事教育担当者が悪い」「プロのマナー講師に聞いてみた系の記事を乱発するビジネスパーソン向けサイトが悪い」 との指摘もあります。

 一方、尊敬を受けたり、憧れの対象となるようなマナー講師の人たちもいます。 そうした人たちは伝統的な礼儀作法の流派を継承した人物だったり、接客業のプロと呼ばれるような人たち、あるいはその出身者 (元一流ホテルスタッフや、航空機の客室乗務員とか) など何らかの裏付けを持ち、押しつけがましくない形で希望者に自らの美意識を広めている人たちです。 これらの人たちは、自分がその世界の先輩から学んだマナーを素晴らしいものと考え、それを広めることに心から意義を感じて誠実に活動している人もいます。 「お金のためにやってるんだろう」 との邪推は見当はずれなことも少なくありません。

 マナー全てを虚礼だ無駄だと切り捨てるのも極論でしょう。 それを大切に思う人がいる以上、尊重する姿勢だって必要です。 相手を思いやって自分の身の振り方を考えたり変えることは、それはそれで素敵な価値観だと思います。

 ネット でことさらに失礼クリエイターと呼ばれるような人たちが嫌われるのは、マナーの根っこにある配慮や思いやりがなく、勘違いや思い込みで自分勝手なマナーを押し付け、他人の行動や所作を上から目線で批判したり攻撃するために用いているからなのでしょう。 売名のためか、あえて 炎上 させるような過激な物言いをする人もいたりしますし。

 ちなみに 筆者 の知り合いに元客室乗務員で航空業界のローカルルールを出発点に礼法を学び、企業向け研修のマナー講師として活躍している方がいます。 立ち居振る舞いも優雅で、心から美しい所作や配慮を世の中に広めたいと云う目的意識を持っていて、典型的な プロフィール だし少々堅苦しい部分はあるけれど、とても尊敬できる人物です。 ごく一部の勘違いマナー講師・金儲けのための失礼クリエイターのせいで仕事そのものに ネガティブ な意見が増えるのは気の毒に思えます。

 物は言いようで、きちんとしたリサーチを経た上で 「こうすれば相手に好印象を与えることができます」 なら、それなりに傾聴する人も多いと思うんですよね。 印象の受け方は人それぞれですが、無難な所作や言葉遣いはありますから、自分の立ち居振る舞いを見直すきっかけとして有益な指摘だってあります。 「失礼だからやめろ」「非常識な人間だと思われますよ」 とまず否定や他者攻撃から入って、ありもしない ツッコミどころ満載 の捏造した由来まで主張するから、叩かれ てしまうのでしょう。 自説強化のために 掲示板 や Wikipedia などに第三者のふりをして 自作自演 で肯定的な意見をせっせと 書き込ん でいる人までいますし (法人のニュースサイトに掲載されると出典ありになってしまうんですよね…)。

 とくに ネット民 がことさらに謎マナーを嫌うのは、単に堅苦しいマナーが苦手だ、時代錯誤で価値を感じないといった意味だけでなく、意味不明な学校の校則とかビジネスの場での非合理的な慣習慣行にうんざりしている上に、義務教育における道徳学習にまで使われた 「江戸しぐさ」(いわゆる ○○しぐさ) が嘘だったことが明確化した (2014年頃) ことなどから、厳しい目が向けられがちな部分もありました。 またマナー以前の問題として 「会社の飲み会には出るべきか」「から揚げにレモンをかけるかどうか」 といった他者への配慮の話題自体が、そもそもネットでは度々大きな話題になりがちなテーマだったという部分もあります。

なぜ意味不明な失礼や謎マナーが生まれるのか

 意味不明な失礼やよくわからない謎マナーが生まれるのは、前述の通りそれがビジネスになるからです。 逆に云うと、それらを求めお金を払ってくれる人が大勢いるのですね。 ではこうした人たちがたくさんいるのはなぜなのでしょうか。

 他人の目が気になるとか、相手が知らないマナーとやらを振りかざしてマウントを取りたいという意識もあるのでしょうが、自分の不快感や お気持ち に、それっぽい根拠をつけて正当化するのに謎の新しい失礼やマナーの存在が便利だからでしょう。 例えば1990年代後半に携帯電話や携帯メールが登場し広がった頃、新年のあいさつを年賀状の代わりに メールあけおめメール) で行うのは失礼にあたるという話がありました。 これはメール受け取って 「メールで済ませるなんて…」 と不快感を覚える人たちにとって、「それ、失礼にあたります」 との失礼クリエイターの意見が、自分の不快感を正当化する根拠を与えてくれるから広がったものなのでしょう。

 そもそもお正月の挨拶は、実際に相手の家に訪れて行う年始回りが昔から行われており、年賀状が登場した頃も 「郵便で済ませるなんて…」 と批判されていたものでした。 被害妄想や勘違いから不快感を覚えたり、時代が変わり新しいものになじめない人が、気にくわない相手の仕草や新しい文化を攻撃するのに、失礼やマナーは都合が良いのでしょう。 そしてそこにお金儲けの種があるのでしょう。

徳利の使い方からマスクの色まで… 「それ、失礼にあたります」

 ネットで大きな騒動となった失礼クリエイターがらみの話題では、日本酒で使われる徳利 (とっくり) でお酒を注ぐ場合に 「細くとがった注ぎ口は使わずに反対側から注ぐのがマナーです」(2018年) があります。

 マナー関係を集めたサイトの情報が ツイッター拡散 されたもので、理由として注ぎ口を上にした形が仏教の宝珠の形になってげんを担いだからとか、戦国時代の酒宴で注ぎ口に毒を塗って酒を注ぐ暗殺方法があったことから相手に敵意がありませんという意思表示が伝わったものとか、真偽不明のもっともらしい由来とともに紹介されたものでした。

 ツイッター利用者らの反応は 「知らなかった」「気を付ける」 といった肯定的なものもあったものの、「聞いたことがないし意味不明」「くだらない」 という否定的なものが多く、伝統工芸品として徳利の制作を行っている人や日本酒の専門家などが否定的な ツイート や情報発信したことでデマ認定され、炎上のような状態となってしまいました。

 この他にも、「ハンコは上長に対して傾けて押す (印字がお辞儀しているように捺印する)」「上司に 「了解」 は失礼」「スーツにリュックはマナー違反」「目上に 「取り急ぎお礼まで」 は失礼」「葬儀や法事の際に黒タイツを履くなら 肌色透け るものでないと失礼」「入室ノックは3回、トイレは2回」「マスク は白でないと失礼」「新幹線の座席は窓側が上座で通路側が下座、座席中央のひじ掛けは上座のもの」 などなど、日常生活に密着した微に入り細を穿つような根拠不明のデタラメ・捏造されたような謎マナーが提唱されては専門家や当事者らに否定されて、その都度笑いものにされている状況です。

 またこうした社会全体に対するもの以外にも、ネットマナーとか同人マナーなどは、よくわからない個人が自分の不快感やお気持ちだけを根拠に勝手に決めつけて広めることもあり、その数は無数にあるといって良いでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2019年3月5日)
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