消費者はヘルシー志向のハズ! しかし実際は… 「サラダマック現象」
「サラダマック現象」(サラダマック問題) とは、マーケティングの世界において、消費者の ニーズ (需要) を正確に把握するのが難しいとの意味で使われる言葉です。
内容としては、消費者は必ずしも本音で話さないこと、考えと消費行動が一致しないこと、合理的な判断で商品選びをしない場合も多いこと、企業がそれを看破して消費者ニーズを的確に掴むことは極めて困難であるなどになります。 その結果、マーケティングとニーズがミスマッチを起こし、プロモーション や商品 開発 が失敗に終わってしまいます。 「声が大きいだけの非顧客」「ノイジーマイノリティ」 と同じように扱ったり、同じ表現で表すこともあります。
語源は、マクドナルド社 「サラダマック」 の大失敗
この言葉の 元ネタ としては、2006年にファーストフード大手 マクドナルドで発売された 「サラダマック」 の失敗とその経緯があります。 この商品は、消費者の健康志向、低糖質志向やバランスの取れた栄養を望む声、ダイエットを求める調査結果などを元に、「よりヘルシーなマクドナルド」 を目指す新しい取り組みとして始められました。
元々マクドナルドは、この調査結果やアンケートによる消費者ニーズ以外にも、2000年前後からアメリカで 「太ったのはマックのせいだ」 とした訴訟が起こったり、「不健康食品」 として国や消費者団体から度々名指しで様々な批判を浴びるなど、社会全体がヘルシーを求める状況の中、強い逆風に 晒され ていました。 この 「サラダマック」 は消費者ニーズに合致し売り上げ拡大が見込めるだけでなく、企業イメージ向上も図れる一挙両得の施策として注目を集めました。
しかし実際に販売してみると、前評判の高さや大手メディア・世論の後押しとは裏腹に売上は低迷。 赤字になるだけではなく大量のフードロスが生じて、むしろそちらが批判されるような有様に。 ほどなくして取り扱いは停止となり、結果は大失敗となってしまいました。
「痩せたい痩せたい」 と云いつつ脂っぽい料理に舌鼓を打つ人
この失敗はマーケティングの世界でも注目を集め、様々な原因の分析がされましたが、おおむね2つ程度にまとめられた意見が多いでしょう。 まず第一に、「口で云うほどみんなヘルシーを求めていない」 という部分があります。 「痩せなきゃ」「ダイエットしなきゃ」 と口ではいいつつ誘惑に負けて脂っぽい料理を口にしてしまう人は結構多いものです。 こうした人が意識調査やアンケートに答える時に、その気持ちに素直に答えず、「自分にはできない理想論」 を 雰囲気 に乗せられて行いがちだとの指摘がされています。 「顧客は建前次第で嘘をつく」 という訳です。
これは別に意図的に嘘をついているわけではなく、本人もある程度は心からそうありたいと思ってはいるのでしょうが、行動が伴わないのですね。 場合によっては 「これ食べたら太るかも」 との背徳感が美味しさをアップさせるスパイスになっているとの意見すらあります。
声が大きいだけの自称市民団体の存在
もう一つの理由としては、消費者団体など市民の側の 「声」 が、実態よりもはるかに大きな声として発信され 認知 されがちだという点もあります。 現状に満足していたり、とくに不満のない人はいちいち声を上げませんから、ごく少数の不満に思う人が声を上げることであたかも多数派のように見えてしまうことがあります (ノイジーマイノリティ/ 口うるさい少数派)。 とりわけ ネット の時代は、同じような考えの人同士が集まって同じような意見を延々と互いに交換し合いますから、知らず知らずのうちに エコーチェンバー (同じような意見が反響し合い増幅する) と呼ばれる状態に陥ることもあります。
また団体の側も自らの主張を広めたり存在感を示すために、あれこれと理屈をつけて 主語を大きく し、自分たちの意見が世の趨勢であるかのように装いがちでしょう。 根拠不明の何とか賞 (例えば不健康食品賞みたいな) を勝手に作り、目立ったり気にくわない企業や人物に贈りつけて吊るし上げるなどは、この種の団体の得意技です。 そして同じように 意識が高い 大手メディアの記者などが実体を無視し調査もろくにせずにそれに乗って、騒ぎがちだという部分もあります。
実際、サラダマックが発売されると、「巨人マクドナルドもやっと世の中の動きが見えたようだ」 といった勝ち誇るような論調が、啓蒙活動に励んだ市民団体とメディアの功績を称えるような文脈で大手メディアでは見られていました。 失敗した後はだんまりです。 これは何も 「ヘルシーさ」 だけでなく、環境 の保護や動物愛護 (ヴィーガン)、人権や平和、平等、多様性、サイレント値上げ の是非など、反論しづらい理想論を旗頭にした団体の活動やネット論客の主張でよく見られる動きです。
移ろいやすく、時に自分ではやりもしないことを要求する顧客と、世の中の価値観を何らかの企業なりを攻撃することで変えようとする 他責・他罰思考 な人たちや団体は世の中から消えることはないでしょう。 これらノイズをどう判断し実際のニーズに合わせて商品を 供給 していくか。 マーケティングに多額の予算を使っているマクドナルドほどの企業がニーズを見誤って失敗した衝撃は大きく、幅広い顧客層を対象とする規模が大きな企業であればあるほど、悩ましい判断をその都度行っていく必要があるのでしょう。