ロイエンタールの栄光と黄昏… 「ぶく」
「ぶく」 とは、物理的衝撃や体への損傷を受けて思わず口から漏れる、言葉にならない うめき声、あるいはリアクションのことです。
こうしたものには 「うぐっ」「ぐふっ」 など様々なパターンがありますが、とくに 「ぶく」 の場合は、SF小説 (ライトノベル)、及びそれを原作とする アニメ などで非常に高い人気を持つ 「銀河英雄伝説」(銀英伝/ 田中芳樹/ 1982年11月〜) の作中 キャラクター、オスカー・フォン・ロイエンタールのアニメ版でのセリフ (若本規夫)、「ぶく」 もしくは 「ぶくっ」 に由来します。
なお 「ぶく」 が登場するシーンは銀英伝の全編を通じて3回あります。
一回目はアンネローゼを救うための銃撃戦で
一回目は物語の序盤、第11話 「女優 退場」 です。 帝国側 主人公、ラインハルトと敵対するフレーゲル男爵にそそのかされたベーネミュンデ伯爵婦人の陰謀により誘拐され、郊外の貴族の別荘に囚われたラインハルトの 姉、アンネローゼ (グリューネワルト伯爵夫人)。 偶然このことを知ったキルヒアイスの機転により、彼女を救うため、キルヒアイス、ミッターマイヤー、およびロイエンタールが 現場 におもむいた時でした。
アンネローゼの車を発見した3名が調べようと車から降りようとすると、フレーゲルに雇われたベーネミュンデ配下が銃撃を加えます。 これを避けるためにロイエンタールは地面を回転しながら建物の軒下に隠れます。 この際に口から漏れた言葉が 「ぶく」 でした (正確には 「ぶっく」 もしくは 「ばっく」)。
幸いにも銃は当たらず、遅れて到着したオーベルシュタインの機転もあり、無事アンネローゼを救出。 ベーネミュンデはフリードリヒ皇帝から死を賜ることになりました。
ニ回目はシェーンコップとの一騎打ちで
2回目は、第43話 「ギャラルホルンは鳴った」 において、フェザーン占領をカモフラージュするため陽動としてイゼルローン要塞と対峙していたロイエンタールが、ヤンの奇策にかかり、座乗艦で艦隊旗艦であるトリスタンに陸戦隊侵入を許し、同盟軍の陸戦司令官でローゼンリッター連隊長シェーンコップに、一騎打ちの白兵戦を挑まれたシーンになります。
シェーンコップが挨拶代わりに繰り出した戦斧攻撃を軽やかに回避したロイエンタールは、バック転で距離を取るとレーザー銃を取り出しシェーンコップに向けて射撃。 シェーンコップは戦斧でこれを防ぐものの、戦斧を根本から切断させられてしまいます。 その後シェーンコップは折れた戦斧の取っ手部分をロイエンタールの手元に投げつけ銃を叩き落としますが、この際にロイエンタールが口にしたのが 「ぶく」 でした。
この勝負はロイエンタールの幕僚、ベルゲングリューンが指揮する迎撃部隊の到着によりシェーンコップが離脱し、決着がつかずに幕引きとなりますが、ロイエンタールは旗艦への敵陸戦隊侵入と、艦隊指揮官たる自分が白兵戦を演じたことを恥じ、全軍の一時後退を指示します。
三回目は致命傷となったトリスタン艦橋での…
三度目の 「ぶく」 は、ロイエンタールの最後の戦いにおいて、致命傷を受けた際に口から漏れたもので、前出した2つの 「ぶく」(小ぶく、もしくは小ぶく・中ぶく) に対し、「大ぶく」 と呼ばれることがあります。
この 「ぶく」 が出たのは銀英伝も終盤となる、第97話 「剣に斃れ」 でした。 陰謀により謀反人に仕立てられ追い詰められると、それを潔しとせず、むしろ自らすすんでカイザー ラインハルトへの叛逆に走ったロイエンタールは、盟友であり共に帝国の双璧と呼ばれたミッターマイヤーの指揮する艦隊と真正面から交戦。
その後イゼルローン回廊を通過した帝国の別働隊 (メックリンガー艦隊) が進撃中との連絡を受けると、体制立て直しのため一時根拠地である旧同盟首都星ハイネセンへ後退を余儀なくされることに。 しかし疾風ウォルフの異名を持つミッターマイヤー艦隊に追いつかれると、やむなく全軍を回頭させ逆撃体制を取ることとなります。 ところがこの際、かねてから反旗を翻すタイミングを図っていた麾下のグリルパルツァーの裏切りにあい、旗艦トリスタンに攻撃が複数命中。
その結果、艦橋は火に包まれ、指揮官席も横倒しになりロイエンタールは横転。 さらに天井部分が崩れ、先端が尖った金属製のバーが飛び、ロイエンタールの左胸上部にグサリと突き刺ささります (突き刺さった瞬間の声は 「ふんぐう」)。
その様子を見ていた副官のレッケンドルフが真っ青になり 「閣下!」 と声をかけると、ロイエンタールは冷静に 「騒ぐな。 負傷したのは俺だ。 卿 では、ない」 と言い放つと、微笑しながら右手で髪を 整え つつ 「副官の任務に、上官に変わって悲鳴を挙げるというものは、なかったはずだが」 とたしなめ、そのまま右手、ついで両手で金属棒を抜き去ります。 この 抜く 瞬間に口から漏れたのが 「ぶく」 なのでした。
いくたの名言に彩られた 「銀英伝」
数多くの名将知将が登場し、いくたの名言に彩られた 「銀英伝」 ですが、ネタ としてそれ以外のセリフやフレーズも、多くの ファン の間で語られ続けています。 「ぶく」 はそのひとつですが、あまりポピュラーではなく、ごくごく一部のコアなファン、ネット で触れられるものの一つでしょう。 知っていたからといって何の自慢にもなりませんが…。
ともあれ、こうして同人用語の基礎知識の項目が、また1ページ…。