ごますり、おべっか、宣伝じゃないフリをして宣伝… 「提灯記事」
「提灯記事」(ちょうちんきじ) とは、公平で客観的な記事の体裁をとりながら、実際は特定の企業や団体、人物、あるいはその商品などだけを、相手から有形無形の利益を受けながら絶賛するような記事や意見のことです。
広告費として直接的な金品の授受を伴って偽のクチコミ、広告ではない形で広告を打つ手法を 「やらせ」 や 「ステルス・マーケティング (ステマ)」 と呼びますが、提灯記事の場合はこれを含みつつ、直接的な広告費や利益は受けていないけれど、記事を書く人が対象に対して何らかの下心を持って褒めちぎる、やたらと持ち上げる場合にも使われる言葉です。 これは 「提灯記事によって相手方の機嫌を取って、将来の利益を見込む」 というケースになります。
その際、特定の相手だけを誉めそやしたり褒めちぎると、読者 に自分の意図がバレてしまうので、似たような別のものを一緒に取り上げ同時に褒めつつ特定対象をイチオシ扱いにしたり、特定対象のどうでも良い欠点を欠点としてあえてあげて、「今後の改善が期待される」 などともっともらしく言い繕う場合もあります。
ただし持ち上げる対象に持ち上げていることをわかってもらわないと意味がないので、かなりあからさま、場合によっては無理を感じるほどの内容となっているケースも多いものです。
元ネタは江戸時代の 「提灯持ち」
提灯記事の提灯とは、手に持って利用するロウソクの灯りなどが入った昔の照明器具です。 現在は電灯が入った神社やお祭り、飲み屋や和食のお店の灯りやサイン (看板) などで見かけますが、元々は 「提灯」 という文字の通り、手に持って使う明かり、現代で云う懐中電灯のようなものをあらわしていました。
この提灯は、通常は夜道などで利用者が自分の手で持って利用しますが、有力者や偉い人の場合は自分では持たず、本人にかわって主人の歩く道を照らす役目の人が手に持って先導します。 こうした人は 「提灯持ち」 と呼ばれます。
その後江戸時代になり、商売で巨万の富を得た豪商と呼ばれるような人が多数現れると、彼らが夜遊びに出かける際に、提灯を持って盛り場に案内する提灯持ちが登場。 こうした提灯持ちは単に盛り場への往来の明かりや案内を行うだけではなく、主人に気に入られようと様々なおべっかやごますり、ご機嫌取りなどをするようになり、多くの場合はそのまま主人となる豪商と同じ酒宴などに上がりこみ、主人の奢りで飲食を共にしつつ、場を盛り上げる役割も担うようになります。 現代の 「提灯持ち」 や 「提灯記事」 の直接的な語源、元ネタ はこれとなります。
こうした人たちがある種の風俗として広まると、提灯持ちも 「有力者、強者に媚びへつらうごますり野郎」「偉い人の機嫌をとるお調子者」 の蔑称として使われるようになり、新聞や雑誌などの 「ごますり記事」 を、提灯記事と呼ぶようになったのでした。
持ち上げる対象が国や公的機関の場合は 「御用記事」
なお持ちあげる対象が国や公的機関、国の強い意向に沿ったものである場合は、御用記事 と呼ぶ場合もあります。 中でもそうした記事や論説を自ら進んで行う学者は 御用学者 と呼ばれ、権力者に媚びへつらい、学者としての良心に反して権力におもねる学者といった意味で使われます。
こちらの元ネタは、江戸時代に江戸幕府から雇われ、歴史の編纂や学術研究を担っていた学者の名称からで、時の政権や権力者にとって都合の良い歴史や思想をまとめたことから来ています。