死人に口なし…生き残りの声だけを聞くと認知が歪む 「生存バイアス」
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| 生き残りや成功に何が必要か… 語れない存在に語らせる 生存バイアス （同人する子） |
「生存バイアス」 とは、何かを調べたり評価する際に、何らかの選択圧を経て残ったものだけを見てその背後にあるものを無視したり見逃してしまった結果、思考に偏りが生じてしまうことです。
認知 に関わるひとつのバイアス （思い込み・偏見） であり、例えば事故や事件の原因やそれに巻き込まれた者の生存・死亡 の理由を探る際に、生存者は証言できるけれど死者は証言ができず、その結果、生存者側証言の範囲でしか考察ができずに誤った結論が導かれる、認知に歪み が生じることを指します。
生存バイアスを説明をする際によく出る話に、第二次世界大戦時のアメリカの爆撃機の調査事例があります。 爆撃機が帰還した際に、敵機からの攻撃を受けた被弾の跡を見て、どの部分が狙われて ダメージ を受けているかの分析を行い、機体の強化や新型機の 開発 に活かそうというものです。
シンプルに考えると、生存機の被弾が多い部分に着目しがちです。 しかし調査できるのは帰還した機だけであり、撃墜されるなどして帰投できなかった機については情報が取れません。 本来の調査の目的は爆撃機の生存性を高めるためなので、むしろ被弾が少ない部分に注目すべきと考えました。 その部分に被弾した機体は致命傷を負って撃墜され、戻ってこれなかったと予想できるからです。
この調査では、エンジンに被弾痕のある機体が少なく、翼や胴体部分には多くの弾痕がありました。 「エンジンが狙われなかった」 のではなく、「エンジンを撃たれた機は撃墜された」 と判断してその部分の強化が図られることとなりました。 この調査と検討は統計学者エイブラハム・ウォールドによるもので、被弾や損傷の多い場所を強化するというそれまでの対策とは一線を画すものとして注目を集めることとなりました。
似たような生存バイアスによる統計のまやかしは同大戦に関するものだけでも他に色々ありますが、もう一つ分かりやすいところでは、爆撃機の機体から半球状に飛び出した機銃塔 （ボールターレット） に着く銃手の低い負傷率があります。 狭い設備の関係上、銃手は万が一の際の脱出パラシュートすら身に着けられず、被害状況次第では機体本体が生還できてもターレットだけは脱落しかねない危険なものですが、その負傷率は存外にとても低いものでした。 こちらも被害にあうと大半が死亡に至るため、生還できた銃手はそもそも攻撃を受けていなかった者が多かったと結論づけられています。
偉人や成功者の声は貴重だけれど、失敗した者の声はより貴重なもの
国家、軍、大きな組織の調査だけではなく、個々人の体験談にもそうした傾向は当然あり、それが本人の行動に影響を及ぼすこともあります。 代表的なのは、何らかの成功者の体験談でしょう。 成功者はその方法で成功したので 「それが正しい」 と認識しがちですし、それを聞いたり偉人伝や自叙伝などを通じて読んだ人もそう受け取るでしょう。 しかしその成功者１人の影に同じ方法で失敗した人が10人いたら、それはその方法以外に成功の理由を求めるべきだとなります。 成功者の声だけを聞いてもあまり意味がないということですね。
成功し名を成した偉人伝や自叙伝だけを見るのではなく、失敗した人にも焦点を当てて両者の違いをきちんと検討する必要があるのでしょう。 またそれが出来ない場合は、成功者ではなく失敗者の声により耳を傾ける方が、ほとんどの人にとっては有益なものでしょう。 それは失敗を避けるためではなく、成功するための情報をも含んでいる可能性が高いからです。 しかし失敗した人は表には出てきませんし、そもそも敗者の声が歴史に残ることも稀です。 結果的に成功者にのみ焦点があたりがちです。
同様に、自然災害や事故で生き残った人の証言の取り扱いもあります。 生存者がとった行動を生き残るための行動や知恵として尊重するのは大切ですが、命を落とした被害者がなぜ生き残れなかったのか、死亡に至る原因は何だったのかを併せて研究しなければ意味がないでしょう。 全体を見てはじめて、生死を分かつポイントが浮き彫りになることが多いものです。 このあたり、日本は地震を始め様々な自然災害が生じる国でもあり、とくに近年は優れた研究が数多く行われるようになっています。
生死に関わらない日ごろのちょっとした出来事でも、上手くいった人は 武勇伝 として語りたがるけれど、失敗した人はそれに恥じて口を閉ざしがちでしょう。 これは人間が、暗くて重い失敗談より明るくて華々しい成功談を好むという部分もあります。 このあたりに正確な認知やものごとの全体的な把握の難しさがありますが、そうしたバイアスがあるのだと知るだけでも、より良い検討ができる可能性が高まるでしょう。
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