おたくや腐女子、「限定」 に弱すぎ問題
限定と聞いたら黙っちゃいられないな (同人する子) |
「限定」 とは、何らかの範囲や条件、数量などを限ることです。 例えばある グッズ があったとして、それが特定の地域でのみ販売されるなら地域限定となりますし、あらかじめ最大販売数が決まっていれば、数量限定とか限定100個などと呼びます。 対義語は 「通常」 もしくは 「恒常」、あるいは 「定番」 となります。
おたく や 腐女子 の世界では、とかく物欲が強い人が多いこともあり、その物欲を喚起する 「限定」 という言葉は多用され、またありふれています。 ビジネス側のターゲットに向けた殺し文句、財布のひもを緩めるための取っておきの決めゼリフとして認識されているといって良いでしょう。
なお 同人 や 同人誌 の世界でも、限定本 と呼ばれる限定を前面に打ち出した 頒布 のスタイルがあります。 しかし無用な混乱や、とくに コミケ などの大規模な 同人誌即売会 ではルール違反の 徹夜組 を結果的に招くとして、禁止されるケースが多いでしょう。
2つの大きな 「限定」
「限定」 は、つけようと思えば何にでもつけられますが、その方法は大きく分けて2つのパターンがあります。 ひとつは販売する商品やグッズそれ自体の希少性、もうひとつは商品やグッズの購入条件の希少性です。
商品の希少性の場合、数量限定が代表的です。 例えば限定100個なら、商品は100個しか存在せず手に入れられる人は最大でも100人になります。 予定数を 完売 したらそれで終わります。 実質的な 「先着順」 や抽選制による運頼みになります。
ただし数が限られているからと云って、全てが限定扱いにはなりません。 例えばコンサートやライブといった人が集まる 会場 を使った イベント では、あらかじめ販売するチケットの枚数が決まっていますが、限定1万2000人ライブなどとはあまり呼びません。 そもそも数が限られていようがどうだろうが、先着順かつ完売したらそれで終わりはあらゆる商活動で見られるものです。 ただし観客数が極めて少ない場合とか、限られた人しか参加できない場合は、限定ライブとかシークレットライブといった呼び方をする場合もあります。
後者の購入条件の希少性は、販売する日時や場所が狭く決まっていることを指し、期間限定とか地域限定などがよく見かけるものでしょう。 その他、特定の条件を満たした場合のみ割引きがされるとか、タイムセール (ある時間だけ特別な価格となる) なども、限定として認識されます。 この場合、限定価格とか特別価格などと呼ぶことが多いでしょう。
この2つのパターンは単独で行われることもあれば、複合する場合もあります。 おたく・腐女子向けのグッズなどでは、むしろ複合する場合の方が多いかもしれません。 例えば地域限定かつ100個限定みたいな感じですね。 いずれの場合も潜在顧客に対して希少性やお得感を 煽っ て購買意欲を高めるためのもの (品薄商法・飢餓感商法) で、商品それ自体の魅力を訴求するものではありません。
商品それ自体の魅力や品質が二の次となる売り方のため、 「不誠実な販売」「ファン心理に付け込んだ足元を見た売り方」 だとも云えますが、とくにおたく・腐女子向け商品などはマニアックな物品だったり旬を過ぎると売れなくなるものが多いので、販売する側が売れ残りを少しでも回避してビジネス上のリスクを低減するためには、やむを得ない部分もあります。
様々な 「限定」
おたくや腐女子の世界で頻繁に目にする 「限定」 のうち、代表的なものを挙げて見ましょう。 もっともよく目にするものと云えば、「予約限定」 とか 「初回限定」 といった、販売方法に関するものです。 前述した購入条件の希少性の派生型ですね。 これはあらかじめどのくらい売れるのかを企業側が把握して不良在庫を作らないための方法ですが、ターゲットに訴求するため、それぞれ 「予約特典」 とか 「初回特典」 などの 「おまけ」(ポスター とかクリアファイル、ブックレットなど) をつけることが多いでしょう。
予約限定は、別の言い方をすると期間限定の受注生産販売の意味とほぼ同じであり、販売する側は売れるかどうか分からない ニッチ で冒険的な商品を売れ残りのリスクを最低限にして販売することができます。 予約して購入する側も、マス相手のビジネスならまず実現しないような自分好みのマニアックな商品を出してもらいやすくなるため、歓迎する場合が多いでしょう。 商品は少数生産となるため押しなべて高めで、とくに大型のフィギュアや巨大なぬいぐるみなど、比較的高額な商品でよく行われます。
また初回限定の場合、初回 (初期ロット・初版) のみ販売の特別に豪華なパッケージで作られるもの (初回限定特装版) が別途用意されることもあります。 それ以外の同一内容の商品は通常版となり、価格は通常版より割高なものの、ファン なら喉から手が出るほど欲しい特典が盛りだくさんの豪華な内容となっています。
内容も販売ターゲットもほぼ同じ商品で特装版と通常版、2つのパッケージと在庫、商品コードを短い間に同時に持つのは企業側にとってはリスクもありますが、とくに CD や DVD といった音楽・映像関連の 円盤商品 は初動が大切ですから、企業側もかなり力を込めた商品として制作することが多いでしょう。 もっとも鼻息荒く特装版を大量に作ったのはいいものの、人気が出ず膨大に売れ残って、いつまでも初回特装版が店頭や在庫に並ぶのも悲しいものがありますが…(実際、結構なタイトルでそういう状況があります)。
エロゲなんかが端的ですが、この種の コンテンツ を扱うビジネスは独特な商習慣や流通があり、「こんなに作っても売れないのはわかってるけど出資やビジネススキーム、契約関係のあれこれで一定量を作って出荷せざるを得ない」 みたいな 大人の事情 が結構あって、筆者 も金銭面はともかく精神的に辛い立場に陥ったことがあります (筆者の場合、雑誌でしたが、出版関係も色々あるんですよね…)。
転売ヤーと 「限定」
出荷数が限られている場合、その数を上回る人がそれを欲しければ、必然的に 「欲しいのに手に入らない」 という人が出ることになります。 それを見込んで利ザヤを上乗せして 転売 する 転売ヤー と呼ばれる行為が問題となっています。
コンサートやライブなど興行チケットの類の転売はダフ屋と呼ばれ、地域や国で法律による規制などもありますが (当初は路上販売に対する迷惑条例違反とか、反復販売に対する古物商法違反のような形での規制でしたが、2020年になり、業としてのチケットの転売は明確に違法行為になりました)、転売自体はビジネスの世界ではありふれた商活動に過ぎず、違法性もないため、取り締まるのが難しい状況が生じています。
ネット の普及とオークションやフリマ (フリーマーケット) の個人向けサービスが広がったことにより、転売ヤーの数やそれぞれのやり口もより大規模化・悪質化しており、限定品どころか、通常品ですら在庫が払底し、「転売ヤーから法外な値段で買わないと手に入らない」 ような状況も生じています。