青二才に用兵のなんたるかを教えてやるか… 「ファイエル!」
「ファイエル」 とは、「撃て」「発砲開始」「攻撃開始」 といった意味の言葉 (射撃号令) です。
言葉そのものは英語の 「ファイアー」(Fire) と同じものですが、「ファイエル」 と呼ぶ場合には、SF小説 (ライトノベル)・アニメ として人気の 「銀河英雄伝説」(銀英伝/ 田中芳樹/ 1982年11月〜) の劇中セリフ、「ファイエル」(Feuer) を 元ネタ とするフレーズとなっています。
銀河帝国軍の司令官が叫ぶ、「ファイエル!」
この 「ファイエル」 を攻撃開始の意味で使うのは、銀河英雄伝説の作中勢力のうち銀河帝国 (ゴールデンバウム朝、及びローエングラム朝銀河帝国) の一部の提督たちとなっています。 ゴールデンバウム朝銀河帝国の初代皇帝ルドルフの個人的 趣味 ? から、以来490年、貴族の間でドイツ風の名前や言葉が多用されている銀河帝国なので、攻撃開始の命令も、英語の 「ファイヤー」 ではなく、ドイツ語風の 「ファイエル」 になっているのですね (乾杯も プロージット です)。
もっとも、ドイツ語の Feuer (Feueren の命令形) を発音するとしたら 「フォイアー」 や、せいぜい 「フォイエル」 となるはずで、「ファイエル」 との表現は、ドイツ語の話せない日本人がドイツ語の発音を正確に行えない点を考えても、少々不自然な表記、あるいは発声です。
まあ外国語のカタカナ表記や日本人による発音は、時代を経るにつれて変化する場合もありますし、あまり目くじらを立てても仕方ありませんが、「ファイヤー」 や 「フォイアー」 よりも 「ファイエル」 の方が耳で聞いた時もかっこよく感じるので、半分 ネタ として、同人 や おたく の世界では、ことさらに 「ファイエル」 を使う場合もあります。
またその際は、往々にしてアニメ版のロイエンタール提督 (若本規夫さん) のような節回し (とくに帝国の双璧、ミッターマイヤーとロイエンタールが相撃つ、本編第96話 「剣に生き…」 での開戦の掛け声、「ファイ・エル!」) になることが多いようです。
同盟軍は 「ファイヤー」、ヤンは 「うてぇえぇ〜」
なお帝国軍側提督の全員がファイエルと叫ぶわけではなく、日本語で 「撃て」 という場合もあるのですが、同盟軍側の場合は、「撃て」 や 「発射」 の他には、英語の 「ファイヤー」 を使っていますね。 ファン らによって盛んに 「銀英伝名言集」 といったものが作られたり、様々な特徴的な言い回しが集められることも多い銀河英雄伝説ですが、中でもこのファイエルは、その代表的なキーワードのひとつと云えるでしょう。
というか、アニオタ が友人らとバーベキュー大会でも開こうものなら、コンロ着火の合図は必ず 「ファイ!エル!」 です。 一般人 の 「じゃー火ぃ〜着けるよ〜」 といった間の抜けた着火合図に比べると、気高く高貴でそれでいて勇壮な、イケてる掛け声だと断言して差し支えありません。
「ってー!」「うちーかた、はじめ!」 戦闘指揮における独特の抑揚
ところで戦争ものの作品や自衛隊の演習映像などを見ていますと、指示命令の言葉に独特の抑揚、イントネーションがあるのに気付かれる方が多いと思います。 面舵や取舵を 「おっもっかーじ」「とーりかーじ」 と発声するなどですが、発砲を促す命令の 「撃て!」 や 「撃ち方はじめ!」 なども、それぞれ 「ってー!」「うちーかた、はじめ!」 といった発声をしたりします。
これは水上艦ならば艦から絶えず騒音がし、また戦闘中ともなると激しい爆音が響き渡る 環境 において、聞き洩らしや聞き間違いを防いで確実に内容を口頭伝達するための工夫ですが (石焼き芋やさお竹の移動販売の掛け声と同じく、命令ごとにゆっくりとした独特の抑揚をそれぞれつける)、こうした表現はリアリティが増すとの理由で、宇宙戦艦がビーム砲を撃ち合うような空想の作品中でも後年は盛んに使われるようになっていますね。 何世紀後かに人類が宇宙に生活圏を求めるようになりそこで争いが生じたら、「ファイィ!…ッッエルッ!」 という独特の発声が攻撃開始のためのイントネーションとして役割を担うようになっているのかも知れません。
ともあれ、こうして同人用語の基礎知識の項目が、また1ページ…。