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女子力

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女性同士のマウントか、異性からの性規範の押しつけか? 「女子力」

 「女子力」(じょしりょく) とは、大雑把にいえば 「女性らしさ」 のことです。 「女性らしさ」 とは、人や時代によって考え方や定義は様々ですが、この言葉を好意的に考える人たちの中では、「一般に女性ならできて当然と思われがちな家事や化粧ができる」「女性らしい優しさやきめ細かな心遣い、共感力を当たり前に持ち合わせている」「控えめで相手を立てられ愛嬌もある」「男性に対して異性としての魅力がある」「考え方や しぐさ、好みや趣味、ファッションなどが女性らしく、かわいらしい」、そしてそれらが外に向けた魅力として十分に備わっていることだといって良いでしょう。

 主な使い方としては、他人の女子力の高さを賞賛したり、自分の女子力の高さをことさらにアピールしたり、逆に女子力を マウント に使うあざとさを批判したり、あるいは自らの女子力の弱さ (ガサツだ、身だしなみに気を付けない、料理や裁縫などができないしやるつもりもない) を 自虐的 に嘆いてみたりが多いでしょう。

 言葉の成り立ちとしては、「〇〇力」 といった、何かに力を接尾して能力を表す使い方が昔からあり、その派生語のひとつとなりますが (後述します)、この言葉が広がった頃と前後して、いわゆる 「女子会」(女性だけで集まる飲み会やちょっとしたパーティー) がテレビ局のアナウンサーらの ネタ として広がっていたことがあり、それとの関連性もあります (2008年頃)。 女子会では女友達の噂話や恋愛や 結婚 にまつわる話題などがよく出て、その中で女性らしさが面白おかしく取り扱われていたといった経緯があります。

それって単なるジェンダーロールの賛美では? との批判も

 ただし 「女性らしさとは何なのか」「それは誰か (例えば男性的価値観や歴史的・社会的な女性に対する抑圧) から見た都合の良い女性観の一方的な押し付けではないのか」 といった批判はこの言葉が使われ始めた2009年頃からされていました。

 「女らしさ」「男らしさ」 といったジェンダーロール (性規範) や性役割の是非も含め、男女差別をなくし男女平等を目指そうとするジェンダーの観点からは、その後も常に厳しい目を向けられがちな言葉ともなっています。 とくに言葉が広く伝わる中で、しばしば 「かわいこぶりっ子」「男性に媚びる能力・男性から見て都合の良い力」 といった意味になりがちなこともあり、時として強い侮蔑に晒されるようにもなっています。

 ただし、いかにも女の子女の子した 雰囲気 に価値を覚え好んで取り入れる女性もいますし、そのアピール先が男性ではなく女性であることも少なくありません。 世の 「女性らしさ」 を作ってきたのは男性だけでなく女性もそうなのであり (逆の男性らしさだってそうでしょう)、女子力という言葉が指す女性らしさに憧れたり、それが 「その人らしさ」 となっている女性だっています。 だからこそ女子力よるマウントも可能となるわけで、このあたりは個人の好みという部分ももちろんあります。

 対義語は 「女子力ゼロ」 ですが、こちらも 「がさつで遠慮がない」「おやじギャル」 といった他人へのからかいや自虐的な自称表現としてのプレーンな意味の他、男性から見た時の 「かわいげのなさ」「出しゃばり」「自分の云うことを聞かない女性」 を罵倒する言葉のような扱いともなっています。

「老人力」 など 「○○力」 がもてはやされる中で

 もともと 「女子力」 は、それ以前から広く使われていた流行語・俗語としての 「〇〇力」 といった言い回しの派生語です。 人間や人の集まりの様々な 属性 に着目し、それらが持つありがちな特徴に注目するような使われたかをする言葉で、1997年のベストセラーをきっかけに流行語となった 「老人力」 などと同様、対象が持つ能力を ポジティブ にせよ ネガティブ せよ 「一つの力」 として パラメータ化 するような文脈で現れました。

 例えば老人力でいえば、「物忘れが酷くなる」「食欲がわかず食べる量も少なくなる」 などの一般的には身体の衰えからくるネガティブな特徴を、「嫌なことや面倒なこともすぐに忘れられる」「美味しいものを少しだけ食べて満足できる」 などと肯定的に捉え、これを 「老人になれば獲得できる力」 と定義して、「人間、年を取るのも悪くない」 と思わせてくれるようなものでした。

 こうした派生語は、老人力以前から使われていた 「人間力」 などと並行しつつ 「中年力」 や 「定年力」「日本力」「童貞力」 などなど様々なものが作られましたが、「女子力」 は前述した女子会とのあれこれの他、その語感の良さ、ビジネス分野における応用力の高さ (例えば 「企業の商品開発に女子力を活用」(開発に女性開発者や女性の意見を入れるとか、女性らしい感性を尊重するなど) からメディアなどでも好意的に扱われ定着します。 前後して一般人の間でも、例えば企業の給湯室や更衣室といった場での女性労働者同士の井戸端会議に多用されるフレーズとして、広く世の中に認知されるようになっています。

いい歳をしていつまで 「女子」 のつもりだ批判

 なおジェンダー問題とは異なる文脈での批判もあります。 それは 「女子」 という言葉についてで、子供や学生のうちならともかく、成人 であり社会人でもあるいい年をした女性が自らを 「女子」 と名乗ることへの冷ややかな意見です。 この当時、「女子力」 の他にも 「○○女子」 といった言葉が数多く生まれて使われていたことから、こうした批判が数多く出ていました。

 成人男子を 「男子」 と呼ぶこともありますから、別にいいではないかとの意見もありますが、男子と女子とでは言葉の成り立ちや ニュアンス が異なり、別に男子女子で必ずしも対になる言葉というわけではありません。 また女子が一般に女子小中高生を指して使う言葉なので、これはこれである意味正しい指摘ではあります。 しかし言葉などは変化するものですから、成人男性を男子と呼ぶなら成人女性を女子と呼んでも別にいいでしょう。 とはいえ 「年甲斐もなくいつまで女子のつもりなんだ」 との声は、「若さ」 への幼稚な執着を見透かされているように感じられますし、「女子」 を自認する本人にしたらかなり厳しく辛辣に思えるものかも知れません。

言葉はいつしか陳腐化し、死語のような扱いにも

 女子力が話題になった中でも特筆すべき事件が、2014年1月末に起こります。 自らが開発に成功したとする万能細胞 (STAP細胞/ 刺激惹起性多能性獲得細胞) の論文を科学誌 Nature に発表し再生医療に革命をもたらすと大騒ぎとなった女性研究者の登場とその顛末です。

 報道では理系女子を指す 「リケジョ」 といった 概念 と共に、かわいらしい 「白い割烹着」 を身につけ実験にいそしむ姿を 「女子力高い努力のリケジョ」 として好意的に紹介。 この年を代表する大きな話題となりました。 しかしその後、この研究論文に数々の疑惑が生じ、その後はほぼ全否定される流れに。

 元々大手メディアの一部が女子アナウンサーをアイドルのように扱い、プロモーション などを通じて彼女らの女子力を盛んに喧伝していたこと、この事件でも 「リケジョ」「女子力」 などと大げさに持てはやしていたことから、その姿勢や言葉自体にもより一層厳しい目が注がれることとなります。

 その後も折々で 「性役割の押しつけ」「前時代的な性規範の形を変えた復古」 などといった批判が強まり、むしろそうした古い価値観に囚われている人の古めかしい女性っぽさや女々しさを揶揄・批判する意味で女子力を使うケースも増えていきます。 「さすが女子力のあるご婦人は違いますね (呆)」 みたいな状況です。 2020年前後あたりからは、いずれの意味にせよ、ほぼ表向きでは使われない死語のような扱いになりつつあります。

女子力アピールしていたタレントが、いつしか批判の急先鋒に

 ちなみに女子力とは直接的な関係はありませんが、1980年代から2010年代あたりにかけ、自らの若さと美貌、女子力を武器にメディアで華々しい活躍をしていた女性 (テレビ局アナウンサーやモデルなど) の一部が、その後一転して 「私は性的消費された被害者だ」 と主張してフェミニズムやジェンダー的な声を上げ、女性の外見を用いたビジネスやルッキズムに基づく差別的な風潮を厳しく批判するようになります。 この状態を ネット の一部では 露悪的 に 「二毛作(まんこ二毛作)」 と呼びます。 自らの女性という性を利用して、人生で2度美味しい思いをしようとしているとの批判を 性器呼び であらわしたものです。

 自分が若かった頃はその若さや ルックス を最大限活用して周囲からチヤホヤされたり憧れの職業に就いてお金を稼いだり結果的に 地味 で容姿に恵まれない人たちを足蹴にしてきたのに、年を取りそれができなくなると 「女性らしく振る舞うことを強制された」「当時は男性社会の中で従うしかなかった」「本意ではなかった」 と手の平を返したように被害者アピール。 自分より年下世代の女性の身を案じるような意見をしつつ活躍の場を奪い阻害しながら、自らはフェミニズム・ジェンダー論客として新しい立場を得ようとする姿に浅ましさや 老害 を感じる人は多く、かなり強めの罵倒・侮蔑の表現として広がっています。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2010年2月17日)
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