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やりがい搾取

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労働の対価はお金以外にもあります!… 「やりがい搾取」

 「やりがい搾取」 とは、主にビジネスの世界において、お金を払う側 (雇ったり発注する側) がお金を貰う側 (雇われたり受注する側) にお金以外の要素、すなわち 「やりがい」 をあてがうことで支払い金額を抑えて経済的な搾取をすることです。

 労働市場における 需要 (求人) と 供給 (求職者) が一方に傾くことを、俗に売り手市場・買い手市場などと表現しますが、その仕事に憧れを持ち就業したいと思っている人が多い業種・業界であれば、必然的に雇う側が主導権を握れる買い手市場となり、働く側にとっては厳しい条件が突きつけられる状態にもなるでしょう。 「お前が辞めてもすぐに次が見つかる」 という訳です。

仕事における 「やりがい」 をどう搾取するのか

 「やりがい搾取」 のパターンは大きく分けて2つあります。 一つは雇用側や発注側が働く側に直接的な報酬以外の何らかの経済的な、しかし不確実なインセンティブの約束を与えるパターンです。 例えば 「次はもっと良い条件で仕事を出すから今回はこれでやってくれ」「初めの仕事はただの実績作りだと割り切ってくれ」 といった 「将来の報酬に期待感を持たせる」 ようなものが代表的です。

 こうした約束が契約や確約の形で提示され、口約束に終わらず後々果たされれば受ける側にとってはある種の先行投資だとも云え、仕事のステップとしてありかもしれません。 しかしおおむね一度きりで仕事を切られたり、以降の仕事でも 「この次は」「そのうち」 などとズルズルと夢や期待を 煽る 話で引っ張り続けたりするケースは、やりがい搾取の典型的なパターンだと云えるでしょう。 また仮にそれで双方が納得していたとしても、法律で最低限払わなくてはならない報酬は決まっていますから、それ以下で仕事をさせているなら違法行為で犯罪です。

 もうひとつのパターンは、経済的なインセンティブ以外のものを報酬であるかのように錯誤させて提示し、あるいは思い込ませて働かせるようなパターンです。 例えば 「人はお金のためではなく、お客様の感謝のために働くべきだ」「仕事によって人としての成長や信頼や人脈が得られるなら、それはお金よりも価値がある」 といった内容のものです。 古い言葉では 「苦労は買ってでもしろ」 でしょうか。

 どちらのパターンも調子のよいことをいってお金を出し渋るブラック企業の悪質な手口そのものではありますが、「やりがい搾取」 は、「搾取する側」 と 「搾取される側」 がいないと成立しませんから、悪いのは全面的に搾取する側なのだとしても、搾取される側にも自衛として気を付けるべきポイントはあるでしょう (だからと言って搾取される側に問題や責任があるわけではありません、これは強調します)。

 労働や契約に関する法律や仕組みを調べたり学んだり、行政とのつながりを持つのは難しそうだし面倒ですが、自分の身を守る最初の1人は他ならぬ自分自身であることは、強く意識するようにしたいものです。

クリエイティブな仕事では、やりがい搾取が横行

 実際のところ、若者が憧れる職業、とくにクリエイティブな職業には、「無給でいいから使ってくれ」「タダでいいから関わらせてくれ」 という若い人たちがいっぱい集まってきます。 業界に紛れ込めさえすれば活躍の機会が訪れる、チャンスがやってくるかもと一縷の望みをかけてくるわけです。

 芸能界とか 絵描き字書き・写真や映像関係といったいかにもクリエイティブな業種以外にも、夢を見させてろくな対価を支払わない世界はたくさんあります。 筆者 に身近なところでは上述した職業の他、大学の非常勤の研究者とか講師のそれも、話を聞くと相当なものです。 いずれも 「実家が太くないとやってやれない」 みたいな状況に陥っています。 もちろん実家が太くて食うに困らず本人もそれで納得しているのならそれでいいのかもしれませんが (ただそれによっていつまで経っても対価の相場が上がらない原因にもなりますが)、そうでない人にとっては夢を諦めざるを得なくなったりもします。 高い志や才能を持つ者がそれで パージ されるとしたら、その損失は大きなものでしょう。

 人件費を抑え利益を上げることが求められるビジネスの世界において、「給料は安くていいから使ってくれ」「最初はタダでもいい」 という志願者は、他人の生活や労働基準法など気にしない悪質な経営者にとっては搾取されるためにやってくる便利な使い捨て人材、文字通りのカモネギでしょう。

 「自分を安売りしないこと」「自分を大事にすること」 は、経済的・精神的に切羽詰まってくるとつい忘れがちです。 心に余裕がなくなると自分が無価値でちっぽけな存在に思えてきますし、そうした弱った状態では不確かな約束でも自分に都合よく 解釈 したり、耳障りの良い 精神論 にすがりたくもなってしまうでしょう。 夢を追うのは素晴らしいことですが、あまり自分を追い詰めず、情報に対する感度を高めて、ずるい人間に騙されないようにしたいものです。

 一方で、前述した古めかしい 「苦労は買ってでもしろ」 は、それなりに真理でもあります。 精神論もそうですが、いずれも現在では搾取する側に都合よく作られた空疎な言葉に見えつつも、実際はこうした言葉を都合よく使うブラック企業や経営者が悪いだけで、若者や新人と真剣に向き合い、大人としての責任感から若者の前に立ちはだかる乗り越えるべき壁を演じて試練を与え、愛情を持って一人前に育てるために頑張っている佳き経営者だって大勢います。 しかし若いうちは大人の真意など見通すことは無理なので、相手が信頼できるかどうかをどのあたりまでで見極められるかは、若い人が持っているともっとも人生に有益なスキルなのかもしれません。

教師や警察官、自衛官、医師などの過酷な労働環境も

 ブラック企業やブラック業界のそれとはまた別のやりがい搾取があります。 代表的なのは、公の職業、例えば教師や警察官、消防士、自衛官や、大学などで非正規で働く研究職とか救急病院の研修医、保育士といった人たちのそれです。 これらはブラック企業のように経営者が搾取を目的として劣悪な労働環境で使役している訳ではなく、待遇をどうするかは政治の問題でもあるのですが、過酷な労働内容に対してあまりに報酬が少なすぎです。

 じゃあ辞めればいいじゃんと外から見えることもありますが、社会に絶対に必要な仕事であり、かつそこで働く人々は高い志を持ち、自分がそれを担うと覚悟し踏みとどまっている人たちです。 尊敬に足る人々であり、社会全体として、もう少し彼らに厚く報いてもバチは当たらないのではないかと思います。 震災や水害などの大規模災害が起こると、消防士や救急隊員、自衛官らが被災地に入って住民の救助や遺体の捜索や回収をする様子が報道で流れます。 自分だったらそんな厳しい業務をとても務められそうになく、でも誰かがやらなくてはならない仕事であり、崇高な使命感を持って難事に当たる彼らを見ると、感謝しかありません。

 もちろんこうした厳しさは、程度の差こそあれどんな仕事にもつきものではあります。 食べるためなのか社会のためなのか、あるいは自分の子供のころからの夢のためなのかはともかく、あらゆる仕事をする人たちに感謝と仕事に見合う待遇を与えるのは当たり前だし、それができない経営者や政治家 (ひいては面倒事を他人任せにして感謝すらできない国民) には退場してもらいたいものだと思います。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2009年7月10日)
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