同人用語の基礎知識

プロージット/ Prosit

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勝利はすでに確定している…前祝いだ 「プロージット!」 ガシャーン的な

 「プロージット」(Prosit) とは、ドイツ語で 「乾杯」 のことです。 プロースト (Prost) とする場合もあります。

 言葉自体は 同人おたく などとは全く関係がない普通の言葉ですが、これらの 界隈 ではしばしば 「プロージット」 の後に酒が入っていたグラスを床に叩きつけて割ったり、そこから転じてグラスを落として割ったり怒りでグラスを投げるさまをまとめて、ネタ として 「プロージット」 と呼ぶ場合もあります。

 こうした用法の 元ネタ は、SF小説 (ライトノベル)・アニメ で高い人気を持つ 「銀河英雄伝説」(銀英伝/ 田中芳樹/ 1982年11月〜) の劇中セリフ、「プロージット」 からとなっています。

 作中勢力のうち、銀河帝国軍側でのみ見られる言葉と作法で、銀河帝国側 主人公 ラインハルトが、出撃前の景気づけに 「乾杯」「プロージット」 と述べると、集った提督がプロージットを復唱した後酒を飲み干し、そのままグラスを床に叩きつけて割ったりします。

銀河英雄伝説、銀河帝国側で行われる 「プロージット」

 この用法でもっとも印象深いのは、第14話 「辺境の開放」 のラスト近辺にて、同盟軍の帝国領侵攻作戦末期、補給線を絶たれた同盟軍に帝国軍が反撃開始の出撃をする際、勝利 の前祝いとしてラインハルトと麾下の提督とが行ったプロージットでしょう。

 この時ラインハルトは 「乾杯」 と述べ、それを受けて麾下の提督が 「プロージット」 を叫んで酒を飲み干し、その後グラスを床に叩きつけて割り、艦隊出撃となります。 このシーンは銀英伝を見た人にはとても印象深く感じられ、「プロージット」=「グラスを割る」 との認識が生じる最初のきっかけになったと云えるでしょう。 また同作品終盤で最後の艦隊戦の前に行われた最後の出撃前プロージット (第107話 「真紅の星路」) でのグラス割りも、その後のラインハルトが辿る運命共々、印象に残るもののひとつでしょう。

 この 「乾杯の後、グラスや杯を割る」 というのは、歴史上でもヨーロッパや日本をはじめとしたアジアで、騎士や武将が出陣の際に行なっていたケースがあります。 これは、「乾杯」 で飲み干して 「中身がない」 との意味と、杯を割って 「飲み直しはしない」(すなわち 「後戻りしない」「今生の別れ」) との死を覚悟した決意の現れとなっていますが、「割る」 という行為は縁起が悪いとして避ける場合もあります。

神事・願掛けとしての 「杯割り」

 ところでこの 「戦の前、皆で杯を床にたたきつけて割る」 という行為、日本では通常、飲み干した杯を紙や布で包んで懐にしまう形が多いのですが、例えば司馬遼太郎の有名な 「坂の上の雲」(1968年〜1972年) 作中では、明治時代の旧日本陸軍が、1905年2月ロシア軍との奉天会戦前に大山巌元帥の音頭で 「いざ!」 との掛け声と共に杯を飲み干し、そのまま床に叩きつける描写も見られます。

 また1604年頃、打倒 宮本武蔵 に燃える吉岡一門が、吉岡又七郎を先頭に数に物を言わせて三度目の決闘となる一乗寺下り松に出陣する際にも、同様の行為を行うさまを描写した映画や小説が見受けられます。 さらに戦国時代初期の武田氏家臣が、圧倒的不利な合戦前の別れの杯を飲み干した後、割ったとの話も伝わっています。

 出撃前に酒や水を飲むのは神事なのですが、杯を割ったり懐にしまうなどで 「確実に飲み干して中身が無い」 というのをことさらにアピールするのは、毒による暗殺などが横行している時代に、主君から振舞われた酒を飲み干し、「信頼している」 との忠誠心や意気を示したり、「同じ釜のメシを食う」 がごとく、主君と同じ物を口にすることで、「生きるも死ぬも一緒だ」 との意思表示を行い、士気を鼓舞する意味もあったとされます。

 ちなみに杯割りの際に使用する杯は素焼き・日干しの質素なものが使われ、それらは一般に 「かわらけ」 などとも呼ばれますが、このかわらけを投げて割ることで厄除け祈願を行う 「かわらけ投げ」 なども、日本各地で風習として残り、後には花見の際の余興などとしても広まっています。

 これらのルーツとなる出来事はもっと古いものがあるのでしょうが、例えば古代中国、三国志の時代を取り扱った中国の作品類にも、別れの盃を割ったとの描写を行っているものがあったりしますし、正確な起源を求めるのはかなり大変な感じがします。

グラスを割る時と割らない時がある… 「プロージット」 の謎

 銀英伝ではこの 「プロージット」 のシーンは度々登場しますが、必ずグラスを割るというわけでもありません。 またごく少数の提督や上級士官たちとだけプロージットを行うわけでもありません。

 例えば第70話 「蕩児たちの帰宅」 冒頭、新年を祝う乾杯では、艦隊行動中で各艦の ホール に集まる士官に映像中継がされる中、状況的に少なくとも数万人から数十万人は共にする乾杯となっていました。 この時は乾杯直後に場面展開がされたのでグラスが割られたのかは不明ですが、常識的に考えてこれほど大勢が軍艦内でグラス割りをすることはなかったと考える方が自然でしょう。

 同じく新年を祝うプロージットがされた第45話 「寒波至る」 冒頭 (この時は上級士官のみ参加) でも、やっぱりグラスは割られませんでした。 「出陣式の乾杯と新年の乾杯は違う」 のかも知れませんが、いずれのケースも軍事行動の直前でもあって、ここらあたりの割り振りの詳細は、少々不明です。

 またごくレアなケースとして、銀河英雄伝説外伝 「螺旋迷宮」 第12話 「過去からの糸」 においては、同盟軍捕虜となっていた元帝国軍大佐ケーフェンヒラーと同盟軍士官のヤン、パトリチェフが、移動途中の宇宙港で宇宙暦789年の新年を祝う乾杯を行う際、ケーフェンヒラーが缶ビールでプロージットをあげています。

 ともあれ、数々の銀英伝の名セリフや特徴的な言い回しの中の一つとして、プロージットはよく使われる言葉の一つ、ある種の おたく用語 ともなっています。

 ちなみに 「プロージット → ガシャーン」 を実際に一度はやってみたいと考える人は多いようです。 筆者 も引っ越しなどで不要なグラスやコップを処分するタイミングでやってみようかな…とか考えたことはありますが、なんというか、たとえ捨てるものであっても、お世話になった道具を自ら破壊するのは躊躇してしまって未だに実現できてません…。 あらかじめ割るために作られている厄払いのかわらけとかなら、心も痛まない感じがしますが…。

おめでたい名前として商品名などにも使われる 「プロージット」

 他方、ごく一般的なドイツ語でもあるプロージットは、乾杯というおめでたい言葉でもあるので、商品名に使われたり、競走馬の名前に利用されるケースなどもあります。 とくに有名なのは、本場ドイツのハム・ソーセージの伝統製法と日本人好みの味わいをマッチさせた日本食研の受注生産高級ハム・ベーコン・ソーセージ 「Prosit(プロージット)」 でしょうか。 商品ロゴにはワイングラス2つが寄り添う モチーフ が使われ、「おいしさにカンパイ」 とのキャッチコピーも採用されています。

 ちなみに英語で乾杯はチァーズ (Cheers)、スペイン語ではサルー (Salud)、フランス語ではサンテ (Sante) もしくはチンチン (Tchin-tchin) です。 イタリア語ではサルーテ (Salute) もしくはチンチン (Cincin) です。 グラスとグラスを合わせた時の音のチンチンですね。 チンチンです。 中国語はわかりやすいというか漢字の乾杯の読みっぽいガンペイ (北京語) です。 広東語ではゴンプイになります。

 ともあれ、こうして同人用語の基礎知識の項目が、また1ページ…

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2003年3月13日)
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