同人用語の基礎知識

てんす

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弱者に対する差別であると同時に、メディアへのカウンターでもある 「てんす」

 「てんす」 とは、主に知的障碍者を指す言葉です。 揶揄や誹謗のための言いまわしであり、主に 2ちゃんねる といった匿名系の 掲示板 などで使われます。 言葉の元となったのは 天使 ですが、これは知的障碍者やその家族を取り扱った大手メディアの記事などで、もっぱら母親らが 「この子は天が授けてくれた天使だ」 といった コメント を行ったり、しばしば支援団体の名称にこの言葉を用いることがあったことから、それをちょっと知的に問題がありそうな形で 露悪的 に崩し、平仮名書きとして揶揄したものです。

 同じような意味の言葉には知的障碍者 (知的障害者) の略称としての知障、その 誤変換当て字 の池沼、ガイジ、あうあうあー、ボーダー (知的ボーダー/ 境界知能/ いわゆる健常者と知的障碍者の境界のこと、IQ 70〜84 のこと) などがあります。 いずれも知的障碍者を揶揄し罵倒する言葉でありつつも、実際は掲示板で反対意見を 書き込む 人に対しての 「バカ」「アホ」 の言い換えのような単なる悪口の性質を持っています。

 若者の俗語や ネットスラング だとしても、どこをどう取っても表むきで使えない差別的・下劣な言葉の代表のようなものですが、単に知的障碍者やその家族をあざ笑い罵倒する目的でだけ作られ、また使われる言葉だという訳ではないのは押さえたいポイントです。

知的障碍者を 「天使」「天才」 と持ち上げる大手メディア

 こうした言葉が作られ広まった背景には、大手メディアの偽善的な報道姿勢に対する強い忌避感情もあります。 知的障碍者を始め、子供や女性や貧困、外国人などのいわゆる弱者やマイノリティ (かわいそうランキング の上位者) とそれに関わる人たちを無批判かつ手放しで好意的に、まるで聖人か人格者かのように取り扱い、ネット での批判に対しては 「差別だ」「ネットの闇」 と述べるばかり。 キレイごとや理想論ばかりで周囲にああしろこうしろと指図するような関係者らのコメント、それを支持する報道姿勢が納得できないことの裏返しでもあります。

 とくに2002年4月28日に NHKスペシャルで大々的に取り扱われた 「奇跡の詩人 〜11歳 脳障害児のメッセージ〜」 騒動や、その前後の知的障碍者を巡る報道のあれこれ (具体的なことは書きません) は、追い詰められ疲弊している障害者家族らのメンタル部分 (子供に対する自責の念や厳しい現実を受け入れられず、自分を保つために現実逃避したり天使だ 天才 だと思い込もうとする精神状態) をあえて無視、あるいは軽んじているようにも見え、障害者を見世物のように扱い怪しげな民間療法なども好意的に紹介しながら 「感動の押しつけ」「薄っぺらいヒューマニズム」 による 「弱者に寄り添った感」 で免責する醜悪さが嫌われていた部分もあります。 その他、「かわいそうランキング」 から弾かれがちでメディアから無視される人たち (後に弱者男性と呼ばれるような層) の苛立ちも、中にはあったかも知れません。

 ネットにおける難病児の治療費募金に対する揶揄 (死ぬ死ぬ詐欺とか) や非科学的なスピリチュアルや自己啓発系のあれこれ (EM菌とかホメオパシーとか) に対する批判もそうですが、キレイごと、ちょっと良い話に無批判に飛びつき、デタラメを吹聴し、ネットでそれが批判されると 「ネットの闇」「差別者」 などとレッテル貼りで口封じをするメディアへの批判がこの言葉の根底にあったのは、留意したいポイントです。

 メディア批判の文脈から切り離されて広がった後の差別的な使いようなどは、批判されても仕方ないと思いますが (とくにガイジなどは、2ちゃんねる以外の場で流行り始めて2ちゃんねるに持ち込まれた頃は、2ちゃん民ですらドン引きするレベルの罵倒語と認識されていました)、ツッコミどころ満載 のおかしな 「障碍者絶賛」 を垂れ流すメディアの側にも、好奇の目や分断を 煽って いる自覚くらいは持ってほしいものです。

 匿名掲示板などは書き捨て御免な部分がありますし、売り言葉に買い言葉で表現はより酷い方向へとエスカレートしがちです。 それはそれでどうなんだという部分はありますが、ネット上で誰でも見ることができる場にあるとはいえ、利用者が限られる2ちゃんねる (外部からはしばしば 便所の落書き と揶揄される) と、公共放送の報道内容とが同列に見えて一方だけを批判するのなら、ちょっと 認知 に問題があるような気がします。 これは国や行政機関、政治家なども参加している SNS で、本人に届く形で罵詈雑言を浴びせるような正義中毒の人たちも同様です。

 なお念のため繰り返しますが、だからと云っててんすとかガイジといった言葉が、ネットで使われてもいい言葉だという訳ではありません。 筆者 も人生で使ったことはありませんし今後も使うつもりもないし、これを読んでいる人にも使ってほしくはないです。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2009年12月21日)
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