中身がどんどん少なく、小さく、しょぼくなる… 「サイレント値上げ」
「サイレント値上げ」 とは、商品の販売価格は据え置きつつも内容量を減らすなどしてコストカットを行い、実質的な値上げ状態になっていることです。 分かりにくい Silent (静か) な値上げという訳です。 代表的なものとしては、1,000ml 入りのパック入り牛乳がいつの間にか 900ml になってしまったり、スナック菓子のパッケージはそのままに内容量だけが数グラム減ったりします。
一般的には 「シュリンクフレーション」(英語の Shrink (縮む) と Inflation (物価が上がること、インフレ) とを合わせた造語) と呼ぶこともありますが、パッケージ表記をよく見ないと分からないような値上げであるとして、隠れる・見えにくいを意味する Stealth (ステルス) に倣って 「ステルス値上げ」 と呼ぶこともあります。
こうした値上げについては原材料費の高騰など、製品メーカーの企業努力でどうにもできないやむを得ない部分もあります。 しかしスッキリとした価格改定やその 告知 ではなく、無言で値上げしたり、ニューアルと称して陰に隠れてこそこそと中身を減らすあざとさや、さらにリニューアルの宣伝文句に 「持ちやすいサイズになりました」「食べやすいサイズになりました」 などと ポジティブ なもっともらしい理由をこじつけて掲げることから、ネット などではしばしば強い批判や揶揄、バッシング の対象になったりします。
また牛乳や清涼飲料水、スナック菓子といった内容量の微調整がしやすいものはともかく、個包装されたチョコレートやクッキーの場合は封入個数があからさまに減ったり、商品のサイズ自体が小さくなってそれまでの食感が損なわれるなど、長らくその商品を愛用していた ファン こそが真っ先に変化に気づき、ダメージ を受けるような結果となりがちです。
一方、量を減らすのではなく、質 を落とす場合もあります。 例えば原材料のランクを落とす、それまで国産だったものを外国産に切り替えるなどです。 この場合も食品ならば風味が変わったりしますから、いつも食べている固定客・リピーターにより大きなダメージが加わる改変・改悪でしょう。 場合によっては 「いつも食べている消費者を舐めているからこんなことができるのだ」 と、企業側の裏切りだと感じるファンもいるようです。
価格決定権を持つ大手小売店のサイレント値上げは、より罪深い?
メーカー製パッケージ商品だけでなく、例えばコンビニのお弁当の容器変更による内容量の削減などは、容器のあからさまな上げ底によって可視化され、ツイッター といった SNS で度々 バズ るような結果となりがちです。 とりわけ上げ底っぷりが酷かったコンビニ大手セブンイレブンのそれは、容器詐欺とかセブン詐欺などと呼ばれるほどの話題となっています。
セブンイレブンのそれが叩かれやすかったのは、姑息な上げ底が絵面として面白かったこともさることながら、それが顧客と距離が近い小売りであるセブンイレブンのブランドで展開されていたこともあったのでしょう。 またセブンブランド商品や PB商品などは品数も多く、サイレント値上げの直撃を受ける顧客が相対的に大きくなるという部分や、競合他社である他のコンビニがここまであからさまな内容量の削減をしていなかったことも批判が集まる原因となっていました。
さらにメーカー製のパッケージ商品の場合、小売店側から 「値上げしたら取り扱わない」 という制限をかけられることがあり、価格決定権を握られてやむにやまれぬ対応となることもある一方、その小売りであるセブンが率先して消費者に気づかれないような隠れた値上げやコストカットをしていることに、不誠実なものを感じて反発が大きくなる傾向はあります。 2020年代に入ると一部商品の継続的な物価上昇も始まり、「セブンイレブンの商品ならどれだけ叩いても支持される」 ような状況にすら陥っています。
正々堂々とした値上げ宣言で高評価を得ることも
これらと真っ向反対となる対応をしてネットで評判となった企業に氷菓 「ガリガリ君」 でおなじみの赤城乳業があります。 2016年4月1日にガリガリ君の値上げを発表、その際、「値上げ」 と題した歌を BGM に、「25年間 踏ん張りましたが、60 → 70」 というテロップを流して社長以下社員が頭を下げる 「ガリガリ君」 値上げ編」 のテレビCMを2日間 限定 で放送しています。 当初は4月1日ということでエイプリルフールの ネタ とも噂されましたが、実際に値上げとなったものの、ネット民 や消費者からは 「潔い」「正直な姿勢で好感が持てる」 と評価も上々のものでした。
とはいえこれは、競合商品と比べても高いわけではなく、またガリガリ君に圧倒的なブランドがあることから客離れがしづらい特殊なケースだと見る向きもあります。 そしてそれは恐らくその通りで、多くの企業、とくに食品メーカーがサイレント値上げが広く批判されるようになった後もあえてサイレント値上げを続けるのは、それなりの理由があるのでしょう。
とはいえ、正々堂々とした値上げではやっぱり売れなくなる現実
実際、量や品質はそのままに値上げをして競合他社製品に敗れて一気に シェア を落とし、そのまま浮き上がれない、場合によっては終売となってしまった例は数多くあります。 そうした地殻変動が生じないのは、消費税アップによる全商品全メーカーほぼ横並びの値上げといった状況くらいでしょう。 先に値上げした商品やメーカーが売れなくなって損をするというのが、ここしばらくのデフレ経済下の日本の姿です。
原材料費や人件費の高騰とか為替相場の変動による値上げなどは、同じ商品ならばどのメーカーでもおおむね状況は同じであり、業界全体で示し合わせて値上げすれば良いのでしょうが、そんなことをしたら談合として処罰されたり、その商品カテゴリや業界全体が消費者にそっぽを向かれる恐れがあります。 またこうしたあれこれとは距離をおける大手スーパーなどの PB商品 (プライベートブランド) に販売のための陳列棚を奪われ、自社ブランドで勝負できなくなって PB の下請けになってしまうかも知れません。
ネットではおおむね 「サイレントではなく正々堂々と値上げしろ」 との意見が正論として支持される傾向がありますし、それはもちろんごもっともな話なのですが、実際問題それでピンチに陥っているケースの方が多いのですから、結局は消費者がどう行動するのかにかかっているのでしょう。 なお、ネットなどでの大きな声と実際の消費者の行動が大きく乖離する現象は、声が大きいだけの少数派の意見だとの意味のノイジーマイノリティ (口うるさい少数派) とか、サラダマック現象 と呼ばれたりします。