単なる既存概念の言い換えか、新しい社会の到来か… 「シェアリング・エコノミー」
「シェアリング・エコノミー」(Sharing Economy) とは、個人や企業などが持つ遊休資産 (物・時間・場所・技術など無形有形問わず) の貸し出し・借り受け・共有 (シェア) を ネット や IT技術 の活用によって仲介し活発化させること、そうした経済の活動圏を指す言葉です。 「共有経済」 と呼ぶ場合もあります。 借り受け・共有する側からは 「所有すること」 ではなく 「活用すること」 への変化となり、「モノではなくコト」 を重視した経済活動となります。
例えば空き家を所有する人がその家を誰かに 宿泊 施設 (民泊) として貸し出すとか、週末しか使わない車があるので平日だけレンタカーとして貸し出すといったケースがあります。 この場合、貸し手は誰かに貸すことで経済的利益を得られますし、借りる側は個人間での貸し借りのため、比較的高額の手数料や手間がかかる不動産会社や旅行会社、レンタカー会社などの仲介業者を通さない形で、安価・迅速に必要な物やサービスを利用することができるでしょう。
また 「所有」 にこだわる人が多い中、所有にこだわらないシェアリング・エコノミー支持の人たちは似た価値観を持っているとも云え、そうした人たち同士の共有を通じた交流も、経済的な利益を超えたメリットと云えるかもしれません。
こうした貸し借りは、個人や企業間の貸し借りを仲介するネットサービスを通じて行われます。 いわゆるシェアリング・エコノミーサービスの走りとも云われるアメリカの 「Airbnb」(エアビーアンドビー/ 2008年8月) では、宿泊施設 (ホテルや旅館) や民泊 (空き家や空き部屋を宿泊施設として活用するもの) の貸し借りを仲介・マッチングするサービスとして登場し、貸し手 (ホスト) と借り手 (ゲスト) とを結びつけ、直接取引を可能にするシステム・ビジネスモデルでした。
利用者同士の信頼関係が大切な 「シェアリング・エコノミー」
こうしたサービスでは、それぞれのリスクを担うのも当事者同士となります。 例えば利用代金が支払われないとか、貸したら返してもらえなかったとか、汚された、壊されたなど、トラブル のリスクはたくさんあります。
したがって貸し手・借り手双方の信頼関係が必要となり、サービスは SNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス) としての仕組みや性格を強く持っています。 利用者はこのネットワークの中で取引を通じて信頼性を高め (信用スコアやレビューといった形で可視化される)、万が一のトラブルを可能な限り未然に防げるようなシステムを作っています。
様々な業種で 「シェアリング・エコノミー」 の考え方が広がる
様々な業種で 「シェアリング・エコノミー」 |
2009年3月から展開したアメリカの 「Uber」(ウーバー) は、自動車配車マッチングサービスを行っています。 車を所有する人が登録し、自分の空き時間や移動の際の空き座席を貸し出し人を運ぶ仕組みですが、こうした相乗り (ライドシェア) は提供する側は空き時間や空き座席を使って利益が得られますし、利用する側はタクシーやバスと違い安価だったり小回りの利く利用が可能となるでしょう。
これがとくに海外で伸長したのは、都市部でドライバー1人乗車の車があふれて渋滞が生じたり 環境 にも悪影響があること、一部の国でタクシーに信頼がない (ぼったくりや犯罪に巻き込まれるなど) ことがあり、それを防ぐ意義が支持されたこともあったのでしょうが、先行する 「Airbnb」 と合わせ、「既得権に縛られないシェアリング・エコノミーの新しい時代が始まる」 との世界的なブームを巻き起こす嚆矢として、その姿勢が強く支持された結果でもあったといって良いでしょう。
前後して世界的にスマホ (スマートフォン) が普及したこともあり、アプリの形で提供されるサービスは利便性がアップし、貸し借り・共有の対象も拡大。 例えば語学や家事、育児、医療といった専門性の高いスキルを貸し出すサービスや、開いた時間に自分の労働力を単発・短時間で提供するアルバイトマッチングサービスなども次々に登場。 今日ではありとあらゆるものがシェアの対象となっています。
なお不特定多数の人がネットを通じて他の人や組織に資金的な援助や提供・協力などを行うこと (お金をシェアする) はクラウドファンディング (クラファン)、業務委託や受託をやり取りするプラットフォームを クラウドソーシング と呼び、物やサービスを定額制で継続的に利用する仕組みはサブスクリプション (サブスク) と呼びます。 それぞれは似ている部分、同じ部分もあれば異なる部分もありますが、アプリやネット上のプラットフォームなどを通して所有権や所有者ではなく使用権やスキルのやり取りでシェアする部分では類似性が高く、いずれも広い意味のシェアリング・エコノミーの一部だとする意見が多いかも知れません。
本来のシェアとはまるで違う 「専業者」「業者」 の参入
こうしたシェアリング・エコノミーの考え方は、あくまで遊休資産をスキマで有効活用することによる価値の創造・増大がベースにあります。 しかしシェアリング・エコノミーが話題となり 「Airbnb」 や 「Uber」 が盛り上がると、「そこでお金儲けするための専用資産を用意した業者」 も次々に参入します。 例えば空き家で云えば、自分が住んだり賃貸物件として貸し出すよりも 「Airbnb」 を通じて民泊として貸し出す方が有利だからと、本来は空き家でもなんでもない物件が次々に登録・活用され、結果的に都市部や観光地の住宅が不足し、家賃の高騰・住民の減少を招いているようなケースがあります。
また 「Uber」 の相乗りも、単なる無許可タクシー同様の車が都市部にたくさん集まり徘徊し、渋滞の緩和や環境負荷の低減どころか、まったく逆の結果となってしまっているようなケースもあります。 さらに許認可事業であるタクシー業界に素人や 一般人 が専業的な立場で乗り込んでくることにより、料金面で競争に敗れた優良業者が淘汰され、事故やトラブル、犯罪リスクの増大などによる安全な移動方法の選択肢減少も懸念されています。 同じく都市部の渋滞緩和・環境負荷低減が期待された自転車のシェアリング・サービスでも、都市部に無秩序に乗り捨てられた自転車があふれ、景観の悪化や環境負荷の増大、道路の安全な利用に危険が生じるような問題も起こっています。
そもそも中間業者を入れない形での個人間ネット取引などはネットオークションや各種マッチングアプリがそれ以前からあり、2000年代末になりアメリカやシリコンバレーが先導する形でことさらにシェアリング・エコノミーを叫び盛り立てるのは、既存の宿泊観光業者や交通機関、金融業、レンタル業、斡旋仲介業などの市場を IT関連業者が奪う、あるいは食い荒らすことを正当化するための単なる掛け声、陳腐な バズワード (多くの人の話題になる言葉、バズる ためのキーワード) ではないかとの批判も小さくないでしょう。
もちろん時代遅れの許認可でガチガチに固められた業界に IT の力で風穴を開けるのは、IT の存在意義であり社会やサービスを新しいものに変革してゆく上で必要なことではありますが、多くの許認可事業は、万が一のことがあれば利用者の人命や資産の安全・保全性などに重大な危険が生じかねない事業である場合も多く、簡単に偽造や捏造ができるネット上の信用スコアやレビューだけでそれを素人に行わせて良いのか、それはただの無秩序な社会と同じではないかとの意見もあります。
それではと個人の信用スコアをより厳格・網羅的に行い各種保険なども多重に掛けるなどしたら、それはそれで利便性の喪失、IT による管理社会まっしぐら、人を登録番号だけで評価し、一度失敗したら二度と這い上がれないような秩序最優先のディストピア (自由のない監視社会) でしょう。 どのあたりでバランスを取るのか、かなり難しい問題があると云って良いでしょう。
「シェア」「共有」 という言葉が広がるとともに下世話な使い方も…
なお極めて下世話な使い方としては、匿名で様々なファイルをやり取りする ファイル共有ソフト を利用した違法なデータ共有をことさらにシェアリング・エコノミーと呼んだり、サセ子 や 公衆便所 と呼ばれるような女性を仲間内で性的共有するケースを指して使う場合もあったりします。